四角関係   作:slo-pe

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バレー部の試合描写・オリキャラ視点があります。久しぶりのオリキャラ登場なので、それを含めて解説です。

◎簡単キャラ&学校紹介
・桐島隼人
→オリキャラ、1年。翔くんバカ。翔くんを追って泉台学園から編入してきた。インターハイからレギュラー入りしてる凄い奴。
・小峰亮
→オリキャラ、1年。メンタル弱々。ハイキュー!! でいうと旭さん。
・横村
→1年。原作10巻に出ていたキャラ。見た感じ180ちょいありそうだったので、ポジションは[[rb:MB > ミドルブロッカー]]。

・泉台学園
→桐島が中等部に在籍していた、全国指折りの超名門。栄明がIH決勝で負けたところ。源田将義というエースがいて、藤原と共に全国2大エースとされている。

また今回のお話について、致す前描写があります。
R-18にはならないと思いますが、不快になりそうな方は、
※ 以降を飛ばして
◇◇◇ へお進みください。



本番前

 

 

〜大喜視点〜

 

 秋合宿が終わった翌日。

 早朝の体育館には藤原先輩と千夏先輩がいた。

 

「藤原先輩、千夏先輩、おはようございます」

「おはよ」

「おはよう猪股くん」

 

 二人に挨拶してからバド部のコートでアップを済ませ、ネットを張る。そのタイミングで藤原先輩もこちらのコートへ来た。夏休み終盤にお願いしてから、先輩はこうして毎朝指導してくれる。

 

 股関節や骨盤への意識、それに伴って股関節周りのインナーマッスルを使える状態にすること。

 

 それを教わってから2か月、動きの質が変わったという実感がある。

 最初の一歩が速い、止まってからの切り返しが速い。無駄な力みがなくて、スッと動き出せる感覚。スムーズに打点に入れて、打つ瞬間に余裕ができる。

 そういった体感もそうだし、過去の動画を見返したりすると自分のプレーの雑さに気付かされる。

 

 藤原先輩の動きを見ると、すごく自然に、伸び伸びと、でも力強い動きをしていて。俺とどこが違ってそんな滑らかに動けるのか分からないけど、まだまだ伸びしろがあることだけは分かる。

 身体のこと調べるのも楽しいし、将来はこういうトレーナーになるのもいいかもと思っている。

 

「大分良くなってきたな」

「あ、ありがとうございます!」

 

 今日も15分程度のノック打ち・フットワーク指導を終えて、まさか褒められた。厳しくやると言われたこの2か月で、初めて褒められた。やばい嬉しい。

 

「昨日健吾と試合して、ファイナルゲームでデュースまでいったんだって?」

「はいっ。あ、でも最初にマッチポイント取ったんですけど、そこから連取されて22ー20で負けちゃって」

「聞いた聞いた、健吾もめちゃくちゃ焦ったらしいぞ」

「まじすか」

 

 針生先輩も焦るとかあるんだな。それなら余計に悔しい。あそこで三連続失点は痛すぎた。

 

「それで、バド部の県大会まで2週間を切ったわけだけど、改めて目標は?」

「2位以内に入ることです」

「優勝じゃないのはどうして? 今の猪股なら健吾に勝てる可能性は十分あると思うけど」

「多分、ですけど、針生先輩と佐知川高校の遊佐くんは別ブロックになると思うんです。そのどちらかに勝てたとしても、疲労が残った決勝でもう片方に勝つのは難しいと思ってます」

「ふーん」

 

 少しの沈黙。じっと見つめられて、でも目は逸らさない。

 この目標は、悲観して立てたわけじゃない。バドミントンの大会は、基本的に一日でトーナメントの試合を全て消化する。疲労がピークとなる決勝で、技術や経験、戦略で勝る二人と戦うのは今の俺では厳しい。

 だから後ろめたく思う必要はない。真っ直ぐ先輩を見返す。

 

「分かった」

 

 藤原先輩は短く頷く。

 

