四角関係   作:slo-pe

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バレー部の試合描写のため、オリキャラ紹介・ポジション解説から入ります。

◎簡単ポジション解説&キャラ紹介
・WS(ウィングスパイカー)
レフト。主にスパイク打つ人。
→長田(おさだ):キャプテン。身長は169センチ。
→桐島隼人:1年。編入生。翔くんバカ。今大会からレギュラー。入学からまだ伸びて現在183センチ。

・S(セッター)
トス上げる人。
→久保:3年。

・OP(オポジット)
セッター対角。オリ主のポジション。

・MB(ミドルブロッカー)
背が高い。速攻とブロックする人。後衛ではリベロと交代。
→壁山:3年。
→高山:2年。183センチ。部内で一番の高身長。

・L(リベロ)
守備専門。
→守谷(もりや):3年。リベロなのに身長180超え。針生くんの彼女(守屋花恋)とは無関係です。

・ベンチ
→内田:3年。桐島にレギュラー取られた。
→佐東(さとう):3年。左利き。翔くんにレギュラー取られた。MBもできる。

・対戦相手
泉台学園
→桐島の母校。
エース
→源田将義:レフト。藤原と共に全国2大エースとされる。ハイキュー!! で例えると右利きのウシワカ。

以上、長々と失礼しました。
それではどうぞ。



決勝2

 

 

〜長田(オリキャラ)視点〜

 

 第四セット、7ー8。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 藤原のジャンプサーブはリベロの正面へいってしまい、きれいにレシーブされた。

 トスはど真ん中速攻、ブロックは高山の1枚のみ。瞬時にレシーブの位置取りを整える。

 強烈なスパイクは藤原の元へ。その瞬間、レシーブするための重心を、カバーのための重心に移す。

 

 レシーブが乱れるかもしれないという意識──乱れた

 

 瞬間、スタートを切る。コート外へ勢いよく出ていくボールになんとか腕を合わせる。その場に上がったボールは、守谷がアンダーで返した。

 

 万全の態勢からのセットアップ、どんな攻撃でもできる。トスの先はど真ん中、2連続で速攻。

 

「っ、悪い!」

「次! もっかい来ます!」

 

 俺が辛うじて上げたボールは直接相手コートへ返る。

 

 再度、万全の態勢からのセットアップ。トスの先はど真ん中、速攻の後ろから隠れるようにしてバックアタック。

 守谷がレシーブしたボールはコート左側、久保が届かない位置へズレる。

 

「バックライト!」

 

 藤原がトスを呼ぶ。

 

「藤原!」

 

 内田から藤原へのオープントス。緩く山なりに伸びる、打ちやすいトス。

 その前には二枚のブロック。藤原が飛び、俺たちはブロックフォローに入る。

 

 バチン!

 

 ボールはブロックを弾いてコート外へ落ちた。

 

「──っしぃ!」

「ナイスキー藤原!」

「はい!」

 

 8ー8。

 

 第四セット、点数上では互角だが、試合展開はよくない。ここにきて藤原に頼り切りの場面が増えてきた。

 原因はまあ…俺だ。もっと言えば俺と高山の連続出場組が、体力不足で動きが鈍くなっている。

 一昨日までの4試合、合計10セット。昨日は初めての4セット試合を経験して、今もまた4セット目。大会最終日にして、今までの疲れが一気に襲ってくる。

 

 クタクタの頭では目まぐるしく変化するプレーについていけない。頭では分かっていたとしても身体が動かない。今の俺たちはそんな状態。

 さっきのボールだって、本当ならもっと余裕を持って上げられたはずだ。スタートは良かったけれど、そこからの加速が足りずにギリギリとなってしまった。

 対して泉台は未だに全員動きにキレがある。改めて全国トップの凄さを知った。

 

「ふぅーー」

 

 藤原がサーブのためにエンドラインへ向かう中、俺は長く息を吐く。疲労は隠せないが、せめてあと数点もってくれと自分に言い聞かせる。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 2本目のジャンプサーブはコート隅ギリギリへ。誰にも触れられずにノータッチエース。

 

 9ー8。

 

「っしゃあ!」

「ナイッサー藤原!」

「はい!」

 

 駆け寄りハイタッチをする。藤原の目が俺を見て揺れた。

 

「間違っても変な気回すなよ。点は取れるときに取っておけ」

「…っす」

 

 俺が長くコートにいるために、そんな理由で手を抜いたりはしないだろうが念のため。藤原は頷き再度エンドラインへ向かう。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 3本目のジャンプサーブは惜しくもネット上部の白帯にかかり、こちらのコートに落ちた。

