魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。   作:ワタリ3@ぼちぼち浮上

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私事ですが、めちゃくちゃ楽しみにしていた「テガソード -MEMORIAL EDITION-」が6月26日発送から9月に発送遅延になったことを知り、非常に落ち込んでいます・・・。テガソード様の為に今月頑張ったのに3か月も先延ばし(泣) 生きる活力が湧きません_| ̄|○


5-3 無茶をする精霊

 

 音駒町で、マジルカニャンニャと精霊道の僧侶が出会ってから、四日後。

 

 五月女家二階、エミカの部屋。

 

 ベッドの上に座るエミカは、背筋を伸ばし、目を閉じている。

 その正面では、ミププが小さな両手を掲げていた。

 

「……いくミプ。今日は、ほんの少しだけ流すミプ」

 

「分かってるよミププ」

 

「痛かったら、すぐ言うミプ」

 

「うん」

 

「我慢するのは絶対駄目ミプ」

 

「もう、分かってるってば。早くして」

 

 ミププの手のひらから、淡い光がこぼれた。

 それは派手な魔法ではない。

 傷ついた魔力回路へ、細い糸のような魔力を流すための、慎重な光。

 エミカの胸元から肩、腕へ。

 目には見えない魔力の通り道を、少しずつ整えていく。

 

「……っ」

 

 最初は、針でつつかれるような痛みだった。

 だが、光が体の奥へ進むほどに、痛みは強く激しくなる。

 焼けた傷口に、熱い水を流し込まれているような感覚。身体の内側を、細い針でなぞられているような鋭い痛み。

 

「エミカ、大丈夫ミプ?」

 

「……まだ……」

 

 エミカの額に汗がにじむ。

 

「無理はしないミプ。止めても――」

 

「いけるって」

 

 歯を食いしばる。

 ここで止めたくない。

 早く戻りたい。

 

 ——もう一度、ちゃんと変身したい。

 

 町を守るために。

 父やローズに任せきりにならないために。

 

「もう、少しだけ……」

 

「分かったミプ。あと、本当に少しだけミプ」

 

 ミププが、さらに集中する。

 エミカの痛みを抑えながら、壊れた回路を整えるのは簡単な作業ではない。

 淡い光が、エミカの身体の奥へ沈んだ。

 

 次の瞬間。

 

「――あっ、ぁあああっ!」

 

 エミカの悲鳴が、部屋に響いた。

 

     Θ

 

 五月女家のリビング。

 ゲキはソファに座り、夕食用のレシピ動画をスマホで見ていた。

 画面には、鶏肉と野菜を使った栄養たっぷりの煮込み料理が映っている。鍋の中で、にんじんと玉ねぎが柔らかく煮込まれていた。

 

「ほう、なるほど。仕上げに少し蜂蜜を入れるのか。俺には無かった発想だな」

 

 ゲキは真剣だった。

 エミカの体調を考え、消化がよく、栄養があり、なおかつ美味しい料理を作る。

 父として、それは重要な任務である。

 

 ――その時だった。

 

「――あっ、ぁあああっ!」

 

 廊下の奥、娘の部屋から悲鳴が聞こえた。

 ゲキの動きが止まった。

 

「……エミカ!?」

 

 次の瞬間。

 ソファが大きく沈んだ。

 ゲキが立ち上がったのだ。

 

「エミカ!!」

 

 廊下を駆ける足音が、家全体を揺らした。

 どん、どん、どん、と重い音が近づき。

 

 エミカの部屋の前で止まる。

 

「エミカ! どうした!」

 

 ノックだった。

 少なくとも、ゲキ本人はノックのつもりだった。

 だが、拳が扉を叩いた瞬間。

 

 ――ドォン!