「あと2週間だけど、試合形式の時は股関節への意識外してもいいぞ」

「外してもって……好きにしていいんですか?」

「ああ。ある程度競ってる相手なら外したり、逆に余裕のある相手ならその日の調子を確認するために意識したり。まあ当日を見据えて自分で調整しな」

「分かりました」

 

 そっか、そういう調整の仕方もあるのか。当日針生先輩や遊佐くんと当たるのはいつだろう。今日にはトーナメント表が出るらしいし、それを見て試合を頼む順番を決めよう。

 

「そういえばなんですけど、今週の土曜男バレが練習試合あるって」

「そうだな。午後にバレー部とバスケ部の二面コート使わせて貰うことになってる。バド部は午後休みじゃなかったか?」

「はい、午前練だけで午後は休みで。なのでその、試合見学してもいいですか?」

「別にいいけど。合宿明けで休まなくていいのか?」

「はい。全国トップクラスの試合、見てみたいので」

「そこも知ってるのな。ほんと、すぐ噂広まるなこの体育館」

 

 土曜に男バレが練習試合するのはIH(インターハイ)で優勝した泉台学園。俺たちバド部にとっての佐知川のような高校だ。

 ゲン担ぎじゃないけど、藤原先輩が戦う姿を見て俺もその恩恵に与れればなんて。

 甘い考えかもしれないけど、それでも俺は、勝ちに執着したい。

 

 

◇◇◇

 

 

『何でもいいは一番困る』

 

 そう言われた経験は無いだろうか。

 おそらく誰しも一度は経験していると思う。母親に夕飯のリクエストをされた時とか、家族で外食する時とか。

 

 そして今回、俺の中で新たなシチュエーションが追加された。

 

「翔はどこ行きたい?」

 

 並んで歩く千夏が、自然と上目遣いで尋ねてくる。

 

 今日は連休明けの火曜日。男バレは大会翌日は朝練が任意で、放課後練習は休みとなっている。合宿に行った各部活も、月末に大会があるバド部を除いて放課後は休み。

 つまり俺と千夏にとって、久しぶりにちゃんとしたデートができる日なのだ。

 

「合宿の話も聞きたいし、千夏が前言ってたカフェ行ってゆっくり話さない?」

 

 とりあえず「なんでもいい」だけは言わないように、無難な答えを返す。それに、大会中は電話しないというルールがあったので、話題に困る事もないだろう。

 

「いいねいいね、私も大会の話聞きたいし……でも、翔はどこ行きたいの?」

「俺?」

「うん。話は外デートの後でもできるから、今日は翔の行きたいところ行こ」

「俺の行きたいところかぁ……」

 

 正直、まじでどこでもいい。というかそもそも選択肢がない。

 昔から休みはサッカーやらバスケやらで埋まっていたし、それ以外に出掛けるとすれば蝶野家姉妹に連れ出されるだけ。あと他に俺が持ってる選択肢といえば……

 

「あ」

 

 あった。あったが。あったとて、という選択肢だった。

 

「思い付いた?」

「いや、やっぱ無しってなった」

「そんな変なとこなの?」

「変じゃないけど、デートで行く場所じゃないなって」

「どこ?」

「ラーメン屋」

「あー……」

 

 この辺りはラーメン屋が割と豊富にあり、休日に家族三人で並ぶこともしばしば。だけど、デートで行く場所ではない。

 

「じゃあそこ行こっか」

「え、話聞いてた?」

「聞いてたよ。デートっぽくはないけど、今日は翔が行きたいところ行くって決めてたから」

 

 千夏は「私ラーメン屋って日高屋しか行ったことないんだよね」「楽しみ」と上機嫌に足を進める。

 

 ああ、好きだなぁ。付き合ってからずっと、些細な事で好きが増えていく。

 家にお邪魔するときや帰るとき、絶対笑顔でいること。家で二人でいるときも、体のケアをしている時は真剣で、それが終われば途端に甘えてくるところ。偶にご飯をご馳走になる時、俺の一口目二口目をじっと見て、「おいしい?」って聞いてくるところ。

 千夏ってこんなに可愛かったんだって、どんどん実感させられる。

 

「千夏」

「ん? なに?」

「好き」

「知ってる〜」

 

