魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。   作:ワタリ3@ぼちぼち浮上

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UAが急に伸びたから、何事かなと思ったらランキング上位に入ってた。
こんな可笑しな小説に目を通していただき、ありがとうございます。



5-4 茨の鞭とうるさい僧侶

 

 ゲキ・マキシマムとローズ・アンリミテッドは、同時に地面を蹴った。

 先に飛び込んだのは、ゲキ・マキシマム。

 ピンクの巨体が、一直線にバッドデーモンへ迫る。

 

 迷いのない踏み込み。

 

 狙うのは一つ、胸元の黒い穴の奥で脈打つ、異次元側のコア。

 

「まずは急所だ!」

 

 拳が唸る。

 ピンクの魔力をまとった右ストレートが、真正面からバッドデーモンの胸へ叩き込まれた。

 

 だが。

 

 ――ギィン!

 

 鈍く、耳障りな音が響いた。

 

「むっ」

 

 ゲキ・マキシマムの拳が弾かれる。

 胸の中心に触れる寸前、赤紫の悪魔エネルギーが膜のように広がり、コアを覆った。

 衝撃でバッドデーモンの上半身は大きくのけぞったが、致命打にはならない。

 

『嫌だ』『消えたくない』『楽しいやつらが、嫌いだ』

 

 バッドデーモンの吊り目が、ぎらりと光る。

 ゲキ・マキシマムは一歩引き、その胸元を見た。

 

「コアが何かで守られている」

 

「弱らせないと、浄化の力を通せないミプ!」

 

 肩の上のミププが叫ぶ。

 

「体を削って、悪魔エネルギーの膜を薄くするミプ!」

 

「単純明快で助かるわ」

 

 ローズ・アンリミテッドが横から滑り込んだ。

 赤い花弁を散らしながらの回し蹴りが、バッドデーモンの脇腹へ叩き込まれる。

 

「綺麗に削がせてもらう!」

 

 衝撃でバッドデーモンが横へ流れる。

 そこへ間髪入れず、ゲキ・マキシマムが踏み込んだ。

 

「追撃だ!」

 

 左の拳。右の拳。さらに膝蹴り。

 重い連打が、悪魔の肉体を真正面から打ち据える。

 バッドデーモンの体は煙のように揺らぎ、そのたびに表面が削れる。

 だが完全には崩れない。削れた端から、黒い霧のような悪意がじわじわと補われていく。

 

 ローズは眉をひそめた。

 

「再生するのね。厄介だわ」

 

「なら、再生が追いつかない速度で殴ればいいさ」

 

 バッドデーモンが、両腕を不気味に広げた。

 紫の闇がその足元から溢れ出す。

 

『一人じゃない』『嫌な気持ちは、増える』『いくらでも増える』

 

 影が揺れる。

 木の根元。遊具の下。ベンチの背後。

 あらゆる影が人の形を作り、ぬるりと浮かび上がる。

 

 一体、二体、三体……あっという間に十体。

 

 バッドデーモンと同じ吊り目を持つ、やや小型の紫の分身たちが、音もなく立ち上がった。

 

「シャ、シャドウミプ。本体の悪意を撒いて作る分身ミプ。コアはないけど、放っておくとかなり面倒ミプ!」

 

 ミププの声が引きつる。

 

「なるほど、頭数を増やしたか」

 

 ゲキ・マキシマムは拳を鳴らした。

 

「だが、雑魚散らしは得意だ」

 

 シャドウたちが一斉に飛びかかる。

 十の爪が、ゲキとローズへ伸びる。

 

「ローズ!」

 

「ええ!」

 

「本体は任せる!」

 

「分身はお願いね!」

 

 役割分担は一瞬だった。

 ゲキ・マキシマムが地面を踏み抜く勢いで前へ出る。自らシャドウの群れの中央へ突っ込んだのだ。

 

「こっちだ!」

 

 巨体が回転する。

 振るわれた裏拳が、先頭のシャドウを横殴りに吹き飛ばした。

 続けて足払い。さらに肘打ち。

 吹き飛んだ分身が別の分身を巻き込み、三体まとめて地面を転がる。

 

 だがシャドウたちは怯まない。

 

 左右から爪が伸びる。

 

 ゲキ・マキシマムは片腕で一体の首を掴み、盾のように持ち上げた。同士討ちになり、その隙に残る一体へ頭突きを叩き込む。

 

 ――ボゴッ!

