魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。   作:ワタリ3@ぼちぼち浮上

31 / 32
評価ありがとうございます。モチベーションアップです!


5-13 共に立つ

 

 

 薄紫の閃光が、悪魔空間を貫いた。

 

 厚い防壁に守られた観戦室。

 強化ガラスの向こうで新たな魔法少女が誕生した瞬間、室内の空気が一変する。

 

「清永さんまで……!?」

 

 赤司良介が思わず声を上げた。

 隣でエミカも、目を見開いたまま固まっている。

 

「えっ……えっ、ちょっと待って噓でしょ。お坊さんも変身したの!? 」

 

 さっきまでの白い吊りパン姿ではなかった。

 薄紫を基調とした装束。

 数珠の意匠。

 胸元の円形クリスタル。

 そして、周囲を回る四つの霊火。

 

 どう見ても、完成された姿だ。

 

 一方で。

 

「全ドローン、覚醒時データを最優先保存! 魔力組成の変化、リグ外装の自己変質、クリスタル生成過程、全部取って!」

 

 風間カリンだけが、明らかに別の熱量で端末を叩いていた。

 眼鏡の奥の目が、危ういほどに輝いている。

 

「白いプロト・メイクアップ・リグが、完成型へ自己進化……。しかも覚醒者の精神変化と同時に。こんなデータ、二度と取れないかもしれない……!」

 

 複数のモニターに、薄紫の波形が咲くように広がっていく。

 ゲキのピンク、ローズの赤、そして新しく生まれたキヨナガの薄紫。

 三つの魔力波形は似ているようでいて、どれも別物だった。

 

 カリンの口元が、わずかに吊り上がる。

 

「……()()()()

 

 その呟きは小さかった。

 だが、氷野カズマは聞き逃さなかった。

 

 彼は腕を組んだまま、端末へ没頭するカリンを静かに見た。

 研究者としての興奮。そこに混じる……別の何か。

 

 氷野は何も言わない。

 ただ、その横顔を黙って見つめていた。

 

「長官……?」

 

 赤司が小さく呼ぶ。

 

「何でもない。今は戦況を見ろ」

 

 氷野は低く言った。

 

     Θ

 

 ゲキ・マキシマムが拳を握り直した。

 その隣に、キヨナガ・スピリットが静かに立つ。

 遠くでは、ローズが片膝をつき、息を整えながらその様子を見守っていた。ミププもまた草の上で小さく呼吸を繰り返している。

 

 今、この状況を打破できるのは二人だけ。

 

 バッド・デビガノイドの赤紫の眼が、ぎらりと光る。

 胸部の奥で、デモンコアがどくどくと脈打った。

 

 次の瞬間、怪物が地を蹴る。

 

 ――速い。

 

 バッドデーモン由来の細い脚部が、不気味な軽さで巨体を前へ運ぶ。黒い爪が大きく振り上げられ、ゲキの頭上へ叩き落とされる。

 

「っ!」

 

 ピンクの巨体が真正面から踏み込む。

 避けない。受けるのでもない。叩き潰すための前進だ。

 

 しかし、その爪が届く寸前。

 

「――止まりなさい」

 

 キヨナガ・スピリットが、静かに合掌した。

 

 薄紫の魔力が、音もなく空間へ広がる。

 目には見えない圧力が、怪物の右腕と肩、胴へ同時に食い込んだ。

 

 バッド・デビガノイドの動きが、一瞬だけ鈍る。

 

「む?」

 

 爪の軌道がずれた。

 わずか数十センチ。

 だが、その差は致命的だった。

 

「いい隙だ!」

 

 ゲキの拳が唸る。

 ピンクの魔力をまとった右ストレートが、怪物の胸部へ直撃した。

 

 ――ドゴォッ!!

