魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。   作:ワタリ3@ぼちぼち浮上

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8-4 忠義と推しは別腹  

 

 ――()()

 

 ユーギ・ザムライ・ニャンタは、心の底からそう思った。

 三人の魔法少女が、自分を守るように並んでいる。

 

 中央に立つミケニャンニャ。

 わずかに前へ出て、敵の動きを見据えるペルシャニャンニャ。

 身を低くし、いつでも飛び出せるよう構えるマンチカンニャンニャ。

 

 可憐な猫の衣装が、森を抜ける風に揺れている。

 

「……なんという」

 

 ユーギの口から、震える声が漏れる。

 この胸の高鳴りを感じるのは、久しぶりだった。

 

 遥か昔にも、同じように心を奪われたことがある。

 だが、それがいつ、誰を前にした時だったのか。今は考えている場合ではない。

 

「シローさん、動けるニャ?」

 

 ミケニャンニャが、敵から視線を外さずに尋ねる。

 

「……問題ござらぬ」

 

「強い悪魔エネルギーを察知して来てみれば、ずいぶん無茶したな」

 

 ペルシャニャンニャは呆れた。

 

 ユーギは倒木へ片手をつき、ゆっくりと立ち上がった。

 背中に鈍い痛みが残っている。

 右腕の白い毛並みには、赤い血が滲んでいた。

 

 それでも骨までは折れていない。

 

「拙者のことは気にせず、目の前の敵へ集中されよ」

 

「分かったニャ」

 

 ミケニャンニャは頷いた。

 

「でも、無茶は駄目ニャ。危なくなったら、すぐ下がるニャ」

 

「……承知」

 

 ユーギの胸へ、再び温かなものが広がる。

 敵である自分に対してすら、この気遣い。

 

 実に立派。

 実に健気。

 

 そして――。

 

「尊いでござるな……」

 

「また精神統一してるのだ?」

 

 マンチカンニャンニャが振り返る。

 

「気にせず戦われよ」

 

「変な大精霊だぜ」

 

 ペルシャニャンニャはそう言いながらも、視線をバッドデーモンから外さなかった。

 

「こいつが反応の正体か」

 

 黒紫の怪異は、兜へ片手を添えたまま三人を観察している。

 以前のバッドデーモンとは明らかに違う。

 ただ目の前の相手へ襲いかかるのではない。

 誰が中央に立っているのか。誰が一番速いのか。誰が攻撃役なのか。

 

 赤い目が、三人の位置を順番になぞっていた。

 

『魔法少女』

 

 濁った声が響く。

 

『三匹』

 

「三匹じゃないニャ! 三人ニャ!」

 

『関係ナイ』

 

 バッドデーモンが兜の奥で笑った。

 

『今日ハ三匹ソロッテルナ。黄色ハ前回、居ナカッタ』

 

 その言葉に、ペルシャニャンニャの目が鋭くなる。

 

「こいつ、前の戦いを知ってるのか?」

 

「そんなはずないニャ」

 

「でも、あたしたちが一人欠けてたことを知ってるみたいだぜ」

 

 バッドデーモンの頭部で、黒い兜が脈打つ。

 

『ソレダケジャナイ、、()()()()()()ヲ知ッテイル!』

 

 兜によって知性が安定した結果、これまで倒された同族の記憶まで引き出せるようになったのか。

 それとも、別の要因があるのか。今の段階では分からない。

 

「……こんなに賢く喋るバッドデーモンは初めてだミケ!」

 

「それに今までの戦いを覚えてるって……どういうことニャ!」

 

 普通ではないのは確かだ。

 ミッケとミケニャンニャが戦慄した。

 バッドデーモンの赤い目が細くなる。

 

『今度コソ、貴様ラ魔法少女ヲ潰シテヤル!』

 

「どんなに賢くなっても、やることは変わらないのだ!」

 

 マンチカンニャンニャが地面を蹴った。

 

