朝起きて、まず確認。
ここは何処? どっちの部屋?
まだ見慣れないベッド、自分の部屋とは違ういい匂い、最近寒くなってきたのにやけに温い布団の中。そして、眼前に位置する千夏の寝顔。
千夏の部屋だと寝ぼけた頭で理解する。
やばい、千夏の寝顔、ちょーかわいい。ちゅーしたい。でも寝起きだし我慢。代わりにほっぺたをつつく。柔らかふにふに。ちゅーしたい。でも寝起きだし我慢我慢。代わりに唇に指を当ててふにっふにっとその感触を味わう。やっぱちゅーしたい。でも寝起きだし我慢我慢我慢。代わりにおっぱいに手を当てる。柔らかなナイトブラの感触、その上から揉む。揉む。乳を揉む。強く握り潰したりはNG、あくまで優しく優しく。ナイトブラを付けて揉めばマッサージになるとかならないとか、頭の中でそんな言い訳をしつつ、起こさない程度に揉む。というか千夏は眠りが深いから多少変なことしてもまず起きない。
そんな幸せタイムをしばらく過ごして、そろそろ千夏が起きそうな時間になった。ベッドから出て歯を磨き、寝巻き代わりのジャージを脱いでパーカーに着替える。
脱いだジャージはハンガーに掛けておく。最初は持って帰ると言ったのだが、千夏が洗ってくれるとのことで甘えることにした。ただ今は秋、千夏も寝巻きの洗濯は週に二度だけらしい。
……もし俺の家に千夏の服があったら、千夏がいない時匂い嗅ぐよなぁと思い、千夏もそんな使い方してるのかなぁと妄想してしまう。
「んー……」
あ、起きた。今日はアラーム鳴る前だったか。
「おはよう千夏」
「…おはよぅ」
千夏は寝惚け眼で言ってから、へにゃりと笑う。かわいい。ムカつくくらい可愛い。
「俺そろそろ出るよ」
「…うん、ちょっと待って」
千夏はベッドから出て洗面台へ。少しして出てくると、顔はスッキリしてるし髪もある程度整っている。
玄関で靴を履いて振り返ると、段差の分千夏の方が背が高い。
「それじゃ、いってらっしゃい。また後で」
「いってきます」
ここでお邪魔しましたと言うと千夏が寂しそうにするので、ちゃんといってきますと返す。
恒例のハグからのキスを交わして、アパートを出る。冷たい風を浴びながらチャリを漕ぐ。
「あぁぁぁぁあ………」
おれ意志よっわ……
ここ最近、こんな生活ばかりだ。昨日も部活を終えると、家で夕飯とシャワーだけ済ませて千夏の家へ向かい、そのまま夜を明かした。
でも言い訳させてほしい。
俺の誕生日、
偶に一人になりたい時もあるのか毎日ではないが、それでも週5くらいの頻度である。
「カレー作り過ぎちゃって、二日目のカレー食べに来ない?」
とか。
「12月頃並みの寒さだって……寒そうだね……寒そうだなぁ」
とか。
「明日NBAの首位攻防戦があるの。一緒に見ようよ」
とか。
「今日……来る?」
とか。
誘い文句は色々だが、正直どんな誘われ方してもホイホイついて行く自信がある。
そのうち毎回セックスしてるわけじゃない。千夏に脈アリというか、したそうな雰囲気があればもちろんヤる。その気が無さそうならその日はのんびりスキンシップを取るだけにする。
俺としては毎回ヤラしい気持ちでいっぱいであるが、それはそれ。恋人である俺が『したい』と伝えれば、大会前日や生理でもない限り断られはしないと思う。でもその気でない時にしてもあまり楽しい時間にはならないだろうし、今後のためにもならない。
とはいえ、高校生としてこれが普通かと言われると、間違いなく否。
──快楽に溺れて部活や学業に支障をきたす真似はしません
以前千夏のお母さんに言ったことは、今のところ守れている。朝練の時間も前と変わらないし練習にも集中できている、家での身体のケアも怠っていない。勉強に関しても千夏はちゃんとやっている。ならいいかと思う反面、やっぱり不健全かなぁとも思ってしまう。
そんな事を考えているうちに、家に着いた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
弁当を作っていた母さんに声を掛けると、いつも通りの返事が来る。朝帰りが常習化しているのに、何も言ってこない。
「……なあ」
「なに?」
「何も言わないのか?」
「言わないわよ」
即答だった。
「避妊はきちんとしてるんでしょ」
「もちろん」
「なら好きにしなさい。恋人できた息子に親が口出すことなんてそれくらいよ」
