魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。   作:ワタリ3@ぼちぼち浮上

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実はプロローグは初期設定だらけで、近日改正版を上げる予定です。           大筋の流れは変わらないです。


7-3 エミカの焦り

ゲキがマジルカニャンニャの助太刀をする二日前……。

 

 SAOTOME GYMは、相変わらずトレーニング器具の動く音が響いていた。

 

 いつも通りの朝だ。

 

 ただ一つ違うのは、その一角で、エミカがいつもより長く身体を動かしていることだった。

 

「……っ」

 

 エミカは額に汗を浮かべ、ランニングマシンの上を歩いていた。

 

 松葉杖は、もう必要ない。

 

 右足の怪我は順調に回復し、日常生活なら一人で歩けるようになっている。

 階段の上り下りにも、以前ほど時間はかからない。

 

 しかし、それは日常生活に支障がない程度まで回復しただけで、怪我が完治したわけではなかった。

 

 長く歩けば、右足の奥に鈍い痛みが残る。

 急に体重をかければ、治りかけた場所が引きつるように痛んだ。

 

 それでも、エミカはランニングマシンの速度を一段階上げた。

 歩行用だったベルトの動きが、軽い駆け足に近い速度へ変わる。

 

「エミカちゃん」

 

 隣に立っていたローズが、すぐに声をかけた。

 

「少し速すぎるんじゃない?」

 

「大丈夫です」

 

 エミカは前を向いたまま答えた。

 

「これくらいなら、もういけます」

 

「昨日も同じことを言って、途中で足を押さえていたでしょう?」

 

「昨日より調子いいですから」

 

 言葉とは裏腹に、右足の接地がわずかに浅い。

 痛みを避けるため、無意識に左足へ体重を逃がしている。

 

 その小さな変化を、ローズが見逃すはずがなかった。

 

「左右の歩幅が違うわよ」

 

「……ちょっとだけです」

 

「ちょっとでもダメ」

 

 ローズが操作盤へ手を伸ばす。

 エミカは速度を落とされる前に、さらに腕を強く振った。

 

「まだできます」

 

「エミカちゃん」

 

「最近、ずっと休んでばかりだったから、体力が落ちてるんです。少しでも早く戻さないと」

 

 呼吸が荒くなる。

 ミププが精霊界へ戻っている今、傷ついた魔力回路のリハビリはできない。

 

 魔力を流し込む繊細な治療は、相棒であるミププにしか任せられなかった。

 今のエミカにできるのは、落ちた体力を少しずつ取り戻すことだけ。

 

 だからこそ、焦っていた。

 

 魔力回路を治せないなら、せめて身体だけでも元に戻したい。

 ミププが帰ってきた時、すぐに次の段階へ進めるようにしておきたい。

 

 その気持ち自体は、間違っていない。

 けれど、焦りは時に、正しい努力を危険へ変える。

 

「少しくらい痛くても、動かさないと戻らないですから」

 

 エミカは笑った。

 

 けれど、笑顔が固い。

 目元にも、口元にも、いつもの柔らかさがない。

 

 ローズは返事をせず、ランニングマシンの停止ボタンを押した。

 

「あっ」

 

 ベルトがゆっくりと減速する。

 エミカは不満そうにローズを見上げた。

 

「ローズさん」

 

「リハビリと無茶は違うわよ」

 

 ローズはきっぱりと言った。

 

「痛みを我慢して動き続けることを、努力とは呼ばないの。治ったばかりの場所をもう一度傷めたら、今までの時間が無駄になるわ」

 

「でも……」

 

「今日はここまで」

 

「まだ予定の半分も――」

 

「ここまでよ。エミカちゃん」

 

 穏やかな声だったが、譲る気は一切なかった。

 

 エミカは何か言い返そうとした。

 だが、ランニングマシンから降りた瞬間、右足に痛みが走った。

 

「っ……」

 

 反射的に、手すりを掴む。

 ローズの眉がわずかに動いた。

 

「ほらみなさい」

 

「今のは、バランスを崩しただけです」

 

「そういうことにしておいてあげるから。休憩しましょう」

 

「……はい」

 

 エミカは渋々頷いた。

 

