魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。 作:ワタリ3@ぼちぼち浮上
「ペルシャ、右ニャ!」
「見えてるぜ!」
音駒町の北、山奥にある森の公園。
普段なら、木漏れ日の中で子供たちが遊び、休日には家族連れがピクニックを楽しんでいる場所。
だが今、その公園は紫色の薄闇に包まれていた。
木々はざわめき、空は濁り、遊具の影が奇妙に歪んでいる。
滑り台も、ブランコも、ベンチも、悪魔空間の中では禍々しいものに見えていた。
その中央で、黒紫の巨体が暴れている。
バッドデーモン。
人の楽しみや希望――ポジティブを食らい、心をネガティブと悪意で満たす異次元敵性存在。
——今日の個体はいつもと違っていた。
『沈め』『笑うな』『遊ぶな』『頑張るな』
低く、濁った声が森の中に響く。
その体は、煙のように揺らぐいつものバッドデーモンよりも明らかに濃かった。
腕は太く、爪は鋭く、胸元に開いた異次元の穴からは赤紫色の光が脈打つように漏れている。
まるで、悪意そのものが筋肉を得たような姿だ。
「ミッケ!」
「任せるミケ!」
音駒町を守る魔法少女チーム『マジルカニャンニャ』は、今日もバッドデーモンと戦っていた。
だが今回、いつもの戦いとは状況が違っていた。
ミケニャンニャが両手を振ると、相棒精霊のミッケが空中へ飛び出した。
『ミケ・ハッピー・リボン!』
ピンクと白の光の帯が、木々の間を走る。
何本ものリボンがバッドデーモンの腕に絡みつき、その動きを封じようとした。
——まずは拘束。
敵の動きを止め、ペルシャニャンニャの攻撃へ繋げる。
それが、マジルカニャンニャの基本の流れだった。
だが。
『いらない』『邪魔』『ほどけろ』
バッドデーモンが腕を振る。
ただそれだけで、光のリボンが軋み、二本、三本と引き千切られた。
「う、うそニャ!?」
「ミケニャンニャ、下がるミケ!」
ミッケの叫びと同時に、バッドデーモンの爪が振り下ろされる。
ミケニャンニャは横へ跳んだ。
直後、地面が抉れる。
土と枯葉が舞い上がり、近くにあったベンチが衝撃でひっくり返る。
爪そのものは避けた。けれど、叩きつけられた衝撃だけで体が揺さぶられる。
「パワーが……強すぎるニャ」
ミケニャンニャは着地し、息を呑んだ。
いつもの個体なら、今のリボンで動きを鈍らせることくらいはできた。
腕を封じ、体勢を崩し、ペルシャの攻撃へ繋げる隙も作れた。
だが、今日の相手は違う。
拘束した腕を、力ずくで引き剥がしてきた。
力で押し切られる。単純だからこそ、対処しづらい。
「やっぱり変だぜ」
ペルシャニャンニャが、木の幹を蹴って飛び上がる。
「最近のバッドデーモン、
青紫の魔力が、彼女の右腕に集まった。
「ペシャ!」
「分かってるペシャ!」
ふわりとした長毛の精霊ペシャが、ペルシャニャンニャの背後で魔法陣を展開する。
『ペルシャ・グレイス・クロー!』
巨大な猫の爪を模した魔力が、バッドデーモンの肩を切り裂いた。
『ギィィィィィッ!』
バッドデーモンの体が大きく揺れる。
手応えはある。
魔力の爪は確かに肩を裂き、黒紫の体を大きく削った。
だが、倒れない。
裂けたはずの肩口から、黒紫の煙が吹き出し、傷を塞いでいく。
煙が肉のように固まり、削れた部分を埋めた。
「再生まで早い!」
ペルシャニャンニャは舌打ちした。
普段なら、今の一撃でバッドデーモンは悪魔エネルギーを削られ、大きく怯む。
そこへマンチカンニャンニャが背後から回り込み、三人同時の浄化へ持ち込む。
けれど。
「いつもの三人連携なら……!」
言いかけて、ミケニャンニャは奥歯を噛んだ。
今日は、マンチカンニャンニャが
風邪だった。
朝から熱を出し、相棒のカンキチも看病のためにそばを離れられなかった。
