四角関係   作:slo-pe

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成長

 

 

〜守屋菖蒲視点〜

 

 1月15日、土曜日。

 

「えー、いのた今日誕生日なの!?」

 

 今日は我がバドミントン部、猪股大喜の誕生日だったらしい。

 

1月15日(いい子の日)ねぇ……」

「なんだよっ」

「性格悪くなきゃダメじゃない、逆に?」

「逆にってなんだよ」

「ていうか言ってくれたら何か用意したのに」

「いいよもう16歳だし、祝われるような年じゃ……それにわざわざプレゼントくれるのなんて、雛と匡くらいで」

「え、寂しっ」

 

 反射でそこまで言って、いや別に寂しくもないかと考え直した。だって、

 

「雛っちとは今日何するの? 付き合って初めての誕生日でしょ」

 

 恋人との誕生日。楽しくないわけがない。

 

「駅前のファミレスで、期間限定スイーツ食べる予定」

「いいじゃん、いちごだっけ?」

「そう苺。雛も今日のために調整してるみたいで」

 

 調整。新体操部は体重管理がシビアで、500グラム増えただけで演技ががらっと変わってしまうらしい。

 

「彼女にそんなしてもらえるなんて、彼氏冥利に尽きますなー」

「ま、まあな」

 

 照れくさそうに目を逸らすいのた。なんだか初々しい。

 

 

 

 

 週が明けた月曜日。

 いのたはいつにも増してやる気に満ちていた。

 

「いのた今日いい感じじゃん」

「そうなんだよ、身体軽くてコートよく見えて」

 

 笑顔で語るいのたを見れば、土曜日はさぞ楽しかったんだろうなって分かる。

「恋人がいたら強くなる or 弱くなる」みたいな話は、勉強やスポーツだとよく言われる話だけど、いのたは強くなるパターンなんだろう。

 雛っちも付き合ってからずっと楽しそうだし、新体操も絶好調らしい。何という良縁。

 

「今日は健吾に勝っちゃうんじゃない?」

「勝てる、かも」

 

 いのたは可能性を噛みしめるように頷く。

 

「それに、来月には1年生大会もあるし、今度こそ遊佐くんに勝つためにも……勝ちたいじゃなくて、負けたくないが大事だと思うから」

「ふーん……雛っちの受け売り?」

「なんでわかるんだよ」

「なんとなく?」

 

 いのたは、「勝ちたい!」って気持ちが強いイメージだったのに。それが急に変われば疑いもする。

 いのたが影響受けるのなんて、雛っちか……あとは藤原先輩くらいだろうし。

 

「始めるぞー!」

 

「あ、練習再開するって、ほら行った」

「おう」

 

 西田先輩の掛け声に、私はいのたを送り出した。

 

 

 

 

 また数日経ったある日。場所は体育館裏。

 

「菖蒲ちゃん、付き合ってくれないかな。前から可愛いなって思ってて──……」

 

 バド部のマネージャーを始めてから3ヶ月と少し、久しぶりに告白された。

 

 前までなら、よっぽど好みから外れた男子じゃなければオッケーしてたんだけど……

 

「ごめん」

 

 今回は、何となく、そんな気が起きなかった。

 

「……分かった、返事くれてありがとう」

 

 男子が校舎のほうへ戻っても、私はその場に留まっていた。

 

「なんで断ったんだろ……」

 

 私のこと好きって言ってくれる人。私がこれから好きになれるかもしれない人。

 今までならとりあえず試しにOKしてたのに。何となく、としか言いようがない理由で断ってしまった。

 

 彼氏がいて、デートしてって、何だかんだ楽しいし、悪くはない。告白してくれた彼もいい人で、悪くはないんだけど……

 

「男としては好きになれる気がしないっていうか……」

 

 いや酷いこと言ってるな私。誰も聞いていないとはいえ、さすがに反省する。

 

「けど……」

 

 今度は言葉にはしなかったけれど、思うのは止められなかった。

 

 付き合ってる内に好きになるかもしれないけど、好きになれないかもしれない。なんならそっちの可能性の方が高いわけで。

 恋愛なんて無理してするような義務的なものでもなくて。その間の時間を捨てるのは、何だか勿体ない気がした。

 それに。

 

