魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。   作:ワタリ3@ぼちぼち浮上

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7-4 結成!? 成人男性魔法少女チーム

 

 C.H.A.R.M.雨玻町支部。

 関係者専用区画の奥にある小さな会議室で、ゲキ、ローズ、キヨナガの三人は席についていた。

 

 机の上には、三人分の資料が並べられている。

 資料の表紙には、こう書かれていた。

 

『成人男性魔法少女三名の暫定チーム運用について』

 

 赤司良介は、少し緊張した様子で資料を開いた。

 

「では、改めて説明します」

 

 赤司は三人を見回す。

 

「C.H.A.R.M.から、ゲキ・マキシマム、ローズ・アンリミテッド、キヨナガ・スピリットの三名へ、正式な提案があります」

 

「正式な提案?」

 

 ローズが身を乗り出す。

 

 その目はすでに輝いていた。

 嫌な予感を覚えたゲキは、黙って続きを待つ。

 

「はい。今後、三名を個別の協力者ではなく、正式な魔法少女チームとして扱わせていただきたいと考えています」

 

「正式な魔法少女チーム!」

 

 ローズがぱっと顔を輝かせた。

 

「つまり、ついに正式な魔法少女チームということね!」

 

「興奮しすぎて、同じこと言ってるぞローズ」

 

「今後の扱いとしてはチーム単位になります。出動管理、情報伝達、支援物資の割り当てなどを一本化するためです」

 

 ゲキは資料に目を落とす。

 そこには、三人の活動記録がまとめられていた。

 

 ゲキ・マキシマム。

 ローズ・アンリミテッド。

 キヨナガ・スピリット。

 

 それぞれの出動履歴。

 小規模事案への対応。

 救助活動。

 敵性存在への対処。

 

 思っていた以上に、三人はこの数日で動いていた。

 

「なぜチームを組む必要がある」

 

 ゲキは静かに尋ねた。

 

「管理しやすいから、だけではないだろう」

 

「はい」

 

 赤司は頷く。

 

「大きな理由は五つあります」

 

 赤司は資料を一枚めくった。

 

「一つ目は、出動管理です。現在、三名はそれぞれ独立して活動していますが、緊急時に誰がどこへ向かうかを判断するまでに時間がかかります」

 

 資料には、簡単な地図と出動経路が記されていた。

 

「二つ目は、情報伝達です。敵の情報、被害状況、避難誘導の連絡を個別に送るより、チーム単位で共有した方が早い」

 

「なるほどね」

 

 ローズが頷く。

 

「三つ目は、支援物資です。通信端末、応急処置用具、魔法少女用の補助装備。これらを三名それぞれに個別配備するより、チームとして割り当てた方が運用しやすい」

 

「現実的な話だな」

 

 ゲキが言う。

 

「はい。そして四つ目ですが……」

 

 赤司は少しだけ言いづらそうにした。

 

「世間的にも、三名はすでに一組として認識され始めています」

 

 ローズが胸に手を当てる。

 

「町の人たちも、私たちをチームとして見始めているのね」

 

「はい。好意的な声も多いです。もちろん、戸惑いの声もありますが……」

 

 ゲキは何も言わなかった。

 その言葉で、ネットのコメントを思い出したからだ。

 

 三人が認識されること自体は悪いことではない。

 助けを求める者にとって、頼れる存在が増えるのは良いことだ。

 

 だが、その影で誰かを傷つけるような言葉が生まれるのなら、何も考えずに喜ぶことはできなかった。

 

「そして五つ目」

 

 赤司の表情が真剣になる。

 

「敵側も、三名をまとめて警戒し始めている可能性があります」

 

 会議室の空気が少し変わった。

 

「デビデヴィ・クライシスは、すでにゲキ・マキシマムだけでなく、ローズ・アンリミテッド、キヨナガ・スピリットの存在を把握しています」

 

「当然だな」

 

 ゲキが腕を組む。

 

「敵の親玉も、俺たちの存在を認識しているとみていいだろ」

 

「はい。だからこそ、個別に動くより、連携を前提にした方が安全です」

 

 だが、それは正確ではなかった。

 イヴィト副大隊長の()()により、三人の情報は大隊長を含む上層部へ伏せられている。

 そんな敵側の事情を知る由もないゲキとC.H.A.R.M.は、組織全体に自分たちの存在を把握されていると考えていた。

 

 赤司はゲキを見た。

 

「五月女さん。これは戦力として必要だから、という理由もあります。ただ、それだけではありません。三人をチームとして運用した方が、三人自身の安全も確保しやすいんです」

 

