四角関係   作:slo-pe

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今回のお話について、後半にバレー部の試合描写があるため、オリキャラ紹介・ポジション解説から入ります。

◎簡単ポジション解説&キャラ紹介
・WS(ウィングスパイカー)
レフト。主にスパイク打つ人。
→長田(おさだ):キャプテン。身長は169センチ。
→内田:3年。

・S(セッター)
トス上げる人。
→久保:3年。

・OP(オポジット)
セッター対角。オリ主のポジション。

・MB(ミドルブロッカー)
背が高い。速攻とブロックする人。後衛ではリベロと交代。
→壁山:3年。
→高山:2年。183センチ。部内で一番の高身長。

・L(リベロ)
守備専門。
→守谷(もりや):3年。リベロなのに身長180超え。針生くんの彼女(守屋花恋)とは無関係です。

・ベンチ
→佐東(さとう):3年。左利き。翔くんにレギュラー取られた。
→桐島隼人:1年。編入生。翔くんバカ。入学からまた伸びて現在182センチ。

◎ハイキュー!! 読んだ人向け
・今の栄明バレー部を一言で表すと
→音駒の守備力に鴎台の星海ぶっ込んだ。

以上、長々と失礼しました。
それではどうぞ。



栄明高校バレー部

 

 

〜長田(オリキャラ)視点〜

 

 子どもの頃、俺は自分を凄いやつだと思っていた。

 周りより背が高かった。周りより足が速かった。周りより握力が強かった。逆上がりだって、二重跳びだって、バレーだって、皆より上手くできた。

 成長痛が辛い時もあったけど、それでさえ自分は特別なんだって優越感に浸れる要因で。

 俺は天才なんだって、信じて疑わなかった。

 

 中学でバレー部に入ってからもそうだった。

 同級生と違って、先輩たちと同じ、なんならそれより高い目線にいる自分がカッコよくて、『俺がこの部活を引っ張ってやるよ』なんて生意気に考えてた。

 

 でもダメだった。

 

 身長が伸びなかった。

 

 周りとの差が縮まっていくのが分かった。

 足の速さがクラスで一番じゃなくなった。体育の背の順が、ひとつ、またひとつと前にズレていった。

 中1の正月明け、同じ部活の壁山に身長を抜かれた。1年生大会では俺よりデカいやつが何人もいたし、優勝チームにはすげえデカいやつがいて、そいつは175もあったらしい。

 ああ終わったと、俺は凡人に成り下がったんだと、そう悟ってしまった。

 

 中2の春、絶望の中で迎えた新年度。

 表面上笑いながら部活動勧誘をして。本音では俺よりデカいやつがいるんじゃないか、俺より凄いやつがいるんじゃないか、俺はこの先埋もれていくんじゃないか、そうやって怯えてた。

 

 凄いやつはいた。

 でもそいつは、小さかった。

 

 一瞬で嫌いになった。

 レシーブもトスもサーブもブロックもスパイクも、そいつの方が上手かった。大きくないから仕方ないと、そんな言い訳をぶち壊された。必死に守っていたプライドをズタズタにされた。

 本当に大嫌いだった。

 

 3年の先輩が引退して、キャプテンを任された。顧問から頼まれて引き受けたが、正直やりたくなかった。

 顧問のもとに集まる「集合!」という声掛けが嫌だった。平凡な俺が何を偉そうにって、毎回毎回考えてしまうから。

 月1の部長会、バスケ部の部長と並ばされるのが苦痛だった。越された身長がどんどん離されていくのを嫌でも感じるから。

 新人戦を終えて、「県ベスト4までいったんでしょ、すごいじゃん」とクラスメイトから褒められるのが耐えられなかった。凄いのは俺じゃないあいつだって、心の中で何度も繰り返した。

 

 もう全部が嫌で。全部がやめたくなった。

 

 そんな時だった。あいつが変わったのは。

 

『今のレシーブめっちゃきれいでした! 位置取り完璧っすね!』

『ナイスキー! 今のコース狙ったんですか、ライン上ドンピシャでしたよ!』

『ブロックめっちゃ揃っててレシーブしやすかったっす。あざーす!』

 

