四角関係   作:slo-pe

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今回のお話について、前半にバレー部の試合描写(1点だけ)があるため、オリキャラ紹介・ポジション解説から入ります。なお出番の無いキャラは省略しています。

◎簡単ポジション解説&キャラ紹介
・WS(ウィングスパイカー)
レフト。主にスパイク打つ人。
→長田(おさだ):キャプテン。身長は169センチ。
→内田:3年。

・S(セッター)
トス上げる人。
→久保:3年。

・OP(オポジット)
セッター対角。オリ主のポジション。

・MB(ミドルブロッカー)
背が高い。速攻とブロックする人。後衛ではリベロと交代。
→高山:2年。183センチ。部内で一番の高身長。

・ベンチ
→桐島隼人:1年。編入生。翔くんバカ。入学からまた伸びて現在182センチ。

以上、長々と失礼しました。
それでは、どうぞ。



頑張れ

 

 

〜大喜視点〜

 

『今週桐島が何を言うか予想し隊』

 

 うちのクラスの約半数が参加している非公認グループ。名前の通り、週の最初に桐島が何を言うか予想し合うだけのグループ。

 今週は、県大会での藤原先輩がカッコよかった、試合に出て褒められた、という予想が多かったが、それらは全て外れ。

 見事正解したのは雛だった。

 

「見てくれよ蝶野、これ翔先輩載ってる! めっちゃカッコいい!」

 

 クラス中に響く声を出し、桐島が掲げるのは、月刊バレーボールという雑誌。

 

「おおー、翔くんかっくい〜」

「だろだろ! このインタビューの写真もかっこいいし、こっちの飛んでる写真なんてもう最高!」

「最強の2年生エースだって、すごいよね〜」

「そう! この編集者ほんとよく分かってる!」

 

 興奮した様子で語る桐島に、雛はにこにこと相槌を打つ。

 だけど、なんか、雛の反応が薄いような……

 

「ん? もしかして蝶野もう読んでた?」

「うん。翔くんが献本貰ってたから家行った時に」

「なにそれうらやま」

 

 羨ましがっていた桐島も、雛が内容を知っていると気づき、雑誌に意識を戻した。

 桐島が落ち着いたおかげで、声のボリュームが下がった。No.1、こんな飛んでるんだ、翔くん疑われてるし、ダークホースだってと、雛の高い声が途切れ途切れに聞こえる。

 

 ふと、雛と目が合った。

 

「大喜! 気になるならこっち来なよ!」

 

 呼ばれて席まで行くと、桐島が雑誌を渡してきた。

 

IH(インターハイ)で5本の指に入る選手たち』と書かれており、上から3つ目に藤原先輩の名前があった。

 

 数ページをめくると、見開きにでかでかと写る藤原先輩。飛んでいるのを写した写真、インタビューの際の顔写真。そして選手紹介の文章。

 

『藤原 翔(栄明 / OP(オポジット)

 最強の2年生エース

 藤原は総合力No.1と呼び声高い、攻守に優れたオールラウンダーなOPだ。

 さらに春高バレー時点で身長173cmと小柄ながら、最高到達点339cmを誇るハイジャンパー。

 攻撃面では、どこにでも打てるコースの幅に加えて、それをギリギリまで読ませない美しいフォームが特徴的。コーナーを狙った足の長いクロス、キレのあるストレート、コートの穴を見極めてポトリと落とす軟打。「本当に高校生?」と思わず疑ってしまう完成度の高いプレーに是非注目して欲しい。

 2段トスを打ち抜くのも巧い選手で、レシーブが乱れてトスが悪くなった時でも、空中での安定感を損なわず相手コートに叩き込むことができる。

 守備面についても、レセプションの範囲を広く任されていて、軽いタッチで質の良いボールをセッターに返球しそのまま流れるように助走に入っていく。

 その藤原を含め、栄明はチームとしての守備力が非常に高い。相手のハマった攻撃を拾い繋ぎ、ひとたびAパスが上がればしっかりと得点を奪っていく。堅実さが売りのチームだ。

