魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。   作:ワタリ3@ぼちぼち浮上

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昼投稿にしようとしたけど、仕事の関係で難しそうになったので夜投稿にします。


4-10  精霊界の常識がまた一つ死んだミプ! 

 

 その姿を見て、ゲキ・マキシマムは言葉を失っていた。

 

「ローズ……」

 

 ローズ・アンリミテッドは、くるりと振り返る。

 

「どうかしら、ゲキ・マキシマム」

 

「……」

 

「可憐?」

 

 ゲキ・マキシマムは、少しだけ目を細めた。

 そして、親指を立てる。

 

「ああ。可憐だ」

 

 ローズ・アンリミテッドの表情が、ふわりとほどけた。

 

「ありがとう」

 

 その横で、ミププは両手で頭を抱えていた。

 

「またミプ」

 

 小さな声だった。

 

「また男ミプ」

 

 次の瞬間、ミププは絶叫した。

 

「また男の魔法少女が出たミプうううううううううう!?」

 

 悪魔空間に、精霊の悲鳴が響いた。

 

「精霊界の常識が! また! 一つ! 死んだミプ!」

 

「ミププ」

 

 ゲキ・マキシマムが言う。

 

「そこは重要じゃない」

 

「そこミプ! かなりそこミプ! でも今はそこじゃないのも分かるミプ!」

 

 ミププは半泣きで宙をぐるぐる回った。

 

「ゲキだけでも大問題だったのに、二人目ミプ! しかも薔薇ミプ! すごくちゃんと魔法少女っぽいミプ!」

 

「あら、ありがとう」

 

「褒めてる場合じゃないミプ!」

 

 ローズ・アンリミテッドは笑った。

 その笑みは、戦場には不釣り合いなほど華やかだった。

 だが、黒い人型兵器は待ってくれない。

 

『魔法少女……』

 

 エリゴスが、低く唸った。

 胸の赤いコアが激しく脈打つ。

 

『また……俺を……見下すのか……』

 

「いいえ、見下さないわ」

 

 ローズ・アンリミテッドは前へ出た。

 

「あなたを助けに来たの」

 

『助け……?』

 

「ええ」

 

『嘘だ……』

 

 黒い人型兵器が槍を構える。

 

『俺を……笑うなァ!』

 

 槍が振るわれた。

 赤黒い斬撃が、地面を裂きながらローズへ向かう。

 ローズ・アンリミテッドは動いた。

 

 速い。

 

 先ほどまでの身体能力とは、明らかに違う。

 

 魔法少女としての力が乗っている。

 ヒールで砕けた道路を蹴り、花びらの残像を残して横へ舞う。

 

 斬撃が空を切った。

 

 ローズはそのまま回転し、黒い人型兵器の側面へ回り込む。

 

「マジカル・ステップ・アンリミテッド!」

 

 足元に薔薇の魔法陣が咲く。

 そこを踏むたび、ローズの体が花びらのように加速した。

 

 攻撃を避けるだけではない。

 黒い人型兵器の視線を引きつけ、動きを誘導している。

 

 華やかに。

 軽やかに。

 だが、確実に。

 

 ゲキ・マキシマムはその動きを見て、わずかに笑った。

 

「いい動きだ」

 

「ゲキ、見惚れてる場合じゃないミプ!」

 

 その時、硬いブレーキ音が響いた。

 

 黒いC.H.A.R.M.の車両が、紫の闇を切り裂くように停まる。

 扉が開き、数人の職員が飛び出した。

 

 その先頭にいたのは、白衣の女性——風間カリン。

 

 だが、その足取りは万全とは程遠かった。

 

 片手で腹部を押さえ、肩で息をしている。

 白衣の下からは包帯が覗き、眼鏡の奥の目にも疲労の色が濃い。

 それでも彼女は、護衛の制止を振り切るように前へ出た。

 

「主任、これ以上は危険です!」

 

「分かってるわよ……!」

 

 女性は短く言い返し、携帯端末を開く。

 画面には、エリゴスの魔力波形と、赤いコアの解析値が表示されていた。

 

「ゲキ・マキシマム!」

 

 女性の声が、悪魔空間に響く。

 

 ゲキ・マキシマムが振り返った。

 

「C.H.A.R.M.か? ここは危ないぞ!」

 

「十分に分かっています。私は調査主任の風間カリン。状況はドローン映像と魔力反応で確認済みです」

 

 そう言った直後、カリンは小さく咳き込んだ。

 膝がわずかに揺れる。

 

