下ネタ注意。不快になりそうな方は、
※ 以降をしばらく飛ばして
◇◇◇ へお進みください。
内容は地区予選の前日で大喜が緊張してるお話です。読まなくても大筋に影響はないと思います。
〜大喜視点〜
GWが明けてすぐに、バドミントンの
「地区予選で優勝ね」
その予選を翌日に控えた早朝の体育館、藤原先輩が俺が言った目標を繰り返した。
「できると思ってる?」
前に聞かれた時は何も言えなかったが、今ならはっきり答えられる。
「はい。最近の勝率を考えれば、可能性は十分あると思います」
地区予選に針生先輩たち数名は出ない。新人戦上位の選手がパスする状況で、優勝候補になるのは西田先輩クラス。今の俺なら勝てない相手じゃない。
それに、春休みは目標にしてた勝率が半分を切って、部内戦でもあと1勝足りなかった。それから1か月練習した成果として、目に見えるものが欲しい。
「まあ妥当だな。
藤原先輩が頷く。
最初に指導をお願いしてから4か月、こうして話すのもそろそろ20回にいくはず。
まだ何かあるだろうなと直感する。
「緊張してる?」
「してない、と思います」
「ならいいけど」
「してるように見えますか?」
「知らん」
出た、偶に来る『知らん』。いやまあそうとしか言いようがないけども。
んーと、藤原先輩が唸る。
「やるべき事は全部できたか?」
「……いえ、できてないです」
「じゃあ出来ることは精一杯やったか?」
「…そのつもりです」
「なら大丈夫だろ。緊張は何処に行ってもついてくるし、もししてるようなら自分でなんとかすること」
藤原先輩はそう言って、千夏先輩に1on1を誘いに行った。
放課後の練習は、大会前日ということで軽めかつ短めなものだった。
「おつかれー」「誰かシャトル持った?」「明日集合時間何時だっけ?」「7時」「くっさ! これ誰のシューズだよ」「西田です」
騒がしい部室を出て、ペアである針生先輩と並んで歩く。
「大喜ー、明日から地区予選なんだってー?」
部室棟の2階から、雛が声を掛けてきた。
「張り切りすぎてコケて恥かかないようにね」
「余計なお世話だ!」
ムキになって返すと、雛はけらけらと笑ってから、真っ直ぐ俺を見てきた。
「優勝目指してるんでしょ、頑張ってね」
「…おう」
「んふふ」
突然の落差に生返事しか返せずにいると、雛は満足そうに去っていく。
「あの子と被るけど、あんまり気負うなよ。本番で力を出し切るのも大事な要素だぞ」
「大丈夫ですよ、前より確実に強くなったし」
「じゃ言うけど、ラケバ忘れてるぞ」
「……なんで今言うんですか」
「いつ気付くかなって」
「取ってきます!」
ダッシュで部室に向かいラケバを取る。
※以下、不快な方は読み飛ばし推奨
元いた場所に戻ると、針生先輩の他に4人の女子の先輩がいた。千夏先輩もいることで、女バスにいた人だと思い出す。
「お、帰ってきた」
「すみません、あざっす」
「この子が明日ペアで出る子?」
「そうそう。ラケバ忘れてた馬鹿」
「うぐっ」
馬鹿呼ばわりを否定できずにいると、女バスの先輩たちが励ましてきた。
「わかるよ、大会は緊張するよね」「私も始めてユニフォーム貰った時は……」「私なんて今でも試合前はドキドキしてるし」「ジタバタしてもしょうがないってわかってるんだけどねぇ」
そして、気になりすぎるセリフが出てきた。
「ナツなんて中学の時緊張しすぎてだんご虫みたいになってたんだから」
「ちょっと渚!」
千夏先輩が恥ずかしそうに声を荒げるが、ナギサさんはのらりくらりと躱し、愉しそうに笑っている。
めっちゃ気になるけど、聞いたら怒られそうだな……
「あ、翔くん! ちょっと来て!」
