魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。 作:ワタリ3@ぼちぼち浮上
「お前が帰ってくる場所を、俺たちが守る」
ゲキ・マキシマムの全身を、ピンクの魔力が駆け巡る。
その背後で、エミカは父の背中を見つめていた。
悪魔空間の空には、今も黒いコメント欄が浮かんでいる。
『時代遅れ』
『もう必要ない』
『代わりはいくらでもいる』
悪意ある文字が雨のように降り続け、コメンテイター・デビガノイドの背中からは、新たなスラングドールが次々と生み出されていた。
「ゲキ殿!」
キヨナガ・スピリットが声を上げる。
エミカを守っていた霊火の結界が、大きく揺らいでいた。
黒い文字とスラングドールが、外側から絶えず結界を叩いている。
キヨナガは胸の前で両手を合わせた。
その周囲には、四つの薄紫色の霊火が浮かんでいる。
キヨナガ・スピリットの魔力によって生み出された、精霊の加護を宿す炎。
悪意を焼き、心を守り、精霊の力を必要とする者へ分け与えるための霊火だ。
「エミカ殿!」
「はい!」
「これを、あなたに預けます!」
キヨナガが片手を前へ差し出す。
四つの霊火のうち、一つが円を描きながら離れ、エミカの前へ飛んできた。
薄紫色の炎が、エミカの胸元でふわりと止まる。
熱くはない。
柔らかく、どこか懐かしい温かさだった。
「私の霊火は、精霊様への敬意と、守る意志によって形を保ちます!」
キヨナガは声を張る。
「一つをエミカ殿に預けることで、私が離れた後も、その炎が結界を維持してくれるでしょう!」
「私が持っていても、大丈夫なんですか?」
「無論です!」
キヨナガは力強く頷いた。
「霊火は、守りたいという心に応えます! 今のエミカ殿であれば、何の問題もありません!」
霊火がゆっくりと下降する。
エミカの足元へ触れた瞬間、薄紫の光が円形に広がった。
幾重もの光の輪が重なり、エミカの周囲を包み込む。
キヨナガが手を離しても、結界は消えない。
預けられた霊火が中心で静かに燃え続け、降り注ぐ悪意の文字を薄紫の火で焼き払っていた。
ローズとキヨナガも、ゲキの隣へ並んだ。
三人の前では、コメンテイター・デビガノイドが両腕のガトリングを回転させている。
液晶画面の顔には、無数の文字が流れていた。
『古い魔法少女など不要!』
『強い者だけが残ればいい!』
『数こそ民意! 数こそ正義!』
その言葉を見た瞬間、ゲキの眉間に深い皺が刻まれた。
拳を握る音が鳴る。
「
低い声だった。
だが、悪魔空間全体が震えたように感じるほど、重い怒りが込められていた。
「何人に支持されたか。褒められたか。そんな数字だけで、あいつが守ってきたものを測るんじゃない!」
ゲキが右腕を広げる。
ピンクの光が集まり、長大な銃身を形成していく。
現れたのは、可愛らしい装飾と無骨な銃身を併せ持つレバーアクションの散弾銃。
「マジカル・ショットガン!」
ゲキはそれを片手で構えた。
「誰かの思いを、流行り廃りで語るんじゃないわ」
ローズも隣でマジカル・ウィップを振るう。
薔薇色の光が軌跡を描き、周囲の黒い文字を切り裂いた。
「本人が歩き続ける限り、何度だって咲くのよ!」
最後に、キヨナガが両手を合わせた。
「人を傷つける言葉に、悟りなどありません!」
三つの霊火が縦に並び、薄紫色の光の柱へ変わる。
キヨナガが光の中へ手を差し入れると、長い柄を持つ武器がゆっくりと姿を現した。
先端には複数の金属輪。
輪には精霊を模した小さな装飾がつけられ、動くたびに澄んだ音を鳴らす。
錫杖型の魔法武器だった。
「——マジカル・シャクジョウ!」
キヨナガは錫杖の石突きを地面へ打ちつける。
じゃらん、と金属輪が鳴り、薄紫色の波紋が周囲へ広がった。
ゲキがキヨナガの武器を眺める。