 上機嫌がさらに高まって、学校内だというのに手を繋いで指を絡めてきた。

 ああもうほんとに、大好きだ。

 

 

 

 どこのラーメン屋にするか。悩みに悩んだ結果、選んだのは藤原家一番人気の店。

 ごりごりにニンニクが入った店だが、デートでラーメンに行く時点で多少の配慮など焼け石に水。中途半端な店を紹介するぐらいなら、行くところまで行って満足してもらったほうがいい。千夏が気に入ればこれから二人で行く機会があるかもだし。

 

 ということで、チャリの千夏に荷物を持ってもらって、学校から走ること二十分。近づいただけでも臭いのするラーメン屋へ到着。

 放課後まだ早い時間帯なこともあって、カウンターのみの席は空きがあった。

 

「なんか、すごいね」

「だしょ?」

 

 注文を済ませて席に着いた千夏は、店内をきょろきょろと見渡し、すんすんと鼻を鳴らす。今着てる制服は明日確実に着れない、二人とも予備があることは確認済みだ。

 少しして、テーブルより一段高くなっているカウンターにラーメンが出された。

 

「う、わぁ……!」

 

 それを自分のもとへ移した千夏が、感動や興奮、不安なんかが混じった声を上げた。

 山のようにとはいかないが、それでもどんぶりより少し高く盛られた野菜やチャーシュー。見た目のインパクトも、どんぶりを持った際の重みも、初めてなんだろう。

 

 千夏が後ろで髪を結く、その動作と露わになった(うなじ)にちょっと興奮した。

 まさかラーメン屋で興奮するとは、千夏が気に入るといいな。そんな事を思っていると、俺の分のラーメンも届いた。

 

「いただきます」

「…いただきます」

 

 割り箸を取って手を合わせると、千夏も少し遅れて割り箸を取り、手を合わせた。

 

 

 

※以下、不快な方は読み飛ばし推奨

 

 

 

「美味しかったー」

「それはなにより」

 

 食べ終えて店を出る。チャリを引いて歩く千夏が満足そうで俺も一安心だ。

 

「翔はああいうお店よく行くの?」

「偶にかな。家族で行ったり、部活仲間とか健吾と行ったり」

「へえ。じゃあこれからは私とも行くことになるね」

「結構気に入ってくれた?」

「うん」

「よかった。けど次のデートは千夏の好きなとこ行くか」

「そうだね。毎回これだとちょっと嫌かも」

 

 次はどこの店行こうかと考えながら、千夏の行きたいカフェ、買いたいものの話に適当に相槌を打ち、心にメモをしておく。

 そうこうしているうちに、二人の分かれ道に着いた。

 

「んじゃ、俺こっちだから」

「えっ」

「『えっ』?」

 

 わけがわからないといった様子の千夏に、思わず困惑する。もしかしてミスった?

 

「もう少し話してく?」

「あ、えっと……今日、来ないの?」

「今日はやばいぞ」

 

 本音で言えば行きたい。大会中はLINEしかしてなかったから、話したいしイチャイチャもしたい。もっと言えばセックスしたい。ラーメン行くって決める前はする気満々だった。

 ただ、あんなニンニクごりごりのラーメン食べた直後なんて絶対口臭やばい。千夏の魅力はニンニクに負けるものではないし、それで萎えたりはしないと思うが、俺が申し訳ない。今もチャリを挟むことで物理的に距離を取っているのだ。

 

「それは、そうだけど……」

 

 千夏は少し悩んでから、チャリのスタンドを立ててこちら側にやって来る。何をするか予想が付いたためそっと後ずさると、その分千夏が詰めてきた。

 近い距離で見つめ合って、俺の理性は呆気なく崩壊した。千夏の覚悟に負けて、場の雰囲気に負けて、あと性欲に負けた。

 

 ちゅっ……と唇が触れ合う。道端なこともあってほんの一瞬。唇はすぐに離れて、でも距離は近いまま。

 

「やばいなニンニク」

「やばいね」

 

 見つめ合いながら、笑い合いながら、互いにアイコンタクトで確認する。大丈夫だと。

 

