今回のお話について、後半にバレー部の試合描写があるため、オリキャラ紹介・ポジション解説から入ります。
◎簡単ポジション解説&キャラ紹介
・WS(ウィングスパイカー)
レフト。主にスパイク打つ人。
→長田(おさだ):キャプテン。身長は169センチ。
→内田:3年。
・S(セッター)
トス上げる人。
→久保:3年。
・OP(オポジット)
セッター対角。オリ主のポジション。
・MB(ミドルブロッカー)
背が高い。速攻とブロックする人。後衛ではリベロと交代。
→壁山:3年。
→高山:2年。183センチ。部内で一番の高身長。
・L(リベロ)
守備専門。
→守谷(もりや):3年。リベロなのに身長180超え。針生くんの彼女(守屋花恋)とは無関係です。
・ベンチ
→佐東(さとう):3年。左利き。翔くんにレギュラー取られた。
→桐島隼人:1年。編入生。翔くんバカ。入学からまた伸びて現在182センチ。
◎ハイキュー!! 読んだ人向け
・今の栄明バレー部を一言で表すと
→音駒の守備力に鴎台の星海ぶっ込んだ。
以上、長々と失礼しました。
それではどうぞ。
〜長田(オリキャラ)視点〜
子どもの頃、俺は自分を凄いやつだと思っていた。
周りより背が高かった。周りより足が速かった。周りより握力が強かった。逆上がりだって、二重跳びだって、バレーだって、皆より上手くできた。
成長痛が辛い時もあったけど、それでさえ自分は特別なんだって優越感に浸れる要因で。
俺は天才なんだって、信じて疑わなかった。
中学でバレー部に入ってからもそうだった。
同級生と違って、先輩たちと同じ、なんならそれより高い目線にいる自分がカッコよくて、『俺がこの部活を引っ張ってやるよ』なんて生意気に考えてた。
でもダメだった。
身長が伸びなかった。
周りとの差が縮まっていくのが分かった。
足の速さがクラスで一番じゃなくなった。体育の背の順が、ひとつ、またひとつと前にズレていった。
中1の正月明け、同じ部活の壁山に身長を抜かれた。1年生大会では俺よりデカいやつが何人もいたし、優勝チームにはすげえデカいやつがいて、そいつは175もあったらしい。
ああ終わったと、俺は凡人に成り下がったんだと、そう悟ってしまった。
中2の春、絶望の中で迎えた新年度。
表面上笑いながら部活動勧誘をして。本音では俺よりデカいやつがいるんじゃないか、俺より凄いやつがいるんじゃないか、俺はこの先埋もれていくんじゃないか、そうやって怯えてた。
凄いやつはいた。
でもそいつは、小さかった。
一瞬で嫌いになった。
レシーブもトスもサーブもブロックもスパイクも、そいつの方が上手かった。大きくないから仕方ないと、そんな言い訳をぶち壊された。必死に守っていたプライドをズタズタにされた。
本当に大嫌いだった。
3年の先輩が引退して、キャプテンを任された。顧問から頼まれて引き受けたが、正直やりたくなかった。
顧問のもとに集まる「集合!」という声掛けが嫌だった。平凡な俺が何を偉そうにって、毎回毎回考えてしまうから。
月1の部長会、バスケ部の部長と並ばされるのが苦痛だった。越された身長がどんどん離されていくのを嫌でも感じるから。
新人戦を終えて、「県ベスト4までいったんでしょ、すごいじゃん」とクラスメイトから褒められるのが耐えられなかった。凄いのは俺じゃないあいつだって、心の中で何度も繰り返した。
もう全部が嫌で。全部がやめたくなった。
そんな時だった。あいつが変わったのは。
『今のレシーブめっちゃきれいでした! 位置取り完璧っすね!』