だから今日は、ミケとペルシャの二人だけ。
もちろん、何もしてこなかったわけではない。
メンバーの誰かが欠けても戦えるように、二人用の連携もイメージしていた。
あの精霊道の僧侶に言われた通り、不測の事態に備えようとはしていた。
だが、イメージと実戦は違う。
しかも、相手はいつもより明らかに強い。
「ミケニャンニャ!」
ペシャの声が飛ぶ。
バッドデーモンが、両腕を広げた。
胸の穴から赤紫の光が噴き出し、無数の細い影となって森の中へ広がっていく。
それは枝のように広がり、足元の芝生を這い、遊具の影に紛れ、ミケニャンニャたちを取り囲んだ。
『諦めろ』『どうせ無理だ』『二人じゃ足りない』
声が、四方八方から降ってくる。
耳ではなく、心に直接染み込んでくるような声。
「くっ……!」
ミケニャンニャの膝が、わずかに揺れた。
胸の奥が重くなる。
呼吸が浅くなる。
自分たちだけでは無理なのではないか、という弱い考えが頭をよぎる。
マンチカンがいれば。
カンキチがいれば。
三人でなら。
そんな考えが、一瞬だけ心に入り込む。
「聞くな、ミケ! ポジティブを食われるぞ!」
ペルシャニャンニャが叫ぶ。
「わ、分かってるニャ!」
ミケニャンニャは魔力を帯びた両手で頬を叩き、自己浄化する。
「マンチカンがいないからって、負けるわけにはいかないニャ!」
「その意気ペシャ!」
ペシャが励ます。
だが、精霊たちの声にも余裕はなかった。
ミッケも、ペシャも、すでに息が上がっている。
完全な浄化のために力を温存しなければならない。
けれど、敵を止めるだけで魔力を削られている。
悪い流れだ。
バッドデーモンが地面を蹴った。巨体が、見た目に似合わない速度で迫る。
一歩ごとに地面が沈み、紫色の悪魔エネルギーが泥のように跳ねる。
「速いニャ!?」
「散れ!」
二人は左右に跳んだ。
だが、バッドデーモンの腕は途中で不気味に伸びた。
煙のような腕が鞭になり、逃げたはずのミケニャンニャを追う。
「ミケ、危ない!」
ミッケが庇うように光の盾を張る。
盾はミケニャンニャの前に広がり、黒紫の腕を受け止めた。
だが、勢いは止まらない。
衝撃が盾を歪ませ、光の表面に亀裂が走る。
「ミッケ!」
「踏ん張るミケ……!」
次の瞬間、黒紫の腕が盾ごとミッケとミケニャンニャを弾き飛ばした。
「きゃあっ!」
「ミケ!」
ペルシャニャンニャが叫ぶ。
ミケニャンニャの体が地面を転がり、芝生の上に倒れる。
ミッケもそのそばに落ち、すぐに浮かび上がろうとしたが、ふらりと高度を落とした。
ペルシャニャンニャが守るように飛び込む。
「この野郎!」
魔力の爪を振るう。
だが、バッドデーモンはもう一方の腕でそれを受け止めた。
火花が散る。
ペルシャニャンニャの目が見開かれる。
「受け止めた……!?」
爪を受け止めた腕が、煙のように形を変える。
指が増え、絡みつくようにペルシャニャンニャの魔力爪を包み込んだ。
『弱い』『足りない』『欠けている』
バッドデーモンの赤い目が、ぎょろりと動いた。
『欠けた猫は、狩られるだけ』
腕が膨れ上がる。
受け止めるだけではない。
そのまま押し潰そうとしてくる。
「ぐっ……!」
ペルシャニャンニャの足が芝生を削った。
靴裏が地面を滑り、背中側に木製の大型遊具が迫る。
「ペルシャ!」
ミケニャンニャは立ち上がろうとした。
だが、足に力が入らない。
ペルシャニャンニャは歯を食いしばる。
魔力の爪を一度消し、相手の腕を滑らせるように横へ流した。
直撃は避けた。
けれど、押し返された勢いまでは殺しきれない。
ペルシャニャンニャの体が宙に浮き、木製遊具へ向かって飛ばされる。
「っ!」
空中で体を捻る。
片足を遊具の支柱へつけ、膝を曲げて衝撃を逃がす。
ぎしり、と木製の支柱が嫌な音を立てた。
何とか着地した。