 

 9ー9。

 

 ……来てしまった。

 

 取っても取られても、どちらかのチームが10点に乗る。

 あと1点。俺の高校……いや、バレーボール人生最後の1点。

 壁山と桐島がウォームアップゾーンからベンチに呼ばれ、交代用のナンバーパドルを手にした。敵味方問わず、俺に視線が集まっているのを感じる。

 

「久保」

 

 そんな視線を浴びながら久保を呼ぶ。

 

「いつも通りでいいからな」

「…分かってるよ」

 

 久保は不服そうな顔をして言った。

 久保の葛藤を、俺は表面上でしか理解できない。理想は俺が決めて交代すること。でも相手ブロックもそれを警戒している、俺が決めれる確率は低いだろう。

 友人として、セッターとして。どちらの感情を優先すべきか。久保は正しい択を選べるやつだ。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 相手チームの強烈なジャンプサーブは守谷の所へ。渾身のレシーブ、ボールの勢いも回転も殺しきって久保の頭上へ。

 相手ブロックはいつもよりセンターに寄っている。俺のバックアタックを警戒しているのだろう。

 トスはライトにいる内田へ。ブロックが遅れて寄せてくるが、ガラ空きのストレートへ打ち抜いた。

 

 10ー9。

 

 久保に対してナイストスという気持ちと、内田に対してナイスキーという気持ち、相手ブロックに対してざまあみろという気持ち。そして、俺に上げてくれてもいいじゃん、やっぱ最後は決めたかったなという、複雑な気持ち。

 

「内田ナイスキー!!」

 

 それら全てを飲み込んで、誰よりも早く内田に駆け寄る。

 内田とハイタッチを交わして、久保と守谷にナイストス・ナイスレシーブと声をかける。

 

 ピーッと、交代を告げる笛が鳴った。ナンバーパドルが示すのは1番と10番。俺と高山がコートサイドへ向かい、桐島壁山と相対する。

 

 ──ああ。出たくない。渡したくない。ここにいたい。コートの中でプレーしたい。最後まで戦っていたい。

 

 寸前になって騒ぐ心を鎮めて、2人に告げる。

 

「頼んだぞ」

「おう」「はい」

 

 2人とも真剣な表情で頷きコートへと入った。それを見送ってベンチに座る監督の元へ歩く。

 

「2人ともお疲れ様、とりあえず座って休め」

 

 とんとんとベンチを叩いて促され、監督から見て俺・高山の順で座る。その瞬間、どっと疲れが押し寄せてくる。さっきまでよく試合出れたなと思うくらい、一歩も動けそうにない。

 

「泉台と互角に渡り合ったな」

「あはは、最後は藤原に頼り切りでしたけど」

「それでも十分だよ。どうだった最後までやりきって」

「…分かんないです。全国の決勝ってだけでも夢みたいなのに、こうして一度でも外に出ると、あそこに自分がいたって実感すら湧かなくなって……」

「まあ分かる。俺もこんな所に来るなんて思ってもみなかったし」

 

 監督はしみじみと共感した。

 監督は俺たちの高校進学と共に男バレの顧問となった。元々は野球をしていた人でバレーボールが専門だったわけではなく、技術的指導は皆無。練習の組み方は相談にのってくれたが、試合中の作戦立案なんかは完全にノータッチ。

 それでもこの人をただの顧問だなんて思えない。

 

「あの、監督……改めて、ありがとうございました」

「いきなりどうした」

「俺たちだけじゃ、絶対ここまで来られなかったので……長い練習時間の確保も、強豪校や大学との練習試合も、部員の意志を尊重してくれたことも、全部。監督がいたから、藤原をここまで連れてくることができました。だからありがとうございます」

 

 監督は暫し沈黙してから、「長田(おさだ)も高山も、口は堅いか?」と聞いてきた。堅いですと答えると、監督はゆっくりと語り出した。

 

「ここだけの話な。部活の顧問やって貰える手当なんて樋口…今は与謝野晶子か。たった5000円札一枚だ」

「え、安すぎませんか?」

「安すぎるんだよ。平日はもちろん休日も強制出勤だし、練習試合組んだり大会に引率したりで、時給にしたら2桁円だ、絶対割に合わん。やりがい搾取もいいとこだ……だけど、仕方ないよな」

 

 仕方ない。その通りだ。仕方ないとしか言いようがない。

 労力と対価が釣り合ってないなんて分かってる。でも理屈じゃないのだ。

 