「…勉強しろとか部活疎かにするなとか言われるかと思ってたけど」
「あんた元々勉強してないじゃない」
「それな」
「それに、私が勉強してなかったんだからあんたも似るに決まってるでしょ。翔は顔と性格はお父さんそっくりだけど、運動センスと勉強嫌いはお母さん譲りなんだから」
なんという放任主義。父さんも「ゴム代がなくなったら言え」「間違っても責任取れない真似はするなよ」としか言わなかったし、似た夫婦なのかもしれない。
「ただ、もしこれから朝遅くなるんなら言いなさい。私も早起き大変なんだから」
「りょーかい」
心の片隅にあった懸念も消えて、母さんへ軽く了承を伝えた。
その日、隣のコートに懐かしい顔が帰ってきた。
「アメリカに留学してた、2年の松岡一馬が帰ってきた」
「よろしくどーぞ」
「「「おかえりー」」」
松岡一馬、小学校からの友人。小5の春休みにバレーを始めるまでは、放課後一緒にバスケに明け暮れていた。
仲は良かった。アメリカに行っている間もちょくちょく連絡するくらいには今も仲は良いと思う。
だけど、千夏と付き合ったことで、もしかしたらこの関係が壊れるかもしれないという思いがある。それが怖くて、なんとなく言い出せなかった。後回しにしていた問題が今目の前にある。
「松岡」
「藤原」
部活の休憩時間、一人でいた松岡に声を掛ける。いつものチャラそうな雰囲気は鳴りを潜めて、真剣な表情で俺を見据えてくる。
「…おかえり」
「ただいま」
「…悪いとは思ってる」
「何が?」
「千夏と付き合ったって、言わなかったこと」
「別にいい、ちーがお前のこと好きなのは分かってた。お前が気付いたのか、ちーが踏み込んだのか……それは知らんけど、その前に振り向かせられなかった俺の負けだ」
こいつ、なんかアメリカ行ってカッコよくなってないか? 俺も世界を見て視野が広がった気がしたけど、俺が二週間なのに対して松岡は一年間。きっと俺以上に変わったのだろう。
「とはいえな、帰ってきて早々失恋した事には変わりないんよ」
「? そうだな」
「だから、お前の失恋話で勘弁してやる。今日…は男バスと帰るから。明日聞かせろよ」
「なんで振られた前提なんだよ」
「違うのか?」
「違くないけど」
俺が失恋したと分かって仲間意識が芽生えたのか、松岡は表情を緩めてふっと笑った。
「俺はちーに4年くらい片想いしてたけど、藤原は10年くらい蝶野ちゃんに片想いしてるだろ。どんな終わりだったか、ちゃんと聞かせろよ。それでチャラだ」
「…おう」
やっぱこいつカッコよくなってやがる。友人として誇らしく思うと同時に、ほんの少し悔しさを感じた。
◇◇◇
〜大喜視点〜
バド部に新しいマネージャーが加入して少し経った頃。隣の男バスコートにも新しい人が現れた。
松岡一馬、一年間アメリカに留学していた2年生。という事は正確に言えば久しぶりなんだけど、俺は憶えてないので新しいでいいだろう。
とはいえ、よそはよそ、うちはうち。俺は俺でやらなければならない事がたくさんある。
「マネージャー」
「私には菖蒲っていう可愛い名前があるんですけどぉ」
「守屋さん」
例えばマネージャーの守屋さん。最初の印象とは違って仕事はしっかりしているけど、今まであまり関わらなかったタイプだからその距離感には少し慣れない。
「ここ記入漏れしてるってよ」
「え、確認したのになー」
守屋さんに渡し終えて、俺も部活の準備をしようとしたところで。
「あれ、蝶野ちゃん久しぶり」
声がした。声の主は件の男バス新メンバー、松岡先輩。
「松岡くん、久しぶり〜」
松岡くん!?
雛はひらひらと手を振って松岡先輩のもとへ向かい、そのまま見上げる。
「なんかおっきくなった?」
「まあね、この一年で5センチ伸びた」
「うわいいな、私なんてもう伸びてないのに……」
「蝶野ちゃん今いくつ?」
「ひゃくごじゅうに……」
「いいじゃん152。橋本環奈も152センチだし、蝶野ちゃん実質ハシカンだよ」
「また適当言ってるし。ていうかなんで橋本環奈の身長知ってるの」
「俺ファンだから」
なんだコイツ。馴れ馴れしい。というか雛、この人と知り合いなのか? 1年間留学してたってことはそれより前からの知り合い。中学でそんな上級生と仲良くなるイベント無かったし小学校かも。てことはもしかして俺より付き合い長い?
