〜大喜視点〜
花火大会当日。
針生先輩に誘われてとある体育大学の練習に参加することになった。
兵藤さんがいたこと、針生先輩が既に何度か練習に参加していたこと。色々と驚きながら練習が始まった。
「休憩の後シングルノックー」
号令が掛けられた。シャトルの音、シューズが床を擦る音が止まる。コートから壁際へ、選手たちが移動していくのに俺も続く。
ドリンクを飲み、シャツで汗を拭い、荒い息を整える。
キツイ。いつもの練習とレベルが違う。針生先輩ですらキツそうな顔してる。
呼吸が整ってきて周りを見る余裕ができた。偶々隣にいた兵藤さんを見ると、涼しい顔でウイダーを飲んでいた。大学生の人たちと比べても余裕がありそうだ。
ふと、兵藤さんと目が合った。
「いる? 口つけちゃったけど……」
「いや! 結構です!!」
「ならいいや」
大会での圧倒的王者感が印象強かったため、フレンドリーさを意外に感じる。
「君さ、フットワーク苦手だよね」
「えっ」
会話が続いたことに驚いて、その内容にまた驚いた。フットワーク、つまりは足、俺が一番の武器だと思っていたものなのに。
「言い方が悪かったか、君のはただ走ってるだけでフットワークの技術自体は低い。反応はいいのに動きが遅いし、長いラリーになるとフォームがバラつく事も多い」
補足された言葉を噛み砕いて、一度飲み込む。
「具体的に教えてもらえますか?」
「例えばネット際に出てから下がる動作。右足はちゃんと引けてるのに、左足は出来てない。そうなると足が揃っちゃうから、次動くときに半歩遅れるんだよね」
兵藤さんが実演してくれるのを隣に、同じ動きを繰り返す。こうこうといい動きと悪い動きを流れで見せられ、実際にネット越しにラリーをして。
傍から見れば地味な、でも俺にとっては貴重な、そんな練習がしばらく続いた。
「ありがとうございます。他にも何かありますか?」
「気になったのは後ろへのステップかな。下がりながら身体を開くときって、左足をこう…向きを変えるよね。そのタイミングが早いと、右足に体重が残ったままだから、右足を下げるときに詰まって身体が浮いてきちゃう」
「まず右足から左足に体重を乗せて、その後左足の向きを変えてから右足を着ける、ですよね」
「そう。頭では分かってるみたいだし、いつもは出来てるんだけど、球を追うことに集中しすぎて出来てない事も多かった。遊佐も試合中気づいてたんじゃないかな」
遊佐くんとのラリー、取りづらい球が多いと思ったらそんな癖を見抜かれていたとは。
兵藤さんは周りを見渡して、ある方向を指差した。
「あそこの赤いTシャツの人いるでしょ、あの人が一番フットワークが上手い。練習最後に試合形式やるからよく見てみるといいよ」
「分かりました、ありがとうございます!」
お礼を言い、頭を下げる。
「あの」
「なに」
「どうしてこんな教えてくれるんですか?」
「強くなりそうだから」
即答された。
「こう言ったらなんだけど、栄明で針生と張り合える選手っていないでしょ?」
「そう、ですね。3年生が引退してからは特に」
兵藤さんはそうだよねと相槌を打った。
「鍛錬には相手が必要、どんなに自分で頑張っても限界がある。俺が引退したら針生と遊佐の2強になりそうだけど、栄明は[[rb:佐知川 > うち]]みたいに全体のレベルが高いわけでも他の強豪とツテがあるわけでもない……でも君がいた。ダブルスでもシングルスでも結構いいショット打ってたし、このまま上手くなれば二人ともいい関係になれるかなって」
真顔で淡々と語られるそれに、嬉しさと気恥ずかしさ、なにより高揚感を感じた。
針生先輩と遊佐くん。今の俺が目指す場所は明確。もっと頑張ろうと、そう決心した。