 ──好きでもない、いいなとも思ってない人と一緒とか。何の罰ゲームなのって

 

「いやこれ、下手に誰かに言ったら叩かれるな」

 

 告白した人の気持ち考えなよとか。絶対言われる。

 でも、される側にだって事情はある。

 

「よしっ」

 

 自分磨きだ、筋肉つけてこ! と、もやもやを振り払った。

 そして体育館に戻ろうとしたところで、

 

「盗み聞き?」

 

 ゴミ袋片手に笠原くんがいた。

 

「いや、今来たとこ」

 

 あー、多分これ告白のタイミングから見られてたな。まあいいけど。

 

「練習そろそろ始まる感じ?」

「うん」

「りょーかい」

 

 すれ違って、体育館に向かう。

 

「あ、松岡先輩」

「守屋ちゃん、おつかれ」

「おつかれさまです」

 

 体育館に入ったところで松岡先輩がいた。

 

「男バス、最近どうですか?」

「んー、ぼちぼちかな。新チームの始動がそれなりに早かったから、次の大会までには結構仕上がってるかも」

「喜んでいいのか微妙ですねそれ」

「そうだね」

 

 へらりと笑うこの人は、ファミレスのあの日と何ら変わらない。

 

「そうだ、先輩好きなお菓子あります?」

「急にどうしたの」

「来月バレンタインじゃないですか、前のお礼にと思って」

「まじで? 嬉しいなぁ」

 

 ……ちょっとは変わったかも。いややっぱり変わってないか? ……分からん。

 

「あんまり甘すぎるのは得意じゃないかな」

「じゃあビターチョコか、あとはナッツ系ですかね?」

「そういうのだと好きかも」

「了解です。楽しみにしてていいですよ」

「うん、楽しみにしてる」

 

 そんな短くも長くもない会話をして別れる。練習は始まる直前だった。

 

 

 

 

 その翌日、バド部ではとある催しが開かれていた。

 

「第一回、垂直跳び対決! 優勝者にはスポーツショップの500円券プレゼント!」

 

 西田先輩が、割引券を手に声を張る。

 

「ディフェンディングチャンピオンの俺を上回る者は現れるのか……!」

 

 そうやってカッコつけているところに、

 

「針生が超えたぁ!」

「67センチ!」

 

 健吾にあっさり抜かされ、割引券を奪われていた。

 

「俺も俺も!」

 

 次に挑むのはいのた。傍目には結構跳んでいるように見えたけど……

 

「65センチ」

「はい残念、2センチ足りませんー」

「も、も一回!」

 

 ギリギリ足りなくて、健吾に煽られていた。

 

「よく500円でそんなにはしゃげるわね」

「競うの好きだよねー」

 

 次々に部員たちが跳躍するのを眺めながら、になにな──島崎にいなちゃんと呆れた感想を共有する。

 

「マネージャーも挑戦する?」

「えーいいですよー」

 

 勝てるわけないじゃんと、軽く断る。

 そこに健吾が、私たちの後ろに目を留めて、

 

「翔ー、お前もやるか?」

 

 翔──藤原翔。

 思わず振り向きそうになるところを、意識してゆっくり振り返る。

 

「いいよ、俺が出たら勝負になんないし」

 

 うわ──

 

「──うわ、相変わらず自信家だな」

 

 私の内心と、健吾のツッコミは同時だった。

 

「自分に自信持たないでどうすんの。自分のことは、自分で褒めてあげないと」

 

 続く言葉は、ちょっとだけぐっときた。

 

 ──労力を知らないと、頑張ってることをそもそも認識できないのよ

 ──俺が筋肉を付けるのと同じくらい、それ以上に自分のこと大切にしてる

 

 今の言葉は、私に言ってるわけじゃないのは分かってる。それでも、前に言われたそれと重なった。

 私のことを一番見てるのは私、私と一番付き合っていくのも私。頑張ったことも、サボっちゃったことも、誰より知っているのが私だ。

 

 ──自分のことは、自分で褒めてあげないと

 

 いい言葉だと、そう思った。

 胸を張って、自分を褒め続けられる日々を送りたいと、そう思えた。

 

「それもそうな」

 