『ナイスキー! 今のコース狙ったんですか、ライン上ドンピシャでしたよ!』
『ブロックめっちゃ揃っててレシーブしやすかったっす。あざーす!』
練習中、褒められるようになった。「あ、今のいい感じ」って思ったプレーに、あいつは駆け寄ってきた。俺が心の中でそっと褒めたプレーを、あいつは全力で称賛した。
「おう」とか「サンキューな」とか、そんなカッコつけた返事をしながら、内心飛び上がるくらい嬉しかった。
あいつが褒めた。俺より遥かに凄いあいつが、俺なんかを褒めた。あんな笑顔で、あんなに本気で、褒めてくれたのだ。
けれど、入部当初から明らかに変わった様子に、すぐ俺らをのせるためだと気づいた。上に行くため、チームを強くするため、俺らを利用してるんだと。
別にいいかって思った。雲の上みたく思っていたあいつが、不器用に明るく振る舞うのは、正直ほっこりした。
それに、あいつとプレーするのは楽しかった。
あいつのプレーに見惚れるのと同時に、自分が上手くなっていくのを感じれる。そんな楽しさを手放したくなかった。
気づいてからは、より一層あいつの凄さを感じた。
俺が「あっ、できた」と心で呟く度に、あいつはそれを褒め称えた。俺がなんとなくいいと思ったプレーを、あいつは言語化してみせる。俺の事を、俺以上に理解していた。
自分より圧倒的に実力があって努力もしているやつが、自分の事を見てくれて、理解しようとしてくれて。嬉しくて嬉しくて、利用でもなんでもされてやるよって開き直った。
さらに怖いのが、あいつは強制的に「できる」を体験させる。
あいつのスパイクは超強烈だが、紅白戦では時折完璧なレシーブが上がる。ブロックを躱した先にいた選手が、真っ正面でレシーブするという形でボールが上がる。試合中のスーパーレシーブは、敵味方関係なく盛り上がるものだ。
それが意図的だと気づいたのは、守谷が会心のレシーブをした試合。煽りに煽られたあいつが、その後ボコボコに守谷を狙い撃ちしたにも拘らず、1本も取らせなかったからだ。
改めてあいつがヤバいと思った。
「できる」が増えてきて、「できない」が嫌になった。周りのやつにできる事が俺にできない、見て見ぬふりをしていたそれも、あいつが別の誰かを褒めるたびに浮き彫りになっていくから。
あいつを見た、あいつを聞いた。俺ら先輩には褒めるだけだったけど、同級生にはアドバイスをしていたから。見て聞いて、ようやくできた時はあいつの笑った顔と全力の称賛があって。
あいつのことが嫌いだなんて、もうすっかり忘れていた。
だから俺も変わろうと決めた。
『藤原、ブロックってどう揃えてる? サイドの移動が間に合わん』
『レシーブの位置取りについてなんだけどさ、詳しく教えてくれ』
『俺ももっと飛びたいんだけど、どんなトレーニングしてる?』
『久保ー、ちょっとトス上げてー。壁山もブロック頼むー』
ひとりのプレイヤーとしてはやりたくなかった。できないと自分から認めるのは恥ずかしかったし、なおかつ教えを請う相手が後輩だ。
でもキャプテンとして、平凡な俺にできることを全力でやった。
そして、中学最後の総体。俺たち栄明は初めて全国へ行き、そして一勝した。
褒められて嬉しいから始まったそれは、勝って嬉しいにまで変わった。
高2の正月明け。春高をベスト16で終えて、藤原が言った。
──次の
上へ上へと進んできて、今度は全国優勝を目指すときた。
『いいんじゃないか』
気づけば即答していた。冷静に考えれば難しすぎる目標なのに、不思議と不安はなかった。考えれば県ベスト16止まりだった俺らが、全国でベスト16にまでなれたんだ。あと4回多く勝つくらい、なんとかなる。