 少し離れた場所では、ゲキがダンベルを持ったまま、二人の様子を見ていた。

 

 普段なら真っ先に駆け寄り、無理をするなと止めていただろう。

 娘の足に痛みが走った瞬間、誰よりも早く手を伸ばしていたはずだった。

 

 しかし今日は、声をかけられなかった。

 

 エミカも、ゲキの視線に気づいている。

 けれど、父親の方を見ようとはしなかった。

 

 昨夜から、二人の間には目に見えない壁があった。

 

「……お父さん」

 

 エミカが、ようやく口を開く。

 

「な、なんだ」

 

「そのダンベル、ずっと持ったままだよ」

 

「……そ、そうだったな」

 

 ゲキは手にしていたダンベルをラックへ戻した。

 動揺しているせいで、左右で重さが違うものを持っていたことにも気づいていなかった。

 

 ローズはエミカとゲキを交互に見る。

 

「エミカちゃん。水分を取って、少し座っていなさいな」

 

「はい」

 

 エミカは短く答え、休憩用のベンチへ向かった。

 

 歩けてはいる。

 だが、右足を庇うような動きは消えていない。

 

 それ以上に、背中が固かった。

 疲れではなく、何かを必死に堪えているような固さだった。

 

 その背中を見送り、ローズはゲキへ顔を向けた。

 

「ゲキ」

 

「なんだ」

 

「少し話しましょう」

 

「……ああ」

 

 ゲキの沈んだ返事だけで、ローズはおおよその事情を察していた。

 二人は会員たちに聞かれないよう、ジムの奥にある事務所へ移動した。

 

 扉を閉める。

 

 外のトレーニング音が遠くなり、狭い室内に重い沈黙が落ちた。

 

 ローズはソファに腰を下ろす。

 ゲキは座らず、事務机の前で腕を組んだ。

 

「何があったの?」

 

「……分かるか」

 

「当然よ。エミカちゃんが無茶をする理由も、アナタが声をかけられない理由も、全部同じところにあるんでしょう?」

 

 ゲキはしばらく黙っていた。

 

 やがて、ポケットからスマホを取り出す。

 画面を操作し、ローズへ差し出した。

 

「……これだ」

 

 表示されていたのは、インターネット上のニュース記事だった。

 見出しには、大きな文字が並んでいる。

 

『雨玻町を守る新たな力――増え続ける男性魔法少女たち』

 

 記事には、ゲキ・マキシマム、ローズ・アンリミテッド、そしてキヨナガ・スピリットの姿が掲載されていた。

 

 キヨナガ・スピリットが現れて以降、大規模な戦闘は起きていない。

 

 それでも、三人は何もせずに過ごしていたわけではなかった。

 

 迷子の捜索といった小さな人助けから、倒壊しかけた建物での人命救助まで。

 小規模な敵性存在の討伐や、事故で動けなくなった車両の撤去も行っていた。

 

 大なり小なり、ゲキたちは魔法少女としてできる範囲で人を助けていた。

 

 その行動は、少しずつ町の人々に知られ始めている。

 記事の下には、多くのコメントが寄せられていた。

 

『見た目は濃いけど、来てくれると絶対的な安心感がある』

 

『ゲキ・マキシマム、また車を持ち上げて人を助けたらしい。カッコイイよな』

 

『ローズ・アンリミテッド、子供に接する時はすごく優しいんだよな』

 

『僧侶の魔法少女はまだ慣れないけど、悪い人じゃなさそう』

 

『あの三人がいるなら、雨玻町は大丈夫そう』

 

 好意的な声がほとんどだった。

 

 感謝。応援。驚き。

 そして、少しの困惑。

 

 だが。

 

 画面を下へ進めると、その中に別の言葉が混じり始める。

 

『もうマジカルメイデンズはいらないな』

 

『フラワーメイデンがいなくても、別に問題なくない?』

 

『これからは男の魔法少女だけでいいだろ。強そうだし』

 

『怪我したって聞いた。そのまま引退した方がいい』

 

『復帰してもどうせ居場所ないだろ』

 

『昔の魔法少女より、今いる三人を応援した方がよくない?』

 

 ローズの指が止まる。

 先ほどまで浮かべていた穏やかな表情が消えていた。

 

