幻想の力でヒロアカ生活   作:ろぐいんち

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第14話

 ……れ、……せ……! 

 

 うるさい、黙れ……! 

 

 恐れるな……痛みを捨てろ……! 

 

 黙れ、静かにしろ……! 

 

 斬れ、殺せ……!! 

 

 私の頭から……出ていってくれ……!! 

 

 

「っあ……!!」

 

 ガバッ!! 

 

 私は飛び起きる。全身汗だくで呼吸は荒く、左足がジンジンと熱を持つように痛む。

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

 私は無意識に胸に手をやる。心臓の鼓動が伝わってくる。

 

 ……いき、てる。

 

 あれが、侵食……

 

 思い出し、体をぶるりと震わす。私が、私じゃ無くなるような感覚。全てを塗り替えられるような、私が否定されるような感覚。

 

 ……私が消えていくような。存在が否定され抹消されるような。

 

 出来るなら二度と味わいたくない感触だ。

 

「……はぁ」

 

 私は1つため息を落として心を落ち着ける。

 

 ……それでも、私は戻ったんだ。戻れたんだ。まずはそれを喜ぼう。

 

 

 ……ところで私はなんで戻れたんだ? 少なくとも自分の力で戻れるようなものじゃなかった気がするんだが……

 

 少しずつ詳しく記憶が感覚と共に戻ってくる。

 

 感覚が、もどっ、て…………

 

 

 大丈夫だから……

 

 

「ッ〜!!?」

 

 待て、待ってくれ! まさか、わたし、緑谷に……! 

 

「う、ぁ……」

 

 入学した日に緑谷に触られた時のように、思考がフリーズして動かなくなってしまう。いや、前回より少しは動いているのが最悪だ。

 

 前回より鮮明にフラッシュバックしてしまう。

 

 私は恥ずかしくなって顔を隠してしまう。

 

 ……左足が吊られているので、掛布団を上に引っ張っただけなのだが。

 

 落ち着け、落ち着くんだ……

 

 緊急事態だったんだ。必要なことだった。

 

 ……そういう、意味じゃないんだ。

 

 ……そういう意味じゃ……ないのか……? 

 

 いやまて、待ってくれ。私は何考えてるんだ? 

 

 今……何を思った……? 

 

 無理やり思考を切り替えるように包帯に吊られた左足を見る。私は試しに少し動かそうと力を入れるが、激痛に遮られる。

 

「ッ……」

 

 脳無に握り潰された左足は、膝の下から包帯でぐるぐる巻きにされている。

 

 ……USJはどうなったんだ? あの後……私がEGOに呑まれた後。緑谷に……その……抱きしめられて……頭まで……撫でられて……

 

 ……緑谷はどうなった……? 

 蛙吹は? 峰田は? 他のクラスメイト達は……? 

 

 余計な思考を挟まないよう、無理やり思考の幅を狭めながら考える。

 

 コンコン

 

 そう考える私の思考を遮ったのは、病室に入ろうとノックをする存在だった。

 

「失礼します……あっ!!! 久我さん!! 目が覚めたの!?」

 

 なっ……なんでここに緑谷が……! いや、お見舞いだろう。なんだろうけど……なんでよりによって緑谷が……! 

 

「大丈夫? 足の具合は……」

 

「ッ……あ、あぁ、多少痛むくらいでっ……」

 

 まずい、上手く口が動かない。心臓が今まで生きてきた中で1番跳ね上がっている。口から飛び出そうだ……

 

「そっか、良かった目が覚めて……丸一日寝てたんだよ? 足は……多分体力が回復したらリカバリーガールに治してもらえるだろうから……」

 

 目を合わせられない。ずっと窓の外から視線を外せない。うかつに動いたらこの大きな心臓の音がバレてしまいそうだ。

 

「久我さんが気を失ったあと、すぐオールマイトが来てあのでっかいヴィラン……脳無を倒してくれたんだ」

 

 ……! オールマイトが来たのか……! なら、まぁ……大丈夫なのだろう。

 

「相澤先生も大怪我だったけど生きてるし……僕もあの時使った腕はもう治ってる。それに今久我さんも目覚めたから……みんな、生きてるよ」

 

 ……本当に良かった。犠牲なんて出ていたら……私は怒りと、情けなさと、無力さでどうにかなっていたかもしれない。

 

「あの、それで……」

 

 ……? まだ何か……? 

