魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。   作:ワタリ3@ぼちぼち浮上

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今週最後のエピソードです!


5-6 白い衝撃の……。

 

 ()()のメイクアップ・リグ。

 それを見た瞬間、ミププの目が、これ以上ないほど見開かれた。

 

「……へ?」

 

 小さな精霊は、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。

 

「えっ、ちょっ……メイクアップ・リグ?  なんでメイクアップ・リグを持っているミプ!? しかも白いミプ!? そんな色、初めて見たミプ!」

 

 声が一気に裏返った。

 キヨナガは、胸を張ったまま静かに頷く。

 

「当然でしょう。あなた方が普段使っている物と、出自が違います」

 

 ゲキが腕を組み、白いリグを見た。

 

「……お前も魔法少女なのか?」

 

()()()

 

 キヨナガは即答した。

 

「少なくとも、現在の精霊界で定義される()()()()()()()ではありません」

 

「現在の……?」

 

 赤司が眉をひそめ、ローズは長い髪を払う。

 

「つまり、昔の型があるってことかしら」

 

「その通り」

 

 キヨナガは白いリグを見つめた。

 その表情からは、先ほどまでの暑苦しさが少しだけ消えていた。

 

「二十年以上前。精霊界では、ある計画が進められていました」

 

 ミププが、ぴたりと動きを止める。

 

「計画……?」

 

「悪魔から精霊界を守るため、人間が魔法を扱えるようにするための計画です」

 

 その一言で、その場の空気が変わった。

 

 赤司が目を見開く。

 

「待ってください。そんな情報、C.H.A.R.M.の資料には――」

 

「ないでしょう」

 

 キヨナガは、淡々と答えた。

 

「公に広まる前に、形が変わった計画です」

 

 赤司は、すぐにミププを見た。

 

「ミププさん。知っていましたか」

 

「し、知らないミプ!」

 

 ミププはぶんぶん首を振る。

 

「メイクアップ・リグは"精霊王"が作って、適性のある精霊と魔法少女に与える神聖なアイテムミプ! そんな話、聞いたことないミプ!」

 

「……でしょうな」

 

 キヨナガは頷いた。

 

「現在魔法少女が使っているメイクアップ・リグは、その認識で正しい」

 

 そして、白いリグを少し持ち上げる。

 

「その元になった系統がある。それこそが、この()()()()()()()()()()()()()です」

 

 エミカが思わず聞き返した。

 

「プロト……タイプ」

 

「ええ」

 

 キヨナガは静かに続ける。

 

「本来、メイクアップ・リグは、精霊様と契約をした少女を魔法少女へと変えるための道具として、構想されたものではありませんでした。元々は、人が魔力を扱い、精霊界防衛の戦力となるための補助具として研究されていたのです」

 

 ゲキが低く唸る。

 

「……俺たちの使い方に近いな」

 

「ええ、その通りです」

 

 キヨナガの目が細くなった。

 

「お二人の変身は、現在の契約式とは異なっている。ですが……いえ、だからこそ、初期の思想に近い適応例とも言える」

 

 ローズが胸に手を当てる。

 

「じゃあアタシたちの変身は、ただの事故じゃない可能性もある……という事ね?」

 

「事故にしては、少々出来すぎています」

 

 キヨナガは、そこで一度だけ目を伏せた。

 

「もっとも……この計画は難航しました」

 

「難航?」

 

 赤司が問う。

 

「人の肉体に魔力を通す。魔法に必要な出力に安定させる。言葉にすれば簡単ですが、実際には極めて困難でした」

 

 キヨナガの声が、少しだけ柔らかくなる。

 

「開発の中心にいたのは、ある()()()でした。気高く、賢く、誰よりも精霊界を案じた方でした」

 

 そこでキヨナガは、ほんのわずかに微笑んだ。

 

「嘗ての私は、その方を支える役目を担っていた。協力者であり……やがて、精霊界で"夫婦の契り"を交わした相手でもあります」

 