そして今、関東大会に向けた県予選。準決勝を勝ち進んで、残すは決勝のみ。
「藤原、次も勝って優勝で終わらせるぞ」
「当然です」
最初は小さいと思っていたこいつも、いつの間にか見上げるようになった。こいつだけじゃない、今じゃ部内で俺より小さいやつなんて2人しかいない。
身長だけじゃない。レシーブもトスもサーブもブロックもスパイクも。プレイヤーとして、俺が一番であるモノなんて一つもない。
それでいい。
キャプテンとして、チームを良い状態に保つこと。チームとして、一つでも上に行くこと。
藤原が輝ける場所を作ることが、俺の最後のプライドだ。
◇◇◇
キツイなぁと、そう思いながらおにぎりを口に運ぶ。
関東大会へ向けた県予選は、日程が鬼畜すぎる。
まず
その所為で今日は既に勝ち抜いた2試合と、この後に控えた決勝戦の、計3試合という地獄日程だ。
幸いにも栄明はシードで昨日は1試合しかなかったし、ここまでストレートで勝ち進んでいる。他チームより消耗は少ない。ただキツイものはキツイ。
下のメインアリーナでの5位6位決定戦。男女合わせて4コート、どこも第1セット中盤。まだいけるかと、もうひとつおにぎりに手を伸ばす。
「翔、おつかれ」
「針生か、そっちこそ応援ありがと。猪股と笠原もな」
「いえ、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
今日は千客万来だ。朝は女バスに、さっきは新体操、そして今はバド部。先輩たちの方にも応援が来ていた。
普段は他部活も練習やら大会やらで応援なんて来れない分、今日は部員全員のテンションが高い。
「というか針生、タイミングいいな」
「なんで?」
「ちょうどミサンガ切れたんだよ」
開きかけたおにぎりを包み直して、バッグから切れたミサンガ取り出し、掲げた。
「準決のあと気づいてさ」
「お、まじか。縁起いいじゃん」
「だろ」
「ちーには言ったん?」
「さっきLINEで。『ご利益証明するために優勝するよ』って言ったら、『私も早く切れてほしい』ってのと、あの変な鹿スタンプ返ってきた」
「あーあれか」
妙にリアルな絵柄スタンプ。鹿野のお気に入りらしいけど、あのセンスは理解できない。
「つか3人だけ? 西田とか一緒じゃなかった?」
「あっちで女バレの試合見てる」
「なる」
アリーナをチラ見して視線を戻すと、猪股が微妙な表情をしているのに気がついた。そういえばこいつ鹿野のことが好きだったなと思い出す。好きな先輩が他の男子とお揃いでミサンガ付けてたんだ。そんな顔にもなる。
フォローするか話題逸らすか、どうしようかなと考えて……やめた。
俺って性格悪いなぁと、そう自嘲する。
「猪股、地区大会優勝おめでとう。春休みと部内戦のリベンジできたな」
「あ、ありがとうございます」
「確認だけど、IH行くって目標は変わってないな?」
「はい、変わってないです」
「そっか。それならさ」
表情を引き締めた猪股に向けて、挑発的に笑う。
「決勝戦しっかり見とけよ」
これは私怨だ、憂さ晴らしだ。好きな女に振り向いてもらえなかった男の、情けない嫌がらせ。
4か月前猪股に指導を頼まれて、そのひたむきな姿を見てきた。こんなんで折れるわけがないと分かっているからこそ、全力で叩きにいく。
「猪股の目指す全国がどれだけのもんか見せてやる。折れてくれるなよ」
◆
〜針生視点〜
「なんか、すごい自信でしたね、、」
