幻想の力でヒロアカ生活 作:ろぐいんち
第15話
私の意識は奥に深く深く沈んでいた。
私はいつものように精神世界へ意識を向ける。
そこにはいつものように鉄格子が……いや、今はもう違う。USJでの1件以降、鉄格子が鏡のように変化したのだ。今までEGOを使う時に聞こえていた鏡の割れる音。侵食を起こしたことで私とEGOの距離が近づいたのだろう。
鏡の奥には私の顔ではなく、EGOが映っている。
私はふと、『懺悔』の映る鏡に手を伸ばす。ヒヤリとした感覚と共に、『懺悔』を装備している時のような感覚がある。
恐らくこの鏡を割れば、現実世界にEGOを持って行けるのだろう。
私はそう思いながら、鏡から手を離す。
……唯一、『決死の一生』が収められた鏡は少しヒビが入っていた。
原因は完全には分からないが…恐らく侵食のせいなのだろう。無理に意識を引き戻したせいで上手くEGOとの繋がりが切れなかったのか……
どれもこれも憶測でしかない。
私はその鏡に触れる。
…今までより頭に流れ込んでくる声が小さく、弱々しいものになっているのに気づいた。
侵食して私に耐性が出来たのか、個性のリミッターが外れたのかは分からないが……次は少しなら大丈夫だろう。
…そんな事よりも、私は『レティシア』がいつの間にか私の中にあった時のように、見覚えのない鏡があるのに気づいた。
その鏡の縁は幾つもの黄色く爛々と光る目が刻まれており、酷く不気味な感覚を抱かせる。
「…これは」
私は好奇心から深く考えずその鏡に手を触れる。
…見張らなきゃ…僕が…森の…!!
「ッ…!!」
私は咄嗟に手を離す。少し触れただけでここまで思考の波が流れ込んでくるとは…
「…これも触らない方がいいな…」
不気味で。しかし不思議と目が吸い寄せられるそれに無理やり視線を外し私は意識を現実に戻すのだった。
雄英体育祭当日。
私は控え室で深呼吸をしながらリラックスしていた。
「みんな準備は出来ているか!?もうすぐ入場だぞ!」
クラス委員長である飯田の仕切る声が響く。
私はそれを聞いて目を開き、周囲を見回す。
友達と話す者、少し緊張している者、軽く体を動かす者…三者三様だ。
私は再び静かに目を閉じる。
「緑谷…お前には、勝つぞ」
「えっ!?」
……なんだかまた面倒な予感がしている。轟が緑谷に宣戦布告したのだ。
「おいおい急に喧嘩腰で…どうしたんだよ!」
「別に仲良しごっこじゃねぇんだ、別にいいだろ」
切島が止めに入るも轟はその手を振り払い止まらない。
私は顔を上げ、轟と……緑谷の顔をチラリと覗く。
…轟の目は真っ直ぐに緑谷に向いており、冗談や挑発だとは思えない。
…本気なのだろう。
アイツは本気で緑谷を敵として、ライバルとして見ていた。
「…轟くんが何を考えてるのかは分かんないけど…でも…!!」
「僕だって本気だ…!全力で取りにいく!!」
「…おお」
…売られた喧嘩を真正面から買うとは…本当にあの時とは変わったな…
……私は、何か変わっただろうか。
『1年ステージ!!!選手の入場だ!!!』
『雄英体育祭!ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る戦い!』
プレゼントマイクの観客を煽る声が聞こえてくる。
『つってもテメーらあれだろコイツらだろ!?入学1ヶ月も立たずヴィランの襲撃を受け、にも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!』
私はギュッと手首を握り、心を落ち着けベストを出せるようコンディションを整える。
『いよいよ入場だ!!!ヒーロー科!!!』
…さぁ、出番だ。魅せてやろう。
『1年!!A組だろぉぉぉぉぉ!?!?!?』
誰よりも私が、輝くために。
「うわぁ人がすんごい……」
緑谷が周りを取り囲む観客たちをみて緊張したように呟く。
『続いてB組!更に普通かC・D・E組!サポート科も来たぞ〜!!』
「私たち完全に引き立て役だよね」
「たるいよね……」
……普通科の方から声が聞こえてくる。
当然の事を何故か気怠げに呟くその声は私たちを敵視していた。
…そういえば麗日が言ってたな。USJ襲撃の次の登校日に他のクラスの奴らがわざわざA組の前に来てたって……それがあれらか?
