魔法少女のパパだが、娘が怪我をしたら俺が出るしかないだろ。   作:ワタリ3@ぼちぼち浮上

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4話構成にしようとしたけど難しいのでやめた


4-1 猫武者

 雨玻町総合病院。

 その一角には、通常の病室とは明らかに違う区画があった。

 

 ――隔離病棟。

 

 白い壁。厚い防護ガラス。電子ロック付きの扉。廊下にはC.H.A.R.M.から派遣された警備員と、病院側の職員が交代で立っている。

 

 そこに、一人の少年が収容されていた。

 

 先日、デビガノイドの中から()()()()()()()である。

 

 学校では目立つグループの中心にいた少年。

 弱い立場の相手に横暴な態度を取っていた少年。

 そして、デビデヴィ・クライシスによってデモンコアにされた少年。

 

 彼は一度、人間の姿に戻った。

 だが、事態はそれで終わらない。

 

 目覚めた直後、少年は()()()

 

 点滴を引き抜き、看護師の腕を掴み、止めに入った男性職員を突き飛ばした。

 近くにあった医療用トレーを投げつけ、ガラスを割り、叫びながら病室の扉を叩き続けた。

 

 それは、ただ気が立っているという程度の話ではなかった。

 

 目は焦点が合っておらず、誰に向けて怒っているのかも分からない。

 見舞いに来ていた家族の声にも反応せず、ただ目の前にいる者すべてを敵のように睨みつけた。

 

 その結果、看護師二名が軽傷。

 病院職員一名が肩を打撲。

 警備員一名が顔面に打撲を負った。

 

 鎮静剤が投与され、ようやく少年は眠った。

 

 そして今。

 

 その病室の前に、一人の女性が立っていた。

 

 C.H.A.R.M.調査主任、――()()()()()

 

 三十歳。

 

 艶のある黒髪を後ろでまとめ、細いフレームの眼鏡をかけている。

 白衣の下には体の線が分かる黒いタイトな服。

 知的でありながら、どこか人を惑わせるような雰囲気をまとった女性だった。

 

 カリンは分厚い防護ガラス越しに、ベッドの上の少年を見つめていた。

 

 少年は眠っている。

 

 拘束具で手足を固定され、医療機器につながれている。

 顔色は悪い。

 しかし検査数値上は、危険な異常は見つかっていなかった。

 

「身体異常なし。血液検査も大きな問題なし。脳波も鎮静剤の影響を除けば正常範囲……ね」

 

 カリンはタブレット端末を指でなぞりながら、低く呟いた。

 隣に立つ若い護衛が尋ねる。

 

「つまり、問題はないということですか?」

 

「いいえ」

 

 カリンは即答した。

 

()()()()()()()

 

「え?」

 

「検査で異常が出ないのに、あれだけ暴れる。そこが問題なのよ」

 

 カリンは少年の顔を見つめたまま、眼鏡の位置を直す。

 

「この子の身元は?」

 

「すぐに判明しました。県立雨玻町第一高校の生徒です。交友関係も確認済み。昨日、彼の友人たちから聞き取りを行っています」

 

「例の証言ね」

 

「はい。謎の女性に胸を刺され、赤い球体のようなものに変えられた、と」

 

「たしか……()()()()()

 

 カリンは小さく呟く。

 敵幹部がそう呼称していた。

 

「人間の負の感情を核にした、悪魔兵器の中枢……推測通りなら、かなり悪趣味な技術。今までいろんな異次元敵性存在を見てきたけど、ここまでの技術力を持った敵は初めてね。」

 

「ですが、ゲキ・マキシマムがデビガノイドを倒したことで、彼は人間に戻りました」

 

「戻ったように見えただけ、かもしれないわ」

 

 護衛は言葉を失う。

 

 カリンは端末の記録を開いた。

 

 そこには、少年の生活記録や学校での評判がまとめられている。

 

「確かに、元々の性格にも問題はあったみたいね。学校内では高圧的。グループ内での支配欲も強い。弱い立場の相手に対して横暴な言動あり」

 

「……かなり問題児ですね」

 

「でも、誰彼かまわず暴れるタイプではない」

 

 カリンは鋭く言った。

 

「彼は自分より弱いと見なした相手に対して横暴だった。逆に言えば、相手を選んでいたのよ。自分の立場を崩さない範囲で、自分が優位に立てる相手を選んでいた」

 

「今回のように、病院職員や看護師へ無差別に?」

 

「そこが違う」

 

 カリンは病室の中の少年を見つめた。

 

「デモンコアから戻った後に、悪魔エネルギーを完全に浄化しきれていない可能性があるわ」

 

「残留悪魔エネルギー……ですか」

 

「ええ。肉体ではなく、心の奥にこびりついている。怒りや恐怖、劣等感を増幅して、本人の意思とは別に暴走させる」

 

「そんなことが……」

 

「あるかもしれない。だから調べてるの」

 