 

 蝶番が悲鳴を上げた。

 そしてゲキは、返事を待たずに扉を開けた。

 

「大丈夫か!」

 

「え、お父さん!?」

 

 ベッドの上のエミカが、涙目のまま叫んだ。

 ミププも両手を上げたまま固まっている。

 

「ゲ、ゲキ! 今、魔力を流してる最中ミプ!」

 

「な、何をしている!?」

 

「リハビリだよ!」

 

「叫び声が聞こえたぞ!」

 

「痛かったの!」

 

「なら中止しろ!」

 

「中止しないよ!」

 

 親子の声が、狭い部屋でぶつかった。

 ゲキはエミカの顔を見る。

 

 苦しそうだった。

 

 額には汗が浮かび、肩で息をしている。

 父親としては、今すぐリハビリをやめさせてたい。

 だが、エミカの目は真剣だった。

 

「お父さん」

 

「なんだ」

 

「出て」

 

「し、しかし――」

 

「出て!」

 

「……わ、分かった」

 

 ゲキは一歩下がった。

 だが、扉の前から動かない。

 

「何かあったら、すぐ呼べ、エミカ」

 

「分かったから!」

 

「本当に無理は――」

 

「お父さん!」

 

「……すまんな」

 

 ゲキはようやく扉を閉めた。

 閉めたが。扉が完全に閉まる直前、エミカの声が飛んできた。

 

「次からはノックしてから入ってよ!」

 

「したぞ!?」

 

「扉を壊しかける勢いのノックはノックじゃないの!」

 

 ゲキは、廊下で黙った。

 その隣で、ミププの声が小さく聞こえた。

 

「はぁ……やれやれミプ」

 

     Θ

 

 数時間後。

 SAOTOME GYMの休憩室。

 ローズはソファに座り、プロテイン入りのミルクティーを優雅に飲んでいた。

 

 向かいでは、ゲキが腕を組んでいる。

 

「……というわけで、エミカに怒られた」

 

 ゲキが、低い声で言った。

 ローズは数秒、黙った。

 口元がわずかに震えた。

 

 それから。

 

「ふっ……」

 

 肩が震えた。

 

「ふふっ……あははははは!」

 

 休憩室に、ローズの笑い声が響いた。

 

「そんなに笑うことか?」

 

「笑うわよ! 典型的な思春期の娘を持つ親父ね」

 

 ローズは目元の涙を拭った。

 

「娘の悲鳴を聞いて、全力で駆けつけるところまでは百点よ!」

 

「ハハ、そうだろう」

 

「でも、扉を破壊しかけて無断で入るのは零点!」

 

「敵がいるかもしれん」

 

「エミカちゃんの部屋に?」

 

「敵は卑劣だからな」

 

「そこまで言うなら、敵が出た時だけ壁ごと入ればいい」

 

「壁ごと?」

 

「それ以外はノックして、返事を待つの」

 

 ローズは指を一本立てた。

 

「思春期の女の子の部屋は、城であり、聖域よ」

 

「父親でもか?」

 

「父親だからこそよ」

 

 ゲキは少し考えた。

 娘が小さかった頃は、部屋へ入るのに許可など必要なかった。眠れないと言われれば様子を見に行き、怖い夢を見たと言われれば一緒に寝た。

 

 だが、今のエミカは十六歳。

 子供でありながら、大人になろうとしている時期。

 

「な、なるほど」

 

「分かった?」

 

「ああ。次からは扉の外で、敵の有無を確認する」

 

「そこじゃないわよ!」

 

 ローズは深くため息をついた。

 

「エミカちゃんにも、自分だけの場所と時間があるの。心配するのは素敵。でも、心配の仕方を間違えると、ただのクソ親父よ」

 

「ク、クソ親父……」

 

 ゲキの表情が、少しだけ沈んだ。

 

「そんな顔しないで。ちゃんと反省すればいいの」

 

「分かった。反省する」

 

「じゃあ、次からは?」

 

「ノックして、返事を待つ!」

 

「よろしい」

 

 その時。

 休憩室の扉が開いた。

 

 エミカだった。

 

 部屋着からジャージに着替え、髪も整っている。

 松葉杖をつき、歩き方にまだ慎重さはあるが、リハビリ直後より顔色はいい。けれど、父を見る目には、わずかに朝の怒りが残っていた。

 

「……お父さん」

 

「エ、エミカ……そ、そのな」

 

「……夕飯、鶏肉の煮込み?」

 

「……ああ、胃に優しいぞ」

 

「じゃあ、ご飯多めで」

 

「任せろ」

 

 エミカは小さく頷いた。まだ少し不機嫌そうだ。

 ローズはにこやかに手を振った。

 

「ごきげんよう、エミカちゃん」

 

「こんにちは、ローズさん」

 

「お父様には、乙女の部屋へ入る際の作法を、しっかり教育しておいたわ」

 