 そこからは無言で千夏のアパートへ向かう。そういう雰囲気になってから家に向かうのは初めてだったから、もうムラムラで勃ちまくってて。絶対千夏も気付いてて。お互い無意識に歩みが速くなっていた。

 

 アパートに着いて、2階の部屋に入って、扉を閉めた。

 その瞬間、千夏を抱きしめてキス。靴を脱ぐのさえ待ちきれなくて、靴を脱ぎながらキス。いやどちらかと言うと、キスしながら脱ぐの方が近いかも。

 5日ぶりに会えたこと、セックスができること、ここに着くまで焦らされたこと。その全部で俺も千夏もめちゃくちゃ情熱的になってて。もうニンニクの臭いとかどうでもよくて、むしろ興奮を煽るスパイスにしかならなくて。

 脱いで玄関の段差をあがった所でもキス。廊下兼キッチンを抜けながらキス。奥の部屋に入ると、壁に押し付けてキス。制服を脱いで脱がせて、お互い下着姿になったところでベッドへ千夏を押し倒す。

 いつもだったらもうちょっと優しくできるのに、その日は我慢ならなくて。そっとあそこに触れると、布越しだが確かな湿り気を感じた。

 

「千夏」

「うん…いいよ、きて」

 

 千夏に無理をさせると分かってても止まれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、珍しく千夏の方が早く起きていた。まだ時間に余裕があったため、歯磨きだけ済ませてベッドに戻りイチャイチャしていると、千夏がにんまりと笑みを見せた。

 最近知ったこの笑み。表情自体は結構好きなのだが、この顔をした千夏は無敵状態なので、ちょっと苦手でもある。

 

「ねえ翔」

「…なに」

「私もひとのこと言えないし、嬉しいんだけどさ……元気過ぎない? 昨日あんなにしたよね?」

 

 昨日……放課後の部活がないことで、いつもよりかなり早くおっ始めたにも拘わらず、二人で決めた就寝時間ギリギリまで(さか)っていた。

 今もがっつり勃っているのだが、それはもう仕方がない。開き直って堂々とする。

 

「朝だし。あと昨日ニンニクがっつりいったから」

「精力増強だね。まあニンニク関係なくて、いつもな気はするけど」

「それは千夏が可愛いのが悪い」

「えー。私のせいー?」

「間違いない」

「そっかぁ……ちなみに可愛いだけ?」

「えろ可愛い」

「ふふっそっかそっか…………ねえ、したい?」

「いや今日はしない。朝練遅刻する」

「口だけとか……そのままじゃ学校行けなくない?」

「ほっとけば収まる」

「…いっつも思うんだけど、どういう原理?」

「知らん。そういうもん」

「ふーん」

 

 欲望に負けずにそんな会話をしていると、千夏のスマホからアラームがなった。

 

「そろそろ起きるか」

「そうだね」

 

 まったりした時間は終わりを告げて、着替えて玄関へ向かう。

 

「それじゃあまた後で、いってきます」

「いってらっしゃい、また後でね」

 

 恒例のキスとハグをしてから、今日も千夏家をあとにした。

 

 

◇◇◇

 

 

〜桐島(オリキャラ)視点〜

 

 土曜日、俺の母校である泉台学園との練習試合当日。

 栄明が先にアップを済ませたところで、泉台学園がやって来た。挨拶をして、泉台が練習を始めたところで、うちと泉台の監督、それと翔先輩が体育館を出ていった。

 栄明の部員たちはコート脇で身体を冷やさない程度に談笑する。

 

「やばい、緊張する……」

「なんでだよ練習試合だぞ」

「だって泉台だぞ、IH(インターハイ)優勝だぞ。しかも今日は全員試合出すって話だし……」

「いやむしろ楽しみだろ」

「な。全国一位と試合できる機会なんてそうそうないし」

「メンタル強者どもめ……」

 

 約一名、相変わらずメンタル弱々な奴がいるが、それを除けば俺たち1年はいい感じのコンディションを保っていた。

 

