魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。   作:ワタリ3@ぼちぼち浮上

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7-8 決着

 

「お前が帰ってくる場所を、俺たちが守る」

 

 ゲキ・マキシマムの全身を、ピンクの魔力が駆け巡る。

 その背後で、エミカは父の背中を見つめていた。

 悪魔空間の空には、今も黒いコメント欄が浮かんでいる。

 

『時代遅れ』

 

『もう必要ない』

 

『代わりはいくらでもいる』

 

 悪意ある文字が雨のように降り続け、コメンテイター・デビガノイドの背中からは、新たなスラングドールが次々と生み出されていた。

 

「ゲキ殿!」

 

 キヨナガ・スピリットが声を上げる。

 エミカを守っていた霊火の結界が、大きく揺らいでいた。

 黒い文字とスラングドールが、外側から絶えず結界を叩いている。

 

 キヨナガは胸の前で両手を合わせた。

 その周囲には、四つの薄紫色の霊火が浮かんでいる。

 

 キヨナガ・スピリットの魔力によって生み出された、精霊の加護を宿す炎。

 悪意を焼き、心を守り、精霊の力を必要とする者へ分け与えるための霊火だ。

 

「エミカ殿!」

 

「はい!」

 

「これを、あなたに預けます!」

 

 キヨナガが片手を前へ差し出す。

 

 四つの霊火のうち、一つが円を描きながら離れ、エミカの前へ飛んできた。

 薄紫色の炎が、エミカの胸元でふわりと止まる。

 

 熱くはない。

 

 柔らかく、どこか懐かしい温かさだった。

 

「私の霊火は、精霊様への敬意と、守る意志によって形を保ちます!」

 

 キヨナガは声を張る。

 

「一つをエミカ殿に預けることで、私が離れた後も、その炎が結界を維持してくれるでしょう!」

 

「私が持っていても、大丈夫なんですか?」

 

「無論です!」

 

 キヨナガは力強く頷いた。

 

「霊火は、守りたいという心に応えます! 今のエミカ殿であれば、何の問題もありません!」

 

 霊火がゆっくりと下降する。

 エミカの足元へ触れた瞬間、薄紫の光が円形に広がった。

 幾重もの光の輪が重なり、エミカの周囲を包み込む。

 

 キヨナガが手を離しても、結界は消えない。

 

 預けられた霊火が中心で静かに燃え続け、降り注ぐ悪意の文字を薄紫の火で焼き払っていた。

 

 ローズとキヨナガも、ゲキの隣へ並んだ。

 

 三人の前では、コメンテイター・デビガノイドが両腕のガトリングを回転させている。

 液晶画面の顔には、無数の文字が流れていた。

 

『古い魔法少女など不要!』

 

『強い者だけが残ればいい!』

 

『数こそ民意! 数こそ正義!』

 

 その言葉を見た瞬間、ゲキの眉間に深い皺が刻まれた。

 拳を握る音が鳴る。

 

()()()()()()()()()()()

 

 低い声だった。

 だが、悪魔空間全体が震えたように感じるほど、重い怒りが込められていた。

 

「何人に支持されたか。褒められたか。そんな数字だけで、あいつが守ってきたものを測るんじゃない!」

 

 ゲキが右腕を広げる。

 

 ピンクの光が集まり、長大な銃身を形成していく。

 現れたのは、可愛らしい装飾と無骨な銃身を併せ持つレバーアクションの散弾銃。

 

「マジカル・ショットガン!」

 

 ゲキはそれを片手で構えた。

 

「誰かの思いを、流行り廃りで語るんじゃないわ」

 

 ローズも隣でマジカル・ウィップを振るう。

 薔薇色の光が軌跡を描き、周囲の黒い文字を切り裂いた。

 

「本人が歩き続ける限り、何度だって咲くのよ!」

 

 最後に、キヨナガが両手を合わせた。

 