 

「よし、三体」

 

 四体目と五体目が同時に跳ぶ。ゲキ・マキシマムは前へ出た。

 懐へ潜り込み、片方の腹へ拳をめり込ませる。もう片方の腕を掴み、勢いのまま背負うように投げ飛ばした。

 

 広場の土が大きくえぐれる。

 

「まだ足りないか……だったら」

 

 ゲキは手をかざす。

 

「この手はどうだ……マジカル・ショットガン!」

 

 ピンクの意匠で飾られた大ぶりの銃――マジカル・ショットガンを召喚する。

 

 シャドウたちが一斉に飛びかかった瞬間。

 ゲキ・マキシマムは銃口を水平に薙いだ。

 

 轟音。

 

 ピンクの光弾が散弾のように拡散し、前方のシャドウをまとめて吹き飛ばした。紫の体が花火のように弾け、霧へ還る。

 

 だが、まだ終わらない。

 左右と背後。残ったシャドウが跳ぶ。

 

 ゲキ・マキシマムは振り向きもせずリロードし、そのまま後方へ発砲した。

 肩越しの一撃が背後の二体を撃ち抜く。さらに地面を滑り込みながら下方へ銃口を向け、足元から襲ってきた一体を撃ち抜く。

 

「六、七、八……残り二!」

 

 最後の二体は、左右へ大きく散って距離を取った。

 学習したのか、同時に挟み撃ちを狙ってくる。

 ゲキ・マキシマムはショットガンを片手で構え直し、にやりと笑った。

 

「ほう、悪くない」

 

 右へ一発。左へ一発。

 爆ぜるような光が走り、二体のシャドウは同時に霧散した。

 

「ターミネイトだ!」

 

     Θ

 

 その頃、本体の前では――。

 ローズ・アンリミテッドが、静かに右手を掲げていた。

 

「さて。アタシの相手をしてくれるかしら」

 

 赤い魔力が、彼女の指先へ集まる。

 薔薇の花弁が舞い、細い光の筋が何重にも絡まり、一本の武器へと形を変えていく。

 

 しなやかで、長い。

 赤い茨を何本も編み上げたような——鞭。

 その表面には棘のような光が走り、空気に触れるたび、ぴしり、と小さな音を立てた。

 

「これが、アタシ専用の――」

 

 ローズが艶やかに笑う。

 

「マジカル・()()()()よ」

 

「うわっ、なんかすごく嫌な感じの武器が出たミプ!」

 

 ミププが思わず素で引いた。

 

「ロ、ローズ……。それ魔法少女というより……ちょっと()()っぽいミプ!」

 

「あら。褒め言葉として受け取っておくわ」

 

 バッドデーモンが低く唸る。

 

『笑うな』『その顔が嫌いだ』『楽しそうなのが嫌いだ』

 

 ローズの目が細くなった。

 

「じゃあ、アタシが楽しそうな顔をしなくなるくらい、きっちりお仕置きしてあげる」

 

 鞭が唸った。

 

 ――ビシィッ!

 

 赤い閃光が、バッドデーモンの肩口を切り裂く。

 単なる打撃ではない。

 茨の鞭が悪魔の体表を削ぎ、そこに絡みついた悪魔エネルギーごと引き剥がしたのだ。

 裂けた箇所から、紫の煙が吹き上がる。

 

『ァアアア!』

 

 今度は足。

 低く薙がれた鞭が膝裏を裂き、バッドデーモンの姿勢を崩す。

 

 三撃。四撃。五撃。

 鞭はしなるたびに軌道を変える。真正面から叩くだけではない。

 絡め取り、締め上げ、引き裂き、無理やり体勢を崩す。

 

 ローズの戦い方は、見た目の華やかさに反して極めて冷静で、的確だった。

 

 肩。腕。脚。脇腹。

 

 コアから遠い場所をあえて削り、本体に再生を強要する。

 悪魔エネルギーが傷の補修へ回るたび、胸元を守る膜が少しずつ薄くなる。

 

「……な、なるほどミプ」

 

 ミププが目を見開く。

 

「本体の悪魔エネルギーを散らしてるミプ」

 

「ええ」

 

 ローズは鞭を引いた。

 赤い茨がバッドデーモンの腕に巻きついている。

 

