魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。   作:ワタリ3@ぼちぼち浮上

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今週は三連休なので月曜日はお休みです!


7-5 炎上開始

 

 時は、少しだけ遡る。

 

 雨玻町北区。

 

 古い集合住宅の一室に、昼間とは思えないほど暗い部屋があった。

 

 カーテンは閉め切られている。窓は何日も開けられていない。

 部屋の空気は淀み、床には空になったペットボトルや、食べ終えたカップ麺の容器、丸めたティッシュ、脱ぎ捨てられた服が散らばっている。

 

 その中央に置かれた机の上だけが、青白い光に照らされている。

 

 ノートPCの画面だった。

 

 男は、その前に座っていた。

 

 年齢は二十代後半。

 伸びた髪。無精ひげ。血色の悪い顔。

 外へ出ない生活が長いせいか、肌は不自然に白く、背中は丸まっている。

 

 だが、目だけはぎらぎらと光っていた。

 

 画面の中には、匿名掲示板が表示されている。

 

 話題は、最近増え始めた男性魔法少女について。

 そこから派生して、魔法少女全般についての書き込みが大量に流れていた。

 

 男はキーボードを叩く。

 

『魔法少女って存在自体がもう古いんだよ』

 

 送信。

 

『子供に戦わせて美談にしてる時点で終わってる』

 

 送信。

 

『怪我したなら引退しろ。復帰とかいらない』

 

 送信。

 

『男も女も関係ない。魔法少女なんて全部いらん』

 

 送信。

 

 指が止まらない。

 男は、魔法少女が嫌いだった。

 

 正確には、魔法少女そのものが嫌いというより、魔法少女を応援する人間が嫌いだった。

 もっと正確に言えば、誰かに応援され、必要とされ、()()()()()()()が嫌いだった。

 

 画面の向こうで、誰かが魔法少女を称賛する。

 誰かが助けられたと感謝する。

 

 その全てが、男には不快だった。

 

 自分とは違う。

 

 自分は、誰にも求められていない。

 誰にも応援されていない。

 何かを成し遂げたこともない。

 

 だから、輝いている者を見ると胸が焼けるように痛んだ。

 

 ——その痛みを認めたくなかった。

 

 だから、男は書き込む。

 

 あいつらは偽善者だ。

 あいつらを応援する人間が馬鹿なのだ。

 助けられたと喜んでいる人間は、騙されているだけなのだ。

 

 そう書き込んでいる間だけ、自分が惨めではないような気がした。

 

 画面の向こうで、返信がつく。

 

『はいはい出ました、浅い意見! 魔法少女の歴史も仕組みも、まったく知らないでしょう?』

 

 男の眉が跳ねた。

 

「は?」

 

 相手は、ここ数日妙に絡んでくる匿名ユーザーだった。

 

 妙に専門知識がある。やたらと煽ってくる。

 しかも、こちらの書き込みにすぐ反応する。

 

 男にとっては、格好の相手だった。

 

『知識マウント乙。魔法少女オタきも』

 

 送信。

 

 すぐに返信が返ってくる。

 

『反論できないから人格攻撃ですか? 悪意だけは一人前ですね!』

 

「うっざ……!」

 

 男の指がさらに速く動く。

 

『悪意? 本当のこと言ってるだけだろ』

 

『魔法少女なんて目立ちたい奴らの自己満』

 

『応援されて当然みたいな顔してるのが腹立つ』

 

『どうせ中身は大したことない』

 

 書けば書くほど、胸の奥が熱くなる。

 

 怒りなのか。嫉妬なのか。

 それとも、もっと別の何かなのか。

 

 男自身にも分からなかった。

 

 ただ、止まらない。

 

『もっと書いてください! あなたの汚い本音を!』

 

 挑発するような返信。

 男は歯を剥き出しにして笑った。

 

「本音? いいよ。書いてやるよ」

 

 キーボードを叩く音が、狭い部屋に響く。

 

『魔法少女なんて全員消えればいい』

 

『応援してる奴らもまとめて消えろ』

 