「藤原を愛し、その才能を愛した。そして、栄明のバレー部を愛した……愛してしまった」

 

 監督が、コートから俺へと視線を移した。

 

「藤原が独りにならなかったのはお前たちのおかげだ。お疲れ様、キャプテン」

「…っす」

 

 試合はまだ続いているのに、感極まって泣きそうだった。誤魔化すように反対側へ顔を向ける。

 

「高山、栄明を頼んだぞ」

「…はいっ!」

 

 頷く高山も、涙を堪えた顔をしていた。

 

 

 

 その後、息の詰まるような接戦の末、27ー25で第四セットを取り返した。

 

 

◇◇◇

 

 

 IH(インターハイ)決勝、最終セットが始まる。泣いても笑っても、これが最後。

 

 このセットではいつもと大きく違う点が一つ、15点マッチなのだ。初動で流れを掴んだ方が最後までいく可能性が極めて高い。

 

 重要なファーストポイント、サーブを打つは俺だ。

 サーブを打つためにエンドラインから数歩下がる。

 深呼吸をひとつ、ふたつ。気持ちは落ち着いている。疲労はしているはずだが、アドレナリンがドバドバ出ているんだろう、あまり感じない。

 総じて、いい感じだ。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 サーブトス……あ、いい感じ。

 

 飛ぶ。打つ。ただそれだけ。

 

 ダァン!

 

 超速のサーブが相手選手二人の間で弾む。

 

「っしゃぁ!」

 

 1ー0。先取点、もぎ取った。

 

 

 

 先取点を取ってからは取って取られてを繰り返し、得点は3ー3。

 ここでこのセット一度目の大きな関門を迎える。

 

 相手コートのエンドラインに向かうのは源田さん。今大会No.1のビックサーバーであり、今日の試合でも何本ものサービスエースを奪われている。

 

「ここ一本切るぞ!」

「「「おう!」」」「「はい!」」

 

 いつもならキャプテンがする掛け声は、今は守谷先輩が声を張っている。

 

 ピッと、審判の笛が鳴る。

 

 源田さんが高く、ドライブ回転のかかったサーブトスを上げる。

 打った、そう認識した次の瞬間、内田先輩へ襲い掛かる。ほぼ真正面なのに反応が追いつかず、内田先輩がふっ飛ばされ、ボールはコート外へ。

 

 3ー4。逆転された。

 

 ベンチに向けて小声で叫ぶ。監督に両手でT字を作りアピールする。

 

 ピーッと、長い笛が鳴る。このセット1回目のタイムアウト。特に作戦があるわけじゃなく、物理的にプレーを止めて源田さんの集中力を切るためのもの。このセットは短期決戦、ここで勢いに乗らせる訳にはいかない。

 30秒の間に水分補給と軽い声かけをして、笛の音と共にコートに戻る。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 超速のサーブはコート隅ギリギリへ、守谷先輩が腕を伸ばすも届かず、勢いよくコートに落ちる。

 

 3ー5。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 源田さんが高く、ドライブ回転のかかったサーブトスを上げる。

 打った。そう認識した次の瞬間にはボールがネットを越えて襲いかかってくる。

 

「ア、ウトッ……!」

 

 俺と守谷先輩の間を通る超速サーブ。エンドラインを割るはずだったボールは、急激に軌道を変えてライン上で弾んだ。

 

 3ー6。

 

「おいおい勘弁してくれよ」

 

 なんだよあのドライブ回転、意味分からんくらい落ちた。最終セットで今日最高のサーブとか反則だろ。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 超速のサーブはネットの白帯に当たり、ぽろりとこちらのコートに入る。咄嗟に飛び込むも届かず、そのまま床に落ちた。

 

 3ー7。

 

 ピーッと、笛が鳴る。このセット2回目のタイムアウト。

 

「今のはしょうがないです、切り替えましょう」

「だな、次切れば問題なし」

「とりあえず上に上げるぞ」

 

 軽く声を掛け合う。2度目のタイムアウトも終わり、コートに戻る。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 源田さんのジャンプサーブ、今度向かうのは内田先輩。

 

「っ! 悪いカバー!」

 

 ようやく上がったボールはコート中央、速攻やコンビネーションはできない。

 

「バック!」

「藤原!」

 

 久保先輩からのオープントス。決めなきゃいけない。このサーブを切らなきゃ試合が決まりかねない。そうはさせない。俺が決める。

 

 助走から、飛ぶ、打つ。

 

 ダダン!