「つーかよく試合受けてくれたよな」

「そうか? うちIH準優勝だぜ?」

「3年生引退してレギュラーの半分入れ替わってるじゃん。もはや別チームだろ」

「藤原先輩を観に来たんだろ。噂じゃ泉台からも推薦きてたらしいし、あっちの監督が気に入ってるんじゃね?」

「確かに、藤原先輩なら納得だな」

「夏からまた上手くなってるし、どこまでいくんだよって話だよな」

「それな。あとはちょうどいいサンドバッグが欲しかったとか。長いラリーで決め切る練習的な」

「あー」

 

 そんな話をしながら、俺は俺で別の思考に沈む。

 全国指折りの泉台学園が、新チームである栄明の練習試合を受けた、または申し込んだ理由。翔先輩を観に来たのも勿論あると思う。でもそれ以上に、栄明の、そして先輩の将来を話すためだ。

 

 現時点で、栄明には指導者もツテもない。翔先輩がたった一人でチームを導いている状態だ。中等部には今年から専門のコーチが付いたらしいし、高等部も来年か再来年には付くと思う。

 さっさと付けろ無能が……と思うけれど、指導者を探すのだって簡単じゃない。お金の問題もあるし、ちゃんとした人材は既にどこかしらのチームに所属している。

 それに、元々栄明バレー部は強豪ではない。翔先輩がいなくなって弱くなるかもしれない部活に、学校側としては慎重になるもの分かる。泉台だってバレー部なんかの強豪とそれ以外では待遇がまるで違っていたんだ。

 

 そして何より、翔先輩のこれからの事。高校を卒業して大学やVリーグへ進むとして。翔先輩は右も左も分からない状態で選ばなければならない。

 環境は大事だ。環境が合わずに辞めた天才なんて腐るほどいるだろうし、俺も泉台を出る時は栄明なんかで成長できるのかと止められた。

 だから泉台の監督は、今日ここに来た。将来にどういうビジョンを持っていて、どんな道を選ぶのか。翔先輩と話をするために。

 

「……まあ、全部俺の想像だけど」

「ん? 桐島なんか言ったか?」

「いやなんでも……小峰、お前まだメソメソ言ってんのか? 翔先輩に散々言われてきただろ、メンタル弱いならどうすべきかって」

「…メンタルの強さとか関係ない。必要なのは技術だ」

「そう。さっきの練習で大事なとこ確認しただろ?」

「…した」

「成功する感覚掴めた?」

「うん」

「助走で気をつけるのは?」

「バックスイングの大きさと前屈みにならない事」

「よしっ。そんだけ出来てるなら大丈夫だよ。どうせ今日は胸を借りる立場なんだ、思いっきりやろうぜ」

「…おう!」

 

 なんとか上がってきた小峰へ、周りの部員たちとまったく仕方ねえなぁと無言のアイコンタクトを交わした。

 

 

 

 

〜大喜視点〜

 

 午前練を終えて、弁当を食べてから男バレの練習試合を観戦する。

 うちの体育館で練習試合がある時は結構人が集まるんだけど、今日は合宿の翌週で休みたいのか、俺の他にバド部で来たのは匡と、少し離れた場所にいる針生先輩と西田先輩の三人だけだった。

 

「あっ、いのたじゃん」

 

 間違えた、守屋さんも入れて四人だ。守屋さんは雛と島崎と一緒に観戦するらしい。

 

「隣いい?」

「どうぞ」

「ありがとー。ひなっち、こっちおいでよ」

「うん」

 

 守屋さんが俺の隣に空けたスペースに雛が入る。俺が雛のこと好きなのがバレてるのか、最近ちょくちょくこういった事をされる。

 

「雛も観に来てたんだな」

「うん、翔くんの試合中々見れないしね」

「部活があるとどうしてもな」

 

 俺も雛の試合は観たことないし、千夏先輩の試合もない。公式戦で観たのは、前に体育館のメンテと重なったバレー部の試合だけだ。

 

「てかさ……相手デカすぎない?」

 

 下で練習する相手選手たちを見て、守屋さんがちょっと引いた様子で呟く。気持ちは分かる。身長も体つきもデカくて、遠近感覚狂いそうになる。

 