だが、状況はかなり悪い。
ミケは倒れ、ミッケは消耗している。
ペシャも呼吸が荒い。
ペルシャニャンニャ自身も、腕に痺れが残っていた。
バッドデーモンは、まだ動ける。それどころか、胸元の穴がさらに赤く脈打っていた。
——その時だった。
森の奥から、重い足音が響いた。
ずん。
地面が、わずかに揺れた。
ずん。
もう一度。
バッドデーモンの赤い目が、音の方へ向く。
紫色に染まった木々の間から、一つの巨大な影が現れた。
——白とピンクの衣装。
——大きなリボン。
——ハートの意匠。
可愛らしい魔法少女の衣装である。
ただし、それを着ているのは、どう見ても山の主のような筋骨隆々の
肩幅が広い。腕が太い。胸板が分厚い。
森の公園に現れたのは、——魔法少女ゲキ・マキシマムだった。
「そこまでだ」
低い声が、悪魔空間に響いた。
ミケニャンニャは、地面に座り込んだまま固まった。
「…………ニャ?」
理解が追いつかなかった。
ペルシャニャンニャも、目を剥いた。
「うわ、本物……」
「え、知ってるニャ!?」
「ネットニュースで見たことはある! 雨玻町に出た男の魔法少女だろ!」
「お、男の魔法少女!?」
「実際目にすると情報量が多すぎるぜ!」
ミケニャンニャはもう一度、ゲキ・マキシマムを見た。
ピンク、ハート、リボン……そして筋肉。
脳が、どれを優先して処理すればいいのか迷っている。
「本当に……魔法少女……ニャ?」
「一応、魔法少女だ」
ゲキ・マキシマムは即答した。
その顔に、迷いは一切ない。
「娘の涙に拳を燃やす! 怒れる父のマジカルハート! 魔法少女ゲキ・マキシマム! 助太刀する!」
「名乗りが力強すぎるニャ!?」
「娘ってなんだぜ?」
「俺は、フラワーメイデンの父親だ」
「「フラワーメイデン先輩の父親!?」」
「詳しい話は後だ!」
ゲキ・マキシマムは、地面を蹴った。
その巨体が、弾丸のように前へ出る。
バッドデーモンが反応し、ゲキへ向けて爪を振り下ろす。
黒紫の爪が、空気を裂いた。
ゲキ・マキシマムは避けない。
半身になり、肩を入れ、腕の内側で爪の軌道を受け流す。
まともに受けるのではない。
爪の進行方向をずらし、衝撃を外へ逃がす。
それでも、重い衝撃が走った。
足元の土が抉れ、芝生がめくれた。
にもかかわらず、ゲキの体勢は崩れない。
「ぬん!」
ゲキ・マキシマムの腕が、バッドデーモンの手首を掴む。
そのまま、引く。
バッドデーモンの巨体が、前へ泳いだ。
「えっ」
ペルシャニャンニャの口から、素の声が漏れた。
ゲキはさらに踏み込み、背中を滑り込ませる。
足を軸にし、肩を入れ、相手の重心を完全に浮かせた。
『マジカル・マキシマム・セオイナゲ!』
バッドデーモンの巨体が、宙を舞った。
森の公園に、信じられない光景が生まれる。
魔法少女が、バッドデーモンを一本背負いで投げた。
……ただし、その魔法少女は二メートル近い筋肉の塊。
バッドデーモンは地面に叩きつけられ、遊歩道の土を大きく抉る。
「にゃあ!?」
ミケニャンニャが叫んだ。
「『マジカル・マキシマム・セオイナゲ』って……ただの背負い投げだぜ」
ペルシャニャンニャも顔を引きつらせていた。
「ニュースで見るより、だいぶパワーがおかしい……!」
ゲキ・マキシマムは二人を振り返らずに言った。
「すまないが、俺は精霊がいない。こいつのコアの浄化はできない」
「じ、じゃあ、どうやって戦うニャ!?」
「足止めならできる!」
短く言って、ゲキは拳を握った。
「その隙に、浄化を頼む。マジルカニャンニャ!」
バッドデーモンが起き上がる。
『邪魔』『邪魔』『お前も沈め』
黒紫の腕が何本にも分裂し、ゲキへ殺到した。
枝分かれした腕は、正面だけでなく左右からも襲いかかる。
ゲキは一歩前に出た。
避ける! 払う! 掴む! 叩き落とす!
