幻想を手に、英雄を追う。 作:しんぱ
「はぁ…」
私はため息をついて手元にあるプリントをめくった。その紙には「進路希望調査」と書いてあり、第1希望から第3希望まで枠がある。
周りでは「お前どこ行くんだよ!」「あァ!?ンなもん雄英に決まってんだろがよ!!」「マジか、あそこ行くのか!!倍率300倍だぞ!」「知らねぇよ俺が落ちると思ってんのか!!」
…ちょっと騒がしい声が聞こえてくる。私もあまり人には言わないが雄英希望だ。倍率300倍というちょっと理解できない倍率の高校。日本どころか世界を見てもここまで倍率の高い高校はそうないだろう。
…自己紹介が遅れてしまった、私は「久我 唯」。個性は『幻想抽出』。人間の強烈な心象を現実に持ってくる個性だ。
何を言ってるかわかんないって?…多分すぐ分かるよ。
「なんだコラお前デクゥ!お前雄英志望なのか!?」
「えっあっ、かっちゃん…!やめて、返してよ…!」
「何しに行くんだよ無個性野郎が!記念受験か!?余計なことすんじゃねぇよ!」
…本当に騒がしい。誰がどの高校を選ぼうがそれは個人の自由だ。他人に口を出す権利は無いはずなのにこの仕打ち…更にそれを晒しあげて笑いものにする、と…かなり気に入らない。
「俺はよぉ…泊を付けたいわけ、この中学から唯一の雄英志望で合格者って言うな!お前が来ると邪魔なんだよ!記念受験なら辞めろや!」
「で、でも僕はほんき…「なら現実分からせてやろうか!?あァ!?」ひっ…!」
緑谷を脅すために手のひらで小さな爆発を起こし発言を遮った。
……本当に気に入らない。
あんまり良くないけど…やるか。
私はガタン!!と机を蹴飛ばして立ち上がる。
周りの視線が全て私に向いたのが感覚でわかった。
「お前、黙って聞いてたら好き勝手喚きやがって…喧しいんだよ、猿。」
爆豪の首に青筋が入り顔が更に険しくなった。
「あァ!?んだお前モブが喋んじゃねェよ!!!」
「黙れよ勘違い半グレ野郎が。聞いてて耳障りなんだよ、口で言っても分からないか?」
「テメェ…覚悟出来てんだろうな!!!」
「出来てなくてこんな事しないけど?そんな事もわかんないか、猿だから。」
「ぶっ殺す!!!!」
「やってみろよクズが!!」
私は爆豪と軽く?言葉の押収をして爆豪を煽る。案の定爆豪は切れて殴りかかってきた。私は迎え撃つために即座に手を構える。
E.G.O 『懺悔』
私の手には髑髏の付いた十字架のメイスが握られ、着ていた制服は簡素な茶色のアーマーが装着される。頭には茨の冠が巻かれ、手に持つ懺悔を真横に振り切る。
しかし、お互いの拳とメイスがぶつかる事はなかった。
「辞めなさい!!」
教師からストップが入ったのだ。私と爆豪はそれに即座に反応し、お互いに軌道をズラし、空振る。
「受験を控えているのに何をしているのですか!!内申に響きますよ!」
…それは、その通りだ。雄英に受かるという目的があるのにそれは不味い。爆豪もそうなのだろう。舌打ちを1つ吐いて席に戻っていく。
「チッ!」
「はぁ…」
私も溜息を一つ吐いて懺悔を手から消す。ぱりん、と鏡が割れたような音がしてE.G.Oがその手と体から消えた。蹴り飛ばした机を戻し席に着く。
…周りからの視線が煩わしい。
私は気にすることなく机と一緒に落ちたプリントにこう、書き殴った。
第1志望 雄英高校 と。
私は一人で夕暮れの帰り道を歩いていた。
今日のトラブルが内心に響かないといいが…
「ね、ねぇ!久我さん!」
「…ん?」
普段誰にも話しかけられない帰り道だが、今日は違うようだ。呼ばれた方に顔を向けるとそこには走ってきたのか、息を切らし汗をかく緑谷が立っていた。
「緑谷…?何しに来たんだ?名前も教えた覚えはないんだが。」
「きょ、今日のお礼を言おうと思って……名前は一応同じクラスだから知ってたんだ。」
「お礼…?なんの。私、緑谷に感謝されるような事、してないはずだけど?」
私は本当に緑谷が追いかけて来たわけが、理由を聞いても分からなかった。
私はただあまりにも騒がしいアイツに釘を刺そうと立ち上がっただけだ。
「え!?で、でも久我さんは僕を助けて…」
「助けてない。私はアイツがうるさかったから立ち上がっただけ。やっぱりお礼を言われるようなことはしてないね。」
私は視線を前に戻し帰ろうと歩き始める。
しかし、緑谷の声が聞こえてくる。
「あ、あの!あの…ハンマー?って、久我さんの個性なの…?」
「…そうだが、それが?」
「あ、あれ、なんか、ちょっと変な雰囲気したから気になって…」
「…!」
へぇ、あれの特異性に気づけるのか…
「まぁ…普通の個性の武器じゃないのはそうだけど。」
「僕には無いものだから、気になって…」
「あ?どういう…」
「僕、無個性なんだ。」
へぇ、無個性…身近にいるとは思わなかったな。
…無個性なのに雄英に?中々面白い夢を見てるな…
「…へぇ」
「や、やっぱり君みたいな強い個性がないとヒーローにはなれないかな…無個性じゃダメかな…」
「…そんなもん、私が知るわけないだろう。」
「え…?」
「私は別に特別な存在じゃない。ただここに在るだけ。私が他人の人生、夢に口出す権利はないんだ。」
当然だ。私は私。緑谷は緑谷だ。私は他人に個性や力を与えたり、道を案内してやれるほど出来た人間では無い。
「ッ…それは…そうだね…」
「けど緑谷お前、諦めてないだろ。その夢。」
「…うん」
それでも私は彼の心の内で明るく眩く燃え盛る情熱を見過ごす事は出来なかった。
「なら…聞く相手は私じゃない。そもそも聞くことすら間違っている。なれるかな?じゃない。なるんだろ?」
「私が緑谷のためにやれる事はない。が…多少の話や運動くらいは付き合ってやってもいい。」
「…!」
彼はハッとしたように私を見つめる。そして今日の一件で少し収まりかけていた目のうちの炎が再び燃え出すのが何となくわかった。
「ただし、私からお前に提案を持ちかけることはない。お前がやりたくて、私が暇なら付き合ってやる。じゃあな。」
私はそう言って緑谷に背を向けて歩き出す。
数歩進んだところで、後ろから声が聞こえた。
「あ、ありがとう…!久我さん…!」
私は振り返らず、軽く手を上げひらひらと振る。…何か勘違いしてそうだな…釘刺しとくか。
「…勘違いすんなよ、私は私がやりたい事をやるだけだ。…何より、途中で諦めるなら、今日ここで声を掛けたことを後悔させてやる。」
私は少し顔を下げ、ニヤリと楽しそうな笑みを浮かべていた。
「私に後悔させるな。緑谷出久。」
「う…うん!!」
そして私は再び歩き出す。夕暮れの太陽が私の影を大きく落としていた。きっと彼の目の炎は更に大きく燃え上がっているだろう。見なくても分かる。
「…ふん」
私は息を一つ吐いて、再び家路をあるきだした。
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(すみません、下書きの時のが残ってました。以後気をつけます)