「人を傷つける言葉に、悟りなどありません!」

 

 三つの霊火が縦に並び、薄紫色の光の柱へ変わる。

 キヨナガが光の中へ手を差し入れると、長い柄を持つ武器がゆっくりと姿を現した。

 先端には複数の金属輪。

 輪には精霊を模した小さな装飾がつけられ、動くたびに澄んだ音を鳴らす。

 

 錫杖型の魔法武器だった。

 

「——マジカル・シャクジョウ!」

 

 キヨナガは錫杖の石突きを地面へ打ちつける。

 じゃらん、と金属輪が鳴り、薄紫色の波紋が周囲へ広がった。

 

 ゲキがキヨナガの武器を眺める。

 

「少しだけ魔法少女の武器らしいな」

 

「ゲキ」

 

 ローズが小さく呟く。

 

「先端に飾りがついただけで、名前は錫杖そのままよ」

 

「マジカルを付けました!」

 

「付けただけじゃない!」

 

『茶番』

 

 コメンテイター・デビガノイドの画面に、大きな文字が現れた。

 

『寒い』

『痛い』

『滑っている』

 

「お前にだけは言われたくない!」

 

 三人が同時に動いた。

 最初に飛び出したのはローズだった。

 薔薇色の鞭が地面を走り、群がっていたスラングドールの足元へ絡みつく。

 

「どきなさい!」

 

 ローズが腕を振り上げた。

 十体近いスラングドールが一斉に宙へ舞い、道路の反対側へ叩きつけられる。

 

 空いた道を、ゲキが駆け抜けた。

 コメンテイター・デビガノイドが両腕のガトリングを向ける。

 

『不要』

『父親失格』

『娘の邪魔』

『時代遅れ』

 

 黒い文字弾が一斉に発射された。

 

 ゲキはマジカル・ショットガンを前へ向ける。

 

 轟音。

 

 ピンクの散弾が文字弾と正面から衝突した。

 空中で無数の文字が弾け、黒い煙へ変わる。

 

「キヨナガ!」

 

「承知!」

 

 キヨナガが錫杖を横へ振る。

 金属輪が激しく鳴り、三つの霊火が螺旋状に飛び出した。

 

『シャクジョウ・スピリット・スマッシュ!』

 

 霊火をまとった錫杖が、コメンテイター・デビガノイドの肩へ叩き込まれる。

 黒い装甲がへこみ、巨体が大きく傾いた。

 

「ローズ殿!」

 

「任せなさい!」

 

 ローズがデビガノイドの背後へ回り込む。

 マジカル・ウィップが両脚へ巻きついた。

 

『マジカル・ローズ・バインド!』

 

 鞭を引く。

 デビガノイドの両脚が拘束され、その巨体が膝をついた。

 

「ゲキ!」

 

「おおっ!」

 

 ゲキが接近し、マジカル・ショットガンの銃床を振り下ろす。

 頭部のノートPCへ直撃。

 液晶画面が激しく乱れた。

 

『やめろ』

『壊すな』

『暴力反対』

『通報する』

 

「人を襲っておいて、今さら被害者ぶるな!」

 

 ゲキがもう一度銃床を叩きつける。

 だが、その直後だった。

 

 コメンテイター・デビガノイドの背中から、大量の黒い文字が噴き出した。

 

『助けて』

『卑怯』

『三人がかり』

『魔法少女の横暴』

 

 文字が空中で固まり、数十体ものスラングドールへ変わる。

 

「また増えたわ!」

 

 ローズの周囲へ、黒い吹き出しの群れが殺到する。

 鞭を振るい、数体をまとめて叩き落とす。

 キヨナガも錫杖で応戦するが、預けた霊火の分だけ広範囲への浄化力は落ちている。

 

「数が多すぎますな!」

 

「本体を攻めようとすると、こいつらが邪魔をする!」

 