そう悶々としていると、隣から視線を感じた。
「はは~ん」
「…なに」
「別に〜なんにも〜」
ニヤニヤする守屋さんに嫌な予感を感じているうちに、松岡先輩はどっか行った。
「雛っ」
「ん? 大喜どした?」
「この前の練習の時のさー、バレー部の内田がさ──」
「あーあれなら……」
他愛ない話を入り口に松岡先輩のことを聞こうと思ったけど、中々きっかけが掴めない。
そうこうしているうちに、練習の時間が近づいてきたのでお互い別れる。
「ふ~ん」
守屋さんは何故かニヤニヤが増していたので、何か言われる前に無視して練習の準備に取り掛かった。
◆
〜守屋菖蒲視点〜
練習の休憩中、ゴミ捨てを頼まれた。ゴミ捨てなんて可愛くない仕事だが、まあこれもマネージャーの仕事かと体育館裏へ向かう。
「あ」
ゴミ捨てを終えて体育館へ戻ろうとしたところ、同じようにゴミ捨てをする人物がこちらへ向かってきた。
「こんにちはー」
「え、あ、こんにちは」
新体操部のかわいこちゃん。名前は知らない。
「あの~」
「はい」
「一応バド部のマネージャーで関わっちゃうから確認したいんだけど……もしかしていのたのこと好き?」
「なっ…んでこうすぐバレ……!?」
顔真っ赤にして、全身で驚きを露わにしてる。
「あ、やっぱりー! さっきも女の子って顔してたからそうかなって!」
「…そんなしてた?」
「してたしてた。あっ、安心して、私はタイプじゃないから。それにしても、いのたも隅におけんなぁ。こんな可愛い子に好きになってもらえるなんて」
いやほんとに、新体操部ちゃんはめちゃくちゃ有名人。可愛さと実力とで、体育館部活女子の中で、ちーちゃんに匹敵するくらい人気がある女の子だ。
「新体操部ちゃん、えーっと名前は……」
「蝶野雛です」
「蝶野さんならいけるって! ああいうタイプは押せばいける! 気持ち知ったらすぐ付き合おうってなるよ!」
さすがに初対面で「いのたも蝶野さんのこと好きだよ」とは言えない。だからこういう言い方をしたんだけど、蝶野さんからは予想外の答えが返ってきた。
「あ、もう気持ちは伝えてて」
「え、告白したの?」
「はい…でも返事は保留にしてもらってるの。あの時は私が伝えたくて伝えただけで、まだいける感じじゃなかったから」
「え、じゃあ返事はまだもらってないの?」
「うん」
「返事はまだいいって言われたから?」
「多分」
「あ゙ぁ゙?」
いのたアイツ何してんだ!
「なにそれ告白する方だって勇気いるのに、女の子にだけ頑張らせてるじゃん。それって蝶野さんの好意に甘えてるでしょ。蝶野さんも自由にさせてちゃダメだよ、こうガシッと首根っこ掴んでつかまえとかないと」
とりあえずいのたへの鬱憤を吐き出して、一息つく。
「蝶野さんもその状況しんどいでしょ」
「んー、あんまり?」
蝶野さんは首を傾げて笑う。
「大喜は真っ直ぐバカだからさ、首根っこ掴んでもきっとすぐ逃げられちゃう。だから、大喜自身で追いかけさせて、私を捕まえさせる。今はそういう時間だから、しんどくはないよ」
……あれ? この子純粋いい子ちゃんかと思ってたけど、意外と強か?
「大喜も結構私のこと意識してるし、それに関係あるのか部活にも力入れてる。針生先輩に勝つのか、大会で結果を出すのか、大喜の中で納得できる何かがあればちゃんと返事をくれるだろうから。なら私は今の付き合う前の時間を楽しんどこうかなって」
あ、めっちゃ強かだ。てなると話は変わってくるぞ?