「……エミカちゃん、これを見たのね」

 

「ああ」

 

 ゲキの声が低くなる。

 

「昨夜、リビングでこれを見ていた。俺が近づいた途端、画面を消したが、見出しは見えていた」

 

 気になり、同じ記事を探した。

 そして、コメント欄が目に入った。

 

「その後、エミカが言った」

 

 ゲキは握った拳を見つめる。

 

「早く体力を戻さないとな、と」

 

 それだけだった。

 

 怒りもしなかった。

 泣きもしなかった。

 父親たちの活躍を否定することもなかった。

 

 むしろ、

 

 ――お父さんたちが町を守ってくれるのは、嬉しいよ。

 

 そう言って笑っていた。

 だからこそ、その笑顔が痛かった。

 

「エミカは、俺たちが戦うことを嫌がっているわけではない」

 

「ええ」

 

「自分の代わりに町を守ってくれて、助かっていると言っていた」

 

 ゲキは目を閉じる。

 

「だが、自分が守ってきたものから、いらなかったように言われるのは……耐えられないんだろう」

 

 フラワーメイデンとして戦い始めたのは、十一歳の頃だった。

 

 怖くても。痛くても。

 エミカは町を守り続けてきた。

 

 誰にも正体を明かせないまま。

 感謝される相手が自分だとも言えないまま。

 

 命を懸けて守ってきた日々を、たった一行のコメントで「もういらない」と切り捨てられる。

 

 それは、今のエミカだけではない。

 これまでのエミカまで否定する言葉だった。

 

「俺は、エミカのために戦っていた」

 

 ゲキが言う。

 

「あいつが戦えない間、町を守るために。あいつが安心して治療に専念できるように」

 

 太い指が、わずかに震えていた。

 

「だが……俺が戦ったことで、逆にエミカを傷つけたのかもしれん」

 

「……ゲキ」

 

「俺が活躍すればするほど、あいつの居場所がなくなる。エミカには、そう見えているんじゃないか」

 

 ローズはスマホを机の上へ置いた。

 

「あの子が傷ついたのは、アナタが活躍したからじゃない」

 

 ゲキが顔を上げる。

 

「悪いのはアナタとエミカちゃんを勝手に比べて、あの子が守ってきた時間を何も知らないまま踏みにじった人間よ」

 

「だが――」

 

「エミカちゃんは、アナタが人を助けたことを喜んでいる。それは嘘じゃないわ」

 

 ローズは、先ほどエミカがいたジムの方へ視線を向けた。

 

「あの子が傷ついたのは、自分が守ってきたことまで、何の意味もなかったみたいに言われたからよ」

 

 ゲキは何も答えなかった。

 

 ——言っていることは分かる。

 

 それでも、父親としての胸の痛みは消えなかった。

 

 自分が娘を守ろうとすればするほど、娘が焦っていく。

 ならば、どうすればいいのか。

 

 戦うのをやめればいいのか。

 町を守るのをやめれば、エミカは傷つかずに済むのか。

 

 そんなはずはない。

 

 だが、正しい答えも見つからなかった。

 

「それと、ゲキ」

 

 ローズが続ける。

 

「一つだけ言っておくわ」

 

「なんだ」

 

「自分を悪者にしすぎないこと」

 

 ゲキの眉がわずかに動いた。

 

「アナタが勝手に自分を責めすぎると、今度はエミカちゃんが『自分のせいでお父さんを苦しめた』って思うわよ」

 

「……」

 

「親が先に傷ついた顔をしすぎると、子供は本音を飲み込むの」

 

 ローズの声は柔らかい。

 けれど、逃げ場のない言葉だった。

 

「だから、ちゃんと聞いてあげなさい。決めつけるんじゃなくて、あの子が何を怖がっているのかを」

 

 その時。

 

 事務所の扉が、三度叩かれた。

 

「ゲキ殿。ローズ殿。よろしいでしょうか」

 

 低く、よく通る声。

 

「……入れ」

 

「失礼します!」

 

 扉が開き、紫色の僧侶服を着た大男が入ってきた。

 

 キヨナガ。

 