 

「っ……!」

「「「ナイスブローック!」」」

 

 ブロックに止められ、3ー8。

 

 やばいやらかした。最終セットでこの点差。流れを持ってかれやすいドシャットで。しかも俺が捕まって。この場面エースなら決め切らなきゃいけなかったのに。

 焦りを悟られないよう表情を作る。そこに久保先輩が声を掛けてきた。

 

「藤原」

「はい。すいませんした──」

「──お前、今決め急いだな?」

「…はい」

 

 久保先輩は俺が頷いてから数拍おいて、こう続けた。

 

「『決め急いで強引に打つんじゃない、自分が気持ちいいスパイクを打つんでもない。点を取るためのボールを打つ』」

 

 それはいつかの練習試合で俺が言ったことだった。

 

「お前が俺たちをここまでつれてきた、栄明はお前のチームだ。でも、藤原のワンマンチームにだけはならないよう、俺たちも努力してきた」

「…知ってます」

「ならいい。取り返すぞ」

 

 久保先輩がそう言ってポジションに戻るタイミングで、守谷先輩が「よーし、次切るぞ!」と声を張る。他の先輩からは「顔硬いぞ」「もっかい上げたるから次決めてくれよ」と声を掛けられる。周りが見えていなかったと内心恥じる。

 気持ちを切り替えるため、シューズの裏を手で拭う。床を軽く蹴って感触を確かめ、守備位置につく……よし、ちゃんと大丈夫だ。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 源田さんの超速サーブは俺の所へ。両腕で面を作って受け止め、全身で威力を殺す。ふわりとセッターの頭上へ、渾身のレシーブ。

『来い! 今度こそ!』と念を送りながら助走を構える。相手ブロッカーが俺に意識を割いているのが分かる。久保先輩がボールに触ると同時、助走に入ろうとして。

 

 スパァン!

 

 佐東先輩が速攻を決めた。4ー8。

 ナイストス・ナイスキーという気持ちと、なんでそっちあげんねんという気持ち。

 

「久保先輩、今俺が打つ感じでしたよね」

「だからだろ」

「ぬぅ」

 

 当人にぶつけてみるも、真顔で正論パンチを返される。

 

「あと1回はサーブ回ってくるだろ、やるならそこで挽回しろ。それまでは目の前に集中」

「うっす」

 

 久保先輩はそう言って、サーブのためにエンドラインへと向かった。

 

 

 

 そこから点差は縮まらなかった。

 取られたら取り返す。連続得点をしたら連続得点で返される。そんな状態で迎えた最終局面。

 

 9ー14。泉台のマッチポイントだ。

 

 

 

 

〜千夏視点〜

 

 最終セット、9ー14。

 相手チームが優位に進めていたこのセット。マッチポイントを握ったことで、会場の雰囲気は完全に固まった。

 

「やっぱ泉台だったか」

「決め手は源田のサーブだな」

「あれはやべえだろ」

「最終セットで6連続は心折れる」

 

 周囲からそんな声が聞こえる中、ピッと、笛が鳴る。

 

 相手チームのジャンプフローターサーブ。桐島くんがレシーブしたボールは乱れて、翔くんへとオープントスが上がる。

 

 バチン!

 

 ブロックを弾き飛ばしたスパイクはコート外に落ちた。

 

 10ー14。

 

 4点差。優勝がほぼ決まった状態、観客はその瞬間を今か今かと待ちわびている。でも、相手選手たちは全く気を抜いていなかった。

 

 サーブを打つため、エンドラインに向かうのは翔くん。ここで終わって堪るかと、そんな気迫が伝わってくる。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 高くドライブ回転のかかったサーブトス。翔くんがジャンプサーブを放つ。ボールは誰にも触れられずに、サイドライン付近で勢いよく弾んだ。

 線審のフラッグはライン上を指している。つまりイン、栄明の得点だ。

 

 11ー14。

 

 体育館が歓声に包まれる。

 

「はぁぁ? 意味ワカンネ」

「凄えを通り越して腹立ってきた……」

 

 歓声の中に、そんな声が混ざった。

 気持ちはすごく分かる。IH決勝、最終セット、相手のマッチポイント、ミスをしたら負け、甘いボールを入れても負け。そんなプレッシャーの中、超強打をラインギリギリに叩き込む強さ。

 翔くんのことを好きな女の子としてではなく、ひとりのスポーツマンとして。妬ましく、忌々しく、強烈に憧れる。

 

 ピーッと、笛が鳴る。相手チームがタイムアウトを取った。さっき栄明が相手エースにやったような、プレーの流れを切るためのタイムアウト。30秒しかないそれも、極限の集中を削ぐには十分過ぎる。