きっつい練習を終えて、プルプルと震える両足を叱咤しながら帰宅し、急いでシャワーを浴びる。
時刻は17時50分、花火大会の会場へ到着。人混みの中から雛を探そうとして、スマホのバイブに気づいた。
『ごめん!少し遅れる!!』
グダグダだな。まあ雛も練習あるって言ってたし。
待ち時間に何をしようかと考えて、雛がりんご飴を好きだったと思い出す。屋台通りを進み、りんご飴を2つ買ってから再度集合場所に戻る。
その片方を齧りつつ、とある思考に沈む。
俺は今日、どんな風に雛と接すればいいんだろう。
花火大会に誘われたあの日から、ずっと考えてきた。
俺は千夏先輩が好きなはずなのに、雛のことも女の子として意識している。
雛が俺に向ける気持ちは、親友に向ける気持ちとは少し違う、もう一歩進んだものなのかもしれない。
俺の気持ちと雛の気持ち。2つのことを考えなくちゃいけなくて。
でも、考えても考えても分からないまま、花火大会を迎えてしまった。
「ごめん、お待たせ」
「いやそんな待ってな、い──」
聞こえた雛の声に思考を打ち切って顔を上げる。そしてその姿に言葉を失った。
浴衣だった。髪もアレンジしてて、いつもと雰囲気がガラッと変わっている。
率直に言うと、見惚れていた。
「…それ、私にくれるの?」
雛が俺の左手、さっき買ったりんご飴を指差す。停止していた頭が思考を再開する。
「おう、300円な」
「わかった、席着いたら渡すね……それで、どう?」
りんご飴を受け取り、そのまま両手を軽く開いた雛が、緊張した表情で聞いてくる。
「似合ってる、可愛い」
あ。
考える前に口から出ていた。
今の俺は千夏先輩が好きなはずで。親友の域から抜けないように当たり障りのないことを言うべきだったのに。
雛はニヤけを抑えようとして、でも抑えられなくて、鼻の下を伸ばした表情になっていた。
あ、雛って本当に俺のこと好きなんだ。
ストンと胸に落ちた。目は口程に物を言う、今回の期末テストで憶えたことわざ。まさにそんなカンジ。
「…じゃあ行くか」
「うん!」
満面の笑みを浮かべた雛と並んで、予約した有料エリアへと歩き出した。
道中、雛はずっと楽しそうだった。
焼きそばを買って、フランクフルトを買って、じゃがバターを買って。食い物ばっかだなってツッコんでも、「今日は特別だもーん」と笑顔で返してくる。有料エリアに着いてからも、花火が始まってからも、雛はずっと笑っていた。気づけば俺もさっきまでの悩みを忘れて楽しんでいた。
『只今より20分の休憩を──』
「俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
「うん、荷物見てる」
「頼んだ」
「いってら」
打ち上げ間の休憩。混まないよう早歩きで道を進み、待つことなく用を足す。
途中、屋台で麦茶を二人分買い、人混みに逆らいながら戻る。
──いたいのいたいのとんでけー
「ん?」
今、何か聞こえたような……気のせいか。
席に戻ると、雛が三人の男子と話していた。
「伊藤?」
「あ、猪股……」
俺に気づいた伊藤は微妙な表情をした。俺も似たような顔をしていたと思う。お互い無言のまま数瞬、口を開いたのは他二人の男子だった。
「悪い猪股! 俺ら食い物買いに行こうとして、偶々蝶野さんがいたから話してただけなんだわ」
「そうそう、元々あっちで立ち見してて。てことで俺たちもう行くわ、早くしないと花火始まっちゃうし」
二人はそう捲し立てて、伊藤を引っ張って屋台通りに消えていく。
「…悪い雛、荷物見てくれてさんきゅ。はいこれ」
「あ、麦茶。ちょうど欲しかったんだありがとー」
レジャーシートに座り、麦茶を渡す。欲しかったと言っていた雛は、それを開けようとはしない。
