幻想の力でヒロアカ生活   作:ろぐいんち

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入学編
第7話


 長かった中学生活も1か月前に終わりを迎え、気づけば春。雄英高校入学の日になっていた。

 

 新しい制服に腕を通し、家を出る。

 

 空はよく晴れていて、雲ひとつ無い。

 

 ……別に感慨深い訳ではないのだ。

 

 中学校を卒業したから、雄英高校に入学したからと言って何かが大きく変わるわけでもないし、入学してすぐプロヒーローになれる訳でもない。

 

「……ふぅ」

 

 私は一つ息を吐いて新しい学び舎に向かって歩き始める。

 

 何時もと違う通学路の風景は新鮮だった。

 

 10分と少しを歩いていくと、少しずつ巨大な校舎が見えてくる。

 

 国立雄英高校。

 

 テレビや雑誌で何度も目にした場所だが、実際に目の前にするとやはりかなり大きい。

 ……これで1つの高校なのか。

 

 流石にヒーロー育成において日本最高峰と言うべきだな……

 

 そんな事を考えていると。

 

「あっ! 久我さん!!」

 

 聞き覚えのある声がした。私はその声に反応して振り返り……

 

 やはり、緑色の髪をした少年がこちらに笑いかけていた。

 

「あぁ、緑谷……受かっていたのか」

 

「久我さんも!」

 

 緑谷はぎこちなく笑いながらこちらへ駆け寄ってくる。

 

 相変わらず慌ただしい奴だ。

 

「やっぱり久我さんも受かってたんだね……!」

 

「当たり前だろう。だが、お前……」

 

 ……コイツの顔を見ているとやはり、あの最後の一撃がどうしても頭に浮かんでくる。

 

 無個性のはずの彼の一撃。何度も繰り返すように思うが、あれは無個性の人間が撃てるものではない。

 

 何度も考え抜いたが答えは出なかったこの問に、私はいい加減うんざりしていた。

 

「……」

 

「……? どうしたの? 久我さん」

 

 ……もういいだろう。何週間も考えても答えは出なかったのだ。

 それに、今目の前に本人がいるのだ。ここで聞けば終わる話だろう。

 

「……なぁ、緑谷」

 

「え? 何? 久我さん」

 

「お前…………本当に無個性か?」

 

 そう聞くと途端に緑谷の体が石のように固まる。

 

 ……少なくともつい最近発現した訳ではないのが慌て方で何となく分かった。

 

「えっ!?!? あ、いやっ、それは……さ、最近発現したんだ!! 凄いよね!?!? 僕くらいの歳で個性が分かるのは史上初だってさ!!」

 

 ………………こいつ、本気か? まさか本気でそれで私が納得すると思っているのか……?? 

 

「ハァ…………」

 

 私は顔を下げ大きく溜息をつく。緑谷の性格的に嘘をつくのは苦手な方なのは分かっていたが、これほどまでとは。

 

「……そうか」

 

 私は顔を上げて緑谷の顔を見る。

 

 緑谷は冷や汗まみれで、誰が見ても焦りの感情が前に出てきている。

 

「そ、そうそう! いやぁ奇跡だよn「もうちょっとマシな嘘を考えといた方がいいかもな」〜!!!」

 

 ……緑谷が言葉にならない何にかを叫んだのを横目に、私は雄英高校に入っていくのだった。

 

 

 

 ……あいつ、何言おうとしてたんだ? 

 まさかあんな嘘がバレてた程度であそこまで動揺して……? だとしたらあいつ、致命的な弱点になりかねないぞ……

 

 私はそんな事を置いてきた緑谷の事を考えながら校舎に入り、教室へ向かう。

 

 数分後、『1-A』と大きく書かれたプレートが目に入る……

 

 ドア、デカイな……バリアフリーか? 

 

 まだ少し距離があるが、既にありえないほど大きいドアの存在が目に飛び込んでくる。

 

 目の前に来てドアに手をかけると、中から声が聞こえてきた。

 

 ……少なくともいい雰囲気では無さそうだ。私は溜息を1つ吐いた。

 ……また騒がしくなりそうだ。

 

「く、久我さん? どうしたの?」

 

 後ろから再起動して追いかけてきた緑谷が声を掛けてくる。

 

「……いや、なんでもない」

 

 ガラガラッ。

 

 私は音を立ててドアを開ける。

 

「机に足をかけるのをやめたまえ!! 先輩方への失礼だとは思わないのか!?」

 

「思わねーよテメー!! どこ中だよ端役が!!!」

 

「「…………」」

 

 ……私は緑谷と一緒に固まってしまった。

 

 無理もないだろう。2人にとって因縁のある相手が2人も、しかも喧嘩までしていたのだ。

 

 ガラガラッ……

 

 私はゆっくりドアを閉じる。そして手を離して溜息と共に顔を覆って座り込んでしまった。

 

「く、久我さん!?」

 

「あぁ……ウンザリだ……これから少なくとも1年はあのうるさいヤツらと同じクラスなのか…………悪夢なら覚めてくれ…………」

 