 

「14ー11……あるか?」

「ないだろ、普通に」

「ここから3連続、合計で5連続」

「泉台相手だし」

 

 後ろの方からざわめきが聞こえる。私たちの周囲だけじゃない、体育館全体がざわついている。

 

「でもちょっと見たいかも」

「ああ、分かるわその気持ち」

 

 さっきまでの空気が変わっていく。

 

 期待感。それが会場を覆っている。

 観客はいつだってワガママだ。劣勢からの大逆転、弱小校のジャイアントキリング、そういったドラマを見たいのだ。

 敵にも味方にもなり得る会場の空気感。今はそれが翔くんの、栄明の力になりますように。

 

 タイムアウトが終わり、翔くんが2本目のサーブを放つ。弾丸のようなサーブ、相手選手がかろうじて上げたものの、大きく崩れてチャンスボールで返ってくる。

 

 真ん中にいち早く助走に入るのが壁山先輩。レフトの桐島くん、後ろから翔くんと内田先輩がほぼ同時に助走体勢に入る。

 

「翔くん翔くん翔くん……!」

 

 絶対決めてほしい一打。翔くん決めてお願いと、膝に載せた両手をぎゅっと握る。

 

 スパァン!

 

 上がったのはど真ん中。壁山先輩がコンパクトに打ち下ろした。

 

「「きゃーーっ!!」」

 

 驚きのあまり立ち上がって叫んでしまった。隣で雛ちゃんも同じことをしていた。

 すごい。絶対翔くんが打つと思った。この状況で翔くん以外にトスが上がるなんて考えてなかった。そんな思い込みを利用したセットアップ。めちゃくちゃ興奮するけど心臓に悪い。

 

 12ー14。

 

 会場のボルテージが上がった。

 

 翔くんがエンドラインへ向かい、ボールを受け取る。

 

 その瞬間、広大な体育館が不気味なくらい静まりかえった。全員が翔くんを見ている。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 翔くんが高く、ドライブ回転の掛かったトスを上げる。強烈なサーブが来ると誰もが身構えたところで。

 

 とんっ

 

 軽く掌に当てたボールは緩くネット際へ。相手選手がギリギリで飛び付き触るが、ボールは緩い軌道でネットを越えて──

 

 ──ダァン!

 

 桐島くんがダイレクトで叩き込んだ。

 

 13ー14。

 

「あと1点でデュース、追い付く……!」

 

 会場のボルテージがさらに上がった。

 

 ピーッと、笛が鳴る。相手チーム2回目のタイムアウト。

 

「すげー! 4連続得点!」

「泉台はさっき6連続だったじゃん」

「いやいや栄明はもっといくかもしんねーだろ!」

「まあそうだな……もしいったら」

「逆転あるぞ!」

 

 ざわめきが大きくなる。彼らの頭にあるのは、栄明が窮地から追い上げたこと、そしてそのこれから。

 今この瞬間、会場全体が逆転を望んでいる。

 

 タイムアウトが終わり、選手たちがコートに戻ってくる。翔くんがサーブ位置につくと、会場のざわめきが一瞬で静まる。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 翔くんが高く、ドライブ回転のかかったサーブトスを上げる。

 

 打った。そう認識した次の瞬間にはボールがネットを越えて相手コートを襲う──

 

「──アウトッ!」

 

 相手選手がボールを避けた。ライン付近でボールが弾む。線審のフラッグが上がった。

 

 判定はアウト。

 

 少しの静寂の後、ピピーッと、審判の笛の音が響く。

 

「「「「よっしゃあああああああ!」」」」

 

 コート内から、ベンチから、相手選手全員が叫ぶ。観客席から歓声が聞こえる。

 

 得点板がめくられる。

 

 13ー5ー15。

 

 最終セット、獲ったのは泉台。栄明の負けだ。

 

 盛り上がりを見せる泉台コートの反対、栄明の選手たちは、皆翔くんを見ていた。近くに歩み寄るが、誰も声を掛ける様子がない。

 翔くんは呆然と立ち尽くしていた。しばらくしてから、はっと得点板を見つめて、そしてチームメイトを見た。

 

 瞬間、翔くんが崩れ落ちた。

 

 泣いている。膝を付いて、顔を覆って、泣いていた。

 

 主将さんも、他の3年生たちも、2年生も、桐島くんも、誰一人泣いていない。

 

 翔くんだけが泣いていた。

 

 

 

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