『俺の前に来たらぶっ潰してやるよ』

 

『来れるもんなら来てみろ』

 

『住所特定できるならしてみろよ』

 

『来たらぶっ〇してやるからな』

 

 送信。男は荒い息を吐いた。

 

 画面を見る。

 

 いつもなら、すぐに返信が来る。

 あの煽り口調の匿名ユーザーなら、必ず何か返してくるはずだった。

 

 だが、返信は来ない。

 

 一分。

 二分。

 三分。

 

 男は口元を歪めた。

 

「勝ったな」

 

 相手が黙った。

 つまり、自分が言い負かした。

 

 そう思った。

 

 実際には、何一つ勝ってなどいない。

 だが、画面の前の男にとっては、()()()()()()()()()()()だった。

 

「ざまあみろ」

 

 男は椅子の背もたれに寄りかかる。

 

 その時だった。

 

 部屋の外で、何かが倒れる音がした。

 

 どん、と鈍い音。

 

 男は顔をしかめた。

 

「……またかよ」

 

 両親だと思った。

 

 この部屋の扉を叩いて、飯を置いただの、風呂に入れだの、少しは外へ出ろだのと言ってくる。

 いつものことだった。

 

 男は無視しようとした。

 

 だが、次に聞こえた音は、いつもと違った。

 

「きゃっ――」

 

 母親の短い悲鳴。

 

 続いて、何か重いものが床に崩れ落ちる音。

 

「おい、何やって――ぐっ!」

 

 父親の声。

 それもすぐに途切れた。

 

 男の背筋が冷えた。

 

「……は?」

 

 部屋の外が、静かになる。

 

 静かすぎる。

 

 いつものように扉を叩く音もない。

 文句を言う声もない。

 ただ、廊下の向こうから、かすかな足音だけが近づいてくる。

 

 ぺた。

 

 ぺた。

 

 男は椅子から立ち上がった。

 

 心臓がうるさい。

 喉が乾く。

 

「な、なんだよ」

 

 足音が、部屋の前で止まった。

 

 男はしばらく動けなかった。

 

 扉を開けるべきではない。

 そう思う。

 

 だが、外で何が起きているのか気になって仕方がない。

 

 男はそっと扉へ近づき、ほんの少しだけ開けた。

 

 その隙間から、——顔が覗き込んだ。

 

 白衣。

 乱れた髪。

 濃い隈。

 ぎらぎらした目。

 

 イタヴリ博士だった。

 

「どうも!」

 

「ぎゃああああああああああっ!?」

 

 男は情けない悲鳴を上げて、尻もちをついた。

 扉の隙間から、博士が満面の笑みを浮かべている。

 

「来れるものなら来てみろ、とのことでしたので」

 

 博士はにたりと笑った。

 

()()()()

 

「な、な、なんで……!?」

 

「有言実行です!」

 

「ひっ……!」

 

 男は後ずさる。

 

 扉の向こう、博士の背後には、廊下に倒れた両親の姿が見えた。

 母親も父親も、気を失っている。

 

 胸は上下している。

 呼吸はある。

 

 だが、男にそれを確認して安心する余裕などなかった。

 

「お、お前……何したんだよ……!」

 

「少し静かにしていただいただけです。ご安心ください。まだ死んでいません」

 

「まだってなんだよ!」

 

「言葉の綾です!」

 

 博士は楽しそうに笑いながら、部屋の扉を大きく開けた。

 そして、一歩踏み込んだところで、顔をしかめる。

 

「うわ」

 

 博士は思わず声を漏らした。

 

「汚いですねぇ……我々の仮拠点の方がまだましですよ」

 

「く、来るな……!」

 

 男は床に散らばったゴミを蹴りながら後ずさる。

 

 画面の中では、まだ掲示板が開かれていた。

 そこには、男が書き込んだ暴言が並んでいる。

 

『来たらぶっ〇してやる』

 

『住所特定できるならしてみろよ』

 

『魔法少女なんて全員消えろ』

 

 博士はそれを見て、楽しそうに肩を揺らした。

 