「えっ!?」

 

「精霊と夫婦になったミプ!?」

 

 エミカが声を漏らし、ミププが驚愕する。

 赤司も絶句した。

 ローズだけが、静かに目を細める。

 

「……計画は完成しなかった。難航しているうちに、"精霊王"が別の形で完成させたのです。精霊様の性質を利用し、適性ある未成年の少女へ魔力を通す……現在の()()()として」

 

 ミププが、何か言おうとして止まる。

 

「その方式が、多くの世界を救ってきたことは認めましょう」

 

 キヨナガは、白いリグを見つめたまま語る。

 

「精霊王が誤っていたと、私は言い切るつもりはありません……ですが」

 

 空気が、少しだけ冷えた。

 

「私は、"魔法少女"というシステムが好きになれないのです」

 

 ミププの耳がぴくりと動く。

 

「精霊様方を前線に立たせ、傷つかせ、心を削らせる」

 

 最後の言葉だけ、低かった。

 

「本来、これは精霊様達を戦わせるものではなかった」

 

 その呟きは、誰に向けたものでもなかった。

 

 ゲキは黙って聞いており、ローズも軽口を挟まなかった。

 

 赤司は、慎重に口を開く。

 

「つまりあなたは、ゲキさんとローズさんの力を……現行の契約式とは別系統の可能性として見ている、と」

 

「ええ」

 

 キヨナガは顔を上げた。

 

「なぜメイクアップ・リグが、今になって初期構想の機能を発現させたのかは、私にも分かりません。しかし、その力が本当に、私たちが想定していたものであるならば。開発に関わった側の一人として、それが正しく使われるか見極める責任があります」

 

 そう言って、白いリグを胸元へ構える。

 ミププが飛び上がった。

 

「ま、待つミプ! それ使えるミプ!? 本当に使えるミプ!?」

 

「未完成の試作機ですが、最低限の機能は」

 

 キヨナガは背筋を伸ばし、深く息を吸った。

 

「では、お見せしましょう」

 

 白い光が、リグから溢れる。

 その場にいた全員が、反射的に目を細めた。

 

「これが本当の——メイクアップ」

 

 純白の光が、キヨナガの全身を包み、弾けた。

 

 そして、公園全体に——なんとも言えない沈黙が落ちた。

 

「……」

 

「……」

 

「……ぶふぉ!?」

 

 エミカだけが吹く。

 

 そこに立っていたのは、純白の魔法装束(?)をまとったキヨナガだった。

 ただし、問題があった。

 

 それはどう見ても——吊りパンだった。

 

 純白。無地でありながら生地の光沢が無駄に神々しい。

 布面積が心許ない。魔法少女の「魔」の字もない。

 しかも本人だけが一切恥じていない。

 

 エミカが肩を震わせながら、笑いをこらえながら視線を逸らす。

 公園のど真ん中に、真っ白な吊りパン坊主。

 

 ……あまりにもシュール。

 

 赤司は真顔で眼鏡を押し上げた。

 

「実に……報告書に困る見た目です」

 

 ローズは数秒見つめた末、慎重に言う。

 

「……だいぶ攻めてるわね」

 

 ミププは半泣きだった。

 

「なんでそんな変な感じミプ!?」

 

 ゲキだけは、わりと真面目に観察していた。

 

「法衣姿で分からなかったが、筋肉は鍛えられているな」

 

「筋肉今関係ないよ!?」

 

 エミカが叫ぶ。

 キヨナガは一切ぶれなかった。

 

「プロトタイプゆえ、外装概念が未成熟なのです」

 

「未成熟にも程があるミプ!」

 

「出力は低いですが……私なら十分に戦えます」

 

 キヨナガは、すっと構えを取った。

 足元に、白の魔法陣が広がる。

 