大喜が腕を擦りながら呟く。そうだなと同調し、内心でも大喜に同情する。
あれは完全にヤりにきてた。実力差を見せつけて、お前じゃ全国なんて無理だよって叩き潰すつもりだ。
「それだけの事をやってきてるからな。あいつの実績並べたら、漫画の世界かよってなるくらいすごいぞ」
強豪でもないチームに入部し、専門のコーチもいない中、一年後の総体で全国出場。それからずっと県では負け無し、本人も最優秀選手賞を取り続けている。
そこに身長のハンデがあるとか、顔がいいとか、実はダンスも上手いとか、身近な好意に気付かないとか、色々要素が盛られていく。
「針生先輩、なんだか楽しそうですね」
「そうか? ……そうかもな」
笠原に言われて気付く。俺は今わくわくしてる。翔があんなクソガキみたいな表情するなんて滅多にない。決勝戦が楽しみで仕方ない。
「覚悟しとけよ大喜。半端な気持ちで見たら心折れるぞ」
「うっす……」
大喜はさっきの事を思い出したのか、ぶるりと体を震わせた。
◇◇◇
相手コート、レフトに高くボールが上がる。
勢いよく助走に入るのは相手チームのエース。高山と並んで、二枚ブロックを跳ぶ。
「ワンタッチ!」
「前ッ!」
手に当たりボールの軌道が変わる。コート前方に緩く落ちていくボール、内田先輩が走り込んで落下地点に入る。
ボールは余裕を持って上げられた。久保先輩が後衛からボール下へ移動し、内田先輩も戻って助走に入る。
真ん中から速いテンポで高山、その後ろからキャプテン、レフトから内田先輩とライトからは俺。いつも通りの4択。相手はちゃんと全部警戒してる。
スパァン!
そんな時は、シンプルに早い真ん中。
「ナイスキー!」
点を決めた高山に、チーム全員が駆け寄る。
「内田先輩もナイスレシーブです」
「別に、ただのチャンボだろ」
「謙遜するならそのドヤ顔隠しましょうよ」
「あ?」
「何でもないです。あ、次サーブですよ」
そう促すと、内田先輩はエンドラインへ向かう。その背中を見送りながら、内心で嬉しさをかみしめる。
『ただのチャンボ』
それを上げるのは簡単だ、小学生でもできる。けれど、試合となるとそうもいかない。
ボールの落下地点に入って、膝を使って、柔らかくレシーブする。そんな当たり前が難しい。
半歩早くボールに辿り着くこと。
その半歩の余裕が、ボールを操る余裕になる。その余裕は、セッターの余裕になり、スパイカーの余裕になる。
些細な違いだけど、チームとして当たり前が染み付いてきたなと感じる。
ピッと、笛が鳴る。
相手コート奥に伸びるサーブは、セッターのほぼ定位置に上げられた。
ボールはエースのいるレフトへ、テンポの早いトス。待ち構える俺と、中央から少し遅れて高山。ブロックは1.5枚。強烈なスパイクが俺の右側、ストレート側へ抜けていく。
抜けた先、いる。
「ナイス久保ぉ!」
キャプテンが叫ぶ。
久保先輩のレシーブしたボールは、ネットに向けて高く上がった。このままだとネットを越えてダイレクトで叩かれる。でも。
「藤原!」
「はい!」
久保先輩がファーストタッチの今、トスを上げるのは俺だ。
届く、届かせる。
ネットギリギリで、オーバーでボールを捉える。上げた先はキャプテン、1枚しかいないブロックを躱して相手コートに叩きつけた。
「っしゃぁ!!」
「ナイスですキャプテン!」
「だろ!」
駆け寄ると手を掲げてきたので、ハイタッチで応じる。思いっきり叩かれてちょっと痛い。
「長田うるせえ」
「トスとレシーブが良かったからだろ」
キャプテンが決めた時の、先輩たちの辛辣さはなんなんだろう。うるさいからか?
