下ネタ注意。
不快になりそうな方は、この話は飛ばしてください。
内容はIH直前に、オリ主が針生のピリつきを解しているお話です。
真っ昼間よりはマシとは言え、蒸し蒸しした暑さが身体に纏わりつく。早く体育館に、早く日陰に入りたい、そう思い足を速める。
進路の先に、珍しい人物を見つけた。
「針生?」
「翔か、はよー」
「おはよ。珍しいなこんな朝早く来るなんて」
「まあな」
駆け足で追い付き並んで歩く。校門を通り抜けたところで、針生へ一言。
「ピリつくのは分かるけど、休める時にはしっかり休んどけよ」
「…やっぱわかるか?」
「そんだけあからさまならな。やっぱ初めての全国は緊張する?」
「…そうだな」
「アドバイスいる?」
「…いる」
針生は立ち止まって聞く姿勢になる、本当に余裕が無さそうだ。大抵のことは器用にこなす針生にしては珍しい。
にしても、アドバイスかぁ。正直気が紛れれば何でもいいんだけど……あれでいいか。
「前に猪股に話したのと同じでいいんじゃん?」
「家でシコれって?」
「そうそう、ついでに自己最高記録に挑戦してみるとか。あれって自分との戦いっていうか、如何に集中できるかが大切じゃん?」
「…ふざけては、ないんだよな?」
「2割おふざけ、8割本気」
真面目な表情を作って、はっきりと言い切る。
シコれるってのは肉体・精神共にそれだけの余裕を作る必要がある、出した後は頭もスッキリするし一石二鳥だろ。とはユース合宿でのルームメイト、源田さんのお言葉。
ものは言いよう。しょうもない話でもキリッとした顔でいればマトモに聞こえるものだ。
「最高記録か……」
針生が考え込む。さすがです源田さんと、心の中で感謝の念を送る。
「あっ、あの時だな」
「いつなん?」
「童貞卒業した日」
「初めてヤッたその日に自分でもヤッたの? お猿さんじゃん」
「うっせえな。肌の体温とか感触とか匂いとか、とにかく女子の気持ちよさを知って妄想が止まらなかったんだよ。花恋が痛がってたから1回しかできなかったし、布団に匂い付いてるし、ヤる前より妄想のディティールがより細かくなってて止まんなくて──」
知らない世界の話だ。適当にうんうんと相槌を打って喋らせておく。
──もう頭ん中そればっかで、はいはい。AV無しでも、はいはい。途中から何も出ないけど勃ったままで、はいはい。
いつもなら言わないであろうことまでペラペラと。余裕のない時って、きっかけさえあれば口が軽くなるよなぁ。
中3の2月、針生が疲れてそうなのに肌だけがツヤツヤしてる日があったなぁと、その頃守屋の受験が終わったんだよなぁと。ちょっと複雑な思いで過去を振り返りつつ、相槌を続ける。
「そう言う翔はどうなんだよ」
「ん? 俺?」
「そ、自己最高はいつなんだよ」
「えー、いつだろ……」
そんなすぐには出てこな……いや出てきたわ。圧倒的一位のやつ。
でもなぁ。
「悪い、言い辛いなら言わなくていいぞ……?」
「あー、まあ、んー……いや話させて」
「いいのか?」
「いいよ。こういう機会じゃないと話さないし、成仏させてやらないと」
成仏て幽霊かよとツッコまれるも、気持ち的には似たようなものだ。
「中1の夏に雛がしばらくうちに泊まってた時があって」
「新体操部ちゃんが?」
「そう。雛が小学校最後の大会で大コケして、周りとか両親から強く当たられてうちに逃げ込んできたんだよ。それで10日間一緒に住んでた」
「それでオカズ豊富で捗ったと」
「いや逆。10日間ずっと我慢してた」
今考えても、よく我慢したなと自分を褒め称えたいくらい辛かった。
「その時の雛が甘えモード全開で、飯食うときと風呂トイレ以外はずっと引っ付いてきてて。同じ部屋で寝てたし、なんなら最初の3日間は同じベッドでさ。そん時まだ覚えたてだったから勃たないようにするのもむずくて、表情も雛に悟られないようにって」