「少しだけ魔法少女の武器らしいな」
「ゲキ」
ローズが小さく呟く。
「先端に飾りがついただけで、名前は錫杖そのままよ」
「マジカルを付けました!」
「付けただけじゃない!」
『茶番』
コメンテイター・デビガノイドの画面に、大きな文字が現れた。
『寒い』
『痛い』
『滑っている』
「お前にだけは言われたくない!」
三人が同時に動いた。
最初に飛び出したのはローズだった。
薔薇色の鞭が地面を走り、群がっていたスラングドールの足元へ絡みつく。
「どきなさい!」
ローズが腕を振り上げた。
十体近いスラングドールが一斉に宙へ舞い、道路の反対側へ叩きつけられる。
空いた道を、ゲキが駆け抜けた。
コメンテイター・デビガノイドが両腕のガトリングを向ける。
『不要』
『父親失格』
『娘の邪魔』
『時代遅れ』
黒い文字弾が一斉に発射された。
ゲキはマジカル・ショットガンを前へ向ける。
轟音。
ピンクの散弾が文字弾と正面から衝突した。
空中で無数の文字が弾け、黒い煙へ変わる。
「キヨナガ!」
「承知!」
キヨナガが錫杖を横へ振る。
金属輪が激しく鳴り、三つの霊火が螺旋状に飛び出した。
『シャクジョウ・スピリット・スマッシュ!』
霊火をまとった錫杖が、コメンテイター・デビガノイドの肩へ叩き込まれる。
黒い装甲がへこみ、巨体が大きく傾いた。
「ローズ殿!」
「任せなさい!」
ローズがデビガノイドの背後へ回り込む。
マジカル・ウィップが両脚へ巻きついた。
『マジカル・ローズ・バインド!』
鞭を引く。
デビガノイドの両脚が拘束され、その巨体が膝をついた。
「ゲキ!」
「おおっ!」
ゲキが接近し、マジカル・ショットガンの銃床を振り下ろす。
頭部のノートPCへ直撃。
液晶画面が激しく乱れた。
『やめろ』
『壊すな』
『暴力反対』
『通報する』
「人を襲っておいて、今さら被害者ぶるな!」
ゲキがもう一度銃床を叩きつける。
だが、その直後だった。
コメンテイター・デビガノイドの背中から、大量の黒い文字が噴き出した。
『助けて』
『卑怯』
『三人がかり』
『魔法少女の横暴』
文字が空中で固まり、数十体ものスラングドールへ変わる。
「また増えたわ!」
ローズの周囲へ、黒い吹き出しの群れが殺到する。
鞭を振るい、数体をまとめて叩き落とす。
キヨナガも錫杖で応戦するが、預けた霊火の分だけ広範囲への浄化力は落ちている。
「数が多すぎますな!」
「本体を攻めようとすると、こいつらが邪魔をする!」
ゲキは奥歯を噛んだ。
一体一体は弱い。
だが、倒した数以上に新しい個体が生み出される。
正面から全てを倒し続けても、きりがない。
「何かあるはずだ」
ゲキはコメンテイター・デビガノイドを睨む。
「この数を生み出している元が……!」
少し離れた場所。
薄紫色の結界の中で、エミカは戦いを見つめていた。
「頑張って……!」
預けられた霊火が、エミカの隣で静かに燃えている。
黒い文字が結界へ触れるたび、霊火が揺れ、それを薄紫の光へ変えて消していく。
エミカは戦えない。
今できるのは、三人を応援することだけ。
そう思っていた。
だが、長年魔法少女として戦ってきた経験が、目の前の異変を見逃さなかった。
「……あれ?」
コメンテイター・デビガノイドの右脇腹。
そこには、三本の短いアンテナを備えた箱形の装置が埋め込まれている。
側面に並んだ小さなランプが、激しく点滅していた。
新しいスラングドールが生まれるたび、装置の点滅が速くなる。
そして、ゲキの攻撃によってデビガノイドの体勢が大きく崩れた瞬間。
装置のランプが一瞬だけ消えた。
——その時、周囲のスラングドールの輪郭も同時に薄くなった。
「今の……」
エミカは目を凝らす。
三本のアンテナ。点滅する通信ランプ。四角い本体。
どこかで見たことがある。
家にもある。