 

 鈍く重い衝撃音が、悪魔空間へ響く。

 装甲がひしゃげ、内側の機構が悲鳴を上げるように火花を散らした。

 バッド・デビガノイドの体がのけぞり、地面を滑る。

 

 だが、倒れない。

 

 胸の奥でコアが脈動し、抉れた装甲の隙間から黒い管がうねり、再生を始める。

 

「やはりしぶとい」

 

 キヨナガの額に、うっすらと汗が滲む。

 合掌したままの腕がわずかに震えていた。

 ”念力による拘束”は万能ではない。重量も出力もある相手を止められるのは、一瞬だけ。

 だがゲキにとって、その一瞬は十分だった。

 

 バッド・デビガノイドの赤紫の視線が、ぎろりと動く。

 

 ――原因を理解した。

 

 怪物の殺意が、ゲキからキヨナガへ切り替わる。

 

「来ますぞ!」

 

「分かっている!」

 

 バッド・デビガノイドが、地面を抉って突進した。

 胸部の黒い穴が歪み、両腕から刃のような悪魔エネルギーが伸びる。

 狙いはキヨナガただ一人。

 

 その時だった。

 

 キヨナガの周囲を回っていた四つの薄紫に燃える霊火が、同時に揺らいだ。

 

 炎の表面に、顔が浮かぶ。

 

 犬のような精霊。

 猫のような精霊。

 鳥のような精霊。

 そして、丸い耳を持つ名も知らぬ小動物型の精霊。

 

 どれも一瞬だけ現れ、一瞬だけ笑った。

 

「行きなさい」

 

 キヨナガは合掌の姿勢を崩さないまま命じる。

 

「道を照らし、邪を祓うのです」

 

 四つの霊火が、一斉に飛んだ。

 

 薄紫の火球が、怪物の胸、肩、顔面、脚部へそれぞれ体当たりする。

 爆発ではない。浄化の衝撃だった。

 悪魔エネルギーの膜がばちばちと悲鳴を上げ、バッド・デビガノイドの突進が半歩だけぶれる。

 

「まだです」

 

 キヨナガが、さらに低く告げる。

 

『ピュリファイング・フレイムズ!』

 

 次の瞬間。

 

 四つの霊火が口を開いた。

 

 ――ゴォォォォォッ!!

 

 火炎放射のごとく、”浄化の炎”が吐き出される。

 だが、その色は破壊の赤ではない。

 澄んだ薄紫。

 熱ではない。装甲や肉体に融合した悪魔エネルギーを焼き、崩す炎。

 炎を浴びた装甲が、じゅうじゅうと音を立てて溶け始めた。

 黒い金属が泡立ち、悪魔エネルギーの膜ごと崩れていく。

 

『熱いぃぃぃぃ!?』

 

 怪物が、初めて明確な苦鳴を上げた。

 

 観戦室でカリンが身を乗り出す。

 

「浄化係数が精霊の魔力と一致……!」

 

 端末上の数値が跳ね上がる。

 

「あの霊火、ただの炎魔法じゃない! 精霊由来の浄化と同じ位相で悪魔エネルギーを分解してる!」

 

 エミカがガラスの向こうを見た。

 

「じゃあ、あれって……」

 

「ええ」

 

 カリンは食い入るようにモニターを見つめる。

 

「キヨナガさんは、精霊そのものを従えていない。けれど、精霊界で得た理解と想いを経由して、同質の浄化現象を()()してる……!」

 

 その声には、研究者としての興奮が滲みきっていた。

 

     Θ

 

 装甲を焼かれたバッド・デビガノイドが、後ろへ跳ぶ。

 逃げるつもりだった。

 

 だが。

 

「逃がさん!」

 

 背後からゲキ・マキシマムの両腕が伸び、怪物の腰へ回す。

 

 そのまま、一歩。

 二歩。

 踏み込み、勢いよく持ち上げる。

 

 巨体と巨体が、ぶつかり合うように空へ浮いた。

 

「ぬおおおおおおっ!!」

 

 ゲキの背筋が、大きく弓なりに反る。

 次の瞬間、バッド・デビガノイドの体が頭から地面へ叩き落とされた。

 

『マジカル・マキシマム・バックドロップ!』

 

 草原が爆ぜた。

 衝撃吸収板の埋まった地面が、それでも耐えきれずに沈み、土と草が津波のように跳ね上がる。

 怪物の首から背中にかけて、凄まじい衝撃が走った。

 

 胸部装甲がさらに割れ、デモンコアの脈動が剥き出しになる。

 

「効いているわ!」

 

 ローズが叫ぶ。

 しかし、そこで終わらないのが悪魔兵器。

 

 バッド・デビガノイドの胸部の下、あの黒い穴が再びぐにゃりと歪む。

 中から飛び出したのは、ミププを封じたのと同じ触手。

 

「またそれか!」

 

 何本もの触手が、今度はゲキの腕と胴へ巻きついた。

 締め上げる力は強い。筋肉の上からでも食い込み、ピンクの装束を軋ませる。

 