 ゲキは奥歯を噛んだ。

 一体一体は弱い。

 だが、倒した数以上に新しい個体が生み出される。

 正面から全てを倒し続けても、きりがない。

 

「何かあるはずだ」

 

 ゲキはコメンテイター・デビガノイドを睨む。

 

「この数を生み出している元が……!」

 

 少し離れた場所。

 薄紫色の結界の中で、エミカは戦いを見つめていた。

 

「頑張って……!」

 

 預けられた霊火が、エミカの隣で静かに燃えている。

 黒い文字が結界へ触れるたび、霊火が揺れ、それを薄紫の光へ変えて消していく。

 

 エミカは戦えない。

 今できるのは、三人を応援することだけ。

 そう思っていた。

 だが、長年魔法少女として戦ってきた経験が、目の前の異変を見逃さなかった。

 

「……あれ?」

 

 コメンテイター・デビガノイドの右脇腹。

 そこには、三本の短いアンテナを備えた箱形の装置が埋め込まれている。

 側面に並んだ小さなランプが、激しく点滅していた。

 新しいスラングドールが生まれるたび、装置の点滅が速くなる。

 そして、ゲキの攻撃によってデビガノイドの体勢が大きく崩れた瞬間。

 装置のランプが一瞬だけ消えた。

 

 ——その時、周囲のスラングドールの輪郭も同時に薄くなった。

 

「今の……」

 

 エミカは目を凝らす。

 三本のアンテナ。点滅する通信ランプ。四角い本体。

 

 どこかで見たことがある。

 

 家にもある。

 

 ジムの事務所にも置かれている。

 

「ルーター……?」

 

 そうだ。

 

 インターネットへ接続するための装置。

 あの怪物は、ネット上の悪意を使ってスラングドールを作っている。

 ならば、あの装置を壊せば。

 

「お父さん!」

 

 エミカは大きく息を吸った。

 

「お父さん! 脇腹の装置!」

 

 戦闘音に負けないよう、腹の底から声を出す。

 

「右の脇腹にあるルーターを攻撃して!」

 

「ルーター!?」

 

 ゲキが振り返る。

 

「新しい怪物が生まれる時、あそこのランプが光ってる! ネットにつながるための装置かもしれない!」

 

 ローズもデビガノイドの脇腹を見る。

 

「確かに、あそこだけ不自然に点滅しているわ!」

 

「エミカ殿の観察眼、見事です!」

 

 キヨナガが錫杖を構える。

 

「ゲキ殿! 道は我らが開きます!」

 

「頼む!」

 

 ローズが前へ出る。

 迫ってくるスラングドールを前に、マジカル・ウィップを大きく振り回した。

 

「邪魔よ!」

 

 薔薇色の鞭が地面を叩く。

 無数の花弁が激流のように広がり、スラングドールの群れを左右へ押し流した。

 

 ゲキからデビガノイドまで、一本道が作られる。

 

「キヨナガ!」

 

「動きを封じます!」

 

 キヨナガは錫杖を両手で握り、地面へ深く突き立てた。

 

『スピリット・シャクジョウ・バインド!』

 

 三つの霊火が飛ぶ。

 霊火はデビガノイドの両腕と首へ絡みつき、薄紫色の光の鎖へ変わった。

 

『離せ』

『卑怯』

『自由にしろ』

 

「人を傷つける自由など、認めるわけにはいきませぬ!」

 

 キヨナガが錫杖を握りしめる。

 コメンテイター・デビガノイドの動きが止まった。

 

「今です、ゲキ殿!」

 

「おおおおおおっ!」

 

 ゲキが一直線に駆ける。

 マジカル・ショットガンを両手で握り、点滅する通信装置へ銃口を突きつけた。

 

『やめろ』

『接続が』

 

「こいつが元凶か!」

 

 ゲキの指が引き金へかかる。

 

『マキシマム・ゼロレンジ・ショット!』

 

 至近距離から放たれた魔法の散弾が、脇腹の通信装置へ叩き込まれた。

 

