幻想の力でヒロアカ生活 作:ろぐいんち
第12話
数日後、私はバスにゆられながらヒーロー基礎学の授業で使うグラウンドに向かっていた。
同じ雄英高校の敷地内なのにバスで移動するとは……改めて広さに驚かされる。
「こういうタイプだったか! くそぅ!」
「意味なかったわね」
バスに乗る前、飯田が鼻息を荒くして列を作っていたが、予想していたタイプの座席順とは違ったようだ。
バスの中では賑やかにクラスメイト達の雑談が聞こえてくる。私は昨日少し寝つきが良くなかったからなのか、ウトウトしていた。
「久我ちゃん、眠いの?」
「まぁ、少し……」
隣に居た麗日が声を掛けてくる。
「肩かそっか? 着いたら起こしてあげる!」
「……じゃあちょっと……借りる……」
少し……眠ろう……
「土砂災害、水難事故、火災etc……あらゆる事故や災害を想定して僕が作った演習場です。その名も……」
「
……その名前は色々とマズイんじゃないか……?
「スペースヒーロー『13号』だ!!」
「わー私好きなの13号!!」
私も知っている。スペースヒーロー『13号』。その個性『ブラックホール』というとてつもない強個性で瓦礫や人命救助に邪魔な物を吸い込み、どんなものでもチリにしてしまう。
「えー……始める前にお小言を1つ2つ……3つ……」
……そう13号が話そうとした瞬間だった。
相澤の背後の何も無かった空間に、うっすらと黒いモヤが現れる。それはどんどん大きくなっていく。
「……?」
私はそれを目に捉えたが何か分からなかった。
……黒いモヤの中からこちらを覗く、狂気的な瞳と私の目が合った。
「ッ!!!」
「ひとかたまりになって動くな!!!」
パリン
私のEGO『くちばし』を装備する音と相澤の大声が同じタイミングで響いた。
……迷うな! 先手必勝だ!!
タァン! タァン!
軽い銃声が2発響く。
「ん……? ぐぁっ!」
出てきた手だらけの男の体に直撃し、男が少し怯む。私はその隙を見逃さず、EGO『懺悔』に切り替え距離を詰める。
パリン
「フッ!」
走って飛び上がり、空中で捻った体を戻す勢いを利用して男の頭に懺悔を振り下ろす。
……しかし、その一撃が命中することはなかった。
バァン!
「ガッ!?」
私の体は勢い良く吹き飛ばされる。弾力のある何かに懺悔が弾かれ、そのまま腹の中心に一撃を喰らう。
「久我!!」
「久我さん!!」
カハッ……! クソ、今、何が……!!
お腹を抱えながら私は今弾かれた方を見る。そこには肩を抱えた手だらけの男と、丸太のように太く、黒い腕が男を守っていた。
「死柄木弔! 大丈夫ですか!」
「クソが……いてぇじゃねぇか……!!」
モヤが広がっていく。そしてモヤの奥から大量の人影が見える。
……私は自分の失敗を直感で感じ取った。
「ぅ、ぐ……」
「く、久我ちゃん! 大丈夫!?」
麗日がこちらに駆け寄ってくる。私は壁に手を置きよろよろと立ち上がる。
「おいおいなんだなんだぁ!? もう入試の時と同じように始まってんのかァ!?」
「違う! あれは本物のヴィランだ……!」
「敵ン!? 馬鹿だろ! ここは雄英だぞ!」
「先生、ヴィラン用のセンサーは……!」
「もちろんある! ただ反応してない……恐らくセンサーをかわせる個性持ちがいるな……馬鹿だがアホじゃないぞ、気をつけろ!」
……あれは一体何なんだ……! 1人しかいなかったはずなのに奥からいくらでも人が出てくる……!
……そうか、あの腕がいきなり出てきたのもあのモヤのせい……!
「……まさか出鼻をくじかれるとは思わなかったが……まぁいい、オールマイトはいないのか? あれにはいるって書いてあったんだが……」
「……子供を殺せば来るのかな?」
……その視線に、雰囲気に、言葉に。私は背筋が凍る感覚を覚えた。
「では僭越ながら……この度、ヒーローの巣窟たる雄英高校に入らせて頂いたのは……」
「平和の象徴たるオールマイトに息絶えて頂こうと思いまして……」
……本気か? 本気であれを殺すと? あのオールマイトを……?