「ぐっ……!」

 

 ゲキの動きが、一瞬止まる。

 このまま異次元側の穴へ引きずり込まれれば危険だ。

 

「退きなさい!」

 

 キヨナガが一歩踏み込んだ。

 合掌を解き、片手を前へ出す。

 指先から薄紫の魔力が走る。

 

 『キヨキ・発勁!』

 

 ——発勁。

 

 空気そのものを叩くような衝撃が、胸部下の黒い穴の根元へ突き刺さった。

 破裂音にも似た振動が走り、触手の巻きつく力がわずかに緩む。

 

「今です!」

 

 四つの霊火が、すぐさまそこへ飛び込む。

 口を開き、浄化の炎を噴いた。

 

 触手が焼ける。

 紫の膜が焦げ、異次元の穴へ繋がる力そのものが崩れていく。

 

『ギャアアアアア!!』

 

 怪物が絶叫し、触手を引っ込めた。

 ゲキが地面へ着地し、腕を振って残った触手を払い落とす。

 

「助かった」

 

「礼は結構」

 

 キヨナガの声は静かだった。

 だが、その呼吸は明らかに荒くなっている。

 霊火の制御、念力、発勁。どれも消耗は小さくない。

 

 それでも、彼は前を向いた。

 

 バッド・デビガノイドの吊り目が、再びキヨナガへ向く。

 脅威を理解したのだ。

 こいつを潰さなければ、自分の力は削られ続ける。

 

 怪物は地面を蹴った。

 

 一直線。

 悪魔エネルギーを全身へ纏い、キヨナガの喉笛を裂かんと爪が伸びる。

 

 キヨナガは動かない。

 

 右手を前へかざす。

 

「――そこです」

 

 薄紫の光が、空間そのものへ打ち込まれた。

 見えない楔が、怪物の胸と肩、首へ同時に食い込む。

 

 バッド・デビガノイドの巨体が、寸前で止まる。

 

 爪先はキヨナガの喉元まであと数センチ。

 しかし、それ以上は進めない。

 

 空気が軋む。

 キヨナガの腕が小刻みに震える。

 無理やり止めているのだ。

 ただ止めているだけで、骨まできしむような負荷がかかっていた。

 

『マジカル・マキシマム・ナックル!』

 

 横から、ピンクの巨体が飛び込んだ。

 

 ゲキ・マキシマムの拳が、怪物の側頭部へ叩き込まれる。

 念力で止められ、逃げ場を失った頭が、まともに衝撃を受けた。

 

 ――ドォン!!

 

 バッド・デビガノイドが、横殴りに吹き飛ぶ。

 何度も地面を跳ね、草原の向こうでようやく止まった。

 

 土煙の中で、二人が並ぶ。

 

 ゲキ・マキシマム。

 キヨナガ・スピリット。

 

 一人は拳を握り、一人は静かに合掌する。

 戦い方は違う。

 だが、前へ出る者と支える者。その噛み合いは明確だった。

 

「やれるな、キヨナガ」

 

「ゲキ殿も」

 

「次で最後だ」

 

「ええ」

 

 キヨナガの四つの霊火が、ふわりと広がる。

 

     Θ

 

 観戦室の警報が、一段高くなった。

 

「二人の出力、急上昇!」

 

「デモンコア反応も増大しています!」

 

 赤司が叫ぶ。

 カリンはモニターを見つめたまま、息を呑んだ。

 

「来るわよ……!」

 

 草原の中央。

 ゲキ・マキシマムが腰を落とし、両腕を引く。

 ピンクの魔力が、掌の間へ圧縮されていく。

 

 対するキヨナガは、合掌を解いて両手を胸前へ。

 四つの霊火が彼の周囲を高速で巡り始めた。

 

 円を描く。

 さらに速く。

 さらに密に。

 

 薄紫の軌跡が輪となり、その中心へ魔力が吸い込まれていく。

 胸元の円形クリスタルが脈動し、そこから細い光が両手の間へ流れ込む。

 

 バッド・デビガノイドが、起き上がった。

 溶けた装甲の奥、異次元へ通じる黒い穴の中で、デモンコアの赤紫の脈動が見えた。

 穴を隔てる膜は、もう薄い。後がないと悟ったのか、怪物は残った悪魔エネルギーをすべて胸へ集め始めた。

 