 栄明は前回大会が初出場。同じく初出場の春高バレーではベスト16と、徐々にその頭角を現している。その勢いのまま力を発揮出来れば、大会のダークホースになる可能性は高いだろう』

 

 その後には軽いインタビューが続く。

 けど。

 

「なんか俺のイメージと違うような」

「何処が?」

「もっとこう、ドッカンドッカン打つ! みたいな事書かれてると思ってたんだけど」

「「あ〜」」

 

 雛と桐島がハモった。目線で譲り合った結果、桐島が口を開いた。

 

「あれは昨日だけ。翔先輩もあんなプレーするんだって、俺もびっくりしたし」

「そうなん?」

「おう。普段の先輩は、もっと賢いというか、イヤらしいというか、守備の穴を突くようなスタイルだし」

「翔くんもカッコつけたかったんだよきっと、皆応援に来てたもん」

「アレやっぱりそういう事だよな」

「かわいいよね〜」

 

 藤原先輩でもそういう事するんだなと思った。

 次のページに載っているのは2人。ページを戻ると、見開きで1人ずつ藤原先輩と同じ形で紹介されている……てことは藤原先輩3本指に入ってるのか。まじかよ。

 

「あれ? これって……」

 

 ふと、右ページの選手に目が留まった。

 

『源田 将義(泉台(いずみだい)学園 / WS(ウィングスパイカー))』

 

 泉台学園、どっかで聞いたことあるような……

 

「それ、俺の先輩」

「あー、それだ」

 

 そういえば自己紹介の時に言ってたっけ。そう納得していると、雛がのぞき込んできた。

 

「あ、この人翔くんがめっちゃ褒めてた人だ」

「藤原先輩が?」

「うん、春高で優勝してたし、IHでも強敵だって」

 

 雛が桐島に視線を向けた、吊られて俺も桐島を見る。

 

「源田さんはまじでやばい。呼び名がカッコいいから5本の指に入るエースって書いてあるけど、実際は翔先輩と源田さんの2大エースってなるくらいすごい」

「え、そんなに?」

「ああ。俺の贔屓目もあるかもだけど、やっぱりこの2人は頭一つ抜けてる」

 

 源田さんって人の凄さを聞いたのに、藤原先輩の凄さに驚くことになった。

 桐島が続ける。

 

「総合力で言えば翔先輩だし、スパイク技術も翔先輩が上だと思う、味方に来て嬉しいのもそう……でも、敵にいて嫌なのは源田さんじゃないか」

「何が違うの?」

「高さとパワー」

 

 短くシンプルな答え。

 

「ブロックが付いてても上から打ってきたり、レシーブがいても構わず吹っ飛ばしてきたり、それでいて速いトスも打てるしコースの打ち分けも上手いし……なんかこう、心を折ってくるというか、理不尽の塊みたいな人だから」

 

 アハハと乾いた笑みを漏らす桐島。

 

「でも次の大会で戦うかもしれないんでしょ?」

 

 雛が聞く。

 

「そうそう。2週間後の関東で」

「それ大丈夫なのか? 元先輩だからとか、苦手意識とか」

「…わかんない。俺が中1の時の先輩たちはめっちゃ凄く感じたし、今でもそれは感じるから。でも出るからには全力でやるし、やるなら勝ちたいって思う」

「いいじゃんいいじゃん。昨日も凄い活躍してたし、次はフルで出られるって」

「いや、1セット目は内田先輩で、俺は2セット目からって言われてる」

「え、なんで?」

「…打ち分けの技術とか守備は先輩の方が上手いし、その方がチームも安定するから。まずは外から見て、自分が入った時のことイメージしろって言われてる」

 

 そう言う桐島の顔には悔しさが滲んでいた。それを振り払って雛に聞く。

 

