魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。 作:ワタリ3@ぼちぼち浮上
物語の大筋に変更はありませんが、人物設定や負傷状態、一部の描写を最新の内容へ更新しています。既読の方は、気になる場合に読み返していただければ幸いです。
「こっちにはないニャ!」
数十分後。
マジルカニャンニャとユーギは、森の中を並んで歩いていた。
「兜って、どんな形なのだ?」
「黒を基調とした、武者兜でござる。両脇には丸い耳を模した飾りがある」
「猫耳兜なのだ!」
「可愛いニャ!」
「可愛いだけではない。姫様より賜りし、由緒正しき兜でござる」
「姫様?」
ユーギの口が止まる。
「……昔世話になった、尊き御方でござる」
「ふうん」
ペルシャニャンニャは、また少し疑わしそうに見る。
その時。
「あっ、あったニャ!」
ミケニャンニャが叫んだ。
全員が振り返る。
茂みの向こうに、黒いものが見えていた。
ユーギの目が鋭くなる。
「兜か!」
ミケニャンニャが駆け寄り、黒い物体を持ち上げた。
「見つけたニャ!」
それは――。
真っ黒な、半分腐った切り株。
「……違うでござる」
「ご、ごめんなさいニャ」
「形が似ていたペシャ」
「いや、全然似てないぜ」
さらに少し進む。
「今度こそ見つけたニャ!」
ミケニャンニャが持ち上げたのは、捨てられた黒い鍋。
「違うでござる」
「兜っぽいニャ!」
「思いっきり鍋だぜ」
また少し進む。
「これはどうニャ!」
ミケニャンニャが掲げたのは、黒い亀だった。
「生物でござる」
亀が手足を引っ込める。
「ごめんなさいニャ!」
「……ミケ、黒くて丸い物を片っ端から持ってくるのやめるミケ」
ミッケが呆れたように言った。
ユーギは、そんなミケニャンニャを見つめる。
少し抜けている。
だが、誰かのために一生懸命になれる。
「……
「何か言ったニャ?」
「何も」
ユーギは即座に答える。
その先では、ペルシャニャンニャが枝を払い、歩きやすい道を作っている。
「ミケ、足元を見ろ。さっきから根っこに引っかかりすぎだ」
「大丈夫ニャ!」
言った直後、ミケニャンニャの爪先が木の根に引っかかった。
「ニャッ!?」
「おっと」
倒れかけた体を、ペルシャニャンニャが片腕で支える。
「だから言っただろ」
「ありがとうニャ、ペルシャ」
「まったく。リーダーなんだから、もう少し落ち着け」
「ペルシャは優しいニャ」
「いや、普通だ」
そう言いながら、ペルシャニャンニャはミケの衣装についた葉を払っている。
ユーギの胸に、温かなものが広がる。
「……
「シローさん?」
「精神統一の言葉でござる」
「変わった精神統一だぜ」
その時、背中へ柔らかな感触が押しつけられた。
「むっ!?」
ユーギの尻尾が立つ。
マンチカンニャンニャが、後ろから抱きつき、背中を撫で回す。
「シローさん、ふかふかなのだ!」
「ま、待たれよ」
「白くて、ふわふわで、気持ちいいのだ!」
マンチカンニャンニャはユーギのふかふかな背中に頬を擦りつけながら、甲冑の隙間から覗く白い毛並みまで堪能していた。
ユーギの体が固まった。
「マンチカン、離れろ。初対面だぞ」
「精霊だから大丈夫なのだ!」
「どういう理屈だよ」
「カンキチより大きくて、抱き心地がいいのだ」
「俺と比べるなカン!」
カンキチが抗議する。
マンチカンニャンニャは気にせず、ユーギの毛並みを堪能していた。
「ふかふかなのだー」
「……」
ユーギの瞳が潤みかける。
胸がいっぱいだった。
だが、自分は敵側の戦士。婦人へ忠誠を誓った武士。
この幸福に身を委ねてはならない。
ユーギは両手を合わせる。
「……喝」
低く呟く。
心を静める。
雑念を捨てる。
マンチカンニャンニャの柔らかな頬の感触を、意識の外へ追い出す。
「シローさん、震えてるのだ?」
「武者震いでござる」
「何と戦ってるニャ?」
「己自身!」
「深いのだ……!」
まったく深くなかった。
その時。
ユーギの耳が、ぴくりと動いた。