「マンチカン、先走るな!」

 

「大丈夫なのだ!」

 

 黄色い光が、一直線にバッドデーモンへ迫る。

 マンチカンニャンニャは、小柄な体をさらに低くする。

 相手の視線が追いつくより先に足元へ滑り込み、右脚へ向けて爪を振るった。

 

『マンチ・スピード・スクラッチ!』

 

 黄色い光の爪が、バッドデーモンの脛を切り裂く。

 黒紫の煙が噴き出した。

 だが。

 

『速イナ』

 

 バッドデーモンは倒れない。

 

『ダガ、軽イ!』

 

「なっ――」

 

 傷ついたはずの右脚が、素早く持ち上がる。

 蹴りだった。

 マンチカンニャンニャは両腕を交差させる。

 直撃は防いだ。

 

 しかし、小柄な体ごと持ち上げられるほどの衝撃までは消せない。

 

「わあっ!」

 

 黄色い体が宙へ浮いた。

 

「マンチカン!」

 

 ミケニャンニャが腕を振る。

 

「ミッケ!」

 

「任せるミケ!」

 

 ミッケの両手から、ピンクと白のリボンが放たれた。

 光の帯は飛ばされたマンチカンニャンニャの腰へ巻きつき、その体を空中で受け止める。

 

 ミケニャンニャが両足を踏ん張る。

 

「戻ってくるニャ!」

 

 リボンが縮み、マンチカンニャンニャを引き戻した。

 ミケニャンニャは胸で受け止めようとする。

 

 だが。

 

「二人とも、伏せろ!」

 

 ペルシャニャンニャが叫ぶ。

 バッドデーモンは、すでに追撃へ移っていた。

 黒紫の腕が伸びる。

 太い腕は途中から鞭のように形を変え、ミケニャンニャとマンチカンニャンニャをまとめて薙ぎ払おうとした。

 

 二人は同時に身を低くする。

 頭上を黒紫の腕が通り過ぎた。

 

 直後。

 

「ペシャ!」

 

「合わせるペシャ!」

 

 ペルシャニャンニャが前へ出る。

 右腕に青紫色の魔力が集まり、巨大な猫の爪を形作った。

 

『ペルシャ・グレイス・クロー!』

 

 伸びきったバッドデーモンの腕へ、魔力の爪が振り下ろされる。

 黒紫の腕が、肘から切断された。

 

『ギィッ!』

 

 切り離された腕が、煙となって地面へ散る。

 

「よし!」

 

 ペルシャニャンニャは、そのまま胸元へ踏み込もうとした。

 

「待たれよ!」

 

 ユーギの声が飛ぶ。

 バッドデーモンの切断面から、新しい腕が生え始めていた。

 再生した腕が、まだ懐へ踏み込んでいるペルシャニャンニャへ伸びる。

 

「ちっ!」

 

 ペルシャニャンニャは攻撃を中断し、後ろへ跳んだ。

 爪が胸元を掠める。

 衣装の表面に細い傷が走った。

 

「相変わらず再生が速すぎるぜ。それに……地味に賢い」

 

「兜で悪魔エネルギーが安定しているのでござる!」

 

 ユーギは思わず叫んでいた。

 

 三人の視線が、一瞬だけこちらへ向く。

 

「どうして分かるニャ?」

 

「そ、それは……」

 

 ユーギは言葉を詰まらせた。

 

 ペルシャニャンニャの目が、わずかに細くなる。

 

「シロー。あの兜はなんだ!」

 

「……」

 

「あの兜を外せば弱くなるニャ?」

 

 説明に困ったユーギにミケニャンニャが尋ねる。

 

「左様」

 

 ユーギは即答する。

 

「兜は力を生み出しているのではない。溢れる悪魔エネルギーを整えている。バッドデーモンは悪魔エネルギーの塊。ゆえに——」

 

「つまり、兜があるから力も知能も安定して、いつもより強くなってるのだ?」

 