「そういえば蝶野も県予選近いんだろ? 関東と同じ日って聞いたけど」

「そうそう、新体操って早いんだよね」

「頑張れよ」

「ありがとう、桐島くんも頑張ってね」

「おう」

 

 雛が俺の方を見た。

 

「大喜も言ってよ」

 

 なんか改まって言われると緊張するな。それでも応援する気持ちはちゃんと伝えたい。

 地区予選の前日の雛のように、真っ直ぐに見つめて。

 

「頑張れ」

 

 そう言うと、雛は本当に嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「言われなくても頑張るもん」

「言わせたんだろ!」

 

 

 

 

〜桐島(オリキャラ)視点〜

 

 関東大会当日、一回戦を勝ち進み、昼飯を食べ終えてトイレを済ませると、通路の先にかつての先輩がいた。

 相手もこちらに気づいたので、駆け足で向かう。

 

「源田さんお久しぶりです」

「おう、桐島そのユニフォーム似合ってるな。一回戦も見てたぞ、また上手くなってたな」

「ありがとうございます」

 

 源田さんは割と気さくな人だ。現役時代は他の部員よりも良くしてもらっていたし、引退してからも時折連絡している。

 

「栄明はどうだ? 藤原も他のメンバーも」

「翔先輩はやっぱり凄いですし、他の先輩方も巧いです。すぐレギュラー取れるとか思ってた自分を殴りたいくらいです」

「へえ、やっぱ送り出してよかったな」

 

 源田さんが安心した表情になった。

 そういえば当時、同級生や先輩、監督は引き留めようとしてたけど、この人は話を聞いてから「いいじゃんいいじゃん、行け行け」と笑っていた。

 

「藤原ばっか見てるようならダメになるけど、そこまで分かってるなら大丈夫だな」

「…ご心配お掛けしました」

「気にすんな。それより栄明の事聞かせてくれよ」

 

 要望に応えて色々と話していると。

 

「あっ」

「? あ」

「どもっす」

 

 源田さんが声を上げ、吊られて振り返った先には翔先輩。そして翔先輩が軽く会釈する。

 

「おやおや藤原くん、元気そうで」

「ええ、おかげさまで」

 

 なんか急に口調が変わった源田さん、笑ってるはずなのに怖い。

 

「そりゃあうちの次期エースを盗っていったんだから調子いいよな」

「俺が悪い事したみたいに言わんでください。桐島の意思でしょ」

「だからだよ。俺がお前に負けたみたいになるだろ」

「桐島の中ではそうなんですかね?」

「あ゙あ゙?」

「フッ」

 

 えー、翔先輩めっちゃ煽ってるし源田さんもバチバチにキレてるんだけど。なにこれ。二人ともこんな人だったっけ?

 源田さんが翔先輩に近づき、そのまま見下ろす。

 

「春高でさっさと負けたくせになあ」

「うぐっ」

「あと1回勝てば俺たちと当たったのになあ」

「くっ」

「合宿の時の借りを返すとか息巻いてたのになぁ」

「……」

 

 合宿の時の借り? ああ、ユース合宿か。何があったのか気になるけれど、さすがに聞ける雰囲気じゃない。

 翔先輩が一つ息を吐き、源田さんを見上げる。

 

「IHで、今度こそ負かしてやりますよ」

「へえ、関東は捨てると」

「はい、今は育成中なので。泉台にとっても関東は色々試す場所でしょう?」

「まあな」

 

 翔先輩がちらっと俺を見た。

 

「全国で優勝するには桐島の力が必要不可欠なので。ここでは胸をお借りしますよ」

「なるほどね」

 

 その言葉に胸が温かくなった。

 

「それじゃ準決勝までは勝ち進んでこいよ。ボコボコにしてやるから」

「ういっす」

「桐島も頑張れよ」

「はいっ、ありがとうございます!」

 

 源田さんは楽しそうに去っていった。

 

「あの、翔先輩」

「どうした?」

「ユース合宿で何かあったんですか?」

 

 翔先輩が顔を顰めた。すみませんやっぱりいいですと言おうとしたが、翔先輩の方が速かった。

 

「スピードで負けた」

「え?」

 

 スピード? 何の話?