 前回、ユーギ・ザムライ・ニャンタに叩きつけられたダメージが、まだ残っている。

 立っているだけでも無理をしているのが分かった。

 

「おい、怪我人じゃないか。何しに来た?」

 

「……時間がありません」

 

 カリンは顔を少し歪ませるが、すぐに引き締める。

 

「聞いて。あのデビガノイドのコアが急速に消耗している。このままだと、悪魔空間の完成か、その前後で中の少年の精神が燃え尽きる」

 

 ゲキ・マキシマムの表情が険しくなる。

 

「どうすればいい」

 

「以前のあなた一人の浄化では、残留悪魔エネルギーを完全には抜けなかった可能性があります」

 

「……」

 

「でも今は違う」

 

 カリンは、ローズ・アンリミテッドへ視線を向けた。

 

 その瞳に驚きは残っている。

 だが、今はそれを分析している暇などない。

 

「そちらの新しい魔法少女。あなたがローズさん……でいいのよね?」

 

「ええ」

 

 ローズ・アンリミテッドは、エリゴスから目を離さずに答えた。

 

「ローズ・アンリミテッドよ」

 

「分かったわ、ローズ・アンリミテッド」

 

 カリンは端末を操作しながら、痛む腹部を押さえた。

 額に汗が浮かぶ。

 

「あなたはさっき、コアに触れていた。中の少年の心に届きかけた。映像でも、魔力反応でも確認できたわ」

 

「心に……」

 

「ええ。あなたの魔力は、コアの内側へ入り込もうとしていた。ゲキさんとは違う方向の浄化反応よ」

 

 ゲキ・マキシマムが眉を動かす。

 

「つまり?」

 

「ゲキ・マキシマムは外側の悪魔エネルギーを砕ける。ローズ・アンリミテッドは内側の心へ届く可能性がある」

 

 カリンは一歩前へ出ようとして、足を止めた。

 痛みで顔が歪む。

 

 護衛が慌てて支えようとしたが、カリンは片手で制した。

 

「主任!」

 

「大丈夫よ」

 

 カリンは乱れた息を整え、二人を見る。

 

「二人の力を重ねれば、コアの内部と外殻を同時に浄化できるはずです」

 

「なるほど。つまり二人で叩けばいいんだな」

 

「……雑に言えばそうよ。ただし、慎重に」

 

「そうか。なら、起こすように殴るさ」

 

「初対面でだいたい分かったわ。あなた、かなり大雑把な性格ね」

 

「ハハハ。よく言われる」

 

「でしょうね」

 

 カリンの声に、ほんの少しだけ呆れた笑みが混じった。

 だが、その顔色は悪い。

 

 ローズ・アンリミテッドは、胸に手を当てた。

 

「アタシは、中の少年を呼び戻せばいいのね」

 

「そう。あなたは彼に言葉を届けて。強く、でも壊さないように」

 

「分かったわ……ゲキ・マキシマム」

 

「なんだ」

 

「外側は任せてもいいかしら」

 

「もちろんだ!」

 

 ゲキ・マキシマムは拳を鳴らした。

 

「中は頼むぞ」

 

「ええ」

 

「同時浄化は魔法少女チームではよくやることミプ。けど、男の魔法少女同士でやるのは初めてミプ!」

 

 ミププは少し涙目のまま、両手を上げた。

 

「でも、やるミプ。ゲキ、ローズ! 魔力の波長を合わせるミプ! ゲキはいつも通り気合と筋肉で押すミプ!」

 

「得意分野だな」

 

「ローズは心を強く思い浮かべるミプ! あの子を助けたいって願うミプ!」

 

「もちろんよ」

 

 エリゴスが咆哮した。

 

『うるさい……』

 

 胸のコアが赤黒く光る。

 

『俺を……助けるな……!』

 

 槍が大きく振り上げられる。

 悪魔空間中のエネルギーが、穂先へ集まり始めた。

 

 最大出力。

 

 今度こそ、町ごと薙ぎ払うつもりだった。

 

 ゲキ・マキシマムが前へ出る。

 

 ローズ・アンリミテッドがその横に並ぶ。

 

 ピンクの巨体。

 薔薇の魔法少女。

 

 二人の足元に、それぞれ魔法陣が広がった。

 

 ゲキの魔法陣は、ハートと拳を思わせる力強いピンク。

 ローズの魔法陣は、薔薇の花弁が幾重にも開く赤。

 

 その二つが、悪魔空間の中で重なる。

 

 ピンクと赤の光が絡み合い、紫の闇を押し返していく。

 

「ローズ」

 

「ええ」

 