「新手の拷問かよ」
「拷問そのものだったわ。部活が県大会直前で集中すべき事があったからよかったけど、そうじゃなかったら絶対ボロ出てた。あと、ベッド別にしたいって話した時も中々折れなくて、母さんの口添えでなんとかって感じで……あの時の母さんの生暖かい目はマジでキツかった」
「それ分かるわぁ」
「……ああ、卒業した時?」
「そう、一瞬でバレた。第一声が『避妊はしたんでしょうね』でさ」
「うわぁ」
お互い想像しかできないが、二人ともどっこいどっこいの気まずさだ。
「まあそんな感じで、雛が家に帰って、県大会も終わって。猿の如く盛ってしまったわけですよ」
「ヤッたのは妄想だけで?」
「そう、柔っこかった記憶とか布団に染み付いた匂いとか。同じシャンプーとボディーソープ使ってるのに何故かいい匂いするんだよな」
「あれ永遠の謎だよな」
しみじみと呟く針生。緊張は解れたようだが、男として負けた気がするので鳩尾に拳を軽く入れる。ゔっと腹を抑える様子に、少し溜飲が下がった。
「んじゃ、下ネタで緊張を解したところで、気合入れに行きますか」
歩き出す。
体育館が近づくと、ボールが床を叩く音が聞こえてくる。扉を開けるとボールの音が止まり、笑顔を向けられる。
「あ、翔くん!」
鹿野がボールを抱えたまま駆け寄ってくる。
「二人ともおはよう」
「おはよ」「はよー」
「二人一緒に来てたんだ」
「校門で偶々会った」
「そうなんだ、針生くんが早いの珍しいね」
「緊張して早く起きたから練習しようと思って」
「IH直前だし緊張するよね」
言葉では共感する鹿野だが、その表情は全く緊張してるように見えない。むしろその逆だ。
「なんかいいことあった?」
「んふふ、実はね」
じゃーんという掛け声と共に、鹿野がポッケから一本の紐を取り出した。それは3か月前まで俺が付けていたのと同じ物で。
「マジで!? 今日切れたん!?」
「うんっ、ほんとついさっき!」
「めっちゃいいタイミングじゃん」
ミサンガが切れたら願いが叶う、切れるまでに願いが叶う。諸説あるのなら都合のいい方に解釈する。
IH直前、切れるのに最高のタイミングだ。
「翔が切れて、ちーも切れて、あとは俺だけか」
「そうだな。鹿野、ミサンガパワーのお裾分けできない?」
「お裾分け? いいよ」
鹿野は少し悩んで、ちらりと俺の方を見た。
「なに?」
「なんでも。針生くん、手出して」
鹿野が手を掲げる。針生もその意図を察して、同じく手を掲げる。
パンっと軽い音がした。
「花恋も応援行くって言ってたし、カッコいいとこ見せてあげてね」
「やっぱあれマジなのか……」
「マジだよ。花恋そのために仕事の調整頑張ったって言ってたもん」
「…ほんと、負けられないな」
針生はしばし瞑目してから、よしっと気合を入れた。
「気合入ったわ。ちーも頑張れよ」
「うん」
針生が俺の方に向き、手を掲げる。手を上げて応じると、針生はさらに後ろに振りかぶった。それならと、俺も反動を付けて……
バチン! と、いい音が鳴った。
「1回戦負けとかしたらしばらく笑ってやるからな」
「翔こそ有言実行出来なかったらダッツ奢らせるぞ」
「それ俺が不利すぎん?」
「自信ないのか?」
「あるに決まってんだろ」
二人してヒリつく手を振りながら笑い、煽りを交えた激励を送り合う。
トントンと肩を叩かれた。
「私にもパワーちょうだい」
「ん」
要望に応えて、鹿野ともハイタッチを交わす。
「初めての全国、たくさん緊張して、その上で楽しんで、勝って来いよ」
「わかった。翔くんこそ、ちゃんと優勝して帰ってきてね」
「頑張ります」
笑顔でエールを送り合う。
十分に士気を高め終えて、俺たちはそれぞれのコートへ別れた。