ジムの事務所にも置かれている。
「ルーター……?」
そうだ。
インターネットへ接続するための装置。
あの怪物は、ネット上の悪意を使ってスラングドールを作っている。
ならば、あの装置を壊せば。
「お父さん!」
エミカは大きく息を吸った。
「お父さん! 脇腹の装置!」
戦闘音に負けないよう、腹の底から声を出す。
「右の脇腹にあるルーターを攻撃して!」
「ルーター!?」
ゲキが振り返る。
「新しい怪物が生まれる時、あそこのランプが光ってる! ネットにつながるための装置かもしれない!」
ローズもデビガノイドの脇腹を見る。
「確かに、あそこだけ不自然に点滅しているわ!」
「エミカ殿の観察眼、見事です!」
キヨナガが錫杖を構える。
「ゲキ殿! 道は我らが開きます!」
「頼む!」
ローズが前へ出る。
迫ってくるスラングドールを前に、マジカル・ウィップを大きく振り回した。
「邪魔よ!」
薔薇色の鞭が地面を叩く。
無数の花弁が激流のように広がり、スラングドールの群れを左右へ押し流した。
ゲキからデビガノイドまで、一本道が作られる。
「キヨナガ!」
「動きを封じます!」
キヨナガは錫杖を両手で握り、地面へ深く突き立てた。
『スピリット・シャクジョウ・バインド!』
三つの霊火が飛ぶ。
霊火はデビガノイドの両腕と首へ絡みつき、薄紫色の光の鎖へ変わった。
『離せ』
『卑怯』
『自由にしろ』
「人を傷つける自由など、認めるわけにはいきませぬ!」
キヨナガが錫杖を握りしめる。
コメンテイター・デビガノイドの動きが止まった。
「今です、ゲキ殿!」
「おおおおおおっ!」
ゲキが一直線に駆ける。
マジカル・ショットガンを両手で握り、点滅する通信装置へ銃口を突きつけた。
『やめろ』
『接続が』
「こいつが元凶か!」
ゲキの指が引き金へかかる。
『マキシマム・ゼロレンジ・ショット!』
至近距離から放たれた魔法の散弾が、脇腹の通信装置へ叩き込まれた。
爆音。
三本のアンテナが吹き飛ぶ。
箱形の装置が内部から破裂し、点滅していたランプが全て消えた。
『――接続切断』
コメンテイター・デビガノイドの画面に、大きな文字が表示される。
次の瞬間。
周囲のスラングドールたちが、一斉に動きを止めた。
『不要』
『役立た――』
『消え――』
顔のコメント欄が激しく点滅する。
一体。二体。十体。
全てのスラングドールの輪郭が透けていく。
黒い吹き出しの体が、文字の粒となって崩れ始めた。
そして。
音もなく、一斉に消滅した。
空中に浮かんでいた黒いコメント欄も、次々と表示を失っていく。
「やった……!」
結界の中で、エミカが声を上げた。
「しまったああああああっ!」
集合住宅の屋上から、博士の絶叫が響いた。
「通信装置を破壊されました!」
操作端末を何度叩いても、画面には同じ表示しか出ない。
『オフライン』
『接続できません』
『再試行してください』
タカワラーイ婦人の目が、ゆっくりと細くなる。
「……博士」
「は、はい?」
「どうして、あんな分かりやすい場所に弱点を取り付けたのですか?」
「ネットへ接続しなければ、スラングドールを生成できないからです!」
「だったら、通信装置を二つ付ければよかったでしょう!」
「予算がありませんでした!」
「では、4Gとか5Gとかを予備回線に使えばよかったのでは?」
「SIMを契約していません!」
「契約しなさいよ!」
「だって婦人、通信契約してないじゃないですか!」
「そこを何とかするのが博士でしょう!」
「通信費を出してくれなかったのは婦人ですよ!」
「私のせいにしないでください!」
二人が屋上で言い争っている間にも、戦況は大きく変わっていた。
スラングドールを失ったコメンテイター・デビガノイドは、一体だけで道路の中央に取り残されていた。