「んなことわかってるよ。久保も藤原もナイスな!」
そんな野次にもキャプテンは毎回嬉しそうに笑うので、ドМなんじゃないかって思ってる。
「悪い藤原、ナイスカバー」
「どもっす。ちょっと長かったですね」
「分かってる。次はちゃんと上げる」
「お願いします」
久保先輩とは短く言葉を交わして、それぞれサーブ前の定位置につく。
本人も分かっているけれど、言葉にして共有する。良いところと悪いところ、必要なものを飾らず簡潔に。
最初は手探りだったコミュニケーションも、今では随分と慣れた。
ローテーションが回り、相手エースが後衛に下がった。嬉しさと同時に、強烈なサーブに気を引き締める。
「ここ一本切るぞ!」
「「「「おう!」」」」「はい!」
キャプテンの掛け声、審判の笛の音。
相手エースが高く、ドライブ回転のかかったサーブトスを上げる。
打った。そう認識した次の瞬間にはボールがネットを越えて襲いかかってくる。
コート隅ギリギリ、守谷先輩が腕を伸ばすも大きく弾かれ、相手チームの得点。
「悪い!」
「オケオケ、次取り返すぞ!」
「おう!」
今のは仕方ない。サーブが良すぎた。切り替えて再度位置につく。
ピッと、笛が鳴る。
超速のサーブ、今度向かうのは内田先輩。
「っ! 悪いカバー!」
上げたは良いものの、ボールはコート左側、久保先輩が届かない位置へズレる。
「ライト!」
「はいよ!」
トスを呼ぶ。キャプテンから俺へ、オープントスが上がる。緩くアンテナへ伸びる、打ちやすいトス。
目の前には三枚のブロック、みんなデカいやつばかりだ。
でも、俺の方が強い。
いいジャンプはいい助走から。あのセリフの通り、飛ぶ。
ただそれだけ。
小細工はいらない。
高く飛ぶ、単純なそれが空中にいる時間をずらす。鍛えた体幹が、空中での安定感を生む。
ぼんやりとした視界で、ブロックが落ち始めたのがわかった。力を誇示するように、ブロックの上からコートの真ん中へ打ち下ろす。
ダァン!
「っしゃぁ!」
──
どんなボール、どんな相手でも、空中なら俺が一番強い。
後衛へ下がり、サーブを打つためにエンドラインから数歩下がる。
ラリーで上がった呼吸を整えて、気持ちを落ち着かせる。
第一セット、得点は18ー13。このままいけばこのセットは取れる。いけない思考だと分かっていても止まらない。
バレーボールという競技において、特定の誰かを見続けることは難しい。ボールも選手も、狭いコートの中で目まぐるしく動くから。
でも、サーブだけは違う。選手も、観客も、ただひとりを見る。
雛がいる、針生がいる、猪股がいる、鹿野がいる。
最後までカッコつけたい、発破をかけたい、全力で叩き潰したい、ありがとうって伝えたい。
全員、俺を見ろ。
ピッと、笛が鳴る。
サーブトス……あ、いい感じ。
飛ぶ。打つ。ただそれだけ。
ダァン!
超速のサーブが相手選手二人の間で弾む。
チームメイトが駆け寄ってくる、背中に聞こえる歓声が気持ちいい。
今の俺、最高だ。
◆
〜千夏視点〜
翔くんのサービスエースが決まった。
サーブ前の痛いくらいに張り詰めた空気が、一瞬で歓声に変わる。
「えっぐ、腕もげそう……」
「しかも速すぎ……」
隣で渚たちが呟く。その通りだと思う。
でもドン引きしすぎじゃないかなって思うから、私だけでもって声を張る。
「ナイッサー翔くん!」
それが聞こえたのか、翔くんがこっちに振り返った。
あっ。
目が合ったのは一瞬で、軽く手を挙げられただけ。朝にも会ったんだけど、試合中だともっとやばい。
ユニフォーム着てる翔くん、破壊力がすごい。
「千夏ニヤけてるぞ〜」
「いいでしょ別にっ」
「そうだね~」
皆から生暖かい視線が向けられるので開き直って答える。でもあまりに視線が鬱陶しいので、隣の渚には体当たりして抗議しておいた。
そうこうしているうちに、翔くんがサーブを打つ。