 練習中、褒められるようになった。「あ、今のいい感じ」って思ったプレーに、あいつは駆け寄ってきた。俺が心の中でそっと褒めたプレーを、あいつは全力で称賛した。

「おう」とか「サンキューな」とか、そんなカッコつけた返事をしながら、内心飛び上がるくらい嬉しかった。

 あいつが褒めた。俺より遥かに凄いあいつが、俺なんかを褒めた。あんな笑顔で、あんなに本気で、褒めてくれたのだ。

 

 けれど、入部当初から明らかに変わった様子に、すぐ俺らをのせるためだと気づいた。上に行くため、チームを強くするため、俺らを利用してるんだと。

 別にいいかって思った。雲の上みたく思っていたあいつが、不器用に明るく振る舞うのは、正直ほっこりした。

 それに、あいつとプレーするのは楽しかった。

 あいつのプレーに見惚れるのと同時に、自分が上手くなっていくのを感じれる。そんな楽しさを手放したくなかった。

 

 気づいてからは、より一層あいつの凄さを感じた。

 俺が「あっ、できた」と心で呟く度に、あいつはそれを褒め称えた。俺がなんとなくいいと思ったプレーを、あいつは言語化してみせる。俺の事を、俺以上に理解していた。

 自分より圧倒的に実力があって努力もしているやつが、自分の事を見てくれて、理解しようとしてくれて。嬉しくて嬉しくて、利用でもなんでもされてやるよって開き直った。

 

 さらに怖いのが、あいつは強制的に「できる」を体験させる。

 あいつのスパイクは超強烈だが、紅白戦では時折完璧なレシーブが上がる。ブロックを躱した先にいた選手が、真っ正面でレシーブするという形でボールが上がる。試合中のスーパーレシーブは、敵味方関係なく盛り上がるものだ。

 それが意図的だと気づいたのは、守谷が会心のレシーブをした試合。煽りに煽られたあいつが、その後ボコボコに守谷を狙い撃ちしたにも拘らず、1本も取らせなかったからだ。

 改めてあいつがヤバいと思った。

 

「できる」が増えてきて、「できない」が嫌になった。周りのやつにできる事が俺にできない、見て見ぬふりをしていたそれも、あいつが別の誰かを褒めるたびに浮き彫りになっていくから。

 あいつを見た、あいつを聞いた。俺ら先輩には褒めるだけだったけど、同級生にはアドバイスをしていたから。見て聞いて、ようやくできた時はあいつの笑った顔と全力の称賛があって。

 

 あいつのことが嫌いだなんて、もうすっかり忘れていた。

 

 だから俺も変わろうと決めた。

 

『藤原、ブロックってどう揃えてる? サイドの移動が間に合わん』

『レシーブの位置取りについてなんだけどさ、詳しく教えてくれ』

『俺ももっと飛びたいんだけど、どんなトレーニングしてる?』

『久保ー、ちょっとトス上げてー。壁山もブロック頼むー』

 

 ひとりのプレイヤーとしてはやりたくなかった。できないと自分から認めるのは恥ずかしかったし、なおかつ教えを請う相手が後輩だ。

 でもキャプテンとして、平凡な俺にできることを全力でやった。

 

 そして、中学最後の総体。俺たち栄明は初めて全国へ行き、そして一勝した。

 褒められて嬉しいから始まったそれは、勝って嬉しいにまで変わった。

 

 

 

 高2の正月明け。春高をベスト16で終えて、藤原が言った。

 

 ──次のIH(インターハイ)、狙うのは一番上。俺はこのチームで全国制覇したいです。皆の力を貸してください

 

 上へ上へと進んできて、今度は全国優勝を目指すときた。

 

『いいんじゃないか』

 

 気づけば即答していた。冷静に考えれば難しすぎる目標なのに、不思議と不安はなかった。考えれば県ベスト16止まりだった俺らが、全国でベスト16にまでなれたんだ。あと4回多く勝つくらい、なんとかなる。

 

 

 

 そして今、関東大会に向けた県予選。準決勝を勝ち進んで、残すは決勝のみ。

 

「藤原、次も勝って優勝で終わらせるぞ」

「当然です」

 

 最初は小さいと思っていたこいつも、いつの間にか見上げるようになった。こいつだけじゃない、今じゃ部内で俺より小さいやつなんて2人しかいない。

 身長だけじゃない。レシーブもトスもサーブもブロックもスパイクも。プレイヤーとして、俺が一番であるモノなんて一つもない。

 