 

「合宿中あの人と同室で、夜にトランプやってたんだけど、スピードで一回も勝てなかった」

「はぁ」

「他の人と一緒に遊ぶ時も、俺だけ狙い撃ちにしてきて。七並べでも大富豪でも……」

 

 物凄い因縁があるのかと思ったのに、しょうもない話だった。

 

 

 

 

 

 栄明は順調に勝ち進み、二日目の準決勝は栄明 対 泉台学園。

 今は第一セット終盤。

 

「すっげ…」

 

 アップを程々に済ませた俺は、目の前の試合に釘付けになっていた。

 得点は25ー24。栄明のセットポイントだ。

 大っきくて強くて、雲の上みたいに思ってたかつての先輩たちを相手に、栄明(うち)があと一歩まで追い詰めている。その事実に感動した。

 

 ピッと、審判の笛が鳴る。

 

 キャプテンのサーブはきれいに返球された。トスは源田さんへ、高速のバックアタック。高山先輩と少し遅れて久保先輩、ブロックは1.5枚。

 そのブロックを抜けた先、いる。

 

「ッ! スンマセン!」

「いい、いい! 次来るぞ!」

 

 コースで待ち構えていた翔先輩を吹き飛ばすスパイク。高く上がったボールは直接相手コートに返っていく。

 

 万全の態勢からの攻撃、何処に来る……

 

 レフトへ時間差攻撃。久保先輩と高山先輩、今度はきっちり二枚ブロックが揃う。それに合わせるように四人のレシーバーが構える。

 そして。

 

(ナイスレシーブ)

 

 久保先輩の口がそう動いた。それほどに余裕のあるレシーブが上がった。

 真ん中から速いテンポで高山先輩、レフトから内田先輩、後ろからはキャプテンと翔先輩。いつも通りの4択。

 トスの先は翔先輩。ゆったりとしたトスな分、相手も二枚ブロックを揃えてくる。

 

 ポォン

 

 掌に軽く当たったボールは、ふわりとブロックの上を通り、コート中央に落ちた。

 26ー24、第一セットは栄明だ。

 

「すっげぇ……」

 

 今、ブロックが揃った瞬間、捕まったと思った。俺なら捕まってたかも。

 きっちり揃った二枚ブロック、コーナーへのスパイクを警戒して深く構えたレシーバー、ブロックを躱した先の強打を警戒したレシーバー、フェイントを警戒してブロックのすぐ後ろに控えたレシーバー。その全てを嘲笑うかのように決めてみせた。

 やっぱり、この人は、すごい。

 

 ピピーッと、審判の笛が鳴る。

 

 コートを入れ替えて、第二セット前のタイムアウト。監督を中心に集まる。

 

「ミーティングの通り、次のセットからメンバー交代だ。桐島、いけるな?」

「はい!」

 

 俺もあんな風に、そう気合を入れて返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「桐島、決勝戦始まるぞ。しっかり見とけ」

「はいっ」

 

 翔先輩の声に勢いよく返事をする。アリーナでは選手たちが整列しており、その片方は俺たちがさっき戦っていた相手、泉台学園だ。

 

 栄明は負けた。

 26ー24、21ー25、22ー25。

 俺が出た第二、第三セットを連取されての逆転負け。調子は悪くなかったし、実力も出せたと思う。それでも負けた。

 

『悔しい?』

 

 試合後、翔先輩は言った。悔しいですと答えると、「ならいい」と返された。

 

『泉台は攻撃もブロックも全国トップクラスだ。ここでそれを経験できたのはデカい』

 

 攻撃とブロック。俺はそれに対応できなかった。レシーブで狙われ、ブロックには何本も捕まった。もし内田先輩が出ていたら、確実にもっと拾えていた、もしかしたらもっと決められたかもしれない。