弾丸のようなサーブ、相手選手がかろうじて上げたものの、大きく崩れてチャンスボールで返ってくる。
真ん中にいち早く助走に入るのが壁山先輩。レフトの主将さん、後ろから翔くんと内田先輩がほぼ同時に助走を開始する。
上がったのはど真ん中。壁山先輩がコンパクトに打ち下ろした。
「おお! ナイスキー!」
「20点乗った!」
渚たちが興奮した様子で手を叩く。
バレーは見ていて楽しい。
張り詰めた空気からのサーブ、どこに上がるか分からないトスからのスパイク、さらにはブロックやスーパーレシーブ。ボールを目で追うのが精一杯なのに……いや、だからこそ、その瞬間瞬間での盛り上がりはすごい。
「藤原ナイッサー!」
今度は渚たちも声を出していた。
「翔くん、もう一本!」
私も負けじと声を張った。
第一セットを25ー18で先取して、休憩を挟んでからの第二セット。
両コートにそれぞれ6人が配置につき、審判がそれを確認する。
「あれ? 内田先輩じゃない」
渚がコートを指差して言う。
「あ、ほんとだ」
「あの子って確か、藤原大好きくんだよね。きり…なんだっけ?」
「桐島くん?」
「そうそれ、桐島くん」
今コートにいるのは、最近翔くんとの電話でよく話題に上がる桐島隼人くん。
「あれで1年生でしょ。雰囲気あるわぁ」
「うちのバレー部背高いの少ないから余計だね」
「あれ180超えてる?」
「高山と同じくらいだし超えてるでしょ」
「いいなぁ背高いの」
「渚はそれ以上伸ばしてどうするの」
そんな会話をしつつ、第二セットが始まった。
相手サーブから始まった1点目、その子は強烈な印象を残した。
セッターの定位置にレシーブが上がる。緩くレフトに伸びるトス、その先にいるのは桐島くん。
ダァン!
強烈な音と共に、ボールはコートへ叩きつけられた。
「おおお!」
「すげー!」
「ナイスキー!」
渚たちのテンションが高い。
今のスパイク、とんでもない威力だった。
栄明では翔くん以外に聞けなかったレベルの強烈な音。
もちろん主将さんたちも凄いし、当たったら腕が吹っ飛びそうだけど。彼らのスパイクは『打ち抜く』という表現が近い。
でも、今の桐島くんのスパイクは、『叩きつける』という言葉が似合う。相手チームのエースの人や、今日の翔くんのような、ザ・チカラって感じのスパイク。
コートでは、桐島くんが主将さんに頭をわしゃわしゃされている。身長差で桐島くんが屈んでいるせいで、なんだか変な光景だ。
解放された桐島くんに翔くんが声を掛ける。ここからでも分かるくらい、桐島くんが嬉しそうな顔をした。
──皆さ、俺の我儘に文句一つ言わないでくれてるんだ
ふと、先週翔くんと電話した時の言葉が頭に浮かんだ。
──最近昔を振り返るきっかけがあってさ
──改めて思うと、今までずっと迷惑掛けっぱなしだったなって
──前に話した鹿野の真似も、下手くそだったのにノッてきてくれて
──それどころか、先輩たちの方から歩み寄ってくれて
──だから今の俺があるのは、チームのおかげってのもあって
きっと雛ちゃんと何かあったんだろうなって思って。でもそれを消し飛ばすくらい、翔くんの声が印象的だった。
──だから、約束は守らなきゃなって
──このチームで勝ちたいなって
穏やかだけど、決意に満ちた声。チームの事が大切なんだなって、電話越しにも伝わってきた。
──自信はある
──俺が出来ることは全部やった
──先輩たちも気合い入ってる、桐島もレギュラー目前だし
──今年のバレー部は、ちょっと凄いぞ
翔くんにそこまで言わせるチームメイトが、ちょっとだけ羨ましかった。
今、目の前で翔くんと同じコートにいる彼らを見て、その気持ちが再燃した。
「……私も、頑張らなきゃ」
恋ではない嫉妬を抱えて。絶対に全国へ行くと、翔くんと肩を並べてみせると、改めてそう決意した。