向こうで歩く男バレの集団。藤原先輩が一言断ってからこちらに来る。
「どした?」
「猪股くんが大会前緊張してるみたいで、アドバイスしてたの。翔くんからも何か言ってあげてよ」
だんご虫の事をすっ飛ばして伝える千夏先輩が可愛かった。でも藤原先輩から視線を向けられたので、意識して顔を引き締める。
「やっぱり緊張してた?」
「はい…すみません……」
「別に怒ってないし謝んなくていい」
藤原先輩は女バスの先輩たちからさっきまでの話を聞く。
「アドバイスねぇ……鹿野たちと似たような事しか言えない気がするけど」
「ですよね……」
「んー、まあ、いいか……ちょっと来い」
手招きされ、女バスの先輩たちから十メートルほど離される。針生先輩もついてきた。
「アドバイスになるか分からんけど、具体的な話。家帰ってした方がいい事と、しちゃダメな事な」
「はいっ」
「まず、落ち着かないからって素振りとかランニングするなら10時までにすること。それ以降は禁止」
「うす」
なんか普通にためになりそうなアドバイス。なんでわざわざ離れたのかと疑問に思った。
「次にする事だけど、腹八分目まで食うこと、風呂で出来るなら湯船に浸かること、風呂上がったら体のメンテすること。あとはシコって寝ろ」
「分かりました」
俺が頷く横で、針生先輩が吹き出した。なんでだ、変なこと言ってないよな?
飯食って湯船浸かって体のメンテしてシコって寝る……ん?
「シッ……!?」
思わず叫びそうになったが、周りに人がいる事を思い出し、ギリギリで止める。
何言ってんだこの人!?
「え、もしかしてしたことない?」
「それはっ……ありますけど」
「よかった」
ピュアボーイだったらどうしようかと思ったわ、と藤原先輩が笑う。揶揄われたのかと不満になる。
「言っとくけど冗談じゃないぞ、大事な事だ」
「そう、なんですか……?」
「そうなの。強いやつ、場馴れしてるやつってのは、ほとんどが自分で自分の機嫌を取れるやつだ。やり方は人それぞれだけどな」
「ならなんでシ…それなんですか?」
「猪股のルーティンなんて知らんから、男全般に通じる方法を言っただけ。実際ユース合宿でもいたぞ、抜くから30分ちょい出てけってルームメイト追い出す猛者」
「マジすか」
「マジよ。しかも相手ほぼ初対面な」
「うわぁ……」
そんな裏事情聞きたくなかった。
「まああの人は参考にならんけど、とりあえずやってみ。最悪明日ならダメでも針生がカバーしてくれる」
針生先輩を見ると、肩を竦めて「負けるのは論外だしな」とのこと。
とりあえずやってみようと思った。
女バスの先輩たちのところへ戻る。
「何教えてあげたの?」
「ひみつ」
「なんでよ」
「いいじゃん減るもんじゃないし」
「だめでーす。ユースで学んだことなので簡単には教えられません」
「ケチくさっ」
「なんとでも」
さらっと追求を躱してるけど、俺だったらテンパってるなこれ。てかユースで学んだことって……まあ、嘘じゃないか。
その後、藤原先輩が部室へ向かったのを機に、俺たちも解散する。
「明日ラケバ忘れないようにねー」
「ユニフォームもだよー」
そんな恥ずかしいエールを貰いながら、帰路に就いた。
翌日。
「それで? 調子はどうよ?」
「……いい感じです」
他人には言えないルーティンが確立した瞬間だった。
◇◇◇
ダブルス地区予選、針生・猪股ペアはあっさりと優勝し、県大会出場を決めた。
早朝に猪股を祝福して、教室で針生にも祝福して……そして今、鹿野は怒っている。
「ねえ針生くん、何が『というわけで』なのか教えてくれる?」
「いやまあ、その場の流れというか……」