 それでいい。

 

 キャプテンとして、チームを良い状態に保つこと。チームとして、一つでも上に行くこと。

 

 藤原が輝ける場所を作ることが、俺の最後のプライドだ。

 

 

◇◇◇

 

 

 キツイなぁと、そう思いながらおにぎりを口に運ぶ。

 

 関東大会へ向けた県予選は、日程が鬼畜すぎる。

 まずIH(インターハイ)予選直前に開催すること自体がおかしいのと、普通は3日間掛けてやる県大会を土日の2日間で行うのもおかしい。

 その所為で今日は既に勝ち抜いた2試合と、この後に控えた決勝戦の、計3試合という地獄日程だ。

 幸いにも栄明はシードで昨日は1試合しかなかったし、ここまでストレートで勝ち進んでいる。他チームより消耗は少ない。ただキツイものはキツイ。

 

 下のメインアリーナでの5位6位決定戦。男女合わせて4コート、どこも第1セット中盤。まだいけるかと、もうひとつおにぎりに手を伸ばす。

 

「翔、おつかれ」

「針生か、そっちこそ応援ありがと。猪股と笠原もな」

「いえ、お疲れ様です」

「お疲れ様です」

 

 今日は千客万来だ。朝は女バスに、さっきは新体操、そして今はバド部。先輩たちの方にも応援が来ていた。

 普段は他部活も練習やら大会やらで応援なんて来れない分、今日は部員全員のテンションが高い。

 

「というか針生、タイミングいいな」

「なんで?」

「ちょうどミサンガ切れたんだよ」

 

 開きかけたおにぎりを包み直して、バッグから切れたミサンガ取り出し、掲げた。

 

「準決のあと気づいてさ」

「お、まじか。縁起いいじゃん」

「だろ」

「ちーには言ったん?」

「さっきLINEで。『ご利益証明するために優勝するよ』って言ったら、『私も早く切れてほしい』ってのと、あの変な鹿スタンプ返ってきた」

「あーあれか」

 

 妙にリアルな絵柄スタンプ。鹿野のお気に入りらしいけど、あのセンスは理解できない。

 

「つか3人だけ? 西田とか一緒じゃなかった?」

「あっちで女バレの試合見てる」

「なる」

 

 アリーナをチラ見して視線を戻すと、猪股が微妙な表情をしているのに気がついた。そういえばこいつ鹿野のことが好きだったなと思い出す。好きな先輩が他の男子とお揃いでミサンガ付けてたんだ。そんな顔にもなる。

 フォローするか話題逸らすか、どうしようかなと考えて……やめた。

 俺って性格悪いなぁと、そう自嘲する。

 

「猪股、地区大会優勝おめでとう。春休みと部内戦のリベンジできたな」

「あ、ありがとうございます」

「確認だけど、IH行くって目標は変わってないな?」

「はい、変わってないです」

「そっか。それならさ」

 

 表情を引き締めた猪股に向けて、挑発的に笑う。

 

「決勝戦しっかり見とけよ」

 

 これは私怨だ、憂さ晴らしだ。好きな女に振り向いてもらえなかった男の、情けない嫌がらせ。

 4か月前猪股に指導を頼まれて、そのひたむきな姿を見てきた。こんなんで折れるわけがないと分かっているからこそ、全力で叩きにいく。

 

「猪股の目指す全国がどれだけのもんか見せてやる。折れてくれるなよ」

 

 

 

 

〜針生視点〜

 

「なんか、すごい自信でしたね、、」

 

 大喜が腕を擦りながら呟く。そうだなと同調し、内心でも大喜に同情する。

 あれは完全にヤりにきてた。実力差を見せつけて、お前じゃ全国なんて無理だよって叩き潰すつもりだ。

 

「それだけの事をやってきてるからな。あいつの実績並べたら、漫画の世界かよってなるくらいすごいぞ」

 

 強豪でもないチームに入部し、専門のコーチもいない中、一年後の総体で全国出場。それからずっと県では負け無し、本人も最優秀選手賞を取り続けている。

 そこに身長のハンデがあるとか、顔がいいとか、実はダンスも上手いとか、身近な好意に気付かないとか、色々要素が盛られていく。

 

「針生先輩、なんだか楽しそうですね」

「そうか? ……そうかもな」

 