──何話してたの、伊藤たちなんて言ってた、雛はなんて言ったんだ、伊藤のあの表情、二人で来たってことは聞いたはず、雛はなんて説明した
頭の中に溢れるそれを振り払うように、麦茶を流し込む。麦茶の冷たさが身体に染みる。雛もキャップを開け、一口だけ口に含んだ。
気まずい。さっきまでの楽しさが嘘のように気まずい。
そんな時、突然雛が空中を仰ぎ始めた。急にどうしたと思ったが、すぐに蚊が飛んでいることに気付いた。どうやらターゲットにされたみたいだ。
追い払うことに成功した雛だったが、直後落ち込んだ様子で首筋を掻いた。既に刺されていたらしい。
「ムヒ使う?」
「…ありがたく」
ムヒを受け取った雛だったが、浴衣の襟が邪魔で中々塗れそうにない。
「それじゃあ浴衣汚れるぞ。貸して、そこじゃなくてもっと左──」
雛からムヒを受け取り背中に回ったところで、顕になったうなじに目がいく。意識しないようささっと塗り終えた。
未だ残る意識を逸らそうと別の何かを探そうとして、セットされた髪から一房こぼれているのに気が付いた。
「髪、雛が自分でやったの?」
「へ? そうだけど…なんで?」
「いつも同じ髪型しか見てなかったから、なんか新鮮だなぁって」
「…似合ってはいるんだよね?」
「まあ、うん」
「ンフフ」
雛が笑った。最初に可愛いと褒めた時と違って、抑えようとしない満面の笑みだった。
ドーンと、花火が打ち上がった。
「再開したな」
「うん」
二人で静かに花火を見上げる。
「それじゃあさ」
「ん?」
「次はまた別の髪型見せてあげるから」
「…おう」
次。何の『次』なのか。
次に会う、明日の部活でなのか。
次また二人で出掛けることなのか。
次の、来年の花火大会のことか。
分からない。
分からないまま、一瞬で消えていく花火を見ていた。
◇◇◇
花火大会当日。
男バレのレクリエーションに参加したのは、3年7人、2年6人、1年11人のうち、7・5・7の計19人。
バドをやって、卓球をやって、バスケをやって。ぎゃいぎゃいと盛り上がっていた。
しかし。
「時間余るな」
目の前のバスケの試合を観ながらキャプテンが呟く。店の予約時間まではかなりある。片付けを加味してもあと1時間半は遊べそうだ。
「何かやりたい事あるか?」「チーム変えてバスケやるとか?」「いっその事バレーは?」「えぇ……」「今日はいいだろ」「今日くらいはなぁ」「予約早めてもらうとかは?」「19人だぞ? 無理だろ」
微妙な雰囲気が漂い始めたところで、鹿野がこちらに来るのに気づいた。
「翔くん、ちょっといい?」
「ん、どした?」
コート脇のベンチから立ち上がり、その場から離れる。そこで鹿野から言われたのが、男バレのレクに混ぜてほしいというお願い。
「女バスも大会前なのに大丈夫なのか?」
「監督と部長もオッケーしてくれたし大丈夫。それに、皆あんまり練習に身が入ってないから混ぜてくれた方が助かるというか」
「それは、まあ、わるい……」
「あ、男バレが悪いわけじゃないんだけどさ、隣で楽しそうにしてると、ね?」
確かに逆の立場なら集中できないよなと反省していると、鹿野が小さく手招きしてきた。顔を寄せると、鹿野は声を潜めてこう続ける。
「それと、うちの部長と男バレの主将さんがいい感じになったらいいなって」
「キャプテンと女バスの部長? え、あの二人ってそういう感じなん?」
「そうみたい。うちの部長は好きって言ってたし、主将さんの方も意識してるっぽいって。部活優先で恋愛ムードにはなってないみたいだけど」
「…言われてみれば、そんな気も、する」
「てことでお願いできない?」
「聞いてくるわ」
提案自体は渡りに船だったし、両想いならきっかけ作りに協力するのも吝かではない。
キャプテンに相談したところ、あっさりとオッケーが出た。