 爆音。

 

 三本のアンテナが吹き飛ぶ。

 箱形の装置が内部から破裂し、点滅していたランプが全て消えた。

 

『――接続切断』

 

 コメンテイター・デビガノイドの画面に、大きな文字が表示される。

 

 次の瞬間。

 周囲のスラングドールたちが、一斉に動きを止めた。

 

『不要』

 

『役立た――』

 

『消え――』

 

 顔のコメント欄が激しく点滅する。

 

 一体。二体。十体。

 

 全てのスラングドールの輪郭が透けていく。

 黒い吹き出しの体が、文字の粒となって崩れ始めた。

 

 そして。

 

 音もなく、一斉に消滅した。

 空中に浮かんでいた黒いコメント欄も、次々と表示を失っていく。

 

「やった……!」

 

 結界の中で、エミカが声を上げた。

 

「しまったああああああっ!」

 

 集合住宅の屋上から、博士の絶叫が響いた。

 

「通信装置を破壊されました!」

 

 操作端末を何度叩いても、画面には同じ表示しか出ない。

 

『オフライン』

 

『接続できません』

 

『再試行してください』

 

 タカワラーイ婦人の目が、ゆっくりと細くなる。

 

「……博士」

 

「は、はい?」

 

「どうして、あんな分かりやすい場所に弱点を取り付けたのですか?」

 

「ネットへ接続しなければ、スラングドールを生成できないからです!」

 

「だったら、通信装置を二つ付ければよかったでしょう!」

 

「予算がありませんでした!」

 

「では、4Gとか5Gとかを予備回線に使えばよかったのでは?」

 

「SIMを契約していません!」

 

「契約しなさいよ!」

 

「だって婦人、通信契約してないじゃないですか!」

 

「そこを何とかするのが博士でしょう!」

 

「通信費を出してくれなかったのは婦人ですよ!」

 

「私のせいにしないでください!」

 

 二人が屋上で言い争っている間にも、戦況は大きく変わっていた。

 スラングドールを失ったコメンテイター・デビガノイドは、一体だけで道路の中央に取り残されていた。

 

『ネットがない』

 

 液晶画面が激しく乱れる。

 

『接続できない』

『更新できない』

『コメントが来ない』

 

 両腕のガトリングを乱射する。

 

 だが、先ほどまでの精密さはない。

 

『ネットなしでは生きられない!』

 

「だったら一度、画面を閉じろ!」

 

 ゲキが懐へ飛び込む。

 文字弾を肩で弾き、コメンテイター・デビガノイドの背後へ回った。

 両腕を怪物の脇の下へ通し、後ろから強く締め上げる。

 

「ぬおおおおおっ!」

 

 筋肉が大きく膨れ上がる。

 コメンテイター・デビガノイドの両腕が完全に封じられた。

 

『離せ』

『苦しい』

『暴力反対』

 

「ローズ! キヨナガ!」

 

「胸の装甲ね!」

 

「承知しました!」

 

 ローズがマジカル・ウィップを振るう。

 薔薇色の鞭が胸部装甲へ巻きついた。

 

『マジカル・ローズ・クラッシュ!』

 

 鞭を強く引く。

 悪魔の口を思わせる胸部装甲が、軋みながら左右へ開き始める。

 その隙間へ、キヨナガが踏み込んだ。

 

 錫杖を両手で握り、三つの霊火を先端へ集める。

 

『シャクジョウ・スピリット・ブレイク!』

 

 霊火をまとった錫杖が、胸部装甲の中央へ叩き込まれた。

 

 黒い装甲に亀裂が走る。

 

 一撃。二撃。三撃。

 

 ついに胸部装甲が砕け、赤黒く濁った球体が露出した。

 

 デモンコア。

 

 球体の中で、人間の影が苦しそうに揺れている。

 ゲキは怪物を押さえたまま、そのコアへ向かって声を上げた。

 