わざわざライバルの様子を見に来たんだからやる気のあるやつが多いのかと少し警戒していたが……あまり気にする必要は無さそうだ。
「選手宣誓!!」
1年生が全員並び終わり、雄英の教師兼プロヒーロー…18禁ヒーロー『ミッドナイト』が場を仕切る。
…18禁なのに教師が出来るのか……
「いいよな……」
あのバカはいつも通り。私はその小柄を無視してミッドナイトに注目し続けた。
「そこ!静かにしなさい!選手代表、爆豪勝己!!!」
「かっちゃんが代表なの…!?」
「あいつ一応入試1位だからな……」
…入試1位が宣誓するのはいいんだが…よりによって爆豪か。嫌な予感がするな…
「ヒーロー科の入試な」
フン、と下に見るような声が聞こえてくる。
一々不快になるな……雄英のヒーロー科の入試は、科目によって難易度の差はあるものの最も倍率が高い。必然、雄英の入試をトップで通過したのは誰か?と問われると爆豪になるのだろう。
それすら分からない…あるいは認めたくないのか。
…まさかA組だけが注目を受けていることが不満なのか?ヴィラン襲撃という普通の高校では起きることない、命の危機を突破したと言うのに?
本気か…?
そう思っていると爆豪が宣誓台に立ちマイクを取る。
「せんせー。俺が勝つ」
その宣誓を聞いた瞬間、1年生達から爆発したようにブーイングと罵声が飛んでくる。
う、るさっ…!やるとは思ったが本当にやるのか…!
「ふざけんな!!」
「調子乗んなよA組オラァ!!」
「ヘドロヤロー!」
それを受けても爆豪は親指で首を切るジェスチャーをしてこう言い切る。
「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」
……あのバカ…アイツだけが狙われるならともかく私達も巻き添えでヘイトを買うのを分かってやってるのか…
「どんだけ自信過剰なんだよ!!」
「この俺が潰したるわ!!」
……まぁ、いい。最初から私たちは注目されているのだ。それが多少強くなっただけ。やる事は何も変わりない…
全てを叩き潰して勝つだけだ。そこに変わりはない。
「いいわね!青春って感じで!!!それじゃ早速第1種目行きましょう!!」
ミッドナイトがマイクを受け取り上にあるモニターに注目するよう手を動かす。
「いわゆる予選よ!毎年多くの者がここで涙を飲むわ!!」
雄英高校は日本一のマンモス校。ヒーロー科だけでなく普通科、サポート科、経営科も設立されている。人数は3桁をゆうに超えるだろう。それを絞るための予選、第1種目……
「さて!!運命の第1種目!!!今年は…コレ!!」
バン!と効果音が聞こえそうな動きとともにモニターに表示されたのは『障害物競走』の5文字。
「計11クラスでの総当りよ!コースはこのスタジアムの外周4km!」
ガシャガシャと音を立てて後ろのゲートが開いていく。
「我が校は自由が校風!コース内なら何をしたって構わないわ…!」
私は軽くミッドナイトの声を聞きながら使うEGOを考える。
生憎私の足の速さを底上げするEGOはない。
ないが…やりようはいくらでもある。手数の多さが、私の強みだ。
「さあさあ位置に着きまくりなさい!!いよいよ始まるわよ!」
…ゲートの上にあるランプが灯り始める。
私は使うEGOを決め、目を閉じて集中する。
…USJの侵食の後の初めてのEGO使用。思わぬ落とし穴があるかもしれない。
…大丈夫。私ならもう大丈夫…やるんだ…!
「スターーート!!!!」
その合図とともに鏡の割れる音が、スタジアムに響いたのだった。
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