 笠原に言われて気付く。俺は今わくわくしてる。翔があんなクソガキみたいな表情するなんて滅多にない。決勝戦が楽しみで仕方ない。

 

「覚悟しとけよ大喜。半端な気持ちで見たら心折れるぞ」

「うっす……」

 

 大喜はさっきの事を思い出したのか、ぶるりと体を震わせた。

 

 

◇◇◇

 

 

 相手コート、レフトに高くボールが上がる。

 勢いよく助走に入るのは相手チームのエース。高山と並んで、二枚ブロックを跳ぶ。

 

「ワンタッチ!」

「前ッ!」

 

 手に当たりボールの軌道が変わる。コート前方に緩く落ちていくボール、内田先輩が走り込んで落下地点に入る。

 ボールは余裕を持って上げられた。久保先輩が後衛からボール下へ移動し、内田先輩も戻って助走に入る。

 

 真ん中から速いテンポで高山、その後ろからキャプテン、レフトから内田先輩とライトからは俺。いつも通りの4択。相手はちゃんと全部警戒してる。

 

 スパァン!

 

 そんな時は、シンプルに早い真ん中。

 

「ナイスキー!」

 

 点を決めた高山に、チーム全員が駆け寄る。

 

「内田先輩もナイスレシーブです」

「別に、ただのチャンボだろ」

「謙遜するならそのドヤ顔隠しましょうよ」

「あ?」

「何でもないです。あ、次サーブですよ」

 

 そう促すと、内田先輩はエンドラインへ向かう。その背中を見送りながら、内心で嬉しさをかみしめる。

 

『ただのチャンボ』

 

 それを上げるのは簡単だ、小学生でもできる。けれど、試合となるとそうもいかない。

 ボールの落下地点に入って、膝を使って、柔らかくレシーブする。そんな当たり前が難しい。

 

 半歩早くボールに辿り着くこと。

 その半歩の余裕が、ボールを操る余裕になる。その余裕は、セッターの余裕になり、スパイカーの余裕になる。

 些細な違いだけど、チームとして当たり前が染み付いてきたなと感じる。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 相手コート奥に伸びるサーブは、セッターのほぼ定位置に上げられた。

 ボールはエースのいるレフトへ、テンポの早いトス。待ち構える俺と、中央から少し遅れて高山。ブロックは1.5枚。強烈なスパイクが俺の右側、ストレート側へ抜けていく。

 

 抜けた先、いる。

 

「ナイス久保ぉ!」

 

 キャプテンが叫ぶ。

 久保先輩のレシーブしたボールは、ネットに向けて高く上がった。このままだとネットを越えてダイレクトで叩かれる。でも。

 

「藤原!」

「はい!」

 

 久保先輩がファーストタッチの今、トスを上げるのは俺だ。

 届く、届かせる。

 ネットギリギリで、オーバーでボールを捉える。上げた先はキャプテン、1枚しかいないブロックを躱して相手コートに叩きつけた。

 

「っしゃぁ!!」

「ナイスですキャプテン!」

「だろ!」

 

 駆け寄ると手を掲げてきたので、ハイタッチで応じる。思いっきり叩かれてちょっと痛い。

 

「長田うるせえ」

「トスとレシーブが良かったからだろ」

 

 キャプテンが決めた時の、先輩たちの辛辣さはなんなんだろう。うるさいからか?

 

「んなことわかってるよ。久保も藤原もナイスな!」

 

 そんな野次にもキャプテンは毎回嬉しそうに笑うので、ドМなんじゃないかって思ってる。

 

「悪い藤原、ナイスカバー」

「どもっす。ちょっと長かったですね」

「分かってる。次はちゃんと上げる」

「お願いします」

 

 久保先輩とは短く言葉を交わして、それぞれサーブ前の定位置につく。

 本人も分かっているけれど、言葉にして共有する。良いところと悪いところ、必要なものを飾らず簡潔に。

 最初は手探りだったコミュニケーションも、今では随分と慣れた。

 

 

 

 

 

 ローテーションが回り、相手エースが後衛に下がった。嬉しさと同時に、強烈なサーブに気を引き締める。

 

「ここ一本切るぞ!」

「「「「おう!」」」」「はい!」

 

 キャプテンの掛け声、審判の笛の音。

 相手エースが高く、ドライブ回転のかかったサーブトスを上げる。

 

