幻想の力でヒロアカ生活   作:ろぐいんち

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第6話

 家に帰った私は、ゆっくりと自室のベッドへ倒れ込んだ。

 

 流石に今日は疲れたな。

 

 実技試験ではかなりの数のロボを『くちばし』で破壊して、しかも最後には普段使わない『4本目のマッチの火』まで使ったのだ。体はまだ動くが、頭痛が止まらない。使用直後に比べると収まってきてはいるが、それでも思考の端を絶えず引っ掻くような不快感は消えていない。

 

 しかし、それでも私は考える他なかった。

 

 最後の緑谷のあの攻撃。あれは無個性の人間に放てるものでは無い。

 

「はぁ……」

 

 かと言っていくら考えても納得できる答えは浮かんでこない。当然だ。つい1ヶ月くらい前まではひ弱な普通の中学生だったのだ。少し夢見がちなだけで。

 

 ……個性を隠していた? いや、違うだろう。それなら爆豪にあれだけ言われて見せない理由がない。

 

 ……まさか最近になって発現したのか? それならある程度筋は通る。

 あのパンチの直後、彼の腕は酷く腫れていた。恐らく骨もかなり折れていただろう。バラバラになっていたかもしれない。

 最近発現したばかりでまだ上手く制御ができない。だからああなった。これなら説明はつく。

 

 ……そんな事があるのだろうか。普通個性は5歳までに発現するものとされている。彼は今中学三年生。遅すぎるのだ。

 

 だからこそ分からない。

 彼の身に、一体何が起きたのか。

 

 …………どれだけ考えても結局答えは出ず、その日はいつの間にか眠りについていた。

 

 

 

 

 ……私は再び、心の中のあの空間に来ていた。

 

 暗闇と静寂。

 

 そして無数の鉄格子が並ぶあの空間に。

 

 初めてここへ来た時は何が何だか全く分からなかった。今では見慣れた光景だが。

 

 私はゆっくりと歩き出す。

 

 コツ、コツと静かな空間に足音だけが響く。

 

 しばらく進んだところで、1つ目の埋まっている鉄格子の前で足を止めた。

 

 そこには、E.G.O『懺悔』が静かに収められていた。

 

 髑髏の刻まれた十字架のメイスは、神聖な雰囲気を放ちながらそこに鎮座していた。

 

 私が生まれて初めて手に持ったEGO。

 

 あのヘドロヴィランの時も使った頼りがいのあるEGOだ。

 

 ……今思えばあの時から全てが始まったのかもしれない。

 

 あの日私が爆豪に噛み付いて、緑谷に話しかけられて、果てはオールマイトに会って……

 

 もっとも今考えたところで何か変わることは無いのだが。

 

 私は視線を逸らして再び歩き出した。

 

 次の鉄格子に収められていたのは、

 

 白い装甲に特徴的な赤色が刻まれた防具。

 

 それに小さな白く、赤い、血のような模様が刻まれた拳銃。

 

 EGO『くちばし』 だ。

 

 私は何となくその鉄格子に触れる。

 

 入試試験では大活躍だった。

 

 このEGOの最も特筆すべき点はやはり取り回しの良さであろう。

 

 精神もそこまで消耗せず、威力も最低限はあり、尚且つ連射が出来る。

 

 暫くは私の主戦力として活躍してくれるであろうEGOだ。

 

 ……連続使用した時に頭に流れてくる「懲罰」の2文字だけは慣れないが。

 

「……」

 

 私は視線と手を『くちばし』から外し、更に進む。

 

 ほんの少し歩いたところに、最後のEGOが収められた鉄格子がある。

 

 巨大な砲身。

 焼け焦げたマッチ。

 煤けた灰色の外套。

 

 EGO『4本目のマッチの火』

 

「……フン」

 

 私は少し顔を顰めて溜息をついた。

 

 強い。間違いなく強い。少なくとも瞬間火力だけは他のEGOの追随を許さない。あの巨大な0ポイントロボの足を文字通り粉砕し、燃やし尽くしたのだ。疑う余地などある訳ない。

 

 

 ……だが、この精神力の負担は無視できるものではない。

 今も残る頭痛の原因は恐らくこれが7割ほどだろう。残りの3割は長時間EGOを使用した事による自我侵食。

 

 ……使った直後は本当に酷かった。

 頭痛、目眩、若干の吐き気。

 

 まともに動けず、最悪の場合緑谷がそのまま地面に叩き付けられていたかもしれない。

 

「……出来るなら多用はしたくないな」

 

 小さく呟く。

 

 切り札としては十分だ。十分すぎる。

 

 だが、一撃放つだけであそこまで代償を支払わなければいけないのは簡単に許容できない。

 

 私は鉄格子から離れ、少し下がって周りに目を向けた。

 

 暗闇の中にはまだ数え切れない程の鉄格子がそこかしこに並んでいる。

 

 埋まっているのはたった3つだけだ。

 

 それ以外にこの空間には何もない。

 

 ……私はしばらくその光景を眺めていた。

 

 ただただ広い。どこまでこの空間が広がっているのかすら分からない。

 

 そもそも個性とはいえ何故自分の中にこんなだだっ広い空間があるのか。

 

 ……EGOとは一体何なのか。使いすぎると自我が消えるというのは感覚で分かる。実際今日は酷かった。

 