「その通りでござる」

 

 マンチカンニャンニャが兜を見る。

 

「じゃあ、兜を外せばいいのだ!」

 

「簡単に言うな」

 

 ペルシャニャンニャは、兜を押さえているバッドデーモンの右手を指した。

 

「あいつも兜が弱点だって分かってる。さっきから右手を頭から離してない」

 

 黒紫の怪異は、三人の会話を理解していた。

 兜を押さえる指へ、さらに力を入れる。

 

『渡サナイ!』

 

「元々シローさんのものニャ!」

 

『今ハ、俺ノダ』

 

 バッドデーモンが地面を踏む。

 胸元から衝撃波が放たれた。

 

「散るニャ!」

 

 三人は同時に別方向へ跳んだ。

 衝撃波が中央を通り抜け、背後の倒木を粉々に砕く。

 木片と土が激しく舞った。

 

 視界が遮られる。

 その中から、バッドデーモンがペルシャニャンニャへ向かって飛び出した。

 

「ペルシャ!」

 

「見えてるぜ!」

 

 ペルシャニャンニャは両腕を構える。相手が最初に狙うのは、自分。

 これまで一番大きな傷を与えたからだ。

 

 バッドデーモンの爪が振り下ろされる。

 ペルシャニャンニャは正面から受けなかった。

 

 半歩だけ左へ動く。

 爪の外側へ体をずらし、腕を添えるように押した。

 軌道を逸らし、黒紫の爪が地面へ突き刺さった。

 

「今だ!」

 

 ペルシャニャンニャは相手の脇を通り抜ける。

 背後へ回り、兜の顎紐へ爪を伸ばした。

 

 しかし。

 

『読メテイル』

 

 バッドデーモンが、振り返ることなく肘を突き出した。

 

「っ!」

 

 ペルシャニャンニャは腕で受ける。

 重い衝撃が伝わり、体が後ろへ押された。

 

「こいつ……!」

 

 ペルシャニャンニャは着地する。

 

「読んできやがる」

 

『オマエガ切ル』

 

 バッドデーモンの赤い目が動く。

 

『ピンクガ、止メル』

 

 次にミケニャンニャを見る。

 

『黄色ガ、カク乱』

 

 マンチカンニャンニャへ。

 

『知ッテイル。ワカレバ、弱イ』

 

 三人の基本的な役割を理解している。

 

 ミケニャンニャが拘束する。

 ペルシャニャンニャが大きな攻撃を与える。

 マンチカンニャンニャが速度でかく乱する。

 

 それぞれが得意とする動きを読めば、次に何を狙ってくるかも予測できる。

 

「前までの私たちなら、そうだったニャ」

 

 ミケニャンニャが言った。

 

『?』

 

「私が止めて、ペルシャが攻撃して、マンチカンが後ろへ回る」

 

 ミケニャンニャは両腕を構え直す。

 

「でも、あれから特訓したニャ」

 

 ペルシャニャンニャが口元を上げる。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 マンチカンニャンニャも、足元へ黄色い光を集めた。

 

「誰か一人だけに、同じ役目を任せないようにしたのだ!」

 

 三人は、同時に動いた。

 最初に前へ出たのは、ミケニャンニャだった。

 

『ピンクガ、止メル』

 

 バッドデーモンが腕を広げる。

 リボンによる拘束へ備えた。

 しかし、ミケニャンニャはリボンを出さない。

 

 相手の懐まで走り込み、両脚で地面を蹴った。

 

『ミケ・ハッピー・スタンプ!』

 

 ピンク色の肉球を模した魔力が、足裏に集まる。

 跳び蹴りが、バッドデーモンの胸元へ直撃した。

 

『グッ!?』

 

 巨体が後ろへ下がる。

 ミケニャンニャは着地と同時に横へ転がり、その場から離れた。

 入れ替わるように、マンチカンニャンニャが中央へ入る。

 