 打った。そう認識した次の瞬間にはボールがネットを越えて襲いかかってくる。

 コート隅ギリギリ、守谷先輩が腕を伸ばすも大きく弾かれ、相手チームの得点。

 

「悪い!」

「オケオケ、次取り返すぞ!」

「おう!」

 

 今のは仕方ない。サーブが良すぎた。切り替えて再度位置につく。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 超速のサーブ、今度向かうのは内田先輩。

 

「っ! 悪いカバー!」

 

 上げたは良いものの、ボールはコート左側、久保先輩が届かない位置へズレる。

 

「ライト!」

「はいよ!」

 

 トスを呼ぶ。キャプテンから俺へ、オープントスが上がる。緩くアンテナへ伸びる、打ちやすいトス。

 目の前には三枚のブロック、みんなデカいやつばかりだ。

 でも、俺の方が強い。

 

 いいジャンプはいい助走から。あのセリフの通り、飛ぶ。

 

 ただそれだけ。

 

 小細工はいらない。

 

 高く飛ぶ、単純なそれが空中にいる時間をずらす。鍛えた体幹が、空中での安定感を生む。

 

 ぼんやりとした視界で、ブロックが落ち始めたのがわかった。力を誇示するように、ブロックの上からコートの真ん中へ打ち下ろす。

 

 ダァン!

 

「っしゃぁ!」

 

 ──(しょう)って飛ぶって意味なんでしょ! しょうくんにぴったりだね!

 

 どんなボール、どんな相手でも、空中なら俺が一番強い。

 

 

 

 

 

 後衛へ下がり、サーブを打つためにエンドラインから数歩下がる。

 ラリーで上がった呼吸を整えて、気持ちを落ち着かせる。

 第一セット、得点は18ー13。このままいけばこのセットは取れる。いけない思考だと分かっていても止まらない。

 

 IH(インターハイ)は東北だし日程も被ってるしで、雛や鹿野、針生たちも来れないだろう。彼女たちに見せられるのは今日この試合が最後。しかも、今からするのはサーブだ。

 

 バレーボールという競技において、特定の誰かを見続けることは難しい。ボールも選手も、狭いコートの中で目まぐるしく動くから。

 でも、サーブだけは違う。選手も、観客も、ただひとりを見る。

 

 雛がいる、針生がいる、猪股がいる、鹿野がいる。

 最後までカッコつけたい、発破をかけたい、全力で叩き潰したい、ありがとうって伝えたい。

 

 全員、俺を見ろ。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 サーブトス……あ、いい感じ。

 

 飛ぶ。打つ。ただそれだけ。

 

 ダァン!

 

 超速のサーブが相手選手二人の間で弾む。

 チームメイトが駆け寄ってくる、背中に聞こえる歓声が気持ちいい。

 

 今の俺、最高だ。

 

 

 

 

〜千夏視点〜

 

 翔くんのサービスエースが決まった。

 サーブ前の痛いくらいに張り詰めた空気が、一瞬で歓声に変わる。

 

「えっぐ、腕もげそう……」

「しかも速すぎ……」

 

 隣で渚たちが呟く。その通りだと思う。

 でもドン引きしすぎじゃないかなって思うから、私だけでもって声を張る。

 

「ナイッサー翔くん!」

 

 それが聞こえたのか、翔くんがこっちに振り返った。

 

 あっ。

 

 目が合ったのは一瞬で、軽く手を挙げられただけ。朝にも会ったんだけど、試合中だともっとやばい。

 

 ユニフォーム着てる翔くん、破壊力がすごい。

 

「千夏ニヤけてるぞ〜」

「いいでしょ別にっ」

「そうだね~」

 

 皆から生暖かい視線が向けられるので開き直って答える。でもあまりに視線が鬱陶しいので、隣の渚には体当たりして抗議しておいた。

 

 そうこうしているうちに、翔くんがサーブを打つ。

 弾丸のようなサーブ、相手選手がかろうじて上げたものの、大きく崩れてチャンスボールで返ってくる。

 

 真ん中にいち早く助走に入るのが壁山先輩。レフトの主将さん、後ろから翔くんと内田先輩がほぼ同時に助走を開始する。

 上がったのはど真ん中。壁山先輩がコンパクトに打ち下ろした。

 