「あのー」
「なに?」
「さっき男バスの松岡先輩と話してたじゃないですか」
「そうだけど、なんで急に敬語?」
「あれも駆け引きの一環だったりする?」
「違う違う、私駆け引きとかやったことないし。松岡くんは小学校からの知り合いで、さっきは久しぶりだから話してただけ」
「そうなんだ」
笑いながら否定する蝶野さん。
よかったー。強かなだけで腹黒いわけじゃなかったー。
「でも幼馴染かぁ、いいなぁそういう気安い関係」
「松岡くんは幼馴染じゃないよ」
「えー、小学校から一緒なんでしょ。立派な幼馴染だって」
「いや幼馴染は翔くんがいるので他はいらないです」
「翔くん? ……え、もしかして藤原先輩?」
「そうだけど……なにその反応」
翔くん、藤原翔。ちーちゃんの人生初彼氏。
顔が良くてスポーツ万能。体育館部活の人気女子がちーちゃんと蝶野さんなら、男子は健吾やあいつが上位に来る。それくらいモテる。
でもあれ絶対女好きのタラシだ、女の子転がし慣れてる。
「蝶野さん、あいつの毒牙に掛かってない? 大丈夫?」
蝶野さんの両肩に手を置いて、尋ねる。
「え、毒牙? ……掛かってる、かな、うん。翔くん沼にどっぷり嵌ってます」
「やっぱり! あいつちーちゃんというものがありながら、こんな可愛い子引っ掛けるなんて!」
「順番逆じゃないかなぁ。私の方が圧倒的に先だよ」
「ん? ……それもそうか」
我に返るとそりゃそうだとなる。というか圧倒的って、なんか蝶野さんのこだわりみたいなものを感じた。
「雛」
「あ、翔くん」
噂をすれば。まさかの本人登場である。
「練習はいいのか?」
「うん、休憩中にゴミ捨て頼まれたの。翔くんは?」
「職員室に呼び出されて監督と話してた」
「呼び出しって……またなんかやったの?」
「やってない。春高予選終わったタイミングで練習試合があるらしい」
「なるほど。というか勝つつもりなの流石だね」
「当然」
藤原先輩はそう言うと、蝶野さんから私へ視線をずらした。
「守屋もゴミ捨て?」
「そうですけど」
「お疲れさま。健吾もマネージャー入って助かってるって言ってたし、頑張れよ」
「どうも」
藤原先輩が蝶野さんへ視線を戻す。その際、クールな表情がほんの少しだけ緩んだのが分かった。
「俺は戻るけど、雛たちは?」
「私たちも戻る。守屋さんも戻ろ?」
「うん…」
私がそう返事をすると、二人は並んで歩き出した。
蝶野さんはいのたと話している時の女の子女の子してる感じじゃないけど、話し方とか表情とか距離の取り方とか、気を許しているっていうのが一目でわかる。藤原先輩も表情の変化こそ大きくないけど、あのクール顔を緩めていて、視線から蝶野さんを大事に想ってるって伝わってくる。
……なんか、いいなぁ。
恋人ではない。蝶野さんが好きなのはいのたで、藤原先輩の彼女はちーちゃんだ。
でもこうやって、お互い大切にしたいって思える関係。
「いいなぁ」
ポツリと呟いた言葉は、二人には届くことなく消えた。
◇◇◇
〜千夏視点〜
ウィンターカップ予選を見事勝ち抜くことができて、女バスは束の間の休息期間となっている。
「今年も来たかー、秋合宿」
渚が嬉しい気持ちと嫌な気持ちがごちゃ混ぜになった声で言う。
「きついんだよな」
「いきなり山ダッシュから始まるもんね」
「せっかく良い宿なのに、全然満喫出来ないよね」
「あの宿、OBが経営してるんだよね」
「そうなの?」
「だから大人数でも安く泊まれるんだって」
「あとさ、知ってる? キャンプファイヤーのジンクス」
マリコがそんな話題を出してきた。
「ジンクス?」
「最終日の夜にキャンプファイヤーやるじゃん。その時告白すると2人の火も燃え上がり、ラブラブカップルになれるって話」
「上手くない言い回し!」
ほんとに上手くない言い回しでつい笑っちゃう。
「去年女バドと男バレの先輩がくっついたやつ!」
皆信じていない様子だったからか、マリコが本当だからと主張する。
「たまたまでしょ」
「その前の年も居たって!」
「てか、そもそもあんた好きな人居んの?」
「……え?」
その勢いは、渚の質問によって一気に萎れた。
「ダメじゃん!」
「さみしー」
マリコに相手がいないと分かると、順々にその矛先が巡り。