 その瞬間だけは、確かに強かった。

 ふざけた見た目だが、非常に動きやすそうで、漂う気配は本物だった。

 ゲキが目を細める。

 

「ゲキ・マキシマム殿とローズ・アンリミテッド殿」

 

 キヨナガは真っ直ぐ二人を見る。

 

「——手合わせを願いたい」

 

「俺たちを試したいのか」

 

 ゲキが低く言う。

 

「その通りです」

 

 即答だった。

 

「その力が、私たちが構想していたものなのか。何故今になってリグが答えたのか。あなた方がどのような()()をもって、その力を手に入れたか――この目で確かめたい」

 

 ローズは困ったように肩をすくめる。

 

「……敵じゃない相手とやり合う趣味はないのだけれど」

 

 赤司がすぐに前へ出た。

 

「待ってください! ここで戦うのはやめてください」

 

 真顔だった。

 

「ここは公園です。周辺の安全確認もまだ終わっていません。それに魔法少女の力を私用で使われるのは、C.H.A.R.M.としても看過できません」

 

「私用ではありません。見極めです」

 

「言い換えても駄目です!」

 

 赤司はぴしゃりと言った。

 

「やるなら、こちらで場所と時間を調整します。管理下で、正式な模擬戦として行ってください」

 

「なんと……」

 

 キヨナガは、あからさまに渋い顔をした。

 

「今すぐの方が話は早いのですが」

 

「駄目です」

 

 赤司は即答する。

 

「絶対に駄目ですよ」

 

 ローズがくすりと笑う。

 

「良介くん、今日はずいぶん強気なのね」

 

「……報告書がこれ以上複雑になる前に止めたいだけです」

 

 それは本音だった。

 

 ゲキは、変身したままのキヨナガを見た。

 見た目はどうあれ、目は本気だった。

 それに、倒れたミププを助けた恩がある。できるだけ要望には応えたい。

 

「……いいだろう」

 

 赤司がぎょっと振り向いた。

 

「ゲキさん!?」

 

「大丈夫だ、今ここではやらない」

 

 ゲキは短く言った。

 

「熱意は受け取った。ミププを助けてくれた礼もある。場所を整えるなら、手合わせは受けよう」

 

 キヨナガの表情が、ぱっと明るくなる。

 

「おお……!」

 

「俺も、この力について知りたいからな」

 

 ゲキは腕を組んだ。

 ローズも小さく息を吐いた。

 

「まあ、ゲキが受けるなら付き合うわ。確かに、力について知るのは大事ね」

 

「ありがとうございます!」

 

 キヨナガは、深々と頭を下げた。

 その姿勢だけは、吊りパンでも妙に荘厳だった。

 赤司は額を押さえる。

 

「……では、こちらで日程を調整します。絶対に独断ではやらないでください」

 

「承知しました」

 

 キヨナガは渋々、白い光を解いた。

 純白の吊りパンは霧のように消え、元の法衣姿へ戻る。

 

 公園の空気が、少しだけ生き返った。

 

「では、連絡はL()O()I()N()E()でいただければ」

 

 エミカが思わず顔を上げる。

 

「LOINE?」

 

「通話アプリです。便利ですぞ」

 

 キヨナガはごく自然にスマホを取り出した。

 

「時代には適応します」

 

「僧侶もLOINE使うんだ……」

 

「では、皆様方……また後日お会いしましょう」

 

 キヨナガは合掌をしながら頭を下げ、その場を後にする。

 

 エミカは、去っていく背中を見つめる。

 胸元の精霊ストラップは、相変わらずじゃらじゃらと鳴っている。

 暑苦しくて、うるさくて、でもどこか妙に筋の通った僧侶だった。

 

 その横で、ミププが小さく震える。

 

「それより、白い吊りパンは衝撃だったミプ」

 

「それね。よくあそこからちゃんとした魔法少女の魔法装束になったよね……」

 

 エミカの声が、公園に響く。

 




白い衝撃の……吊りパンでした。
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