「おお! ナイスキー!」

「20点乗った!」

 

 渚たちが興奮した様子で手を叩く。

 

 バレーは見ていて楽しい。

 張り詰めた空気からのサーブ、どこに上がるか分からないトスからのスパイク、さらにはブロックやスーパーレシーブ。ボールを目で追うのが精一杯なのに……いや、だからこそ、その瞬間瞬間での盛り上がりはすごい。

 

「藤原ナイッサー!」

 

 今度は渚たちも声を出していた。

 

「翔くん、もう一本!」

 

 私も負けじと声を張った。

 

 

 

 

 

 第一セットを25ー18で先取して、休憩を挟んでからの第二セット。

 両コートにそれぞれ6人が配置につき、審判がそれを確認する。

 

「あれ? 内田先輩じゃない」

 

 渚がコートを指差して言う。

 

「あ、ほんとだ」

「あの子って確か、藤原大好きくんだよね。きり…なんだっけ?」

「桐島くん?」

「そうそれ、桐島くん」

 

 今コートにいるのは、最近翔くんとの電話でよく話題に上がる桐島隼人くん。

 IH(インターハイ)までにはレギュラー入れ替えがあるかもと聞いていたけど、もう試合に出るなんて。本当に凄い子だ。

 

「あれで1年生でしょ。雰囲気あるわぁ」

「うちのバレー部背高いの少ないから余計だね」

「あれ180超えてる?」

「高山と同じくらいだし超えてるでしょ」

「いいなぁ背高いの」

「渚はそれ以上伸ばしてどうするの」

 

 そんな会話をしつつ、第二セットが始まった。

 

 

 

 相手サーブから始まった1点目、その子は強烈な印象を残した。

 

 セッターの定位置にレシーブが上がる。緩くレフトに伸びるトス、その先にいるのは桐島くん。

 

 ダァン!

 

 強烈な音と共に、ボールはコートへ叩きつけられた。

 

「おおお!」

「すげー!」

「ナイスキー!」

 

 渚たちのテンションが高い。

 

 今のスパイク、とんでもない威力だった。

 

 栄明では翔くん以外に聞けなかったレベルの強烈な音。

 もちろん主将さんたちも凄いし、当たったら腕が吹っ飛びそうだけど。彼らのスパイクは『打ち抜く』という表現が近い。

 でも、今の桐島くんのスパイクは、『叩きつける』という言葉が似合う。相手チームのエースの人や、今日の翔くんのような、ザ・チカラって感じのスパイク。

 

 コートでは、桐島くんが主将さんに頭をわしゃわしゃされている。身長差で桐島くんが屈んでいるせいで、なんだか変な光景だ。

 解放された桐島くんに翔くんが声を掛ける。ここからでも分かるくらい、桐島くんが嬉しそうな顔をした。

 

 ──皆さ、俺の我儘に文句一つ言わないでくれてるんだ

 

 ふと、先週翔くんと電話した時の言葉が頭に浮かんだ。

 

 ──最近昔を振り返るきっかけがあってさ

 ──改めて思うと、今までずっと迷惑掛けっぱなしだったなって

 ──前に話した鹿野の真似も、下手くそだったのにノッてきてくれて

 ──それどころか、先輩たちの方から歩み寄ってくれて

 ──だから今の俺があるのは、チームのおかげってのもあって

 

 きっと雛ちゃんと何かあったんだろうなって思って。でもそれを消し飛ばすくらい、翔くんの声が印象的だった。

 

 ──だから、約束は守らなきゃなって

 ──このチームで勝ちたいなって

 

 穏やかだけど、決意に満ちた声。チームの事が大切なんだなって、電話越しにも伝わってきた。

 

 ──自信はある

 ──俺が出来ることは全部やった

 ──先輩たちも気合い入ってる、桐島もレギュラー目前だし

 ──今年のバレー部は、ちょっと凄いぞ

 

 翔くんにそこまで言わせるチームメイトが、ちょっとだけ羨ましかった。

 

 今、目の前で翔くんと同じコートにいる彼らを見て、その気持ちが再燃した。

 

「……私も、頑張らなきゃ」

 

 恋ではない嫉妬を抱えて。絶対に全国へ行くと、翔くんと肩を並べてみせると、改めてそう決意した。

 

 

 

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