 と、健吾とのやり取り込みで、嫌味にもなり得る先輩の言葉に不快感は覚えた人はいないようだった。

 

 

 

 

 さらに数日後、1月の最終週。

 体育館のほうは落ち着いていたため、部室に向かう。最近は用事を言われることがなかったため、来るのは年末の大掃除以来だけど……

 

「うわっ、やっぱり……」

 

 汚い。きたない。きったない。

 

「くっさ……なんでここ普通に使えんの、マジでありえない……」

 

 鼻を摘みながら部室を見渡す。タオルやらシューズやら、なんか諸々が散らかってる。大掃除から1ヶ月も経ってないのになんでこんなに汚くできるのか。もはや才能だろこれ。

 それに冬でニオイはキツくないはずなのに、めちゃくちゃ臭い。

 

「あーもうほんと最悪」

 

 マネージャー、思ってたのと違いすぎる。

 個人競技集団だからなのか、部員が自由すぎる。出した物は片付けない、落ちてる物も放置、だからこんなに汚くなる。

 初詣のときも全然集団行動ができてなかったし……

 

「あ、そういえば、あの時は雛っちが足やっちゃったんだっけ」

 

 人混みの中で踵を踏まれてしまったらしく、皮も剥けていたそう。

 いち早くいのたに助けを求めて、でもいのたは絆創膏なんて持ってなくて。……まあ雛っちは自分で持っていたから、いのたの早とちりだったんだけど。

 他人に踏まれる以外にも、慣れない靴だと靴擦れもする。絆創膏を持っている女子は、割といる。持ってると女子力判定もされるし。

 

「あの時のいのたは反省顔だったなぁ……雛っちはそれ見て嬉しそうだったけど」

 

 付き合ってまだ2ヶ月。

 ラブラブ状態の二人だけど、お互い部活もあるから、次のデートは来月のバレンタインの週までお預けらしい。

 お姉と健吾、雛っちといのた、あとは藤原先輩とちーちゃん。皆それぞれ忙しいのに、お互いを尊重し合って、自分も大切にして、恋愛してる。

 

 そんなカップルたちの事を考えながら、手早く掃除を進める。

 一刻も早くこのくっさい部屋を抜け出したかった。

 

 部活終わり、監督からのお話が一区切りついたところで。

 

「あの、私からいいですか」

「守屋か、いいぞ」

 

 監督が一歩横にずれ、私がそこに移動する。部員の視線が集まる中で、言い放った。

 

「部室の掃除をしました。大掃除から1ヶ月でなんであんなに汚くできるのか意味不明で、めちゃくちゃ臭かったですが、一通り綺麗にしときました。誰のか分からなかった物は部室の真ん中のかごに入れてあるので、適当に回収してください」

 

「おおー!」「ありがとー!」と、疎らに声が投げられる。

 

「私に感謝を忘れず、それと暫くはキレイに使うように。私からは以上です」

「はい、お疲れ様。お前たちも、マネージャーにちゃんと感謝しとけよ」

「「「「あざーす!」」」」

 

 今度はまとまった声が届く。

 うん、やっぱり感謝されるのは気持ちいい。何でもかんでもお手伝いさんをするつもりはないけど、マネージャーの仕事をして、その上で自己肯定感も上がるのはwin-winだ。

 

「帰ったら運動でもしよ」

 

 スタイル維持のため、お姉がやってる有酸素運動。毎日続けられる強度のやつだから、私もちょくちょく一緒にやっている。

 

 ──恋愛は、したくなったらしよう

 ──今は自分に自信を持てるように

 

 上機嫌のまま、私は帰り支度に取り掛かった。

 

 

 




どうでしたでしょうか、
少し短いですが、菖蒲ちゃんの失恋(本人は認めていない)を昇華していくお話でした。

原作では笠原くんと付き合った菖蒲ちゃんですが、今作ではアウトオブ眼中です。
松岡先輩とも距離は縮まっていますが、(少なくとも今作の完結時点では)付き合うとかはありません。
菖蒲ちゃん、笠原くんファンの方は申し訳ありません。

原作も完結してしまい、今作も完結まで作中時間は残り2ヶ月。
最後まで走りきれるように、感想いただけるとすごく励みになります。

それでは今回は以上です。
ではまた次回。
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