「守るための力を、守る以外に使わせればいい」

 

 そのまま全力で引く。

 バッドデーモンの体勢が前へ流れた。

 そこへ、ローズのヒールが胸元へ叩き込まれる。

 

「咲きなさい!」

 

 赤い花弁が弾ける。

 コアを覆っていた悪魔エネルギーが大きく揺らいだ。

 

『嫌だ……』『削られるのは嫌だ……』『もっと嫌な気持ちを……集めないと……』

 

「集めさせるものですか!」

 

 ローズの声が低くなる。

 次の一撃は、首ではなく胸の下を狙った。

 裂けた紫の肉体から、黒い穴の輪郭がはっきりと見える。

 

 あと少しだ。

 

     Θ

 

 そこへ、ゲキ・マキシマムが着地した。

 最後のシャドウを吹き飛ばした勢いのまま、ローズの横へ並ぶ。

 

「待たせたな」

 

「ちょうどいいところよ」

 

 バッドデーモンは、すでに満身創痍だった。

 肩は削れ、腕は裂け、脚はふらついている。

 胸元の黒い穴を覆う悪魔エネルギーも、最初に比べて明らかに薄い。

 

 だが、それでもコアはまだ守られている。

 

「ミププ!」

 

 ゲキが叫ぶ。

 

「頼む!」

 

「分かったミプ……!」

 

 ミププが前へ飛ぶ。

 

 小さな体が、ほんの少しだけ揺れる。

 

 ……やはり無理をしている。

 

 それでもミププは両手を広げ、必死に魔力を集めた。

 

「二人とも……受けるミプ!」

 

 淡い光が、まずゲキ・マキシマムへ流れた。

 次に、ローズ・アンリミテッドへ。

 優しい光。だが、その中にある力は確かだった。

 

 ——精霊の力。

 浄化のために必要な、本物の魔法少女の輝き。

 ゲキの拳に、ピンクだけではない柔らかな光が宿る。

 ローズの鞭にも、赤の奥へ白いきらめきが混じった。

 

 ミププの息が荒くなる。

 

「これで……いけるミプ……!」

 

 バッドデーモンが後ずさる。

 

『やだ』『来るな』『消えたくない』

 

「悪いが、終わりだ」

 

 ゲキ・マキシマムが踏み込み、地面が割れる。

 ローズ・アンリミテッドがその横を滑るように走る。

 

 二人の速度が、ぴたりと揃う。

 

「ローズ!」

 

「ええ、ゲキ!」

 

 ローズのマジカル・ウィップが先行する。

 赤い茨がバッドデーモンの両腕へ絡みつき、逃げ場を奪う。

 さらに胸元の悪魔エネルギーを引き裂き、コアへの道をこじ開けた。

 

「今よ!」

 

「ああ!」

 

 ゲキ・マキシマムの拳が、真っ直ぐ突き出される。

 ピンクの光が、黒い穴の中心を貫いた。

 同時に、ローズ・アンリミテッドの鞭が螺旋を描き、開いた穴へ魔力を流し込む。

 

『マジカル・マキシマム――』

 

『ローズ・ピュリファイ――』

 

『『ブレイク!!』』

 

 閃光。

 

 コアを守っていた悪魔エネルギーが、ガラスのように砕け散る。

 黒い穴の奥で、赤紫のコアが露出した。

 そこへ、ミププの光が最後のひと押しを加えた。

 

「浄化するミプ!」

 

 コアが白く染まる。

 バッドデーモンが苦しげにのけぞった。

 

『やだ……』『消えたくない……』『でも……』

 

 声が震えた。

 怒りとも、憎しみとも違う。

 どこか幼い、寂しい声だった。

 

『こんな気持ち……嫌だ……!』

 

 小さく、ひびが入る。

 次の瞬間、コアは淡い光の粒となって弾けた。

 バッドデーモンの体が、足元から白く崩れていく。

 

 紫の闇が、夕暮れへ溶ける。

 

 悪魔空間が音もなく晴れ、重かった空気が一気に軽くなった。

 広場に吹く風が、ようやく普通の風へ戻る。

 

 ベンチの老人が、はっと顔を上げた。

 

「……あれ?」

 

 親子の母親が瞬きを繰り返す。

 

「私……何を……」

 