「うんだからその流れを教えて。最初から最後まで、もう一回」
「りょ、了解した」
隣り合った席からにこやかに問う鹿野に、針生がどもった。
わかるぞぉ、怒った鹿野は怖いからな。
「会場で俺の昔のペアと会って、そいつが去年の文化祭でちーに財布を拾ってもらったらしくて、それで連絡先くれって言ってきたんだよ」
「…なるほどね。それで?」
鹿野は一瞬斜め上を見てから返答する。これ多分憶えてないやつだな、名も知らぬその子に合掌する。
「地区予選で勝ったら教えろって言ってきて、でもそいつのペアが腹壊して棄権した。俺はシングルス出ないから、代わりに大喜に勝ったらってことにしました、はい」
敬語口調で締めた針生、ちょっと開き直ってきてるな。当然鹿野は納得していない。
「鹿野、思いっきり引っ叩いていいと思うぞ。知るかボケェって怒鳴り声付きで」
「しないよそんなこと。したいのは山々だけど」
鹿野の発言に、開き直ったはずの針生が頬を引き攣らせた。
「それで、そいつは強いん?」
「そこそこだな。ジュニアの頃とは言え俺とペア組むくらいだし……でも大丈夫だろ、大喜が勝つ」
「おぉ言うねぇ」
「当然だろ。俺がミッチリ鍛えてて、翔も面倒見てるんだ。その辺の選手に負けられたら困る……ということで、悪かったです、許してください」
針生が頭を下げ、合わせた両手を頭上に掲げる。
「……分かった。それならこうしよっか」
鹿野の声に、針生が顔を上げる。
「もし猪股くんが負けたら、私の連絡先教えていいよ。でも猪股くんが勝ったら、今回のこと花恋にチクるから」
「は、マジ?!」
「マジだよ」
何か文句あるの? と凄みのある笑みで問われ、針生は『いえ、ありません』と即答したのだった。
◆
〜大喜視点〜
ダブルスでの優勝から一週間、シングルスの地区予選が開かれた。
順調に勝ち進んで迎えた、ある意味で今日一番重要な試合。千夏先輩の連絡先を賭けた、負けられない戦い。
「「よろしくお願いします」」
ネットを挟んで握手をするのは、岸祥一郎くん。
岸くんは余裕そうに笑っている。舐められてるな。
お互い気合いの入ったジャンケンに勝ち、サーブ権を貰う。シャトルを持ってネットから離れ、位置につく。
ネット越しの岸くんがシューズ裏を手で拭い、床を軽く蹴る。
──当たり前の事を当たり前に
ふぅぅと長い息を吐く。
千夏先輩の連絡先を渡したくないから、今度こそ宣言を達成するために……色々考える事はあるけど、全部ひっくるめて落ち着けている。
多分、俺の機嫌は、いい感じだ。
「よし」
出来ることはやった。やる事もやった。
今、目の前の一点を取りに行く。それだけでいい。
11ポイントのタイムアウト、スポドリを飲み、軽く息を整える。
「はぁ……はぁ…………ふぅ」
第一ゲーム、得点板は10ー11、接戦だ。
岸くんのスマッシュはやっぱり強烈、威力だけなら先輩たちと同等。でも、先輩たちほどキツくない。理由はきっと……
審判のコールでコートに戻る。
岸くんのサーブ、ネット際に落ちる球を拾い、同じくネット際へと返す。
当然拾われ、岸くんはドロップを返してくる。同じくドロップを返すと、またドロップで返される。
繰り返すネット際での反応勝負。多分岸くんはこれ苦手だ、技術じゃなく性格的な問題で。
コート後方へ打ち上げると同時、スマッシュに備えてコート中央へ戻る。
待っていたと言わんばかりに岸くんが球を追う。落下地点から少し離れての斜め飛び、強烈なのが来る……!
一歩、ストレート側に寄った。
「お…らぁっ!」
当たりッ!
余裕ができた分、厳しく返球する。岸くんは驚いた様子でラケットを伸ばし、ギリギリで返してきた……これを一撃で。
スパァン!