 ……もし、今あるEGOより危険で、攻撃力の高いEGOがこの鉄格子に収まった時、私は管理できるのであろうか。

 

 考えたところで答えは出ない。

 

 そして恐らく、これからも暫くはこのままであろう。

 

「……今考えても、答えはない。か……」

 

 私は踵を返す。

 

 見慣れたこの場所に変化は無い。

 

 現状見慣れない新しいEGOも特にない。

 

 私は何時もの光景を最後に少し見たあと、ゆっくりと意識が浮上して行った。

 

 

 

 それから1週間が過ぎた。

 

 私は適当に中学校生活をこなして、稀に声をかけてくる緑谷に付き合って。

 

 雄英からはまだ連絡がない。今更どうしようが結果は変わらないので待つだけだが、かなり時間がかかっている。

 

 だから私は普段通り過ごしていた。

 

 ……だが、やはりあの力が頭の中に引っかかっている。

 あの強烈なパワーはなんだったのか。

 

 どれだけ考えても答えは出ない。いっそ本人に聞こうかと思ったが、そんな大事な事を言うわけがない。時間の無駄だ。

 

 そして…………

 

 その日も特に代わり映えのない1日だった。

 ふと玄関にあるポストが目に入る。

 ……何か封筒が刺さっている。見覚えのない封筒だ。だが、差出人は私が待っている相手からだった。

 

 雄英高校。

 

「…………!」

 

 私はその封筒を手に取り数秒見つめたあと、家に入り静かに机に座った。

 

 そして躊躇いなく封を切る。

 既に受験は終わっているのだ。今更緊張しようが何も変わらない。

 

 中には……小さな丸い機械と書類が入っていた。

 

 私は機械には目もくれずに書類に目を通す。

 そして私は小さく1つ、溜息をついた。

 

「……合格か」

 

 呟いた言葉はそれだけだった。

 別に飛び上がるほど嬉しいわけでも、叫びたくなるほど感動している訳でもない。

 

 ただ、胸の奥に張り付いていた無意識の不安が消えていく感覚がたしかにあった。

 

 雄英高校ヒーロー科。

 

 第1関門は無事に突破できたようだ。

 

「まぁ……」

 

 あくまでここはスタートラインだ。私はそのスタートラインに立つ権利が与えられただけ。

 

 本当の意味で始まるのはこれからだ。まだ始まってすらいない。

 

 私は書類を封筒に入れ直し、窓の外を見た。

 

 既に空は夕焼けに染まり始め、カラスが数羽、ガァガァと鳴きながら飛んでいた。

 

 気づけば、中学校を卒業して雄英に入学する日もそう遠くない事に今更ながら気づいたのだった。

 

 

 その日の夜。

 

 私は深く考える事もなく、眠りについた。

 

 合格通知は確かに嬉しかった。だが、明日から明確に何か変わる訳でもない。変わるのはもう少し先だ。

 

 今夜やることと言えば、軽く保管庫を覗く程度である。

 

 そして私はいつもの通り暗く、静かな空間に立っていた。

 

 見慣れた暗闇と静寂に包まれた、ただEGOがあるだけの場所。

 

 いつもなら懺悔、くちばし、四本目のマッチの火を見るだけで終わりだった。

 

 しかし……

 

「……?」

 

 私は眉を顰めた。何か、おかしい。拭いきれない違和感がある。

 

 気の所為か……? 

 

 ……違うな、確かに何かおかしい。

 

 私はそう確信して周りを見渡しながら歩く。

 

 そして見つけた。違和感の正体はこれだった。

 

「……増えて、いる」

 

 そこには今まで無かった明かりが2つ灯っていた。

 

 私は警戒しながらその2つを見に行く。

 

 コツ。コツ。

 

 静かな空間に私の足音だけが響く。

 近づくにつれその正体が徐々に詳しく見えてくる。

 

 ……新しい鉄格子だ。それも、2つも。

 

 私は逸る気持ちを抑え、まずは近くにあった1つ目の鉄格子を見る。

 

 そこに収められていたのは、黒い刀身をした日本刀のようなものと、胸の部分に桜の意匠が施された甲冑だった。

 

「こ、れは……」

 

 甲冑の方は、まぁいい。問題は日本刀の方だ。

 

 なんだ、この圧は。

 

 見ているだけで冷や汗が止まらない。本能がこれまでとは違うと語りかけてくる。

 

「……」

 

 恐らく持てば、EGOを使えば分かるのだろう。本質と、性質が。だが今ここで不用意にこれに触ると不味い予感がした。

 

 ……一旦これはスルーだな。

 

 そう決めてもう片方の鉄格子を見る。

 

 ……打って変わってかなり可愛らしいEGOだった。

 

 淡い桃色のライフルと、赤と白を基調にしたフリフリのスカートの衣装。そして側面には大きな鈴の付いたボンネットが置かれていた。

 

 まるで童話の中から飛び出してきたかのようなEGOだ。

 

 …………これを私が使うかも知れないのか? 

 

 とてもじゃないが似合わないだろう。こんな身長の高く顔の怖い女にこんな童話の衣装など……考えただけで別の意味で寒気がする。

 

 ……今日は、この辺にしよう。

 

 私はそう決めて保管庫を離れたのだった。

 




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