「全国一位だもん、そりゃあ凄いでしょ……あ、今スパイク打った人ね、泉台のエースなんだけど、身長189センチあるんだって」

「うげぇ……」

 

 泉台のエース、源田なんとかさん。藤原先輩と一緒に全国2大エースって呼ばれてるんだっけ。高さとパワーがすごい人、今のスパイクもドゴォん! ってとんでもない音してた。189……藤原先輩が170ちょっとだから、15センチ差くらいか。てことは……

 

「ん? いのたどうした?」

「いやなんでも」

 

 俺と守屋さんが多分それくらいの身長差。藤原先輩はこんなハンデ背負って戦ってるのか。

 

 そうこうしているうちに相手チームの練習が終わり、試合が始まった。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 高くドライブ回転のかかったサーブトス。相手選手がジャンプサーブを放つ。桐島がきれいにレシーブしたボールは、セッターの真上に上がる。

 真ん中にいち早く助走に入るのが一人。その他にも三人、助走に入る雰囲気がある。どこに上がるのかボールをよく見て……

 

 スパァン!

 

 上がったのはど真ん中。コンパクトに打ち下ろされたボールは相手コートに落ちた。

 

 1ー0。

 

「ナイスキー!」

「いいぞ高山ー!」

 

 少し向こうで針生先輩と西田先輩が声を上げる。

 

「びっくりしたね……」

「ね、どこ上がるか全然分かんないよね」

 

 守屋さんの呟きに雛が応えた。俺もトスが上がった瞬間、そこか! ってなった。上から見てもそうなんだから、コートにいる人はどうやって判断してるんだろう。

 

 得点したことで、次は栄明のサーブ。エンドラインへ向かうのは藤原先輩。

 

 ピッと、笛が鳴る。

 

 高くドライブ回転のかかったサーブトス。藤原先輩がジャンプサーブを放つ。ボールは誰にも触れられずにサイドライン付近で勢いよく弾んだ。

 線審のフラッグはライン上を指している。つまりイン、栄明の得点だ。

 

 2ー0。

 

「すっげ……」

 

 弾丸のようなサーブ、一発目の相手選手と比べてもなお速い。俺は全然バレーの知識がないから速いしか言えないけど、全国トップのチームと比べて素人目に分かるくらい速いなんて、やっぱり藤原先輩めちゃくちゃ凄い。

 

 

 

 試合は進み、第一セット終盤。いいスタートを切った栄明だけど、相手は全国トップ。じわじわと逆転、さらには差をつけられて、得点は17ー23。

 

 ダァン!

 

 長い長いラリーの末、ほぼ真後ろから上がってきたトスを藤原先輩が打ち抜いて、栄明の得点。

 

 18ー23。

 

「翔くんナイス!」

「翔ナイスキー!」

 

 雛の声に被るように声がした。見なくても分かる、千夏先輩だ。

 

「ふぅ……なんか見てて疲れる……」

「分かるわ……」

「毎回ラリー長いからね」

「うちの試合は毎回こんな感じだよ?」

 

 守屋さんが言葉通り疲れた様子で柵に寄りかかる。バレーボールの観戦はものすごい楽しいけど、それと同じくらいハラハラするのだ。加えてこの試合は毎回のラリーがめちゃくちゃに長い。俺や匡もちょっと疲れてきた。

 それに比べて雛は元気そうだ。千夏先輩もずっと声を上げてるし、二人ともバレーの試合見るのに慣れてるんだろう。

 

「てかさ、なんかうちが一方的に殴られてるみたいじゃない? 相手は毎回ドッカンドッカンなのに、うちは藤原先輩とあと一人以外チョチョイみたいな」

「言い方……」

「あと桐島な」

 

 守屋さんの鋭利な感想に苦言を呈していると、ピッと笛が鳴った。

 

 栄明のサーブは、同じクラスの横村が打つ。相手選手にきれいにレシーブされた。トスが上がったのは後ろ。

 

「あぁまた……!」

 