「……この気配」
森の奥。
微かだが、確かに感じる。
長年、自分の悪魔エネルギーを受け止め続けてきた兜の反応。
「見つけた」
「兜ニャ?」
「おそらく」
ユーギは森の奥へ目を向ける。
気配は近い。
だが、同時に別の悪魔エネルギーも感じた。
先ほどから森に満ちていた、ユーギ自身とは異なる悪意。
それが、兜の反応と重なっている。
「手分けして探すべきでござる」
ユーギは静かに提案した。
「拙者は、あちらを見る」
「一人で大丈夫ニャ?」
「問題ない」
むしろ、ここから先へ三人を連れていくべきではない。
あの兜を身につければ、映像に記録されたユーギ・ザムライ・ニャンタの姿そのものになる。
三人の前で取り戻すわけにはいかなかった。
ユーギは三人へ背を向ける。
「何か見つけたら、大きな声で呼ぶでござる」
「分かったニャ!」
「勝手に遠くへ行くなよ」
「シローさん、また後で抱きしめさせてほしいのだ!」
「……善処いたす」
最後の一言だけ、少し声が震えていた。
Θ
三人から離れたユーギは、木々の間を素早く駆けた。
兜の気配は、間違いなく近づいている。
木の枝を払い、斜面を下り、深い茂みを抜ける。
やがて開けた場所へ出た。
そこは、倒木に囲まれた小さな窪地だった。
地面の中央に、黒紫色の影が立っている。
「……見つけた」
ユーギの目が細くなる。
探し続けていた兜。
黒い武者の兜。
猫耳を模した丸い飾りの兜。
間違いない。
婦人から賜った、大切な物。
だが、それを被っていたのは
『……ミナギル』
濁った声が響く。
兜の下にあるのは、煙のように揺らめく黒紫の肉体。
長い腕。
赤く吊り上がった目。
人のポジティブを食らい、ネガティブを撒き散らす異次元敵性存在。
——バッドデーモンだった。
通常の個体よりも、明らかに輪郭が濃い。
両腕には硬質な装甲のようなものが生まれ、黒紫色の肉体は筋肉を思わせる形へ変化している。
何より、その目には明確な知性があった。
『コノ兜ハスゴイ、オレノ物ニスル』
「否」
ユーギは腰の刀を抜く。
銀色の刃が、森の薄暗い光を反射した。
「それは拙者の兜」
バッドデーモンが、兜へ手を添える。
兜に刻まれた術式は、装着者から溢れる悪魔エネルギーを自動的に整えるよう作られている。
その機能は、バッドデーモンの不安定な力に対しても作用していた。
そのため肉体が安定し、力だけではなく、思考能力まで高まっているのだ。
『力ガ、ワカル』
バッドデーモンが腕を広げる。
『コレガアレバ、強クナル!』
森全体が震えた。
濃密なエネルギーが、風となって吹き抜ける。
ユーギは刀を構えた。
「その兜は、貴様のような下賤な悪魔もどきが触れてよいものではない」
『知ルカ、コレハ俺ノダ』
ユーギの瞳が鋭くなる。
「否!」
地面を蹴った。
小柄な体が、一瞬でバッドデーモンの懐へ入る。
「はっ!」
刀が閃いた。
銀色の軌跡が、バッドデーモンの胴を斜めに切り裂く。
黒紫の煙が噴き出した。
だが。
『キカヌ』
傷口が、すぐに塞がっていく。
「やはり、足りぬか!」
精霊の浄化の力がなくても、バッドデーモンを完全に消滅させる方法はある。
人間界側の肉体を通じ、異次元側のコアへ届くほどの膨大な悪魔エネルギーを叩き込む。
同質の力同士をぶつけ、コアごと相殺するという強引なやり方だ。
しかし、兜がなく暴走するリスクがある今のユーギにはできない手段。
バッドデーモンの腕が振るわれる。
ユーギは身を低くし、その下を潜った。
爪が背後の木を切り裂く。
太い幹が、音を立てて倒れた。
ユーギは倒れる木を足場に飛び上がり、兜へ向けて刀を振るう。
兜そのものを壊すつもりはない。
顎紐だけを切り、奪い取る。
兜さえ取り戻せれば、バッドデーモンごとき余裕で倒せる。
狙いは正確。
だが、バッドデーモンは頭を傾け、刃を避けた。
『ソコヲ、狙ウダロウナ』
「避けた!?」
反撃の拳が迫る。
ユーギは刀の腹で受ける。
凄まじい力。
「ぐっ……!」