 幼い女の子が、ぱっと笑った。

 

「お母さん、ぼーっとしてた!」

 

「え……ええ、そうね」

 

 記憶は曖昧だ。

 だが、心を覆っていた重さだけは、確かに消えていた。

 

     Θ

 

 十分後。

 

 森の公園には、C.H.A.R.M.の車両が何台も入ってきていた。

 境界防衛隊が周辺を封鎖し、職員たちが一般人へ聞き取りと軽いメンタルチェックを行っている。

 

 赤司良介もその一人だった。

 

「皆さん、大きな混乱はありません。悪魔空間の影響も一時的なもののようです」

 

「そうか」

 

 ゲキ・マキシマムは、すでに変身を解いていた。

 肩で息をしながらも、周囲を見回す。

 

「皆、記憶はなさそうだな」

 

「ネガティブ症状になると、記憶は曖昧になります。残るのは強い無気力感に包まれていた感覚だけ」

 

 ローズも変身を解き、髪を払った。

 

「どうも後味の悪い敵ね」

 

「ええ。でも、数日で良くなるでしょう」

 

 赤司が微笑む。

 そこへ、聞き慣れた声がした。

 

「お父さん!」

 

 エミカだった。

 C.H.A.R.M.の車に乗って来たらしい。

 少し息を切らしているが、怪我に響かないよう慎重に走ってきたのが分かる。

 

「エミカ」

 

「赤司さんに頼み込んで、C.H.A.R.M.の車に乗せてもらったの……無事?」

 

「ああ」

 

「ローズさんも?」

 

「もちろんよ」

 

 エミカは、ほっと胸を撫で下ろした。

 

 ——めでたし、めでたし。

 

 そう思えた、まさにその時だった。

 ふらり、と小さな影が揺れた。

 

「……ミプ」

 

 ミププだった。

 肩の高さを飛んでいた小さな体が、糸の切れたように傾く。

 

「ミププ!?」

 

 エミカが叫ぶ。

 ミププはそのまま、ぽてん、と地面へ落ちた。

 

「おい!」

 

 ゲキが慌てて手を伸ばす。

 だが、その指先が届く前に――

 

「ミププ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ものすごい声が、公園中に響き渡った。

 

 全員が振り向く。

 

 木立の向こうから、紫の法衣姿の男が全力で飛び出してきた。

 胸元の精霊ストラップがじゃらじゃらじゃらじゃらと激しく鳴る。

 坊主頭。やたら暑苦しい顔。

 

 それは、キヨナガだった。

 

「精霊様が! 倒れた! これは一大事! 一大事ですぞぉぉぉぉ!!」

 

「うるさっ!」

 

 エミカが耳をふさぐ

 だがキヨナガは止まらない。

 そのまま地面へ滑り込むように膝をつき、倒れたミププの前で合掌した。

 

「落ち着いてください……いや、落ち着くのは私ですな! よし、脈――精霊に脈はあるのか!? いやある! たぶんある! ミププ様! お気を確かに!」

 

「う、うるさいミプ……」

 

 ミププは気絶しかけているのに迷惑そうだった。

 キヨナガは素早くミププを診る。

 目の色。呼吸。魔力の流れ。疲労の偏り。

 さっきまでの騒がしさが嘘のように、手つきだけは妙に慣れていた。

 

「ふむ。過労ですな!」

 

「お前は一体……」

 

 ゲキが質問をするが、キヨナガは目の前のことに気を取られている。

 懐から小さな竹の水筒を取り出す。

 

「魔力循環の偏り、集中負荷、浄化疲労……ええ、無茶をなさいましたな、ミププ様」

 

 竹の水筒には金色の文字で、やたら厳かなラベルが貼られている。

 

『精霊活性霊験甘露』

 

「精霊様の疲労を和らげる特製霊薬です!」

 

「なんだか胡散臭い名前ね」

 

 ローズが目を細める。

 

 キヨナガはキャップを開ける。

 ふわりと、ただの甘い匂いがした。

 

 赤司がじっと見る。

 

「……砂糖水?」

 

「いいえ、高濃度の愛情と敬意を込めた砂糖水です!」

 

「砂糖水って自分で言った」

 

 エミカが突っ込む。

 キヨナガはなぜか堂々としており、そのままミププの口元へ水筒を寄せる。

 