 カリンは腕を組む。

 その表情は冷静だった。

 

 だが、瞳の奥にはわずかな苛立を宿す。

 

「魔法少女の浄化でも完全に抜けない悪魔エネルギー。もしそうなら、かなり厄介よ」

 

「ゲキ・マキシマムの浄化が不完全だったと?」

 

「そう結論づけるには早いわ。彼は初戦で、しかも即席の魔法少女。むしろ初見でデモンコアを破壊せず人間へ戻せただけでも異常よ」

 

「異常、ですか」

 

「ええ。褒め言葉としてね」

 

 ――その時。

 

 廊下の向こうで、鈍い音がした。

 何かが倒れる音。続いて、短い呻き声。

 

 護衛が即座に振り返る。

 

「何だ?」

 

 廊下の警備員の声が聞こえた。

 

「おい、そこで止ま――ぐあっ!」

 

 次の瞬間、重い衝撃音。通信機からのノイズ。

 

 カリンの目つきが変わった。

 

「来るわ」

 

 白衣の内側から、彼女は小型拳銃を抜いた。

 

 護衛も同時に拳銃を構える。

 

 通常弾ではない。

 

 ――C.H.A.R.M.製の特殊弾。

 

 悪魔エネルギーを帯びた対象の動きを一時的に鈍らせるための弾丸。

 

「主任、下がってください」

 

「嫌よ。見えないところに下がったら、何が起きるか分からないでしょ」

 

「ですが――」

 

「あなたが前。私が後ろ。三秒以上足止めできれば十分」

 

「三秒ですか」

 

「できない?」

 

「……やります」

 

 護衛が扉の前に立つ。

 

 廊下の照明が一つ、また一つと消えた。

 

 足音はしない。だが、何かが確実に近づいている。

 

 空気が重くなる。

 

 まるで廊下全体に、黒い布をかぶせられたように。

 

 護衛が小さく息を呑む。

 

「主任……これは」

 

「悪魔反応。しかも濃い」

 

 カリンは拳銃の照準を廊下へ向ける。

 

「――でも、デビドールではない」

 

 暗がりの向こうに、影が立つ。

 

 人型。

 

 しかし、人間ではない。

 

 丸い頭部と()のような耳。

 着ぐるみじみた輪郭。

 だが、身にまとっているのは古めかしい日本甲冑。

 

 ――腰には刀。

 

 その姿は奇妙だった。

 可愛らしさと不気味さが同居している。

 ()()()()()()()()()が、そのまま戦場の亡霊になったような姿。

 

「止まりなさい!」

 

 護衛が叫ぶ。影は止まらない。

 

 護衛が発砲し、特殊弾が三発、廊下を走る。

 だが、影は揺れたように見えただけ。

 

 次の瞬間、護衛の体が吹き飛ぶ。

 

「がっ……!」

 

 壁に叩きつけられ、床へ崩れ落ちる。

 カリンは目を見開いた。

 

「速い……!」

 

 彼女も撃つ。

 

 一発。

 

 二発。

 

 影は首をわずかに傾けただけで、それをかわした。

 

 刀は抜いていない。

 

 ただ、腕を振るっただけだった。

 

 衝撃がカリンの腹部を打つ。

 

「っ……!」

 

 体が浮き、背中から壁に激突した。

 

 ……息が詰まる。

 

 拳銃が手から滑り落ち、視界が揺れる。

 

 白い廊下が歪む。

 カリンは床に膝をつきながら、必死に顔を上げた。

 

 影は病室の扉の前に立っていた。

 

 電子ロックが黒い火花を散らして壊れ、扉がゆっくりと開く。

 

 猫のような影は、少年のベッドへ近づいていく。

 

 カリンは手を伸ばした。

 

「待ち……なさい……」

 

 影は振り返らない。

 鎮静剤で眠る少年を、軽々と抱きかかえる。

 

 そして、初めて口を開いた。

 

「こ奴は、まだ使える」

 

 ……恐ろしく渋い声だった。

 見た目の奇妙さとはまるで合っていない。

 低く、重く、刃のように冷たい声。

 影の手から、禍々しい黒いエネルギーが溢れた。

 

 それが少年の胸へ流れ込み、少年の体が痙攣する。

 肌の下を黒い光が走り、胸元に赤い球体が浮かび上がった。

 

 人間に戻ったはずの少年が、再び球体(デモンコア)へと変わっていく。

 カリンの喉から、掠れた声が漏れた。

 

「再……変換……?」

 

 影はデモンコアを抱える。まるで拾った道具を回収するように。

 人間を扱う手つきではなかった。

 

 カリンはその姿を見つめた。

 

 意識が遠のいていく。

 

 最後に聞こえたのは、低く渋い声だった。

 

「主命を果たす」

 

 その言葉を最後に、カリンの視界は黒く閉じた。




ほぼ毎日投稿にしたいから小出しにして書き溜める。
仕事中も内緒で執筆してるw
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