「……安全か」

 

 ゲキは短く呟いた。

 

 守るために戦う。

 だが、自分たちが倒れれば、守れるものも守れない。

 ならば、連携を整えることには意味がある。

 

「分かった」

 

 ゲキは頷いた。

 

「必要なら協力する」

 

「ありがとうございます」

 

 赤司がほっと息をつく。

 

「もちろん、強制ではありません。三名の私生活もありますから、出動可能時間や連絡体制については相談しながら――」

 

「つまり、チーム名が必要ということね!」

 

 ローズが力強く言った。

 赤司の説明が止まる。

 

「……え?」

 

「正式チームなんでしょう? なら、名前がいるわ!」

 

 ローズの目は輝いていた。

 その輝きは、戦闘時とは別の意味で危険だった。

 

「えー……いえ、正式な登録名については、後日でも――」

 

「後日なんて言っていたら、いつまで経っても決まらないわ。こういうのは勢いが大事なのよ」

 

「ローズ殿の言う通りですな」

 

 キヨナガが重々しく頷いた。

 

「名は魂の器。名なき集まりは、志の輪郭を持ちませぬ」

 

「そう! 分かってるじゃない、キヨナガ!」

 

「無論です!」

 

 ローズとキヨナガが、なぜか意気投合した。

 ゲキは無言で資料に目を落とす。嫌な流れになってきた。

 

「まずは可愛さと華やかさが必要ね」

 

 ローズは指を立てる。

 

「魔法少女のチームなんだから、名前を聞いただけで心がときめくものじゃないと!」

 

「ふむ。されど、我らは精霊と悪魔の戦いに身を置く者。荘厳さも必要です」

 

「荘厳さは大事だけど、可愛さも必要なのよ」

 

「可愛さと荘厳さ……深いですな」

 

 赤司は困ったように笑っている。

 ゲキはまだ黙っている。

 

「じゃあ、まず私から行くわ」

 

 ローズは胸を張った。

 

「マジカルプリティメンズ!」

 

 赤司のペンが止まる。ゲキの眉が少し動く。

 キヨナガは真剣な顔で考え込んだ。

 

「ふむ。分かりやすいですな」

 

「でしょう?」

 

「だが、少々軽やかすぎるかもしれません」

 

「じゃあ、プリプリラヴビート!」

 

「……さ、さらに軽やかになったな」

 

 ゲキが低く呟く。

 

「何よ、いいじゃない。心が弾む感じで」

 

「俺たちが名乗るにしては可愛すぎないか」

 

「なら、ローズハートラヴリーズ!」

 

「ローズ色が強い」

 

「私が考えたんだから当然でしょ」

 

「……」

 

 ゲキは無言で返した。

 赤司は必死に笑いをこらえている。

 

 ローズは不満そうに頬を膨らませた。

 

「じゃあ、キヨナガは何かあるの?」

 

「あります!」

 

 キヨナガは待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。

 

「精霊道三人衆!」

 

「いきなり道場感が出たわね」

 

「魔法同盟士!」

 

「かなり固いわ」

 

「精霊愛好会!」

 

「部活か」

 

 ゲキが言った。

 

「では、愛護法会!」

 

「急に宗教団体感が増したわ」

 

「三霊結義!」

 

「三国志か」

 

「魔法修験同盟!」

 

「だから固いのよ!」

 

 ローズとキヨナガが、互いに真剣な顔で案を出し合う。

 

「もっと可愛く!」

 

「もっと志高く!」

 

「ハートを入れましょう!」

 

「護法を入れましょう!」

 

「ラヴは必須よ!」

 

「精霊も必須です!」

 

 話はどんどん本題から離れていく。

 赤司は資料を片手に、どう戻せばいいのか分からない顔をしていた。

 ゲキはしばらく二人を見ていた。

 そして、静かに立ち上がった。

 

「二人で考えておいてくれ」

 

「え、ゲキも考えなさいよ」

 

「俺は少し用事がある」

 

「……逃げたわね」

 

「戦略的な撤退だ」

 

 ゲキは真顔で言った。

 

「赤司。少し外す」

 

「あ、はい。まだ細かい説明は残っていますが、緊急ではありませんので」

 

「すぐ戻る」

 

 ゲキは会議室を出た。

 

 廊下に出ると、支部の空気は事務的で静かだった。

 白い壁。整然と並んだ案内表示。遠くから聞こえる通信オペレーターの声。

 

 会議室の中で繰り広げられていたチーム名会議とは、まるで別世界だった。

 

 ゲキは廊下の端へ移動し、スマホを取り出した。

 