『ネットがない』
液晶画面が激しく乱れる。
『接続できない』
『更新できない』
『コメントが来ない』
両腕のガトリングを乱射する。
だが、先ほどまでの精密さはない。
『ネットなしでは生きられない!』
「だったら一度、画面を閉じろ!」
ゲキが懐へ飛び込む。
文字弾を肩で弾き、コメンテイター・デビガノイドの背後へ回った。
両腕を怪物の脇の下へ通し、後ろから強く締め上げる。
「ぬおおおおおっ!」
筋肉が大きく膨れ上がる。
コメンテイター・デビガノイドの両腕が完全に封じられた。
『離せ』
『苦しい』
『暴力反対』
「ローズ! キヨナガ!」
「胸の装甲ね!」
「承知しました!」
ローズがマジカル・ウィップを振るう。
薔薇色の鞭が胸部装甲へ巻きついた。
『マジカル・ローズ・クラッシュ!』
鞭を強く引く。
悪魔の口を思わせる胸部装甲が、軋みながら左右へ開き始める。
その隙間へ、キヨナガが踏み込んだ。
錫杖を両手で握り、三つの霊火を先端へ集める。
『シャクジョウ・スピリット・ブレイク!』
霊火をまとった錫杖が、胸部装甲の中央へ叩き込まれた。
黒い装甲に亀裂が走る。
一撃。二撃。三撃。
ついに胸部装甲が砕け、赤黒く濁った球体が露出した。
デモンコア。
球体の中で、人間の影が苦しそうに揺れている。
ゲキは怪物を押さえたまま、そのコアへ向かって声を上げた。
「聞こえているか!」
『黙れ』
「他人を引きずり下ろす暇があるなら、その力を自分のために使え!」
『無理だ』
『どうせ俺なんか』
『何をしても意味がない』
「一日で変われとは言わん!」
ゲキの腕に、さらに力が入る。
「腕立て一回でも、スクワット一回でもいい! 昨日の自分より、一歩だけ前へ進め!」
『そんなことで……』
「小さな一歩を笑うな!」
ゲキが叫ぶ。
「努力しても、すぐには誰にも認められないかもしれん! だが、少しずつ続ければ、その姿を見てくれる人間には、いつか必ず出会える!」
デモンコアが、わずかに脈打った。
「陰で誰かを貶めても、お前の価値は上がらん!」
『……』
「他人へ向けていた力を、自分のために使うんだ!」
液晶画面を流れていた文字が、一瞬だけ止まる。
その隙を、三人は見逃さなかった。
「ゲキ! 離れて!」
ローズの声に、ゲキが拘束を解く。
コメンテイター・デビガノイドの背中を蹴り、ローズとキヨナガの隣へ着地した。
三人が横一列に並ぶ。
ゲキがマジカル・ショットガンを構える。
ローズがマジカル・ウィップを大きく広げる。
キヨナガがマジカル・シャクジョウを天へ掲げる。
「三人で浄化するぞ!」
「もちろんよ!」
「精霊様の御力、お借りします!」
三人の魔力が、一つへ集まり始める。
ピンク。
薔薇色。
薄紫。
三色の光が螺旋を描き、悪魔空間の空へ昇っていく。
「ところで、三人の合体技の名前は決まっているの?」
ローズが尋ねる。
「今聞くのか!?」
「名前は魂の器ですぞ!」
キヨナガが真剣に言う。
「なら、強大さを示す《ギガンデス》を!」
「魔法少女なんだから《マジカル》は絶対よ!」
「もう全部つなげろ!」
ゲキが叫んだ。
「最後は勢いで《メガギガボンバー》だ!」
「ナンデスも入れたいですな!」
「何でだ!?」
「語感です!」
「もうそれでいいわ!」
三人は同時に武器を突き出した。
『『『ギガンデス・マジカルナンデス・メガギガボンバー!!』』』
マジカル・ショットガンから、巨大なピンクの魔力弾が放たれる。
ローズの鞭が魔力弾へ巻きつき、薔薇色の螺旋を作る。
キヨナガの錫杖から放たれた三つの霊火が、その中心へ飛び込んだ。
三人の力が一つになった巨大な魔法弾が、コメンテイター・デビガノイドの胸部へ直撃する。
『やめろ』
液晶画面に文字が浮かぶ。
『消えたくない』
『誰かに見てほしい』
『誰かに認めてほしい』