 エミカが、ちらりとゲキを見る。

 

「……本当に?」

 

「反省している。すまないエミカ」

 

 ゲキはしょんぼりした顔で答えた。

 

「今後は、ノックして、返事を待つ」

 

「……うん。それならいい」

 

「ただし、敵が出た場合は――」

 

「余計な事言わないの、もう!」

 

 ローズはゲキの背中を叩く。

 エミカは少しだけ笑った。

 

「ローズさん、ありがとう」

 

 ローズも満足そうに頷く。

 

「いいのよ。よかったわね、ゲキ。出禁にならなくて」

 

「娘の部屋を出禁にされる父親がいるのか?」

 

「今のアナタは、かなり危なかったわよ」

 

「そ、そうか……」

 

 ゲキが真面目に落ち込んだ、その時だった。

 

 ——テーブルの上に置かれたスマホが震えた。

 

 休憩室の空気が、ぴたりと変わる。

 ゲキが画面を開くと同時に、端末越しに赤司の声が響いた。

 

『赤司です。五月女さん、緊急出動要請です』

 

「場所は」

 

『雨玻町西側、森沿いの公園付近。小規模悪魔空間の発生を確認しました』

 

「敵はデビデヴィ・クライシスか?」

 

『いえ……バッドデーモンです』

 

 エミカが目を見開く。

 

「バッドデーモン……音駒町の?」

 

『雨玻町へ流れてきた原因は不明です。本来はマジルカニャンニャの担当敵性存在ですが、現在は別件対応中で、到着まで時間がかかります。一般人にはすでに()()()()()()()が出ています。現場から最も近い五月女さんに、対処をお願いしたいです』

 

「分かった。すぐに行く」

 

『お願いします』

 

「行くぞローズ」

 

「ええ!」

 

 すぐに現場に向かおうとするゲキとローズ。

 だが、エミカの服の中に隠れていたミププが飛び出し二人を止める。

 

「待つミプ! バッドデーモンはデビガノイドとは違うミプ」

 

「どういう事だ?」

 

 顔をしかめるゲキ。ミププの顔は真剣だった。

 

「殴っても蹴っても、それだけじゃ終わらない。異次元側にあるコアを浄化しないと、完全には倒せないミプ。つまり、ミププ達、精霊の力が必要ミプ」

 

 ゲキにはそのあたりの理屈は分からないが、ミププの力が必要ということは理解する。

 

 ミププの顔を見る。

 

 さっきまでのリハビリ。

 相当集中力を使ったのであろう、今のミププは、少しだけ顔色が悪い。

 

「ミププ」

 

「何ミプ」

 

「お前、疲れているな」

 

「そ、それは」

 

「俺とローズで先に行く。ミププは休め」

 

「休んだら倒せないミプ!」

 

 ミププは即答した。

 いつになく、間髪入れずに。

 

「バッドデーモンは精霊がいないと倒せないミプ。ゲキとローズがどれだけ剛腕で、破壊的で、強くても、最後はミププが必要ミプ!」

 

「だが」

 

「ミププはエミカの相棒精霊ミプ! 雨玻町で困ってる人を、放ってはおけないミプ!」

 

 ミププは小さな胸を張った。

 ちょっとふらついたが、慌てて姿勢を戻した。

 

「だ、大丈夫ミプ」

 

「いや、今のは大丈夫じゃない動きだったぞ」

 

「気のせいミプ! ミププは行くミプ!」

 

 その声は小さいのに、妙に強かった。

 ローズが、少しだけ表情を改める。

 

「アタシたちが前に出るわ。ミププちゃんは、体力を温存すること」

 

「分かってるミプ」

 

「本当に?」

 

「たぶん」

 

「はぁ、不安だわ……」

 

 エミカはじっとミププを見た。

 

「ミププも()()()()()()()()じゃない」

 

「ミプ?」

 

「……なんでもない」

 

 今ここで止めても、ミププは行く。

 それに、エミカはマジルカニャンニャの助っ人で何度かバッドデーモンと戦っており、精霊の力の必要性は十分に理解している。

 

「……気をつけて」

 

 エミカが、ぽつりと言う。

 

「お父さんも。ローズさんも。そしてミププも」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 ゲキは短く答えた。

 ローズはやわらかく笑う。

 