 魔法少女キヨナガ・スピリットであり、精霊道を歩む僧侶。

 そして数日前、正式にSAOTOME GYMへ入会した新規会員でもある。

 

 もっとも、キヨナガは入会してから一度もダンベルを持っていない。

 トレーニングマシンにも触れていない。

 

 やっていることといえば、ジムの隅に持参した座布団を敷き、その上で座禅を組むことだけだった。

 

 初日には『心身を整える初心者座禅教室』と書かれた手作りの札まで持ち込んでいた。

 エイコーが見つけた時には、すでに会員が二人ほどキヨナガの前に座っていた。

 

 ゲキが、

 

『ジム内で許可なく教室を開くな』

 

 と注意したところ、キヨナガは、

 

『承知しました。では、正式な申請書をいただきたい!』

 

 と即答した。

 

 諦める気はないらしい。

 

 キヨナガは丸めた座布団を脇に抱え、二人の顔を見た。

 

「瞑想を終えましたので、座禅教室の開催許可について改めて――」

 

 そこで言葉を止める。

 事務所に漂う空気の重さに気づいたらしい。

 

「……何か、ありましたか」

 

「今は座禅教室どころじゃないわ」

 

 ローズが言った。

 

 ゲキは机の上のスマホを取り、キヨナガへ差し出した。

 そして、ローズに話した内容をキヨナガにも説明した。

 

 キヨナガは最後まで黙って聞いていた。

 普段ならすぐに熱を込めて語り始める男が、今は一言も挟まなかった。

 

 全てを聞き終えると、スマホを静かに机へ置いた。

 そして、ゲキの正面に立つ。

 

「ゲキ殿」

 

 キヨナガの太い眉が、険しく寄せられる。

 

「フラワーメイデンが守ってきたものは、このような言葉で失われるほど軽いものではありません」

 

「しかし、エミカは実際に傷ついている」

 

「はい。言葉によって傷ついたことは事実です。ですが、言葉によって過去の事実まで変わるわけではありません」

 

 キヨナガは胸の前で手を合わせた。

 

「フラワーメイデンが救った命があります。守った町があります。彼女の姿に勇気をもらった者もいるでしょう」

 

 画面に並ぶ無責任な言葉へ、キヨナガは厳しい視線を向ける。

 

「誰かが『いらない』と書き込んだからといって、それらが消えることは()()()()()()()()

 

「……」

 

「守る者の価値を決めるのは、声の大きな者ではない。その者が何を守り、何を残したかです」

 

 精霊たちを心から敬愛するキヨナガは、守る側が抱える苦しみを軽く扱わなかった。

 

「エミカ殿が歩んできた道は、誰にも奪えません。まずはゲキ殿自身が、それを疑わないことです」

 

 ゲキは答えられなかった。

 けれど、その言葉は重く胸に沈んだ。

 

 自分が迷えば、エミカの不安まで肯定することになる。

 あいつの居場所がなくなったのではないか。

 あいつの戦いに意味はなかったのではないか。

 

 父親である自分まで、そんな可能性を考えてどうする。

 

「そうね」

 

 ローズも静かに頷いた。

 

「キヨナガの言う通りよ。エミカちゃんが守ってきた時間は、誰かのコメントで消えたりしないわ」

 

 画面に並んでいた心ないコメントは、全体から見ればごくわずかだ。

 

 多くの者は、ゲキたちを応援している。

 そして、今もフラワーメイデンの回復を願っている。

 

 けれど、人は百の優しい言葉より、一つの悪意を覚えてしまうことがある。

 

「……悪い声ほど、頭に残るものね」

 

 ローズは小さく息を吐いた。

 

「俺は、あいつに何をしてやればいい」

 

 ゲキは腕を組み、本気で考え始めた。

 

 謝るのは何か違う。

 励ますだけでも足りない。

 

 エミカの心の傷を、どうすれば少しでも軽くできるのか。

 

 エミカが好きなもの。

 エミカが大切にしているもの。

 

 花。友人。仲間。家族。

 

 そして――魔法少女。

 

 戦えない今も、エミカの心はフラワーメイデンのままだ。

 

 変身できなくなったからといって、あの子が歩んできた道が消えるわけではない。

 誰かに「もういらない」と言われたからといって、その名を捨てる必要もない。

 