 黒と赤紫が膨れ上がる。

 

「喰らえ!」

 

 ゲキが吠えた。

 

『マキシマム・マジカル波!!』

 

 ピンクの奔流が、一直線に放たれる。

 空気を裂き、草原を削り、真正面から怪物へ突き進む破壊の光。

 

 同時に。

 

「四霊よ――道を開きなさい」

 

 キヨナガが、両手を前へ押し出した。

 

『スピリット・極光破!!』

 

 高速回転していた四つの霊火が、中心の魔力へ一斉に飛び込む。

 薄紫の輪が収束し、一本の光線へ変わった。

 

 それは炎であり、祈りであり、浄化そのものだった。

 ピンクの魔力砲へ重なるように、薄紫の光線が走る。

 

 二本の光が、一つの道になる。

 

 バッド・デビガノイドの胸部へ命中。

 

 悪魔エネルギーの膜が耐える。

 軋み、そして砕ける。

 

 浄化の光が、デモンコアへ届いた。

 

『アアアアアアアアアアッ!!』

 

 怪物の悲鳴が、悪魔空間全体を震わせる。

 黒い装甲が内側から崩れ、赤紫の脈動が制御を失う。

 デモンコアの周囲を、ピンクの衝撃が押し広げ、薄紫の浄化が貫いた。

 

 ――バァンッ!!

 

 胸部が弾けた。

 

 赤黒い光の塊が、空中へ浮く。

 それは小さな心臓のように脈打ち、ひび割れ、崩れた。

 

 同時に、怪物の体が後ろへ大きくのけぞる。

 装甲が剥がれ、悪魔エネルギーが霧のように抜け、内側から一人の男が転がり出た。

 

 中年男だった。

 

 あの、スーパーで騒ぎを起こしていた迷惑客。

 

「なっ……!?」

 

 ゲキの目が見開かれる。

 

「お前は……あの時の男か」

 

 男は気絶しているようだ。

 デモンコアを失ったバッド・デビガノイドはやがて砂のような粒子となり、空気中へと溶けていった。

 

 ローズが草の上で息を吐いた。

 

「……やったわね。カッコいいじゃないキヨナガ。」

 

 観戦室では、緊張がようやく解けた。

 赤司が安堵の息を吐き、エミカは強化ガラスへ額がつきそうなほど身を乗り出す。

 

「お父さん……よかった!」

 

 カリンは、まだ端末を見つめていた。

 その目は勝利よりも、むしろ記録された波形へ向いている。

 

 小さく、笑う。

 

「やっぱり、彼らのシステムは……」

 

「風間」

 

 氷野の低い声が、その先を止めた。

 

 カリンは、ようやく顔を上げる。

 眼鏡の奥で、一瞬だけ危うい光が揺れた。

 

「……今は勝利を喜ぶべきでしたね」

 

「そうだ」

 

 氷野は短く答えた。

 その視線は、変わらず静かだった。

 

     Θ

 

 悪魔空間が晴れ始める。

 

 空の紫が、ゆっくりと夕焼け空へ戻っていく。

 風が吹き、草原を撫でた。

 

 ゲキ・マキシマムは、倒れた男を見下ろしていた。

 

「人間を、こんなふうに使うとは……」

 

 低い声が漏れる。

 

 悪魔兵器は人間をコアに使っている。

 しかし、何故あの迷惑客がコアになったのか。数多くいる人間の中で、自分が知っている人がコアになるなどの()()があるのだろうか。

 ゲキの中に小さな違和感が生まれる。

 

 その後ろで。

 

 キヨナガ・スピリットは、静かに目を閉じた。

 薄紫の霊火が、ゆっくりと彼の周囲を巡る。

 風の中に、誰の姿もない。

 けれど彼は、確かにそこに向かって口を開いた。

 

「……フィフィナ」

 

 声は、穏やかだった。

 

「ありがとうございます。私も貴女を永遠に愛しております」

 

 キヨナガは胸の前で合掌する。

 

 勝ったからではない。

 変身できたからでもない。

 

 ようやく、自分が歩むべき道の意味を掴めたことへ。

 それを教えてくれた存在へ。

 

 感謝を込めて。愛を込めて。

 

 薄紫の霊火が、優しく揺れた。




実は外伝のプロットを練っています。
ある程度話が進んだら、そっちも進めたいなと思ったり。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。