『黄色ガ、カク乱!』

 

「今日は回らないのだ!」

 

 マンチカンニャンニャは、正面から左右の拳を振るう。

 小さな肉球型の魔力弾が、連続して飛んだ。

 

『マンチ・ラッシュ・パウンド!』

 

 黄色い魔力弾が、顔、胸、膝へ次々と命中する。

 一発ごとの威力は高くない。

 だが、狙いが細かい。

 

 バッドデーモンは兜を押さえたまま、空いた左腕で魔力弾を防ごうとする。

 その間に、ペルシャニャンニャが動いた。

 

 今回は攻撃役ではない。

 

「ペシャ、短く頼む!」

 

「任せるペシャ!」

 

 ペシャの魔力が、ペルシャニャンニャの両脚へ集中する。

 青紫色の光が強く輝く。

 その一瞬だけ、ペルシャニャンニャはマンチカンニャンニャを上回る速度で横へ走った。

 

『青ガ、切ル――』

 

「そう思うだろ?」

 

 ペルシャニャンニャは、バッドデーモンを攻撃せず通り過ぎた。

 そのままミケニャンニャのところまで走り、手を掴む。

 

「行くぜ!」

 

「ニャ!」

 

 勢いを保ったまま、ミケニャンニャを引っ張る。

 ペルシャニャンニャは軸足を止め、その場で大きく回転した。

 引かれたミケニャンニャの体が、円を描く。

 

「飛ぶニャあああっ!」

 

 ペルシャニャンニャが手を離す。

 ミケニャンニャは、バッドデーモンの頭上高くへ投げ上げられた。

 

『上!?』

 

 バッドデーモンが顔を上げる。

 ミケニャンニャは空中で両腕を広げた。

 

「ミッケ!」

 

「いくミケ!」

 

 ミッケの魔力が、今度こそ無数のリボンへ変わる。

 ただし、狙ったのはバッドデーモンの腕ではなかった。

 

 周囲の木々。

 左右の幹へリボンが巻きつき、木と木の間に何本もの光の帯を張り巡らせる。

 

 それは敵を直接縛るものではない。

 逃げ道を限定するための壁だった。

 

『邪魔!』

 

 バッドデーモンが前へ出ようとする。

 だが、正面ではマンチカンニャンニャが魔力弾を放ち続けている。

 

 左右には、光のリボン。

 後ろへ下がるしかない。

 

「そこだぜ!」

 

 ペルシャニャンニャが待ち構えていた。

 バッドデーモンは右手で兜を押さえている。

 

 使えるのは左腕だけ。

 ペルシャニャンニャは、左腕側から踏み込んだ。

 

 バッドデーモンが爪を振るう。

 ペルシャニャンニャは身を低くし、その下を潜る。

 狙いは胴でも、腕でもない。

 

 兜の下。

 

 頬の横から伸びる、黒い顎紐。

 

『ペルシャ・グレイス――』

 

 青紫色の爪が、細く絞られる。

 広く切り裂くための巨大な爪ではない。

 ただ一本の紐だけを断つための、鋭い刃。

 

『――スラッシュ!』

 

 光が走る。

 

 顎紐の片側が切れた。

 

『ギィィィッ!』

 

 兜が大きく傾く。

 だが、まだ外れない。

 バッドデーモンは右手で兜を押さえ込み、左腕を振り回した。

 

「まだだニャ!」

 

 空中から降りてきたミケニャンニャが、腕を振る。

 木々へ結ばれていたリボンの一部がほどけ、バッドデーモンの右手首へ巻きついた。

 もう一端は、太い木の幹へ固定されている。

 

『ミケ・ハッピー・リボン!』

 

 リボンが縮む。

 兜を押さえていた右腕が、頭から強引に引き離された。

 

『放セ!』

 

「マンチカン!」

 

「待ってたのだ!」

 