 それでも俺は出続けた。監督は「まだいけるか?」と聞いてきただけで、最後まで俺を下げようとはしなかった。

 

『今日出来なかった分、IHで暴れてくれよ』

 

 次こそはこの人の期待に応えてみせると、そう誓った。

 

 

◇◇◇

 

 

〜千夏視点〜

 

 6月10日、IH(インターハイ)県予選を翌日に控えて、放課後の練習は軽めかつ短めなものだった。

 家に帰り、夕食に身体のケア、翌日の準備を済ませてもまだ寝るには早い。

 

「いよいよだね」

『そうだな』

 

 ベッドに寝転がった横で、スマホから声が聞こえる。

 今では週に1、2回になった翔くんとの電話。最初はドキドキしっぱなしだったけど、最近はこの声を聞くとドキドキするのと同時にほっとする。

 ああ、好きだなぁと、そう思う。

 

「あのね、翔くん」

『どした?』

「ありがとう」

 

 電話越しの沈黙、戸惑ってるのが伝わってくる。私からそれを破る。

 

「あの時、体育館にいてくれて。あの時、私の話を聞いてくれて。あの時、辛いって分かってくれて。それに、入学してからずっとずっと、隣で練習してくれて……だからありがとう」

『…どういたしまして』

「ふふっ、翔くん照れてる?」

『ちょっとだけ』

「そうだね、ちょっとだけだね」

 

 二度目の沈黙、今度はぶすっとしてそうだなと。そんな想像をして楽しくなる。

 

「ねえ翔くん、IHが終わったら言いたい事があるの」

『今じゃなくて?』

「うん」

『わかった。俺からも一ついい?』

「なに?」

『さっきの鹿野じゃないけど……ありがとう』

「うん」

『……』

「……え、それだけ?」

『それだけ』

「なんかこう、具体的に何がとか」

『前に言ったじゃん』

「それはそうなんだけど、もう一回言ってほしいなって」

『嫌だ』

「なんでよ」

『恥ずかしい』

「前は言ってくれたじゃん」

『あの時は鹿野が泣いてたから、多少恥ずかしい事言っても平気だったし』

「じゃあ私が今泣いたら言ってくれる?」

『無理』

 

 頑固な翔くんにその場は諦めることにした。

 大会前日ということもあり、それから少しだけ話をして、電話を切った。

 

 

 

 

 

 パシュっと、ボールがゴールに吸い込まれる音がする。その直後、ピーっとブザーが鳴った。

 

「82ー50、栄明高校」

 

 審判のアナウンスが響き、相手チームの選手たちは泣きながらコートを去っていく。

 

「ナイス千夏ー!」

「ヒャッ!」

 

 突然脇腹をくすぐられ、変な声が出た。身を守りつつ振り返る。

 

「渚やめてよ汗だくなのに」

「勝利祝いのこしょこしょじゃよ」

 

 両手をワキワキさせる渚を睨む。

 

「ナギあんま浮かれるなよ。予選は始まったばかりなんだから」

「いーじゃないっスか。喜ぶときは積極的に喜んでいかないと」

「まあチームに1人は君みたいな人がいてもいいか」

「えへへ」

 

 部長が窘めてくれたけど、渚にはどこ吹く風。それどころか認めさせる始末。とりあえず距離を取って身の安全を確保する。

 

 ピーっとブザーが鳴った。

 

 隣のコートから、お疲れ、ナイスファイトといった声が聞こえる。アナウンスされた点差は圧倒的だ。

 籠原学園。去年のIH出場校であり、栄明が決勝で負けた相手。

 

「あっちも勝ったみたいだね」

「やっぱり今年も決勝であたるのは籠原学園か」

「去年の雪辱を果たさないと」

 

 セリフから先輩たちの気迫が伝わってくる。

 

 勝ちたい。今度こそ。

 

 去年の今は観客席で、2年前の今はコートの中で、悔しさを噛み締めた。

 

 勝つ。勝って、今度こそ全国へ。

 