 

「あの……久我さんが暴れてた時の事なんだけど……」

 

「やめろ」

 

 私は即座に止めた。

 

「えっ」

 

「……言うな」

 

 緑谷の口から言われたら、現実になってしまう気がした。……あれは、私の頭が見せた都合のいい妄想にしてしまいたかった。

 

「け、けど……緊急だったとはいえクラスメイトの、それも女子に……」

 

「うぅ……!」

 

 言うな、って言ってるのになんで止まらないんだコイツは……!! 

 

 ……あぁ、もう、恐らく本当に私は緑谷に抱かれ、撫でられ止まったのだろう。

 

 ……何故だろう。不思議と嫌な感覚はしない。バクバクと心臓はありえないほど跳ねて、顔が今までで1番熱くなってる、のに……

 

「……緑谷」

 

「は、はい!」

 

 私は窓の外に視線を固定したまま話しかける。

 

「……今日は、帰ってくれ」

 

「えっ……!? や、やっぱり嫌だったよね……ごめん」

 

「違う! ……違うんだ……けど今日は一旦、帰ってくれ……」

 

 緑谷は「帰れ」と最初に言われた時は申し訳なさそうな悲しそうな顔を浮かべて謝るが、私が違うというと今度こそ分からないような不思議な顔をしていた。窓の反射で彼の顔を見ていた私は、ずっと冷静じゃなかったのが後から分かった。

 

「と、とりあえずわかったよ……みんな心配してたからね!」

 

「……あぁ」

 

 私は上の空に返事を返し、緑谷が出ていくのが音でわかった。

 

 ……わたしは、なにをしているんだ? 

 

 とても普段通りではない。少なくともずっと冷静ではなかった。意味がわからない。自分から帰れ、と言ったのにこの静かな空間が嫌でたまらない。ただ傍にいて欲しかったのに今更ながらに自覚した。

 

 

 …………私の中に芽生えた、少しずつ大きくなっているような気持ちに、それでも見えないフリをして。

 

 

 

 

 私が退院した翌日。USJ事件から約3日後。

 

 私はまず保健室に登校した。リカバリーガールに治してもらった足を診てもらうためだ。

 

「……うん、もうある程度治ってるね。全力で動くのはまだ安全をとって辞めた方がいいけど……軽いトレーニングくらいなら問題なくできるよ」

 

「……ありがとうございます、リカバリーガール」

 

 私は柄にもなくこの人には敬語を使っている。まぁ、当然だろう。あれだけの大怪我をたった3日でほぼ完全に治してもらったのだ。

 

「じゃさっさと教室行きな。みんな待ってるだろう?」

 

「……お世話になりました」

 

 私はぺこりと頭を下げて保健室を出る。

 

 既に足に痛みはなく、多少の違和感はあるもののあまり気にならないほどだ。

 

 私は教室へ向かっていく。

 

 ガラガラッ

 

 私は少し息を吐いたあと、思い切ってドアを開ける。

 

 クラス中の視線が私に向いたかと思うと、声が爆発した。

 

「「「久我だぁぁぁあ!!!」」」

 

「体は!? 足は!?」

「もう動けるのか!?」

「大丈夫なん……!?」

 

「まて、落ち着け、落ち着けってば……!」

 

 私は駆け寄ってきたクラスメイトにもみくちゃにされる。

 

 ……サラッとふとももを触ってきた峰田は軽く蹴り飛ばした。

 

「……ハァ、もう動ける。全力で動くのはまだやめといた方がいいらしいけど……まぁ、大丈夫だ」

 

「とりあえず良かったぁ……ってことは雄英体育祭どうするの?」

 

「もちろん、出るが?」

 

「出るん!? 怪我明けなのに!? 大丈夫なん!?」

 

「麗日、怪我自体はもう完治してるんだってば……」

 

 私は驚いて聞いてくる麗日に苦笑しながら答える。麗日はそれを聞いて何故かさらに驚いたように答える。

 

「元気やねぇ……若いっていいなぁ……」

 

「同い年だが」

 

 しみじみとしたような顔して答える麗日にツッコミを入れ、それをクラスメイトが笑う。

 

 その時だった。

 

 ガラガラッ。

 

 再び教室のドアが開いて相澤……先生が入ってくる。

 

「おぉ、久我。今日からだったか。大丈夫か?」

 

「……そっくりそのままその言葉、お返ししますが」

 

 私は若干呆れながら言葉を返す。包帯だらけで見ていて痛々しい。恐らくまだ完治していないのだろう。

 

「まぁ俺のことは気にすんな。リカバリーガールが大袈裟なだけだ」

 

 そう言うと生徒たちに「早く座れ」と合図する。私もその指示に従い席に着いた。

 

 ……ふと、緑谷と顔があった。

 