「団体競技がいいですけど、バスケは難しいですよね。万が一怪我したら大変ですし」
「そしたらバレーかな。[[rb:長田 > おさだ]]、何試合くらいできそう?」
「時間的に3試合はできると思う。進行具合によっては4試合ってことかな」
「2コート使えるので最低6試合っすか。6チーム作って3チームの総当たりとかですかね?」
「それでいくか。もし時間余ったら1位決めることもできるし」
「それじゃあチーム分けは──」
俺と鹿野、主将組の四人で6つにチーム分けをして、一通りのルールも決めた。
1セット21点マッチ。
コートに入るのは男バレ3人、女バス5人の8人。人数が余るチームは折り返しの11点で交代。
セッターは男バレがやる。それ以外はチーム毎にポジションを決めること。
サーブはアタックラインからアンダーサーブで。
キャプテンと女バス部長は無事同じチームになり、その流れで3年生がまとまったチームとなった。
俺はというと、男バレから壁山先輩と桐島、女バスからは鹿野が各学年2人ずつ集めた混合チームとなった。同学年で話せる鹿野と船見がいるのはありがたい。
「ポジションについてですけど、俺がセッターで、前衛でスパイク打つのが女バス二人。折り返しの11点で前衛を交代するって感じでどうですか?」
男バレで話し合って、女バスメンバーにも確認を取って、ポジションの動きを決めた。
試合前にチームで集まってパス練習をする。
目についたのはひとりの一年生。背が高いし、バレー経験はなさそうだがボールを操るセンスもいい。ただ、自信なさげな様子が目立つ。
このまま試合が始まって、一度失敗すると多分最後まで引きずる。男バレで言うと、外部編入組の小峰に似てるメンタルだ。
こういうタイプは一度成功体験を得ると化ける。
それなら。
「ちょっといい?」
パス練習が終わり、後輩ちゃんに声を掛ける。
「は、はいっ。なんでしょうか?!」
「バレーボールの速攻ってわかる?」
「あ、はい。真ん中から速く打つやつですよね」
「そうそうそれ。試合が始まってすぐそれやるから準備しといて」
「えっ」
後輩ちゃんの表情が固まった。
2.3年生を差し置いてとか、そんな難しい攻撃をとか、色々考えてそう。
個人的には、初心者は自分でタイミングを取るハイセットより、速攻の方がやりやすいと思うんだが、まあ見た目は難しそうだしな。
「助走のタイミングは、俺がボールに触る瞬間に踏み切るぐらい。打つ時のイメージはバレーじゃなくてバスケの感覚でいこうか。あの、なんだっけ、空中でダンクするやつ」
「アリウープ?」
「そうそれアリウープ。空中に置かれたトスを掴んで、そのままダンクする感じで腕振って」
鹿野の手助けのおかげでプレーの説明はできたけれど、後輩ちゃんの自信なさげな表情は変わらない。
どうしようかなと考えて……なんとなく、あのセリフが頭に浮かんだ。
後輩ちゃんと目を合わせて、一瞬見つめ合ってから軽く笑みを作る。
「ビビらんと入っといで、先輩が打たしたる」
後輩ちゃんから不安げな表情が消え、「はいっ!」と元気な返事をした。
うん、素直でエエ子や。
それじゃあ試合だと思ったところで、ニコニコ顔の鹿野に気づいた。
「どうした?」
「んーん、何でもない」
「あ、そう?」
明らかに何でもなくないのだが、分からないので気にしないことにした。
俺たち学年混合チームvsオール3年生の主将組チーム。第一試合が始まった。
主将組チームからのアンダーサーブは、緩い軌道で桐島のところへ。レシーブされたボールは当然俺の頭上に来た。
そのタイミングで、後輩ちゃんが走り込んでくる。場所は俺からレフト側、Aクイックの位置。
位置、ちょっと近い。高さ、助走は抑え気味。タイミング、ちょうど良き。
ここら、へん……!