 改めてそう決意を固めて、コートを後にした。

 

 

 

 その日の試合が終わり、私たちは学校へ戻った。勝ったにも拘らず、部内の雰囲気は暗い。原因はバスの中で渚が語った事、決勝戦であたる籠原学園のミーティングを聞いてしまった事。

 

 そんな雰囲気のまま、着替えて体育館に入る。いつものコートの両隣、試合がなかったバド部と、試合があった男バレが揃っていた。

 男バレの人たちはネット張りが終わってこれから練習するみたい。

 

「女バス、なんか暗くないか? 今日勝ったんだろ?」

 

 ネット越しに主将さんが聞いてきた。その後ろに男バレの人たちもついてくる。

 

「あーうん、勝ったは勝ったんだけど、ちょっとね」

 

 部長が答えた。

 

「これ聞かない方がいいやつ?」

「いやそういうわけじゃないんだけど」

 

 部長が遠慮がちに私を見た。大丈夫ですと頷く。

 

「今日の試合終わった後ね、うちの部員が籠原の人たちのミーティング聞いちゃって」

「籠原って去年女バスが負けたっていう?」

「そうそう。その籠原がさ、うちの試合見て千夏の事『大した事ない』『成長してない』とか言ってたみたいで」

「へー」

「……あれ? それだけ?」

「そんだけ。うちは無名だし背も低いしで舐められる事多いから。そんなんしょっちゅうだよ」

 

 そう言って笑う。それにと、主将さんが私の方を見た。

 

「鹿野さんも言われっぱなしで終わるわけないもんな」

「はいっ」

 

 私が勢いよく返事をすると、主将さんは笑みを深めて頷く。

 

「藤原からもアドバイスしてやれよ」

「いいですけどなんで俺なんですか」

「いやなんでって言っても、なぁ」

「舐められたって話なら藤原だろ」

「中3の時のあれだよな」

「あれは忘れてください」

「いやむりだろ、あんなクソガキエピソード」

 

 主将さんが周りに視線をやると、次々に同意が返ってくる。

 

「長田、あれって何? 藤原くん何かしたの?」

「おう、俺たちが中学で初めて全国行った時な」

 

 部長が聞くと、主将さんが話し出した。翔くんに確認は取らないみたい。

 

「一回戦の公式ウォーミングアップの最中に、相手チームのキャプテンから藤原が『え、ちっさ』って言われたんだよ」

 

 居心地悪そうな翔くんを除いて、2.3年生はうんうんと頷いている。

 

「それで藤原がやったのがさ、試合始まって1点目で、わざとオープンで真っ向勝負。三枚ブロックの上から叩きつけたんだよ。んで、驚いてる相手に向かって『え、ひっく』とか言ってよ。あれは笑ったよな」

 

 女バスの皆から視線が集まると、翔くんは顔を背けてしまった。かわいい。

 

「てことで、その籠原が鹿野さんを馬鹿にしてたなら。試合で実力見せつけてやればいいわけよ」

「そうね」

 

 部長がそう言って、私たちに振り向く。

 

「私たちは千夏の実力も、努力してきた事も知ってる……だから決勝戦、しっかり勝って、籠原の目が節穴だったって証明して、そして気持ちよく全国に行こう!」

「「「「はい!」」」」

「よしっ、それじゃあ練習! 皆準備して!」

 

 部員が散り散りになって準備を始める。

 

 私もと動き出したところで、振り返っていた翔くんと目が合った。思わず足を止める。

 翔くんの口が動く。

 

 ──がんばれ

 

「普通に言ってくれればいいのに」

 

 今度の電話で、いや明日の朝練で言ってもらおう。ついでにさっきの詳しい話を聞こうと決めて、私も練習の準備に取り掛かった。

 

 

 





・源田将義
藤原と共に全国2大エースとされる。ハイキュー!! で例えると右利きのウシワカ。
牛島若利→牛若丸→源義経→源田将義
と名前も意識してます。性格は全然違いますが。
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