「いやあ、君とのバトルは楽しかったですよ」

 

「ば、バトル……?」

 

「レスバトルです」

 

「お前が、あの……」

 

「はい。あなたを煽っていた匿名ユーザーは、この私です」

 

 博士は胸を張った。

 

「悪意濃度の観測、実に有意義でした」

 

「何を言ってる……ふざけんな……!」

 

「ふざけてなどいません。研究です」

 

 博士は男へ近づく。

 

「素晴らしかったですよ。魔法少女全般への憎悪。応援される者への嫉妬。自分以外の誰かが称賛されることへの苛立ち」

 

「ち、違う……俺は、正論を……」

 

「正論?」

 

 博士が笑った。

 

「君の言葉のどこに正しさがありましたか?」

 

 男は口を開く。

 だが、言葉が出ない。

 

 画面越しなら、いくらでも書けた。

 相手が見えなければ、どんな言葉でも投げられた。

 

 だが、目の前に得体の知れない男が立っているだけで、喉が固まった。

 

「やはり、威勢がいいのはPCの前だけですか」

 

 博士は愉快そうに言った。

 

「画面越しではあれほど攻撃的だったのに、実物を前にすると震えるばかり」

 

「や、やめろ……」

 

「ですが、安心してください」

 

 博士の笑みが、さらに深くなる。

 

「あなた自身は小さく、弱く、醜く、惨めかもしれませんが――その嫉妬だけは()()()()です」

 

 男の顔が歪む。

 

「う、うるさい……!」

 

「その悪意、我々が有効活用して差し上げます」

 

 博士は懐から、黒く禍々しい鍵を取り出した。

 

 デビルキー。

 

 男は本能的に、それが危険なものだと理解した。

 

「な、なんだよ、それ……」

 

「君を新しい存在へ変える鍵です」

 

「やめろ! 来るな!」

 

 男は机の上にあったペットボトルを投げた。

 

 博士は首を傾けて避ける。

 ペットボトルは壁に当たり、中途半端に残っていた飲み物を床へ撒き散らした。

 

「やはり弱い」

 

 博士は一歩で距離を詰める。

 男の肩を掴み、床へ押さえつけた。

 

「ひっ、やめ――!」

 

「さようなら、口だけの評論家さん」

 

 博士はデビルキーを男の胸元へ突き刺した。

 

「あ、が――ッ!」

 

 黒紫の光が、男の体を包む。

 

 骨が軋むような音。

 喉の奥から漏れる悲鳴。

 床に散らばったゴミが、悪魔エネルギーに巻き上げられる。

 男の体がみるみるうちに赤黒い球体へ変わっていき、それが、ぼとりと床に落ちる。

 

 ——デモンコア。

 

「よし」

 

 博士はデモンコアを拾い上げると、満足そうに頷く。

 

「採取完了です」

 

 博士はPC画面へ視線を移した。

 そこにはまだ、男が吐き出した言葉が残っている。

 

 不要。消えろ。役立たず。偽善者。自己満足。

 

 博士は笑った。

 

「まったく……いい素材です」

 

     Θ

 

 その後、博士はデモンコアを持ち帰った。

 

 山林の奥にあるデビデヴィ・クライシスの仮拠点。

 廃工場内のブルーシートの下には、すでに奇妙な悪魔兵器が組み上げられていた。

 

 人型ではある。

 だが、どこか歪だった。

 

 胴体は黒い金属で覆われ、胸元には悪魔の口のような装甲がある。

 両腕は太く、前腕部分にはガトリング砲のような筒がいくつも並んでいた。

 背中からは、ケーブルのような黒い触手が何本も垂れている。

 右の脇腹には、市販の通信ルーターを思わせる箱形の装置が埋め込まれている。

 三本の短いアンテナが突き出し、側面に並んだ小さなランプが不規則に明滅する。

 

 そして、首から上はまだ存在していなかった。

 

 頭部のない悪魔兵器。

 

 それが、博士の新作だった。

 

「遅かったですねぇ、博士」

 