 マンチカンニャンニャは、すでに走り出していた。

 地面すれすれまで体を低くする。

 足元に黄色い光が集中する。

 

 バッドデーモンの正面へ滑り込み、片足を深く踏み込んだ。

 そして。

 

『マンチ・ライジング・ニャックル!』

 

 小さな拳を、真上へ突き上げた。

 黄色い肉球型の魔力が、兜の下端へ直撃する。

 残っていた顎紐が弾けた。

 勢いで黒い兜が、バッドデーモンの頭から外れる。

 

 くるくると回転しながら、宙高く飛んだ。

 

「兜!」

 

 ユーギが駆ける。

 痛む足を無理やり動かし、両腕を伸ばす。

 落下してきた兜を、胸元で受け止めた。

 

「……取り戻した」

 

 兜は傷ついていた。

 泥もついている。

 だが、形は保たれている。

 

 内側の制御術式も、まだ生きている。

 

「姫様……」

 

 ユーギは大切そうに兜を抱き締めた。

 一方。

 兜を失ったバッドデーモンの体に、異変が起きていた。

 

『ア……?』

 

 黒紫の輪郭が、大きく揺らぐ。

 右腕が膨れ上がったかと思えば、次の瞬間には細く萎む。

 背中から不揃いな棘が生え、すぐに煙となって消える。

 肉体を流れる悪魔エネルギーが、制御を失っていた。

 

『チカラ……』『オレノ』『チカラ……!』

 

 声も濁り、先ほどまでの知性が崩れていく。

 胸元の異次元の穴が、大きく広がった。

 そこから黒紫の腕が何本も飛び出す。

 

「来るニャ!」

 

 ミケニャンニャが叫ぶ。

 三人は横一列に並ばなかった。

 

 ミケニャンニャが正面。

 ペルシャニャンニャが右斜め。

 マンチカンニャンニャが左斜め。

 

 互いの間隔を広く取り、敵を三方向から囲む。

 

「精霊たちは、浄化の力を残してるニャ?」

 

「大丈夫ミケ!」

 

「まだ余裕があるペシャ!」

 

「カンキチも絶好調カン!」

 

 これまでの戦いでは、精霊たちは魔法少女の攻撃を常に支え続けていた。

 その結果、浄化へ入る頃には大きく消耗していた。

 だが今回は違う。

 

 必要な瞬間だけ、短く力を貸す。

 

 ミッケはリボンを張る時。

 ペシャはペルシャの脚を加速させる時。

 カンキチはマンチカンの最後の一撃へ力を集中させる時。

 

 それ以外は、三人自身の判断と身体能力で戦った。

 精霊たちには、まだ十分な魔力が残っている。

 

「一気に決めるニャ!」

 

「おう!」

 

「任せるのだ!」

 

 制御を失ったバッドデーモンが、何本もの腕を振り回す。

 最初に狙われたのは、中央のミケニャンニャだった。

 

 黒紫の腕が正面から迫る。

 ミケニャンニャは後ろへ逃げない。

 

 右へ走る。

 腕を引きつけながら、ペルシャニャンニャの方向へ移動した。

 

「交代ニャ!」

 

「任せろ!」

 

 ミケニャンニャとペルシャニャンニャが、走りながら位置を入れ替える。

 ペルシャニャンニャは正面へ出ると、迫る腕を魔力の爪で斜めに弾いた。

 

 腕の軌道が外へ逸れる。

 その隙に、ミケニャンニャが背後へ回る。

 今度は左から、別の腕が伸びた。

 

「次は私なのだ!」

 

 マンチカンニャンニャが前へ出る。

 正面から受け止めず、腕の外側を走った。

 相手の攻撃と同じ方向へ移動することで、衝撃を受けずにかわす。

 そのまま腕の上へ飛び乗り、肩まで駆け上がった。

 

「こっちなのだ!」

 

 マンチカンニャンニャが耳元で叫ぶ。

 バッドデーモンが、そちらへ顔を向ける。

 背後が空いた。

 