「さあ、ミププ様。これを少し」

 

 ミププはぐったりしたまま、ちょっとだけ飲んだ。

 

「……すごいく……あまいミプ」

 

「ええ、効くでしょう!」

 

「……ちょっと楽になったミプ」

 

 ミププの呼吸は少し落ち着いた。

 顔色も、ほんの少し戻っている。

 

 エミカがほっとした、その時。

 キヨナガがずいっとミププに顔を寄せた。

 

「ミププ様! お分かりになりますか! 私です! 精霊道の――」

 

 目を開けたミププ。

 視界いっぱいに、キヨナガの顔面があった。

 

「うわっミプ!?」

 

 反射だった。

 ミププは全力で頭を振り上げた。

 

 ――ゴッ!

 

 見事な頭突きが、キヨナガの額へ炸裂した。

 

「ぐふっ!」

 

 キヨナガがのけぞる。

 

「ミ、ミププ様……なんという尊き衝撃……!」

 

「ご、ごめんミプ! びっくりしてつい――」

 

「いえ!謝る必要などございません!」

 

 キヨナガは目を輝かせ、合掌。

 

「精霊様の頭突きなど、むしろご褒美!」

 

 その場にいる全員が、引いた。

 特にミププが、目に見えて引いていた。

 

「うわ……変人ミプ……」

 

 数秒後、ミププははっとしたように目を瞬かせる。

 

「……あ」

 

「おや。思い出してくださいましたか!」

 

「……思い出したミプ。すごくうるさい僧侶ミプ」

 

「ええ! 精霊様を愛し、精霊道を歩む僧侶、キヨナガです!」

 

 キヨナガは、やたら姿勢よく自己紹介した。

 エミカはその姿を見た途端、あからさまに顔をしかめた。

 

「……げっ、思い出した」

 

「なんです、その露骨な反応は」

 

「……だってキヨナガさんじゃん」

 

「ええ、キヨナガです」

 

「四年前、マジカルメイデンズ全員を説教した」

 

「必要な説法でした」

 

「二時間近く」

 

「一時間十八分です」

 

「長いよ!」

 

 ローズが興味深そうにエミカを見た。

 

「知り合いだったのね」

 

「私が小六くらいの時にね……。」

 

 エミカは嫌そうな顔のまま答える。

 

「精霊について長々と説教された」

 

「必要なことです」

 

 キヨナガは咳払いした。

 そして、倒れかけたミププを見下ろし、少し真顔になった。

 

「……本来なら、ここで小一時間ほど申し上げたいことがあります」

 

「……長いミプ。絶対却下ミプ」

 

 ミププが即答する。

 

「しかしミププ様! ここまで無茶をさせたからには説教を!」

 

「却下ミプ。無茶をしたのはミププ、ゲキたちは悪くないミプ」

 

「……で、では、一言だけ」

 

 キヨナガは深く息を吸った。

 精霊ストラップが、じゃらりと鳴る。

 

「精霊様が“平気”とおっしゃった時ほど、隣にいる者は本気で心配しなさい」

 

 その言葉に、エミカが少しだけ目を伏せた。

 ゲキも黙る。

 ミププは口をへの字にした。

 

「……なんというか、ここにいる全員が無茶をするから、その説教はあまり意味がない気がするのよね」

 

「ローズさん。しー」

 

 ローズの言葉に、赤司は人差し指を口に当てる。

 

「さて。拙僧がここへ来た目的は、説教……もとい説法だけではありません」

 

 キヨナガはゆっくりと立ち上がり、ゲキとローズへ向く。

 

「お二人」

 

「なんだ」

 

 ゲキが低く答える。

 

「ん?」

 

 ローズが首を傾げた。

 

 キヨナガは懐へ手を入れ、何かを取り出した。

 白い光が、夕暮れの公園にきらめく。

 それは、ゲキやローズのものと同じ形をした変身アイテム――メイクアップ・リグ。

 ただし色は、まだ誰のものにも染まっていない純白だった。

 

「お前たちが」

 

 キヨナガは白いリグを掲げる。

 

「メイクアップ・リグを使う者として、ふさわしいかどうか……私は、それを見極めに来ました」

 

 風が吹く。

 白いリグが、夕日に照らされて淡く光った。




ランキングに入って、メモリアルテガソードの件で沈んだ心が少し救われました。
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