一つ一つの動きは、魔法少女らしい華麗さとは程遠い。
だが、無駄がない。
強い体幹と、鍛え抜かれた反射神経。
そして、圧倒的な膂力。
腕が伸びれば手首を取る。爪が来れば肘の内側へ潜る。
胴体が迫れば、真正面から押し返す。
ただの力任せではない。
だが、最終的には全部力で解決していた。
「なんか、すごいニャ……」
「見た目通りの強さだぜ……」
ペルシャニャンニャは唖然としながら呟いた。
「ミケ、ペルシャ、見てる場合じゃないミケ!」
ミッケの声で、二人は我に返った。
ゲキがバッドデーモンの両腕を掴んでいる。
巨体同士の力比べ。
バッドデーモンの体から悪魔エネルギーが噴き出し、周囲の木々が揺れた。
ゲキの足が、じり、と地面に沈む。
押さえ込んではいる。
だが、浄化できるわけではない。
バッドデーモンの本体は、胸元の異次元の穴の奥にあるコアだ。
ゲキがどれほど強くても、そこへ届く力は精霊の魔法でなければならない。
「長くは持たせんぞ!」
ゲキが叫ぶ。
「狙え!」
「分かったニャ!」
ミケニャンニャが立ち上がる。
ペルシャニャンニャも隣へ並んだ。
「ミッケ、いける?」
「いけるミケ。でも一発で決めるミケ」
「ペシャも同じペシャ。長引くときついペシャ」
「なら、一発で決めるニャ」
ミケニャンニャは深呼吸した。
マンチカンはいない。
カンキチもいない。
三色の光は揃わない。
それでも、今ここにいる二人と二匹で、できることをやるしかない。
「ペルシャ」
「分かってる」
ペルシャニャンニャは口元を引き締めた。
「二人用の魔法で決めるぜ」
「うん!」
ミケニャンニャとペルシャニャンニャが、同時に手を重ねる。
ミッケとペシャが、その上に小さな手を重ねた。
「ミッケ!」
「ペシャ!」
「音駒町の笑顔は、私たちが守るニャ!」
「マンチカンの分まで!」
二人の魔力が重なる。
ピンクと青紫。
二色の光が、螺旋を描いて高く伸びた。
ゲキ・マキシマムは、バッドデーモンの両腕を押さえ込んだまま笑った。
「いい目だ!」
バッドデーモンが暴れる。
腕が膨れ上がり、ゲキの手を振りほどこうとする。
胸元の穴が歪み、そこから黒い棘のようなものが伸びかける。
浄化を妨害するつもりだ。
「逃がさん!」
ゲキの両腕に、筋肉が盛り上がる。
ピンクの衣装の袖が、悲鳴を上げそうなほど張り詰めた。
ゲキは片足を深く踏み込み、バッドデーモンの体を斜めに捻る。
胸元の穴が、ミケニャンニャたちの正面へ向いた。
浄化の射線が開く。
「今だ!」
「行くニャ!」
「合わせるぜ!」
ミケニャンニャとペルシャニャンニャが叫ぶ。
『『マジルカ・ツイン・スピリット・ピュリファイ!』』
二色の光が、矢のように走った。
それはバッドデーモンの胸元に開いた異次元の穴へ、まっすぐ突き刺さる。
『やめろ』『沈め』『楽しさなんて、ない』
「あるニャ!」
ミケニャンニャが叫ぶ。
「楽しいことは、ちゃんとあるニャ!」
「笑いたい奴が笑って、遊びたい奴がちゃんと遊べる」
ペルシャニャンニャが続ける。
「そういう場所を守るのが、あたしたちだぜ!」
二色の光が強くなる。
バッドデーモンの体が内側から白く染まっていく。
黒紫の煙がほどけ、赤い目が揺れた。
『まぶしい』『いやだ』『でも――』
最後の声は、少しだけ小さかった。
胸元の異次元の穴の奥で、赤紫のコアが弾ける。
次の瞬間。
バッドデーモンは、悪魔空間ごと崩れた。
紫色に濁っていた空が、ゆっくりと戻っていく。
森の公園に、木漏れ日が差し込んだ。
ひっくり返ったベンチ。
抉れた地面。
散らばった枯葉。
戦いの跡は残っている。
だが、悪魔エネルギーの気配は完全に消えていた。
「……か、勝ったニャ」
ミケニャンニャは、その場にへたり込みそうになった。
ミッケが慌てて支える。
「ミケニャンニャ、大丈夫ミケ?」
「大丈夫ニャ。ちょっと、力が抜けただけニャ」
「ペシャも少し休みたいペシャね……」
「悪いな、ペシャ」
ペルシャニャンニャは相棒の頭を軽く撫でた。
そして、ゲキ・マキシマムの方を見る。
ゲキは、何事もなかったように肩を回していた。