「ミケ!」

 

「分かってるニャ!」

 

 ミケニャンニャが両腕を突き出す。

 リボンがバッドデーモンの胴体へ巻きついた。

 

 今度は力で完全に拘束しようとはしない。

 動きを一瞬だけ止めればいい。

 

「ペルシャ!」

 

「ここだ!」

 

 ペルシャニャンニャが胸元へ踏み込む。

 魔力の爪を突き立て、異次元の穴を覆っている黒紫の塊を切り開いた。

 

 赤紫色のコアへ繋がる道が露出する。

 

『ギャアアアアアッ!』

 

 バッドデーモンが暴れる。

 リボンが軋む。

 

「長くは持たないニャ!」

 

「長く持たせる必要はないぜ!」

 

 ペルシャニャンニャは飛び退いた。

 マンチカンニャンニャも肩から跳び、仲間の横へ着地する。

 三人の前へ、それぞれの精霊が飛び出した。

 

 ミッケ。

 

 ペシャ。

 

 カンキチ。

 

 三体が空中で小さな手を重ねる。

 

「ミッケ!」

 

「ペシャ!」

 

「カンキチ!」

 

 三人の魔法少女も手を重ねた。

 

 ピンク。

 

 青紫。

 

 黄色。

 

 三色の光が、足元から立ち上る。

 

「みんなで無事に帰るニャ!」

 

「誰かが欠けても、崩れない!」

 

「誰も無理をしないで、ちゃんと勝つのだ!」

 

 三人と三匹の魔力が重なった。

 

『『『マジルカ・スピリット・ピュリファイ!』』』

 

 三色の光が、螺旋を描いて放たれる。

 光はバッドデーモンの胸元へ突き刺さり、開かれた異次元の穴を通ってコアへ届いた。

 

『イヤダ!』

 

 バッドデーモンが叫ぶ。

 

『モット』『チカラ』『ホシイ!』

 

「誰かの大切なものを奪って得た力なんて、本当の強さじゃないニャ!」

 

 ミケニャンニャが叫ぶ。

 

「力に振り回されてるだけじゃ、あたしたちは倒せないぜ!」

 

 ペルシャニャンニャが光を押し込む。

 

「悪い気持ちも、悪い夢も、全部引っ掻いて消すのだ!」

 

 三色の光が、さらに強くなる。

 バッドデーモンの黒紫の体が、足元から白く染まっていく。

 伸びていた腕が崩れる。

 棘が光の粒へ変わる。

 

 赤い目から、少しずつ悪意が消えていった。

 

『マブシイ……』

 

 小さな声。

 

『アタタカイ……』

 

 胸元の異次元の穴の奥で、赤紫色のコアが静かに弾けた。

 次の瞬間。

 

 バッドデーモンの体は、三色の光へ溶けるように消えていった。

 黒紫に濁っていた森の空気が晴れる。

 木々の間から、柔らかな日差しが差し込んだ。

 

 森に満ちていたバッドデーモンの悪魔エネルギーは、消え去った。

 

「……やったニャ」

 

 ミケニャンニャが息を吐く。

 

「今回は、全員ちゃんと動けたな」

 

 ペルシャニャンニャは腕を下ろし、ペシャの頭を撫でた。

 

「前みたいに、精霊たちを最後まで疲れさせなかったのだ!」

 

「カンキチ、まだ飛べるカン!」

 

「無理して飛ばなくていいのだ」

 

「無理じゃないカン!」

 

 カンキチは胸を張ってから、マンチカンニャンニャの頭へ降りた。

 ミケニャンニャは、ミッケを両腕で抱き締める。

 

「ありがとうニャ、ミッケ」

 

「ミケニャンニャも、よく頑張ったミケ」

 

 その様子を、ユーギは黙って見つめていた。

 

 完璧な連携だった。

 