 タカワラーイ婦人が腕を組んで待っていた。

 

「素材の回収に手間取りました!」

 

 博士は小型ケースを机に置いた。

 その中で、先ほど手に入れたデモンコアが脈打っている。

 

 婦人はそれを見下ろし、わずかに口角を上げる。

 

「随分と濁ったコアですねぇ」

 

「ええ。実に見事な悪意です」

 

 博士は嬉しそうに言った。

 

「魔法少女全般への憎悪、輝く者への嫉妬、応援される者への劣等感。その全てが詰まっています」

 

「素材としては一級品、ということですか」

 

()()()()()()()()()()ですが、()()()()()()()()()()です!」

 

 博士は胸を張った。

 そして、机の端に置かれていたノートPCを手に取る。

 タカワラーイ婦人の給料をはたいて買った、最新型のノートPCだ。

 

「……博士」

 

「はい?」

 

「それ、高かったんですよ」

 

「分かっています。だからこそ、最高の頭脳部として使います!」

 

「……頭脳部」

 

 嫌な予感がした婦人が目を細める。

 

 博士はにこにこと笑いながら、ノートPCを開いた。

 画面には、先ほどまで収集していた匿名掲示板のログが表示されている。

 

 無数のコメント。

 無数の罵倒。

 無数の嘲笑。

 

 博士はそれを悪魔兵器の首元へ近づけた。

 

「頭部接続開始!」

 

 ノートPCの底面から、黒いケーブルが蛇のように伸びた。

 それらが悪魔兵器の首へ絡みつき、金属の装甲へ食い込む。

 

 ぎちぎち、と嫌な音が鳴る。

 

 ノートPCが開いたまま、悪魔兵器の頭部へ固定されていく。

 

 画面は顔になった。

 キーボード部分は顎のように変形し、左右から黒い装甲が伸びて頬を作る。

 液晶画面には、無数の文字が流れ始めた。

 

『不要』『役立たず』『消えろ』『時代遅れ』『偽善者』『自己満足』

 

 長方形の顔。

 画面そのものが表情を持ち、黒い文字の列が目や口のように蠢いている。

 

 婦人は眉をひくつかせた。

 

「私のPCが……顔に……」

 

「ご安心ください! 性能は最大限活かしています!」

 

「安心できる要素がありませんねぇ」

 

「では、最後の仕上げです!」

 

 博士はケースからデモンコアを取り出した。

 それを悪魔兵器の胸部へ押し込む。

 胸の装甲が開き、赤紫の結晶を飲み込んだ。

 

 次の瞬間。

 

 悪魔兵器の全身に、黒紫の光が走った。

 

 ノートPCの画面が激しく明滅する。

 キーボードががちゃがちゃと勝手に動き、存在しない文章を打ち込み始める。

 

『魔法少女はいらない』『誰かを助けるなんて嘘だ』

『輝くな』『目立つな』『落ちろ』『消えろ』

 

 画面に表示された文字が、液晶の中から溢れ出す。

 

 黒い文字が空中へ飛び散り、煙のように漂った。

 

 悪魔兵器の体が震える。

 両腕のガトリングが回転し始める。

 背中のケーブルが、触手のように空を打つ。

 

『――接続』

 

 ノートPCの画面に、大きな文字が浮かんだ。

 

『――炎上』

 

 次の瞬間、悪魔兵器が立ち上がった。

 

 長方形の画面に、赤紫色の目のような二つの光が灯る。

 

『コメント……コメント……コメントを寄越せ……』

 

 低く濁った声が響いた。

 

 画面に流れる文字が、歪んだ口の形を作る。

 

『叩け……貶せ……笑え……沈めろ……』

 

 博士は両腕を広げた。

 

「完成です!」

 

 悪魔兵器が咆哮する。

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 その声は、獣の咆哮ではなかった。

 

 無数の書き込みが一斉に読み上げられるような音だった。

 罵倒。嘲笑。断罪。揚げ足取り。無責任な言葉の群れ。

 

 それらが重なり、耳障りな雄叫びとなって森に響く。

 