「行ってくるわ、エミカちゃん」

 

「ローズさん」

 

「ん?」

 

「お父さんがまた変なことしたら、止めてください」

 

「任せて。今日はノックの大切さも覚えさせたもの」

 

「もうその話は良いだろ!?」

 

 ゲキが珍しくツッコミを入れた。

 緊張の中でも、少しだけ空気が和らぐ。

 

「まったく……よし、出動だ!」

 

「ミプ!」

 

「ええ!」

 

 

     Θ

 

 森の公園は、普段なら散歩やジョギングをする人々で賑わう場所だった。

 広い芝生と子供向けの遊具。夕方には犬を連れた住民や、帰宅前に遊ぶ子供たちの声が響く。

 

 だが今は。

 

 公園の広場を、薄紫色の膜が覆っている。

 小規模な悪魔空間。中に入るだけで気分が沈む。

 

 ……もう何もしたくない。

 ……楽しさを感じられない。

 ……全部、どうでもよくなる。

 

「……ここ、嫌な感じね。以前の悪魔空間と、なんだか肌触りが違うわ」

 

 ローズが低く言った。

 

「肌触りはよくわからんが、確かに空気感が違うな」

 

 ゲキも頷く。

 

 広場には、何人かの人々がいた。

 ……ベンチに座り込んだ老人。

 ……遊具のそばで、ぼんやり立ち尽くす親子。

 ……散歩用のリードを握ったまま、空を見上げている男性。

 

 誰も逃げようとしない。逃げる気力すら、失っている。

 

「もう、いいだろ……生きるのには疲れた」

 

 老人が呟いた。

 

「別に……帰らなくてもいいわね……」

 

「お、お母さん」

 

 幼い女の子が、母親の服を引っ張る。

 

「帰ろうよ」

 

「……どうして? 面倒じゃない」

 

 母親は、虚ろな目で答えた。

 

「何をしても、どうせ楽しくないのに」

 

 エミカなら、きっと駆け寄っていた。

 ゲキはそう思った。

 だからこそ、今は自分が動く。

 

「なるほど……これがネガティブ症状か」

 

「速く敵を見つけましょうゲキ……このままにはしておけないわ」

 

 その時。

 広場の中央で、紫色の影が大きく揺れた。

 木々の影より濃い、紫の闇。

 

 赤い吊り目。人の形をしているようで、していない怪人。

 

 異次元敵性存在――バッドデーモン。

 

『疲れた』『何もしたくない』『楽しいことなんて、なくなればいい』

 

 その声が、頭の奥へ直接響く。

 ミププが、ゲキの肩の上で小さく震えた。

 

「……一体だけミプ。でも、コアの反応は強いミプ」

 

「なら、迅速に終わらせよう」

 

「そうね」

 

 二人の手の中に、光が集まる。

 

 ゲキにはピンクのハート型クリスタル。

 ローズには赤い薔薇型クリスタル。

 

「怒れ! マキシマム!」

 

「叶って! アンリミテッド!」

 

 二人はメイクアップ・リグを取り出し、クリスタルを装着した。

 

 そして——。

 

「「マジカル・ケミカル・フィジカル・メイクアップ!」」

 

 ピンクと赤の光が、森の公園を照らす。

 ——片方は、白とピンクの衣装と胸にハートを抱いた巨漢。

 ——片方は、赤い薔薇の衣装と長いヒールブーツをまとった長髪の大男。

 

 二人は同時にポーズを決める。

 

「娘の涙に拳を燃やす!」

 

「可憐なる夢を歩む!」

 

「怒れる父のマジカルハート!」

 

「鍛え抜かれた乙女魂!」

 

「魔法少女――ゲキ・マキシマム!」

 

「魔法少女――ローズ・アンリミテッド!」

 

 ピンクのハートと、赤い薔薇の花弁が舞う。

 広場の中央で、バッドデーモンが赤い目を細めた。

 

『……魔法少女……?』『知らないやつだ……』『だが……嫌いだ』

 

 紫の闇が、大きく膨れ上がる。

 ミププは両手を上げた。

 

「二人とも、頑張るミプ!」

 

 小さな声だった。

 けれど、二人の背中を押すには十分。

 

「任せろ!」

 

「華麗に片付けるわよ!」




だいぶメンタルに来てます……あぁ、テガソード様
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