ゲキは、ショットガンを握る手に力を込める。
「だったら、戻ってこい!」
巨大な魔法弾がデモンコアを包み込む。
「悪意の中から、自分の足で出てこい!」
ピンク。
薔薇色。
薄紫。
三色の光が爆発した。
『アアアアアアアアアアアアアッ!』
コメンテイター・デビガノイドの絶叫が響く。
だが、その声に混ざっていた無数の罵倒が、一つずつ消えていく。
『不要』
消える。
『役立たず』
消える。
『時代遅れ』
消える。
『代わりはいくらでもいる』
最後の文字が砕け散った。
液晶画面の光が消える。
黒い金属の体が三色の光に包まれ、細かな粒子へ変わっていく。
そして、中心に残ったデモンコアが、澄んだ音と共に砕けた。
悪魔エネルギーだけが浄化され、その中から一人の男が投げ出される。
ゲキが駆け寄り、地面へ落ちる前に受け止めた。
伸びた髪。無精ひげ。不健康そうな白い顔。
男は薄く目を開けた。
悪魔空間が崩れていく。
空中に浮かんでいた黒いコメント欄が消え、紫色の薄闇が晴れていく。
久しぶりの青空が、男の目に映った。
「……まぶしい」
男は目を細めた。
何日も、何週間も。
閉め切ったカーテンの向こうにあった空。
それを男は、ひどく遠いものを見るように眺めていた。
ゲキは男を地面へゆっくり下ろす。
「アンチコメントを書くために使っていた力を、今度は自分のために使え」
「……無理だよ」
男の声は弱かった。
「俺には……何もないし」
「なら、まずは身体を動かせ」
「……は?」
「いきなり外へ出ろとは言わん。部屋の中で立ち上がれ」
ゲキは真剣な顔で言う。
「立てたら、スクワットを一回!」
「な、なんで……筋トレ……」
「身体を動かせば、少なくとも一分前とは違う自分になる」
「そんな……単純な……」
「最初の一歩は、単純でいいさ」
男は何か言い返そうとした。
だが、力が残っていなかった。
「……暑苦しい」
「ハハ。よく言われる」
男は、その言葉を最後に意識を失った。
すぐにC.H.A.R.M.の救護班が駆け寄ってくる。
「対象者の生存を確認! 担架を!」
「周辺住民の救護を続けてください!」
悪魔空間が完全に消滅する。
集合住宅の上に、青空が広がった。
「お父さん!」
薄紫色の結界が消える。
預けられていた霊火がエミカの周囲を一周し、キヨナガの元へ戻っていった。
エミカがゲキたちへ駆け寄ろうとする。
その右足が少しだけ痛み、動きが止まった。
「落ち着け。怪我に響くぞ、エミカ」
ゲキがすぐに止める。
「……はい」
エミカは素直に歩き始めた。
その様子に、ローズが小さく笑う。
「少しは聞き分けがよくなったみたいね」
「一時的だろうな」
「聞こえてるよ、お父さん」
エミカは不満そうに言いながらも、どこか晴れやかな顔をしていた。
——その光景を、集合住宅の屋上からタカワラーイ婦人が睨みつけている。
隣では、イタヴリ博士が頭を抱えていた。
「私の最高傑作が……!」
「私のノートPCもです!」
「そこですか!?」
「あれ、本当に高かったんですよ!」
婦人は悔しそうに扇子を握る。
戦えないはずのフラワーメイデンが弱点を見抜いた。
急造の三人組は、悪意を浴びても互いを支え、最後まで折れなかった。
しかも、浄化された人間へ手まで差し伸べている。
「戦えない少女にまで、作戦を崩されるとは……腐っても魔法少女ですわね」
婦人は唇を噛む。
「それに……言葉で折れない相手ほど、面倒なものはありませんわ」
「ふ、婦人! 撤退しましょう! C.H.A.R.M.が屋上まで来ます!」
「分かっています!」
婦人が扇子を振るう。
二人の足元に黒紫の魔法陣が広がった。
「覚えていなさい、マジカルドースリー! 次は通信契約を済ませてから来ます!」
「もう意味ないですよ!」
二人の姿が、黒紫の光の中へ消えた。