 戦わせることはできない。

 危険な場所へ行かせるつもりもない。

 

 それでも、フラワーメイデンとしてできることが、何かあるのではないか。

 

 ふと、一人の少女の顔が浮かんだ。

 

 エミカの親友。

 魔法少女活動の事情を知り、将来は漫画家を目指している少女。

 

「浅倉沙織……」

 

「沙織ちゃん? 確かエミカちゃんのお友達の……」

 

 ローズが首を傾げる。

 

「浅倉沙織の実家は、たしか……()()()()の店をしていたはずだ」

 

 以前、エミカから聞いたことがある。

 ゲキはスマホの連絡先を開く。

 

 頭の中に、一つの考えが浮かび始めていた。

 

 あの子がフラワーメイデンだったことを、なかったことにはさせないために。

 

 戦えない今でも、誰かを助ける方法はある。

 

 そのために、父親である自分が渡せるものがあるかもしれない。

 

「沙織ちゃんに何を頼むつもり?」

 

「少し思いついたことがある」

 

 ゲキが発信ボタンに指を伸ばす。

 

 ——その時だった。

 

 事務所の扉が開く。

 

「店長!」

 

 受付にいたエイコーが顔を出した。

 

「来客です」

 

「今、少し取り込んでいる」

 

「それが、ちゃーむ? とかいう赤司さんなんですけど」

 

 ゲキの指が止まる。

 ローズとキヨナガも顔を上げた。

 

「赤司が?」

 

「はい。店長と、井原さんと、キヨナガさん。三人に話があるそうです」

 

 ゲキはスマホの画面を見る。

 

 表示された浅倉沙織の名前。

 その下にある発信ボタン。

 

 少し迷い、画面を閉じた。

 

「分かった。通してくれ」

 

「はい」

 

 エイコーが扉を開けたまま横へ退く。

 その向こうから、スーツ姿の青年が姿を現した。

 

 C.H.A.R.M.エージェント、赤司良介。

 

「おはようございます、五月女さん」

 

「ああ、おはよう、赤司」

 

 赤司はローズとキヨナガにも一礼した。

 

「ローズさん、キヨナガさんもお揃いで助かりました」

 

「私たち三人に話って、何かしら?」

 

 ローズが尋ねる。

 

 赤司は事務所の外を確認した。

 ジムには会員もいる。ここで話す内容ではないと判断したらしい。

 

「申し訳ありませんが、詳しい話は支部でさせてください」

 

「緊急事態か?」

 

「今すぐ出動が必要という話ではありません」

 

 赤司はそう前置きした。

 

「ただ、今後の三人の活動に関わる重要な話です」

 

 ゲキとローズが顔を見合わせる。

 キヨナガは座布団を抱え直した。

 

「承知しました。参りましょう」

 

「キヨナガさん、その座布団は置いていってください」

 

「支部で瞑想を行う可能性が」

 

「絶対にありませんよ」

 

 赤司が即答する。

 キヨナガは名残惜しそうに座布団を事務所の隅へ置いた。

 ゲキは三人で出かけることをエイコーへ伝え、事務所を出る。

 

 ジムの休憩スペースでは、エミカが水を飲んでいた。

 

「エミカ」

 

「……何?」

 

「少し、C.H.A.R.M.の支部へ行ってくる」

 

「出動?」

 

「いや。話があるらしい」

 

「……そっか」

 

 短い返事だった。

 

「頼むから無理はするな」

 

「分かってる」

 

「痛みが出たら、すぐに――」

 

「お父さん」

 

 エミカが遮る。

 

「今日はもう運動しないから。心配しなくても大丈夫」

 

「……そうか」

 

 ゲキは、それ以上言えなかった。

 

 いつもなら頭を撫でる。抱き締める。

 何かしらの形で、娘に触れてから出かけていた。

 

 だが、今はそのどれもできなかった。

 

「行ってくる」

 

「うん。行ってらっしゃい」

 

 親子の間に残ったぎこちなさを、ローズは黙って見ていた。

 




プロローグは先行登場した次回作の仮面ライダーのキャラの性格が、微妙に違うアレだと思ってくれれば!
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