「コメンテイター・デビガノイド!」

 

 博士は高らかに名を告げた。

 

「ネット上の悪意を収集し、コメント弾として放ち、さらには兵隊へ変換する新型デビガノイドです!」

 

 博士はノートPCの画面に手をかざす。

 

「オンライン接続、開始!」

 

 コメンテイター・デビガノイドの脇腹の通信装置に並ぶランプが、一斉に点灯した。

 画面に無数のウィンドウが開く。

 掲示板。コメント欄。動画サイト。ニュース記事。SNS。

 

 そこに流れる悪意ある言葉が、黒い煙となって画面へ吸い込まれていく。

 

『いらない』『きもい』『消えろ』『嘘くさい』

『オワコン』『役立たず』『代わりはいくらでもいる』

 

 黒い文字が、コメンテイター・デビガノイドの背中から噴き出した。

 

 それらは空中で固まり、黒い吹き出しのような殻をまとった小型の怪物へ変わっていく。

 

 ——スラングドール。

 

 細い手足。

 黒い体。

 顔の代わりに、コメント欄のような白い枠。

 枠の中には、悪意ある言葉が絶えず流れている。

 

『不要』『時代遅れ』『偽物』『役立たず』

 

 一体。二体。三体。

 

 数は、すぐに十を超えた。

 

 さらに増える。

 まだ増える。

 

 まるでコメント欄が更新され続けるように、スラングドールが次々と生まれていく。

 

 婦人の目が輝いた。

 

「素晴らしい……」

 

 珍しく、心の底から感心した声だった。

 

「博士。今回ばかりは、本当に見事です」

 

「今回ばかりは、とは余計ですが! ありがとうございます!」

 

 博士は誇らしげに胸を張る。

 

「本体の戦闘能力はそこまで高くありません。しかし、こいつの真価は()()()()()()です!」

 

 コメンテイター・デビガノイドの両腕のガトリングが回転する。

 黒い文字が弾丸となり、近くの木へ向かって撃ち込まれた。

 

『不要』『消えろ』『意味ない』『役立たず』

 

 文字弾が木に突き刺さる。

 木の表面が黒く変色し、葉が力を失ったように垂れ下がった。

 

「悪意あるコメントを弾丸化したものです。肉体だけでなく、心に響く。受け続ければ、気力を削られます」

 

「魔法少女相手には効果的ですねぇ」

 

「特に、()()()()()()()()()()()()()()()()には抜群でしょう」

 

 博士はにやりと笑った。

 婦人も同じように口角を上げる。

 

「では、実戦といきましょうか」

 

 婦人は扇子を広げた。

 

「目標は雨玻町北区。人間どもが吐き出した悪意で、人間どもの町を沈めて差し上げます」

 

 扇子を振るう。

 

 廃工場の前に黒紫の魔法陣が広がり、その中央に大きな亀裂が開いた。

 亀裂の向こうには、古びた集合住宅が立ち並ぶ雨玻町北区の景色が見える。

 

『コメント……コメント……もっと……もっと……』

 

 コメンテイター・デビガノイドが、ノートPCの顔を明滅させながら転移門へ進む。

 その後ろに、スラングドールの群れが続いた。

 

 一体一体は小さい。

 だが、その数は今も増え続けている。

 

 黒い吹き出し。

 流れるコメント。

 悪意の文字列。

 

 それらが転移門を抜け、雨玻町北区の路地へ次々と溢れ出していく。

 

 やがて、集合住宅の上空が紫色に濁り始めた。

 

 悪魔空間が展開される。

 

「おーっほっほっほ!」

 

 婦人が笑う。

 

「さあ、魔法少女たち。今度の敵は、あなたたちが守ってきた人間たちの心から生まれたものです」

 

 扇で口元を隠し、目を細めた。

 

「言葉の海に、沈んでいただきましょう」

 

 コメンテイター・デビガノイドの画面に、巨大な文字が浮かび上がる。

 

『炎上開始』

 

 次の瞬間、スラングドールの群れが一斉に駆け出した。

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