「!」

 

 緑谷は私が登校してきた時と同じように、少し安心したような顔をして、手を振ってきた。

 

 ただそれだけ。

 

 本当に、それだけだった。

 

 なのに……

 

 ドクン

 

 心臓が一際大きく跳ねる。

 

「……」

 

 私は無言で視線を逸らした。

 

 緑谷は不思議そうな顔をしていたが、特に何か言うことはなかった。

 

「さて。久我も戻ってきたことだし本題に入ろう」

 

 相澤が教壇に立って話し始める。私はそれに乗っかり緑谷を意識の外に追い出した。

 

「まぁ、もう賢い君らなら思い当たっているだろう。雄英体育祭が迫ってる!」

 

 ソワソワしていた教室内が、その一言を皮切りに爆発する。

 

「「「「「クソ学校っぽいの来たぁぁぁぁ!!!」」」」」

 

「待って待って! ヴィランに侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」

 

「逆に開催することで雄英の危機管理体制が磐石だと示す……って考えらしい。現に警備を例年の5倍以上に増やすと言っていたな」

 

 ……体育祭か。麗日にも聞かれたが私は参加するつもりだ。ヒーローになりたいというのに、そんな大きなチャンスを逃すわけがない。

 

「まぁ……お前らにとって年に1回……計3回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対外せないイベントだ!」

 

 

 

 昼休み。私はいつもの3人と一緒に食堂へ向かって歩いていた。

 

 ……緑谷の顔を直視することが出来ない。何故か目を向けられなかった。

 

「お金……!?」

 

「ま、まぁ……究極的に言えば……」

 

 だが、それに気づかれることはなく、雑談を続けている。

 

「なんかごめんね不純で……! 飯田くんとか立派な動機なのに恥ずかしい……」

 

「なぜ!? 別におかしなことではないじゃないか!」

 

 ……いい加減落ち着こう。一旦この気持ちに見ないふりをするんだ。私らしくもない……

 

「ウチちょっと家計が苦しくて……それを支えたくてヒーロー目指してるんよ」

 

「麗日くん……! ブラーボー……!」

 

 麗日は立派だな……親を楽させてあげるために危険な仕事であるヒーローを目指して日本最高の場である雄英まで……

 

 私は……私は改めてなんでヒーローになろうとしているのか考えた。

 

 麗日は親のため。

 

 飯田は兄への憧れ。

 

 緑谷は……きっと誰かを助けるため。

 

 なら私は? 

 

 ……私は何のためにヒーローになろうと志した? 

 

 最初は、ただヒーローというかっこいい存在に憧れたから。

 

 けど今はそうじゃない。

 

 ただ性にあっているから? 

 

 助けを求める人間を、手が届くのに見捨てるのは後味が悪い。

 

 悪意を放置してのさばらせるのも気に入らない。

 

 だから戦う。それだけだった。

 

 

 ……けど、私はあの日、USJで本物の悪意と正面から相対した。

 

 悪辣で邪悪で。純粋な悪意は想像よりずっと重く、黒く、痛かった。

 

 ヴィランは自分や仲間の目的を達成するため、本気で殺しにくる。私達も殺すつもりで向かえばその限りでは無いかもしれないが、それを世間は許さない。

 

 ……それに私は自分の力で自壊する可能性があることを、思い知った。

 

 あの脳内に響く声、声、声。自分が自分では無くなって他の何かに塗り替えられていく感覚。できることなら二度と味わいたくはない。

 

 

 ……けど、それでも。

 

 緑谷が傷つけられるかもしれない。麗日が、飯田が、蛙吹が、クラスメイト達が。

 

 ヴィランに傷つけられ、二度と帰ってこないかもしれないと思った時。

 

 私は今までで1番嫌だと。不快に感じた。

 

 

 ……それで充分なのかもしれない。私はただ、目の前にいるものを失いたくないだけなのだろう。

 

「私も似たようなものだ」

 

 気づけばそう口にしていた。

 

「え?」

 

 麗日がこちらを見る。

 

「誰かに楽させたいとか、憧れとか……麗日みたいに真っ直ぐで、人に言えるような綺麗な理由じゃない。ただ目の前の人が……理由ない悪意に壊されるのが嫌なだけだ。あの時飛び込んだのも……それが原因だ」

 

 私は俯き、視線を落とす。

 

「だから私は止めるんだ。壊される前に、せめて手の届く範囲は……」

 

 私はそう、呟いたのだった。

 

 随分と曖昧で乱暴な理由だ。

 

 ……けれど。今の私にはそれが一番しっくりくるのだった。




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