「聞こえているか!」

 

『黙れ』

 

「他人を引きずり下ろす暇があるなら、その力を自分のために使え!」

 

『無理だ』

『どうせ俺なんか』

『何をしても意味がない』

 

「一日で変われとは言わん!」

 

 ゲキの腕に、さらに力が入る。

 

「腕立て一回でも、スクワット一回でもいい! 昨日の自分より、一歩だけ前へ進め!」

 

『そんなことで……』

 

「小さな一歩を笑うな!」

 

 ゲキが叫ぶ。

 

「努力しても、すぐには誰にも認められないかもしれん! だが、少しずつ続ければ、その姿を見てくれる人間には、いつか必ず出会える!」

 

 デモンコアが、わずかに脈打った。

 

「陰で誰かを貶めても、お前の価値は上がらん!」

 

『……』

 

「他人へ向けていた力を、自分のために使うんだ!」

 

 液晶画面を流れていた文字が、一瞬だけ止まる。

 その隙を、三人は見逃さなかった。

 

「ゲキ! 離れて!」

 

 ローズの声に、ゲキが拘束を解く。

 コメンテイター・デビガノイドの背中を蹴り、ローズとキヨナガの隣へ着地した。

 

 三人が横一列に並ぶ。

 

 ゲキがマジカル・ショットガンを構える。

 ローズがマジカル・ウィップを大きく広げる。

 キヨナガがマジカル・シャクジョウを天へ掲げる。

 

「三人で浄化するぞ!」

 

「もちろんよ!」

 

「精霊様の御力、お借りします!」

 

 三人の魔力が、一つへ集まり始める。

 

 ピンク。

 

 薔薇色。

 

 薄紫。

 

 三色の光が螺旋を描き、悪魔空間の空へ昇っていく。

 

「ところで、三人の合体技の名前は決まっているの?」

 

 ローズが尋ねる。

 

「今聞くのか!?」

 

「名前は魂の器ですぞ!」

 

 キヨナガが真剣に言う。

 

「なら、強大さを示す《ギガンデス》を!」

 

「魔法少女なんだから《マジカル》は絶対よ!」

 

「もう全部つなげろ!」

 

 ゲキが叫んだ。

 

「最後は勢いで《メガギガボンバー》だ!」

 

「ナンデスも入れたいですな!」

 

「何でだ!?」

 

「語感です!」

 

「もうそれでいいわ!」

 

 三人は同時に武器を突き出した。

 

『『『ギガンデス・マジカルナンデス・メガギガボンバー!!』』』

 

 マジカル・ショットガンから、巨大なピンクの魔力弾が放たれる。

 ローズの鞭が魔力弾へ巻きつき、薔薇色の螺旋を作る。

 キヨナガの錫杖から放たれた三つの霊火が、その中心へ飛び込んだ。

 

 三人の力が一つになった巨大な魔法弾が、コメンテイター・デビガノイドの胸部へ直撃する。

 

『やめろ』

 

 液晶画面に文字が浮かぶ。

 

『消えたくない』

 

『誰かに見てほしい』

 

『誰かに認めてほしい』

 

 ゲキは、ショットガンを握る手に力を込める。

 

「だったら、戻ってこい!」

 

 巨大な魔法弾がデモンコアを包み込む。

 

「悪意の中から、自分の足で出てこい!」

 

 ピンク。

 

 薔薇色。

 

 薄紫。

 

 三色の光が爆発した。

 

『アアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 コメンテイター・デビガノイドの絶叫が響く。

 だが、その声に混ざっていた無数の罵倒が、一つずつ消えていく。

 

『不要』

 

 消える。

 

『役立たず』

 

 消える。

 

『時代遅れ』

 

 消える。

 

『代わりはいくらでもいる』

 