 ただ技を繋いだだけではない。

 誰か一人が攻撃を受け持ち続けない。

 精霊たちの力も、必要なところだけ借りている。

 互いの位置を確認し、危険な者がいればすぐに役割を入れ替える。

 

 もし今後、敵として対峙することになれば。

 

 ミケニャンニャの指揮を乱し。

 ペルシャニャンニャの冷静さを崩し。

 マンチカンニャンニャの速度を封じる必要がある。

 

「……」

 

 対処法を考えているはずだった。

 それなのに、気づけばユーギの目は三人の笑顔を追っていた。

 

「お見事でござった」

 

 ユーギは静かに頭を下げる。

 

「先ほどまでの拙者の苦戦が、嘘のようでござる」

 

「シローさんが頑張ってたから、兜のことが分かったニャ」

 

 ミケニャンニャが近づいてくる。

 

「それより、兜は無事なのだ?」

 

「うむ」

 

 ユーギは腕の中にある兜を見た。

 取り戻した。

 

 婦人から与えられた、自分の力を制御する大切な兜。

 だが、兜の表面からは、まだ禍々しい悪魔エネルギーが漂っていた。

 

 ミケニャンニャたちの表情が変わる。

 

「シローさん、その兜を放すニャ!」

 

「悪魔エネルギーが残ってるぜ!」

 

「危ないのだ!」

 

 三人が、一斉に構える。

 ユーギは兜を抱えたまま、しばらく黙っていた。

 

 彼女たちは自分を助けた。

 兜を取り返すために戦ってくれた。

 

 それでも最後まで偽名を名乗り、大精霊のふりをして去る。

 それは武士として、あまりにも()()()だった。

 

「……申し訳ござらぬ」

 

 ユーギは、三人へ深く頭を下げた。

 

「何のことニャ?」

 

「拙者は、皆様方へ偽りを申した」

 

 ペルシャニャンニャが、一歩前へ出る。

 

「やっぱり、大精霊じゃないんだな」

 

「左様」

 

 ユーギは兜を持ち上げる。

 

「この兜が禍々しいのは当然。これは、拙者の悪魔エネルギーを制御するためのもの」

 

「悪魔エネルギーを……制御?」

 

「そして、シローという名も偽りでござる」

 

 ユーギは、ゆっくりと兜を被った。

 内側の術式が起動する。

 黒紫の光が、白い毛並みを包んだ。

 壊れていた甲冑が悪魔エネルギーによって補われ、肩当て、籠手、腰部の装甲が元の形へ戻っていく。

 少し離れた場所に落ちていた刀が黒紫の光に包まれ、ユーギの手元へ戻り、兜の奥で、赤い目が静かに光る。

 

「拙者の真名は――」

 

 低く渋い声が、森に響く。

 

「ユーギ・ザムライ・ニャンタ――()()()()()()()()()()()()()()




スパイダーマンの最新作見に行こうとしているけど、吹き替え版が一日二本しか上映してないしどっちも午後だけという。仕事柄午後に行けないから、字幕版で諦める。
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総合評価:1763/評価:8.23/連載:105話/更新日時:2026年07月29日(水) 06:00 小説情報

若返った老騎士、落ちこぼれ公爵令嬢の使い魔になる(作者:ですわお嬢様スキー)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

王国唯一の独立騎士にして、騎士の中の騎士と謳われた男、ラングリッド・ラントブルグ・フォン・エシュタール。▼ 七十年の生涯を祖国に捧げ、最後は王国へ迫る竜を討ち果たした彼は、確かにその人生を終えたはずだった。▼ だが次に目を覚ました時、ラングリッドは最盛期の肉体を取り戻し、見知らぬ世界に立っていた。▼ 彼を喚び出したのは、赤髪赤目の公爵令嬢レティシア。▼ 気位…


総合評価:2503/評価:8.67/連載:15話/更新日時:2026年06月20日(土) 22:34 小説情報


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