「──っしぃ!」
威力は抑えめでコース重視、空いた場所にスマッシュを叩きつけた。思わずガッツポーズを決める。
「今のは完璧……万全の態勢で打たれなきゃなんとかなる……」
岸くんのスマッシュは凄い、でも俺が戦うのはそこじゃない。
「よし」
11ー11。さあ、逆転だ。
岸くんのフォーム……多分クロスだ。でもコート中央に残る。
「おりゃぁ!」
やっぱりクロス。ラケットを伸ばして、空いたスペースに返球するも、いかんせん態勢が悪い。完全に余裕が無くなった。
失った主導権を取り返せず、結局は決め切られた。
「今のは仕方ない、逆を突かれる可能性もあったから……粘りはいい、問題はその前後の配球……」
15ー13。
ラリーが長引くようになった。
コート後方にロブを上げても、ハイクリアで返される。カウンターを警戒しているのか、決め切る自信が無い時は攻めてこない。
でも。
スパァン!
それは俺が好きに攻めていいってことで。
「くっ……!」
ギリギリで返ってきたそれを、岸くんの位置から対角の場所へと落としてやる。
「よっし!」
20ー17。
「攻め時の見極めもいい……多分弱気になってるからドロップ警戒……」
あと一点、一気に取る。
◆
〜針生視点〜
アリーナで行われている大喜と岸の試合、大喜のゲームポイント。
クリアやドロップ、プッシュを織り交ぜて、お互いに攻め時を探るラリー。息が詰まりそうだ。
そこに、大喜の側にロブが上がる。コート中央より少し後ろ、中途半端で、攻めてくださいと言わんばかりの浮き球。
スパァン!
大喜がそれを見逃すはずもなく、スマッシュを叩き込み、岸がレシーブをミスった。
第一ゲームは大喜の先取だ。
「うへぇ……大喜も容赦ねえなぁ、相手の選手かわいそー」
「お前どっちの味方だよ。それに手を抜けるほど差はないだろ」
「それは分かってるけど、どうしてもなぁ」
隣で西田が試合の感想に続けて情けない事を口にする。まあ大喜のしつこさを一番経験してるのは西田だし、仕方ない部分もあるけど。
「ほんとに針生の言った通りになったね。繰り返すうちに慣れるって」
西田の向こうからそう言ったのは女バスの船見渚。隣の北高で練習試合を終えて、応援に来たそうだ。
船見の向こうにも2人が並び、そして最奥にちーがいる。
「最初は攻められてばっかだったのに、いつの間にか逆転してさ」
「大喜の強みだな。スマッシュって疲れるし、どうしても隙ができる。粘られるのは当然嫌だし、何回もカウンターをくらうと攻めるのが怖くなるんだよな」
「それなぁ」
「なに西田、やけに実感こもってんじゃん」
「もしかして西田も被害者だったり?」
「最近は負け越してる……」
「ありゃりゃ」
肩を落とした西田、船見がドンマイと肩を叩くとすぐに機嫌を直した。単純なやつ。
「このままいけばあの子の勝ちだね」
「そうだな、まあ勝ってもらわないと困るけど」
そう言った瞬間、ちーと目が合った。笑っているのに、ちゃんと怒られてねと言われている気がした。こわ。
「そういえば、明日どうするん?」
そっと目を逸らし、ついでに話題も逸らす。
「明日は女バスで行くよ」
「んじゃ俺も部活メンバーで行くかな」
「……あの、明日って何かあるんですか?」
西田たちとは反対側から、今まで会話に入っていなかった笠原が聞いてくる。
「今日明日がバレー部の県大なんだよ。明日は体育館使えないし、見に行くかって話」
「県大会って、早くないですか?」
「
「大会日程おかしくないですか?」
「おかしいな」
笠原のもっともな指摘に苦笑する。
バレー部の地区予選は今月末で、IHの県予選も6月中旬。関東大会への県予選に出るチームは地区予選免除とはいえ、ごちゃごちゃすぎる日程だ。
「おっ、始まった」
そうこうしているうちに、大喜たちの第二ゲームが始まった。相変わらず大喜の優勢で試合は進む。
『試合番号─────』
「俺、そろそろ試合なので」
「おう。頑張れ」
アナウンスが流れ、笠原がアップへ向かう。
「──っしゃぁ!」
アリーナでは大喜がガッツポーズを作っていた。