「行くぞ!」

 

 二人は同時に地面を蹴った。

 黒い人型兵器も突進する。

 槍の穂先に、赤黒い破滅の光。

 

 ゲキ・マキシマムが正面から受けた。

 

「おおおおおおっ!」

 

 両腕で槍を挟み込み、力ずくで軌道を止める。

 衝撃が走り、足元が砕ける。

 だが、ゲキは退かない。

 

「ローズ!」

 

 ローズ・アンリミテッドがゲキの背後から舞うように飛び出す。

 

 花びらの足場が空中に咲いた。

 

 一枚。二枚。三枚。

 

 ローズはそれを踏み、黒い人型兵器の胸元へ迫る。

 

『来るな……!』

 

 悪魔兵器が空いた腕を振るう。

 

 だが、ゲキ・マキシマムがその腕を掴んだ。

 

「行かせるか!」

 

 筋肉が軋む。

 魔力が爆ぜる。

 

 黒い人型兵器の動きが止まる。

 

 ほんの一瞬。

 

 だが、その一瞬で十分だった。

 

 ローズ・アンリミテッドの手が、胸の赤いコアへ伸びる。

 

「もう、誰かを踏みつけなくていい」

 

 彼は静かに言った。

 

「もう、強がらなくていい」

 

 赤いコアの奥で、少年の声が震えた。

 

『うるさい……』

 

「夢を否定された痛みは、消えないわ」

 

『黙れ……』

 

「でも、その痛みで誰かを傷つけても、あなたの夢は戻らない」

 

『黙れェ!』

 

「だから、戻ってきなさい」

 

 ローズの手が、コアに触れる。

 

 赤い薔薇の光が、コアの内側へ流れ込んだ。

 

「マジカル・ローズ・ハートリーチ!」

 

 同時に、ゲキ・マキシマムが拳を振りかぶる。

 

 ピンクの魔力が拳に集まる。

 

 破壊ではない。

 叩き起こすための拳。

 

「マジカル・マキシマム……!」

 

 ゲキの拳が、ローズの光を包むようにコアの外殻へ叩き込まれる。

 

()()()()()()()()

 

 ピンクの拳と、赤い薔薇の光が重なった。

 衝撃は、爆発ではなかった。

 

 それは花が開くような光だった。

 悪魔空間の中心から、輝きが広がる。

 

 エリゴスの装甲にひびが入る。

 赤黒い悪魔エネルギーが、悲鳴のように噴き出す。

 

『嫌だ……』

 

 少年の声が聞こえた。

 

『俺は……弱いままじゃ……』

 

「弱くてもいいのよ」

 

 ローズが言った。

 

『駄目だ……弱いやつは……見下される……』

 

「見下す人が間違っているの」

 

『でも……』

 

「あなたの夢は、あなたをいじめるためにあったんじゃない」

 

 ローズの声が、コアの奥へ届く。

 

「もう一度、手を伸ばして」

 

 ゲキ・マキシマムの拳に、さらに魔力がこもる。

 

「ああ! 戻ってこい!」

 

 光が弾けた。

 エリゴスの胸から、赤黒いコアが浮かび上がる。

 その中心に、小さな少年の影が見えた。

 膝を抱え、怯えている影。

 

 ローズ・アンリミテッドは、その影へ手を伸ばした。

 

「大丈夫よ」

 

 彼は微笑んだ。

 

「今度は、見ているわ」

 

 少年の影が、ゆっくりと顔を上げる。

 次の瞬間、赤いコアが砕けた。

 だが、それは破壊ではなかった。

 黒い殻だけが割れ、中から白い光が溢れ出す。

 

 エリゴスの装甲が崩れていく。

 槍が砂のように砕け、赤い関節光が消える。

 

 悪魔空間を覆っていた紫の闇が、内側から裂けた。

 ビルの壁の赤黒い模様が消え、道路の亀裂が薄れていく。

 紫の空の向こうに、朝日が昇り始めていた。

 

 エリゴスは、最後に大きく震えた。

 そして、完全に崩壊した。

 その場に残ったのは、一人の少年だった。

 

 意識を失い、道路の上に倒れている。

 

 だが、胸は小さく上下していた。

 

 生きている。

 

 ローズ・アンリミテッドは、その場に膝をついた。

 

「……よかった」

 

 その声は、小さく震えていた。

 ゲキ・マキシマムもまた、深く息を吐いた。

 

「やったなローズ」

 

「ええ」

 

 ローズは顔を上げる。

 

「アタシたち、助けられたのね」

 

「ああ」

 