「その前に俺達に倒されるのは考えてなかったのか!?」
BOOM!! SKLIT!!
背後に回っていた切島と爆豪の一撃がモヤの男を襲う。しかしどちらも命中せず、空を切る。
「危ない危ない。そう、生徒と言えど優秀な金の卵」
「ダメだ! どきなさい2人とも!!」
「散らし、嬲り、殺す」
ズァと黒いモヤが広がり、近くにいた生徒たちをほとんど吸い込んでしまう。
「うぁ……!」
「ッ……! 緑谷!!!」
私は痛む体を無理やり動かし、モヤに完全に飲み込まれる前に緑谷の元へ飛び込んだのだった。
「なっ……!?」
私はモヤに飲み込まれ、水難エリアに落下した。運良く水の中ではなく、中央にある船の甲板に落ちたようだ。
……なるほど、ワープか! あのモヤはワープゲートのようになっているのか……!
バシャン!!
水面が音を立てて跳ね上がる。そこから緑谷、峰田を抱えた蛙吹が飛び上がってきた。
「ケロ。みんな大丈夫?」
「ぼ、僕は大丈夫……く、久我さん!? なんでここに……!」
「私の事はいい……まず周りを見るのが先だ……!」
私は痛むお腹を抑えながら船の下を見る。
船を取り囲むように大量のヴィラン。その向こうには巨大な水域。
……当然だが教師の姿はない。私たちは完全に孤立しているようだ。
舌打ちを一つ吐いて言葉を零す。
「分断されたか……」
恐らくあそこに来る前に最初からヴィランを配置していたのだろう。だが……
「……まぁ、最悪ではないか」
恐らくこれは計画的な分断ではない。なぜなら遠距離攻撃持ちの私と、水中では敵無しの蛙吹がいるからだ。
「うわぁぁぁぁぁなんでこんなことにいいいいいい!!!」
「峰田ちゃん、落ち着いて。慌てても状況は変わらないわよ」
「で、でででも先生たちもいないし!!」
峰田が震えながら叫ぶ。
「こんな状況でどうしろってんだよぉ!」
……こいつ何時でも騒がしいな……
「落ち着け峰田。別に終わりじゃない」
私は周囲のヴィランを再びよく観察する。
ほぼ全員が水中で強そうな風貌。水の中にも少し気配がある。船へは何時でも突撃できるだろう。
「まず生きて帰る方法を考えるぞ」
「久我さんの言う通りだよ、諦めちゃダメだ……!」
緑谷が手を顎に当てて深く考える。
「……この状況なら……みんなの個性を合わせれば、無傷で突破できるかもしれない……! 手を貸してくれる? みんな!」
「……あぁ」
「もちろんよ」
「うぅ……こうなったらヤケだ……!」
「……おい、まだ行かねぇのか?」
「もう待ちきれねぇよ……!」
「何いつまでゴチャゴチャ話してんだコラァ!!」
ガンッ!!!!
船が攻撃された瞬間。
「……今だ! 緑谷!!」
「DELAWARESAMASH!!!」
ドパァン!!!
私の合図と共に、緑谷が指を弾き水面を大きく揺らす。
「うおおお!?」
「次! 蛙吹! 峰田!!」
「ッ〜! くっそぉ……!! うわああああ!!!」
峰田が覚悟を決めた一言と一緒に、もぎもぎをやたらめったらに水中に投げ入れる。
「引きずりこまれる……!」
「んだこれ取れねぇ……!」
「これはあのガキの……!」
「「「「んなぁぁぁぁぁ!?」」」」
ヴィラン達が水の流れと共に峰田のもぎもぎにくっついてひとかたまりになっていく。
「水面に強い衝撃を与えたら……広がってまたそこに収束する……!」
「まさに一網打尽ね」
「俺ぁまだくっついてね……ぐあっ!!」
パリン
タァン!!
「その保険が私だ」
私は船から緑谷を狙うヴィランをEGO『レティシア』で狙い撃つ。もし一撃で全てのヴィランを倒せなかった場合、保険として構えていたのだ。
「やったぁぁぁぁ!!」
峰田が歓声をあげる。
「う、うわぁぁぁ!?」
「フッ!」
落下してくる緑谷を私はキャッチし、船に着地する。
「……流石だ、緑谷」
「へ、へへ……みんなのおかげだよ……」
こうして私たちは危機を脱出したのだった。
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