 最後の文字が砕け散った。

 液晶画面の光が消える。

 黒い金属の体が三色の光に包まれ、細かな粒子へ変わっていく。

 そして、中心に残ったデモンコアが、澄んだ音と共に砕けた。

 悪魔エネルギーだけが浄化され、その中から一人の男が投げ出される。

 ゲキが駆け寄り、地面へ落ちる前に受け止めた。

 

 伸びた髪。無精ひげ。不健康そうな白い顔。

 男は薄く目を開けた。

 

 悪魔空間が崩れていく。

 空中に浮かんでいた黒いコメント欄が消え、紫色の薄闇が晴れていく。

 

 久しぶりの青空が、男の目に映った。

 

「……まぶしい」

 

 男は目を細めた。

 何日も、何週間も。

 閉め切ったカーテンの向こうにあった空。

 

 それを男は、ひどく遠いものを見るように眺めていた。

 

 ゲキは男を地面へゆっくり下ろす。

 

「アンチコメントを書くために使っていた力を、今度は自分のために使え」

 

「……無理だよ」

 

 男の声は弱かった。

 

「俺には……何もないし」

 

「なら、まずは身体を動かせ」

 

「……は?」

 

「いきなり外へ出ろとは言わん。部屋の中で立ち上がれ」

 

 ゲキは真剣な顔で言う。

 

「立てたら、スクワットを一回!」

 

「な、なんで……筋トレ……」

 

「身体を動かせば、少なくとも一分前とは違う自分になる」

 

「そんな……単純な……」

 

「最初の一歩は、単純でいいさ」

 

 男は何か言い返そうとした。

 だが、力が残っていなかった。

 

「……暑苦しい」

 

「ハハ。よく言われる」

 

 男は、その言葉を最後に意識を失った。

 すぐにC.H.A.R.M.の救護班が駆け寄ってくる。

 

「対象者の生存を確認! 担架を!」

 

「周辺住民の救護を続けてください!」

 

 悪魔空間が完全に消滅する。

 集合住宅の上に、青空が広がった。

 

「お父さん!」

 

 薄紫色の結界が消える。

 預けられていた霊火がエミカの周囲を一周し、キヨナガの元へ戻っていった。

 エミカがゲキたちへ駆け寄ろうとする。

 

 その右足が少しだけ痛み、動きが止まった。

 

「落ち着け。怪我に響くぞ、エミカ」

 

 ゲキがすぐに止める。

 

「……はい」

 

 エミカは素直に歩き始めた。

 その様子に、ローズが小さく笑う。

 

「少しは聞き分けがよくなったみたいね」

 

「一時的だろうな」

 

「聞こえてるよ、お父さん」

 

 エミカは不満そうに言いながらも、どこか晴れやかな顔をしていた。

 

 ——その光景を、集合住宅の屋上からタカワラーイ婦人が睨みつけている。

 

 隣では、イタヴリ博士が頭を抱えていた。

 

「私の最高傑作が……!」

 

「私のノートPCもです!」

 

「そこですか!?」

 

「あれ、本当に高かったんですよ!」

 

 婦人は悔しそうに扇子を握る。

 戦えないはずのフラワーメイデンが弱点を見抜いた。

 急造の三人組は、悪意を浴びても互いを支え、最後まで折れなかった。

 しかも、浄化された人間へ手まで差し伸べている。

 

「戦えない少女にまで、作戦を崩されるとは……腐っても魔法少女ですわね」

 

 婦人は唇を噛む。

 

「それに……言葉で折れない相手ほど、面倒なものはありませんわ」

 

「ふ、婦人! 撤退しましょう! C.H.A.R.M.が屋上まで来ます!」

 

「分かっています!」

 

 婦人が扇子を振るう。

 

 二人の足元に黒紫の魔法陣が広がった。

 

「覚えていなさい、マジカルドースリー! 次は通信契約を済ませてから来ます!」

 

「もう意味ないですよ!」

 

 二人の姿が、黒紫の光の中へ消えた。

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