「千夏は残念だったね。男バレは大会で秋合宿来れなくて」
私に回ってきた。
「春高予選と被っちゃったし仕方ないよ」
たった三泊四日だ。それが終わればまたイチャイチャできる。何も問題ない。
「千夏はジンクスも関係ないからなぁ」
「ラブラブだもんねぇ」
「あたしこの前二人が一緒に帰るとこ見たんだけど、藤原って『女子に興味ありませんバレーが恋人です』みたいな顔してるのに、千夏見る時だけめっちゃ優しい目ぇしてんの。千夏も見たことないくらい嬉しそうな顔してるしさぁ」
「えへへ」
オフモード翔の破壊力はすごい。言葉もだけど、それ以上に目。あの目が私のこと大好きって雄弁に伝えてくる。あんなの毎日向けられたら、多分誰だって好きになる。
「てかさてかさ、ぶっちゃけ藤原とはどこまで進んだの? もう付き合って2か月だし、キスくらいした? 千夏一人暮らしだし、もしかして最後まで……!」
「ちょ、マリコ、ここ体育館……!」
「いいじゃんいいじゃん、今周り男子いないし。で、実際どうなんですか千夏さん!」
マリコが囁き声で、でも隠しきれない興奮を露わに聞いてくる。他のみんなも、止めようとしていたサチも、好奇心が隠しきれていない。
「全然だよ。付き合ってから文化祭に国体にウィンターカップ予選にで。デートも二回しかできてないもん」
嘘です。
本当はめちゃくちゃ充実してます。
翔の誕生日に初めてうちでお泊りをして、そこからかなりの頻度でうちに来てもらってる。
最初は
「あ、やばい」と思った。金曜泊まったばかりなのに迷惑だよねとか、こんなホイホイ男子を誘う女だと思われたかもとか、まだ身体に違和感あるのにどうしようとか。
結果から言うと、杞憂だった。軽く了承した翔からは失望の欠片も感じなかったし、うちに来てからも何かする気配すら感じなかった。自宅で夕飯とシャワーを済ませてきたからか、身体のケアをしながら「どの動画?」と聞いてきて。何も用意していなかったから焦って保存していたバスケのスーパープレイ集を出した。
それからは動画のURLを送って、同じ動画をお互いのスマホで観て、感想を言い合いながら柔軟を続ける。一緒に空間にいるけれど決して近すぎず、いつもの電話と変わらない心地よさを感じた。
それが終わると二人並んで動画を見て、なのにそういう気配すら感じられなくて。
──しないの?
なんて、誘ってるとしか思えない言い方だったけど、そんなつもりはなくて。ただ純粋に疑問だった。男子は狼だ、身体を求めてくるものだって渚も言ってたから。もしかしたら私とのエッチがつまらなかったのかなって不安になって。
だから聞いてしまった。
──千夏まだ身体痛いでしょ
──めちゃくちゃしたいけど、今やってもお互い楽しめないと思うから
──だから今日はゆっくりしよ
そう言って、笑いかけられて。
──大好きだよ、千夏
ちゅってされて。
まあそれで、好きが溢れ出して止まらなくて、結局はしちゃったんだけど。あの時の翔は「俺まじで意志弱ぇ」って凹んでて、私の所為なのに笑っちゃった。
多分あれがきっかけで、私はさらに堕ちた。
翔が迷惑じゃないと言っているのをいいことに、するしないに拘わらず一緒にいるようになった。何日かに一回下着を干したい日は別として、ほぼ毎日である。
一応言葉だけじゃなく、翔の様子も見て迷惑だと思われてないかも確認してる。今のところ大丈夫だと思う。
「そっかー、まあ忙しいもんねー」
「千夏は文化祭実行委員で国体も選手だったし」
「それが終わったらうちらの予選直前になったからねぇ」
みんなは納得しているけれど、ただ一人アヤカからは「嘘つけお前」みたいな目で見られてる。アヤカは去年から付き合ってる彼氏がいるし、きっとバレてるんだろうなぁ。
「てことはさ、秋合宿終わったらアタックのチャンスじゃない?」
「うん、秋合宿終わって、翔も春高が決まったら二人で出かけようって約束してる」
「てことは……!」
マリコの言葉には曖昧な笑みを返す。
「うん、頑張る」
そんな一言を添えると、きゃー! と甲高い声がその場を満たした。
原作とは違い、上手に嘘をつけるようになった千夏先輩。
翔くん雛ちゃんと、松岡先輩は同じ小学校という事にしました。理由はなんとなく、そっちの方が面白そうだからです。