「ふぅ、怪我はないか」
「こ、こっちの台詞ニャ!?」
ミケニャンニャは思わず叫んだ。
「あんなに正面から攻撃を受けてたのに平気ニャ!?」
「ハハハ、問題ない。鍛えている」
「すごい説得力ニャ!?」
ペルシャニャンニャは腕を組み、じっとゲキを見上げた。
「へぇ、やるなおっさん!」
「ぺ、ペルシャ!」
ミケニャンニャが慌てて振り返る。
「失礼ニャ! 助けてもらった人に、おっさんは失礼ニャ!」
「いや、でもおっさんだろ」
「そうだけど!」
「そうだけどって言っちゃったミケ」
ミッケが小声で呟く。
ミケニャンニャは慌ててゲキへ向き直り、深々と頭を下げた。
「ごめんなさいニャ! 助けてくれて本当にありがとうございましたニャ! ペルシャは口が悪いだけで、ホントは感謝してるニャ!」
「ああ、してるぜ!」
「ほら! してるニャ!」
ゲキ・マキシマムは、低く笑った。
「ハッハッハ! 気にするな。おっさんなのは事実だからな」
「懐が深いニャ……」
「それに、君たちはよく戦った」
ゲキは、ミケとペルシャを順に見た。
「二人で、あの個体を相手に持ちこたえた。立派だ」
その言葉に、ミケニャンニャは少しだけ表情を緩めた。
だが、ペルシャニャンニャは悔しそうに視線を落とす。
「……マンチカンが風邪じゃなかったら、もっと上手くやれた」
「ペルシャ……」
「いつもの三人連携なら、最初から浄化まで持っていけた。でも、誰かが欠けると詰めが甘くなる」
ペシャが小さく頷く。
「今日の相手は、本当に強かったペシャ」
「それでも、言い訳にはならないぜ」
ペルシャニャンニャは拳を握った。
「マンチカンがいないだけで崩れるなら、あたしたちの備えが足りてないってことだ」
ゲキは、その言葉を静かに聞いていた。
そして、ゆっくり頷く。
「――不測の事態は、必ず起こる」
二人が顔を上げる。
「仲間の欠員。体調不良。敵の強化。場所の悪さ。情報不足。戦場では、予定通りにいかないことの方が多い」
ゲキの声は低く、まっすぐだった。
「だから、常日頃のトレーニングがいる」
「トレーニング……ニャ?」
「ああ」
ゲキは拳を握る。
「強くなるためだけではない。誰かが欠けた時に、残った者がどう動くか。逃げる時、守る時、時間を稼ぐ時。勝つためだけじゃない。無事に帰るための動きも重要だ」
ミケニャンニャは、真剣に聞いていた。
ペルシャニャンニャも、茶化さなかった。
「君たちは若い。まだまだ伸びるさ」
ゲキは言った。
「今日の反省を、次の備えに変えろ。それができるなら、今日の苦戦にも意味がある」
「……はいニャ」
ミケニャンニャは、素直に頷いた。
「まぁ、俺は魔法少女としては、一応君たちの後輩だから、偉そうなことは言えないが」
「そんなことないニャ!」
ペルシャニャンニャも頷く。
「ちゃんと胸に響いたぜ、おっさ……ゲキ・マキシマム」
「今、おっさんって言いかけたニャ!」
「言ってない」
「言いかけたニャ!」
「ハッハッハ!」
ゲキは大きく笑った。
その笑い声が、ようやく戻ってきた森の公園の空気に響いた。
ミケニャンニャは胸に手を当て、改めて頭を下げる。
「本当にありがとうございましたニャ。何か、お礼をさせてほしいニャ」
「む、礼か」
ゲキ・マキシマムは少し考えた。
「……なら、ひとつ頼みたい」
「何でも言ってほしいニャ!」
「実は、音駒町で探している店がある」
「店か?」
「うむ」
ゲキは真剣な顔で頷いた。
「音駒町に来たのも、その店に用があったからだ。音駒町に着いた時、偶然、山の方に悪魔空間が見えた」
「それで助けに来てくれたニャ……」
「ああ、当然だ。困っている魔法少女を見捨てる理由はない」
ミケニャンニャは、少しだけ目を丸くした。
その言い方が、あまりにも自然だったからだ。
「で、探してる店って何だぜ?」
ペルシャニャンニャが尋ねる。
ゲキ・マキシマムは、どこか言いにくそうに腕を組んだ。
「――
なぜ五月女ゲキが音駒町へ来たのか。
なぜ、布を探していたのか。
それは一昨日に遡る。
今週は先週と同じように18時10分投稿の予定です!