「く、久我さぁぁぁん!?!?」

 

 そうこうしていると、再びドアが開く。

 

「……え、えっと、大丈夫?」

 

 それを聞いた私は顔を上げる。そこには、入試の日。私と緑谷がロボから助けた茶髪のおかっぱ女子が立っていた。

 

「あ! 麗日さん!」

 

「良かった、受かってたんやね……! ……ところで、そっちの人はなんで座り込んでるん……?」

 

 ……はぁ、現実を見よう。もうどうしようもないんだ。受け入れるしかない。

 

 ……うるさければ黙らせればいいしな……ククク……

 

 私はそう自分を納得させゆっくり立ち上がる。

 

「……あぁ、なんでもないさ……入るぞ、緑谷」

 

「こ、こわっ!! すっごい悪い顔してるんやけど!?!?」

 

 私はその声を聞かなかったことにして教室に入っていった。

 

「テメェうるせぇん……アァ!? テメェこのクラスなんかよ!!」

 

「騒がしいぞ猿。喚くな。耳障りで仕方ない」

 

「んだとこの鉄面皮!! いい気になってんじゃねェぞコラ!!!!」

 

「本当にやかましいなお前は。誰が鉄面皮だ。名前を知らないのか? それとも漢字が読めないのか?」

 

「テメェ……!!!」

 

「あ???」

 

「ちょちょちょちょちょっとかっちゃん!! 久我さんも落ち着いて……!! 初日から問題起こす気なの!?」

 

 私と爆豪の煽り合いを見かねたのか、緑谷が慌てて間に挟まってくる。

 

 おかっぱ女子は圧倒されているし、あのメガネも唐突に割り込んできた私に驚いて固まってしまっている。緑谷が割り込んでくるのはまぁ、当たり前だろう。

 

 私と爆豪はしばらく睨み合った後

 

「……チッ!!」

 

「フン……」

 

 お互いに目線を外して私は自分の机に向かい、爆豪は再び机に座った。

 

「緑谷、行くぞ。……そういえばそっちのおかっぱ。名前教えてないし、聞いてもなかったな……」

 

 私は机についてカバンをおき、後ろに着いてきていたおかっぱ女子に声をかける。

 

「あ、そういえばそうやね……私は『麗日お茶子』! 個性は『無重力』! よろしくね!」

 

「あぁ。私は『久我 唯』だ。個性は『幻想抽出』。よろしく」

 

 私は麗日に手を出し握手を求める。それを握った麗日は握り返してブンブンと腕を振る。

 

 そう話していると荷物を机に置いてきた緑谷がこちらに向かってくる。

 

「ご、ごめん! お待たせ……!」

 

「別に待ってはないが」

 

「え、えぇ!? 酷いよ久我さん……」

 

「事実だからな。仕方ないだろう」

 

 私は静かに話す。麗日が少し笑っていたのがよく分からない。

 

「久我さんたまに辛辣じゃないかなぁ……?」

 

「ふ、ふふっ、たまにじゃないと思うで? まだ付き合い短いけど何となく分かるもん」

 

「う、麗日さんまで……!?」

 

 緑谷はショックを受けたようにヨロヨロと後ろに後ずさる。

 

 ……すると、緑谷は後ろにあった椅子の足に気づかずバランスを崩して前後にバタバタと手足を動かしたあと、私の方に倒れ込んでくる。

 

「うっ、うわっ!?」

 

「んっ……」

 

 ふにゅん。

 

 私のあまり大きくない胸に緑谷の手が飛び込んできた。

 

 瞬間、教室の空気が固まる。教室の中にあった視線が全てこちらを向いているのがわかった。

 麗日も顔を赤くして目を見開いて口を抑えて驚きながらこちらを見ている。

 

「………………………………」

 

「──────ー!!!!!!????!!!」

 

 状況を理解した緑谷は即座に私から離れ土下座を始める。

 

「ご、ごごごごごめんなさい!!! わざとじゃないんです許してください!!!」

 

「…………お、まえ…………」

 

 ……落ち着け、落ち着け。ただ、ただ緑谷がコケただけ。足を引っ掛けただけだ。なんて事ない。ただの事故だ。大した事ないんだ。

 

 ……少し、さわられた、だけだ。

 

 その時、私は気づかなかった。思考を律するのに必死で、顔は真っ赤で唇を震わせ、胸のを手で隠すような仕草をしていた事に。

 

「……く、久我さん……?」

 

「…………緑谷」

 

「は、はい!!」

 

 ……大丈夫。事故だ。緑谷はコケただけだ。軽く流して、許してしまえ。

 

「……今は、話しかけて、くるな」

 

「ごごごごごめんなさい!!!!」

 

 ……私は、理性は許せと言うのに何故かそれを口にする事はできなかった。

 

「……ふむ、もう静かなのか。手間が省けるな」

 

 教卓の後ろから這い出てきたくたびれた寝袋の男に、誰も気づくことが出来なかった。




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