バン! と、しっかりとミートしたボールは勢いよく相手コートに落ちる。
「〜〜〜っ!」
「おおーっ、ナイスキー」
「っ、はい! ありがとうございます!」
「次はもっと思いっきり跳んでいいぞ。ちゃんと合わせるから」
「分かりました! します!」
高揚した様子で頭を下げる後輩ちゃん。女バスの部員から褒め攻勢にあう。
「次はそっち上げるから。トスと同時に助走始めるくらいでよろしく」
「はぁい」
レフトの船見にも声を掛けると、間延びした返事のあと後輩ちゃんを褒めに向かった。
「翔くん」
「どした?」
後輩ちゃんから離れ声を掛けてきた鹿野は、試合開始前にもしていたニコニコ顔だ。
まじでどうしたと思っていると、鹿野はコホンとわざとらしく咳をしてから、目をキラキラさせてこう言った。
「『セッター……かっこエエな……!』」
「…なんで分かんだよ」
「翔くんにあの漫画教えたの私だよ? 分かるに決まってるって」
「にしてもだろ」
45巻もある中のたった1ページ、唐突に言われたそれを分かるのはおかしい。ちょっと引く。
でもそれ以上に、自分が好きなものを鹿野も好きでいる、その事実が嬉しい。欲を言えば、もっと好きになってほしい。
「鹿野」
「なに?」
「次の試合、バンバン打たせるからな」
「じゃあ私はこの試合、レシーブ頑張るからね」
鹿野は楽しそうに笑った。
強豪なだけあって、女バスのボールセンスは抜群だった。後衛の三人はしっかり山なりのレシーブをするし、前衛二人のスパイクも初心者とは思えない。
途中、ノッてきた後輩ちゃんがトスを鷲掴みにしてエアダンクをしたりと、笑いを誘うシーンもありつつ試合は進行する。
10ー11の折り返し地点で前衛の二人が交代し、さらに試合は進む。
そして現在、点数は18ー20。主将組チームのマッチポイント。
「鹿野さん!」
「はい!」
サーブボールはコート後方にいた鹿野の所へ。ゆるい回転で山なりの軌道、完璧なレシーブだ。
トスはレフトへ、女バスの3年生。軽く跳躍し、上手くドライブをかけたスパイクを打つ。
キャプテンが正面でレシーブし、トスは女バス部長のいるレフトへ。十分な助走から跳んだ女バス部長だったが……
ぺちっ
「「「「あっ」」」」
上手くミートせず、ふらふらとこちらのコートに落ちた。
18ー21、主将組チームの勝ちだ。
最後の1点を決めた女バス部長は、微妙に恥ずかしそうにチームメイトに振り返る。そんな彼女のもとに一番に向かっていったのは、我らがキャプテンだ。
褒めて、からかって。はにかんで、ムッとして抗議して。二人とも楽しそうだ。
女バスとの合同バレー大会を終えて、今いるのは食べ放題のお好み焼き屋。選べる料理の種類は少ないものの、100分2000円と学生に優しいコースだ。
学年ごとに別れたテーブルで、焼いては食べ焼いては食べを繰り返す。
スマホから3連続で通知音が鳴った。ホーム画面を見ると、差出人は鹿野。
『お祭りで部長に会った!』
『楽しい!』
そんなメッセージと共に写真が送られていた。
「……なんこれ」
鹿野と女バスの部長が二人で自撮りしている。うまく撮れてるし、さすが女子だなぁと感心する。
ただ、それ以上に、鹿野の頭にあるキャラモノの髪留めの存在感がデカすぎる。
『いいじゃん楽しそう』
『髪留めはどうしたん?』
『迷子になってた子に貰ったの』
『「浴衣は難しいけどこれなら簡単!」「お姉ちゃんもオシャレさん!」って』
『優しい子だな』
『髪留め似合ってるよ』
『はしゃいでる感じがお祭りっぽくて好き』
最後にはしゃいでるキャラのスタンプを送って、画面を切る。
少ししてから通知が来た。ホーム画面に「鹿野千夏がスタンプを送信しました」とあった。後で確認しようと再度画面を切ってカバンにしまう。
「おーい藤原、ちょっとこい」
キャプテンに手招きされ隣の卓へ移ると、肩を組まれた。
「なんすかいきなり」
「写真撮るぞ。どうせお前にも来てたんだろ」
「なるほどです」
納得して、キャプテンが掲げるスマホに笑顔を向ける。
「はい、チーズ」
カシャっという音。キャプテンがスマホを下ろし、組んでいた肩も外れる。
「どうでした?」
「んー……やっぱ自撮り苦手だわ」
見せられた写真は、キャプテンの視線がカメラから若干外れていた。あー、画面見ててレンズ見れてなかったのか。気持ちはすごく分かる。
「撮り直しますか?」
「いやいい。これはこれで味があるだろ」
キャプテンはそう言ってLINEを開き、俺とのトークにその写真を送った。
「お前も鹿野さんに送ってやれよ」
「ういっす」
さんきゅー戻っていいぞと促され、自席に戻る。
焼き上がったお好み焼きが取り分けられていて、鉄板では次の焼きが始まっている。部活終わりの男子高校生の食欲、改めてとんでもない。
俺はお好み焼きに手を付ける前に、カバンからスマホを取り出し、キャプテンとのトークを開いた。