 守屋さんが短く悲鳴を上げる。トスの先で跳ぶのは相手エース、源田さん。このセット通して、素人目にも分かるくらい格が違う、絶対的なエースだ。

 強烈なスパイクが栄明コートを襲う。レシーバーが吹っ飛ばされ、ボールもコート外へ飛んでいく。

 

 だけど、ボールが床に落ちる寸前、桐島が飛び込んで繋いだ。

 

「おぉ……!」

 

 桐島の真上、コート外に上がったボールへ横村が走り込む。アンダーで思い切り弾いたボールは、高く高く舞い上がり相手コートへ返っていく。

 

「おおおぉお!!」

「返った!」

「ナイスナイス!!」

 

 たった一本返しただけなのに、めちゃくちゃ盛り上がる。試合開始からずっとこれが続いているのだ、そりゃあ疲れる。

 

 相手チーム、万全の態勢からの攻撃。後ろには大エースがいて、真ん中と左右サイドにもスパイカーがいる。どこにトスが上がるか集中して……

 

 トスの先はど真ん中、速攻ってやつ。ブロックに当たったボールは、そのまま相手コートに返っていく。

 

 息つく暇なくもう一度、万全の態勢から相手の攻撃。トスはレフトへ、強烈なスパイクが桐島を襲う。

 桐島がレシーブしたボールはその真上、コート後方に高く上がる。

 

「ライト!」

 

 藤原先輩がトスを呼ぶ。ふわりと、ライトへ高いトスが上がる。

 

 藤原先輩のスパイク。この人はどこにでも強打を打てる、ブロックに当てて弾き飛ばすのも得意だ。

 どこに打ってくるんだろうと、集中して……

 

 ぽぉん

 

 緩く、手のひらに当てられたボールはコート奥に伸びていく。予想外の軟打に思わずびくっとした。

 それは相手チームも同じで。さっきまでの強打とは比べものにならない緩いボールなのに、相手選手たちは金縛りに遭ったように動けず、コート隅に落ちるボールをただ見送った。

 

 19ー23。

 

「おおおおお!!」

「すっごぉ……」

「翔くんナイスー!」

 

 栄明が得点したことで、藤原先輩にチームメイトが駆け寄り称賛する。先輩も会心の一本だったのか、今日一番の笑顔でそれに応えている。

 

「うっわ……」

 

 守屋さんが何故か嫌そうに声を漏らした、でも視線は先輩に釘付けになっている。

 分かる、分かってしまう。いつものクールな顔がめちゃくちゃに眩しい笑顔になっていて、男の俺でも目を奪われるくらいの破壊力だ。

 

 そして、笑顔の藤原先輩は桐島と横村の肩をぽんぽんと叩き、声を掛けた。ここからでも分かるくらい、二人が嬉しそうな顔をした。

 

 ──上を目指す以上、どうしたって苦しい事の方が多くなる

 

 ふと、春休みに言われた言葉が蘇った。

 藤原先輩と俺とで、個人団体の違いもあるし、そもそも目指す高みが違う。だけど、上を目指すという行為自体は同じ。

 

 ──でも、極稀に来る『楽しい』がつらいこと全部吹き飛ばしてくれる

 ──俺はもっとやれる、もっと上手くなれるって、背中を押してくる

 ──『楽しい』が来た猪股は、これからもっと強くなれるぞ

 

 楽しい……最近一番楽しいと感じたのは、秋合宿最終日に針生先輩を追い詰めたこと。練習試合とはいえ、万全の状態の針生先輩を相手に勝てるかもしれない、そんなギリギリの勝負をしていた。滅多にない高揚感だった。

 小さい楽しさでいえば、今朝匡と打ち合っている最中に、スッと打点に入れたこと。ああいうプレーがあると気分が上がる。ノッてくる。

 

 今、目の前で会心のプレーをした藤原先輩や桐島横村を見て、その意味を再確認する。

 

「帰ったら走りに行くか」

 

 辛くて苦しい道のりの中で、ほんの僅かな成長、楽しさを見つけて、積み重ねて。

 絶対に勝つと、全国へ行ける力があると示すと、もう何度目か分からない決意をした。

 

 

 

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