 ミププが二人の周りを飛び回る。

 

「完全浄化反応ミプ! すごいミプ! 本当に完全に抜けたミプ!」

 

「そうか」

 

「でも男の魔法少女二人で同時浄化とか、精霊界にどう報告すればいいミプ!?」

 

「そのまま報告すればいいのではないか?」

 

「そのまま報告したらミププの上司が混乱するミプ!」

 

「なに? 上司がいるのか」

 

「いるミプ! 困惑する未来が見えるミプ!」

 

 ローズ・アンリミテッドは、くすりと笑った。

 笑った瞬間、変身したばかりの体に疲労が押し寄せる。

 

 膝が少し崩れた。

 ゲキ・マキシマムがすぐに支える。

 

「無理するなローズ」

 

「あら、紳士」

 

「立てるか」

 

「ええ。少しだけ……夢が重くて」

 

「ハハ、夢は重いか」

 

「ええ。でも、()()()()()()よ」

 

 ローズは少年を見る。

 苦しみを抱えたまま歪んでしまった少年。

 それでも、戻ってこられた。

 

 完全ではない。

 これから償わなければならないこともある。

 向き合わなければならない痛みもある。

 

 だが、少なくとも兵器として燃え尽きることはなかった。

 

 その事実だけで、ローズは胸の奥が少し熱くなった。

 

     Θ

 

 少し離れたビルの屋上。

 

 タカワラーイ婦人とイタヴリ博士は、目の前の光景に固まっていた。

 

 D-15デビガノイド——エリゴス。

 

 本部最新鋭の悪魔兵器。

 無許可で持ち出し、最後の切り札として投入したそれが、完全に浄化された。

 

 悪魔空間も崩壊している。

 

 成果はない。

 

 いや、町に与えた被害はある。

 恐怖も生んだ。

 だが、肝心の侵略成果としては大失敗だった。

 

 しかも、男の魔法少女が増えた。

 

 タカワラーイ婦人の扇子が、かたかたと震えた。

 

「……博士」

 

「はい」

 

「これは、どういう状況ですの」

 

「最悪です」

 

「分かりやすいですわね」

 

「本部最新鋭を無許可で使用し、破壊されました」

 

「な、何ですの、あの薔薇の魔法少女は!」

 

「男の魔法少女なんて魔法少女じゃないでしょうが! シータアースは、おかしな奴が無造作に生える土地なんですか!?」

 

「雑草みたいな例えですわね」

 

 頭を抱える婦人と博士。

 その横で、ユーギ・ザムライ・ニャンタだけは静かだった。

 

 猫武者は、崩れていく悪魔空間と、ゲキ・マキシマム、ローズ・アンリミテッドの姿を見つめている。

 その渋い声が、ぽつりと漏れた。

 

「……なるほど」

 

 婦人が振り向く。

 

「ユーギ?」

 

「姫様。撤退を進言するでござる」

 

「い、言われなくても撤退しますわ!」

 

「ただし、()()はあったでござる」

 

 博士が瞬きをする。

 

「え? 収穫?」

 

「魔法少女ゲキ・マキシマム。そして新たな魔法少女ローズ・アンリミテッド」

 

 ユーギの目が、わずかに細くなる。

 

「シータアースの不確定要素、その情報を得た」

 

 婦人は一瞬、言葉を失った。

 ユーギは非常に落ち着いていた。

 

 エリゴスを失ったことに動揺していない。

 むしろ、この失敗すら何かに使うつもりでいるようだった。

 

「ユーギ、あなた……」

 

「——姫様」

 

 ユーギは静かに頭を下げる。

 

「敗北は痛手。しかし、情報は武器でござる」

 

 イタヴリ博士が目を輝かせかける。

 

「つまり、報告の仕方次第では――」

 

「無断持ち出しの件は消えませんわよ」

 

「ですよね——ていうか持ち出したのユーギでしょ!?」

 

「ですわね」

 

 婦人は深く息を吐いた。

 眼下では、悪魔空間が完全に崩れていく。

 

 長居は危険だ。

 境界防衛隊が到着する前に離脱しなければならない。

 

「撤退しますわ」

 

「……はい」

 

 タカワラーイ婦人は最後にもう一度、崩れゆく戦場を見た。

 

 ピンクの巨体。

 薔薇の魔法少女。

 

 ……二人の男の魔法少女。

 

 馬鹿げている。

 異常。

 そして厄介。

 

「……本当に、忌々しい世界ですわ」

 

 婦人はそう呟き、紫の残光の中へ姿を消した。

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