 表示するのは、先ほど発信できなかった相手。

 

 浅倉沙織。

 

 エミカの親友。

 魔法少女の事情を知っている、数少ない友人。

 そして、服飾関係の店を実家に持つ少女。

 

 ゲキは少しだけ息を整えた。

 

 普段なら、誰かに頼みごとをすることに迷いはない。

 必要なことなら、頭を下げる。

 

 だが、今回はエミカの心に関わることだった。

 

 父親の思いつきだけで進めていいのか。

 余計なお節介にならないか。

 エミカがさらに傷つかないか。

 

 迷いはある。

 

 それでも、何もしないままではいられなかった。

 

 ゲキは発信ボタンを押した。

 

 数回の呼び出し音の後、電話が繋がる。

 

『も、もしもし』

 

「沙織ちゃんか。五月女ゲキだ」

 

『お、おはようございます! エミカに何かありましたか!?』

 

 電話越しの声が、一気に緊張する。

 

「いや、緊急ではない。エミカは無事だ」

 

『よ、よかった……』

 

 沙織がほっと息を吐く音が聞こえた。

 

「ただ、少し協力してほしいことがある」

 

『協力、ですか?』

 

「ああ。エミカのためだ」

 

 その一言で、沙織の声の雰囲気が変わった。

 

『聞きます』

 

 短い返事だった。

 

 迷いはない。

 

 ゲキは窓の外へ目を向ける。

 雨玻町の街並みが見えた。

 

「詳しいことは、今はまだ電話では話しづらい。ただ、君の得意分野だと思う」

 

『私の得意分野……絵とか、デザインとかですか?』

 

「近い」

 

『もしかして——』

 

      Θ 

 

「——()()()。エミカがフラワーメイデンとして歩んできたことを、なかったことにしないためだ」

 

 言葉にしてから、ゲキは自分の胸の中にあったものを理解した。

 

 戦うためではない。

 過去に縋らせるためでもない。

 

 エミカが守ってきたものを、なかったことにしないため。

 今のエミカにも、誰かの前に立てる形を渡すため。

 

「必要な費用は俺が出す。君の力を借りたいんだ」

 

 しばらく、沙織は黙っていた。

 やがて、電話越しに小さな笑い声が聞こえる。

 

『……ゲキさんって、すごく不器用ですね』

 

「よく言われる」

 

『でも、分かりました』

 

 沙織の声は柔らかかった。

 

『エミカのためなら、もちろん協力します』

 

「材料の方は俺が探しておく」

 

『では、住所を送るので、音駒町のお店に行ってください。うちでは扱っていない特殊な生地も、あそこならそろっています』

 

「分かった、近いうちに音駒町へ行こう」

 

『お母さんにも話しておきますね』

 

 ゲキは少しだけ肩の力を抜いた。

 

 胸の奥にあった重さが、完全に消えたわけではない。

 だが、進む方向が見えた気がした。

 

「ありがとう、沙織ちゃん」

 

『いえ。エミカのお父さんに頼られるの、ちょっと光栄です』

 

「また連絡する」

 

『はい』

 

 通話が終わる。

 ゲキはスマホを下ろし、静かに息を吐いた。

 

 その時だった。

 

 廊下の向こうから、足音が近づいてくる。

 

「五月女さん!」

 

 赤司だった。

 

 先ほどまでの落ち着いた表情は消えている。

 顔には明らかな緊張があった。

 

「どうした」

 

「悪魔空間が発生しました」

 

 ゲキの目が鋭くなる。

 先ほどまで、父親として悩んでいた男の顔が変わる。

 

 魔法少女ゲキ・マキシマムとしての顔だった。

 

「場所は」

 

「雨玻町北区の集合住宅付近です。規模はまだ小さいですが、拡大速度が異常です」

 

「敵は確認できているか」

 

「詳細は不明です。ただ、現場周辺で複数の小型敵性反応が増えています」

 

 赤司は息を整えながら言った。

 

「それも、一体ずつではありません。数が増え続けています」

 

 ゲキは一瞬だけ、窓の外を見た。

 遠くの空が、わずかに紫色に濁り始めている。

 

「ローズとキヨナガを呼べ」

 

「はい!」

 

 赤司が会議室へ戻ろうとする。

 その前に、ゲキはもう一度スマホを見る。

 通話履歴に残った、浅倉沙織の名前。

 

 エミカのためにできること。

 町のためにやるべきこと。

 

 どちらも、投げ出すわけにはいかない。

 

 ゲキはスマホをしまい、拳を握った。

 

「出動だ!」

 

 低い声が、廊下に響いた。

 

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