小さな体が弾き飛ばされ、地面を転がった。
すぐに起き上がる。
身体能力だけなら、まだ戦える。
技量でも負けてはいない。
だが、相手は兜によって強化され、傷ついても再生する。
こちらは悪魔エネルギーを使えないも同然。
刀に力を通すことも、術式を展開することもできない。
「長引けば、不利か」
ユーギは呼吸を整える。
兜を取り返す。
そのためなら、多少の危険は承知の上。
ほんの少しだけなら、悪魔エネルギーを使っても――。
「……ならぬ」
すぐに考えを捨てる。
暴走すれば、兜を取り戻すどころではない。
近くには、マジルカニャンニャもいる。
彼女たちまで傷つける可能性がある。
「
ユーギは刀を構え直した。
「参る!」
再び駆ける。斬撃。回避。突き。受け流し。
二つの影が、森の窪地で激しく交差する。
ユーギの剣技は、バッドデーモンを上回っていた。
腕を切り裂き、足を払い、顎紐へ何度も刃を迫らせる。
だが、そのたびに相手は再生する。
一方、ユーギの傷は増えていく。
甲冑が砕ける。
腕に爪が掠る。
白い毛並みに赤い血が滲んだ。
『弱イ』
「まだでござる」
ユーギは踏み込み、刀を横薙ぎに振るう。
バッドデーモンが身を反らす。
その瞬間、ユーギは刀を手放した。
『?』
空いた両手で、バッドデーモンの兜を掴む。
「捕らえた!」
力いっぱい兜を引く。
顎紐が軋む。
あと少し。
あと少しで外れる。
だが。
『無駄ダ』
バッドデーモンの胸元から、黒紫の衝撃波が放たれた。
「ぐあっ!」
至近距離から受けたユーギの体が、倒木へ叩きつけられる。
背中に衝撃が走り、呼吸が止まる。
刀は手の届かない場所へ落ちていた。
立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
『オマエノ代ワリニ、コノ兜ヲ有効活用シテヤル』
バッドデーモンが近づき、黒紫の爪が持ち上がる。
ユーギは、それを見上げた。
悪魔エネルギーを使えば、避けられる。
一瞬だけ出力を上げ、相手の胸を貫くことも可能かもしれない。
だが、その後は分からない。
暴走するかもしれない。
自分を探し続けている婦人へ、刃を向けることになるかもしれない。
マジルカニャンニャを襲うかもしれない。
「……姫様」
ユーギは拳を握る。
「申し訳……ござらぬ」
爪が振り下ろされる。
その瞬間。
「シローさんから離れるニャ!」
ピンク色の光が、森を駆け抜けた。
無数のリボンがバッドデーモンの腕へ絡みつき、その動きを止める。
『ナニ!?』
「ペルシャ!」
「任せろ!」
青紫色の爪が閃く。
『ペルシャ・グレイス・クロー!』
巨大な魔力の爪が、バッドデーモンの脇腹を切り裂いた。
巨体が横へ弾かれる。
「とどめの追撃なのだ!」
黄色い光が地面を走る。
マンチカンニャンニャが、倒木を蹴って高く跳んだ。
『マンチ・スピード・スクラッチ!』
高速の連続蹴りが、バッドデーモンの胸元へ叩き込まれる。
黒紫の怪異は兜を押さえながら後退した。
ユーギの前へ、三人の魔法少女が並び立つ。
ピンク。
青紫。
黄色。
猫耳とリボンを揺らしながら、可憐な三つの影が敵へ向き合う。
ミケニャンニャが振り返った。
「大丈夫ニャ、シローさん?」
「……」
ユーギは答えられなかった。
胸の鼓動が、先ほどまでとは比べものにならないほど高鳴っている。
助けに現れた三人。
仲間を守るため、迷いなく敵の前へ立つ可憐な猫の乙女達。
ミケニャンニャが両手を構える。
「三色にゃんこが、悪い夢を引っ掻いて消すニャ!」
ペルシャニャンニャが鋭く爪を立てる。
「マジルカニャンニャ、出動だぜ!」
マンチカンニャンニャが、くるりと回って拳を上げた。
「シローさんの大切なものは、絶対に取り返すのだ!」
三人が並び、バッドデーモンへ向けて構える。
その背中を見つめながら。
ユーギ・ザムライ・ニャンタは、心の底から思った。
――
いい加減キヨナガ・スピリットのイラスト描きたいけど、少ない自由時間で執筆優先してるから描くタイミングがない!