俺、ラブコメサスペンスの世界に転生したってマジですか? 作:ssgss
「あれ? 俺なんで生きてんだ?」
俺は自分の名前が思い出せない。
なのにどうして自分が死んだのか……というより名前以外の事はすべて覚えているという不思議な状態になりその場に居た。
と言っても、そこはとても日常的とは言えず、座りながら
「おう。ようやく起きたか、いやー良かった良かった」
俺はその声に振り返る。
そして振り返った先には俺を見下ろしている男が立って……いや、俺と同じで浮いていた。
「………………誰だ?」
「オレか? オレはまあ…そうだな、お前たちの言語で言うところの神様ってやつだ。よろしくな」
差し出されたその手を、俺は思わず握った。
そして、そんな俺を見てソイツはニヤリと笑ったかと思うと、
「さて、これからお前には二つの選択肢がある。このまま死んでまたこの世界で新しい生命体になるか、別の世界に特典を持って転生するか。どっちがいい?」
こう提案してきた。
またこの世界でか……。
「その一つ目の選択肢だと、俺って記憶とかは引き継げないの?」
「当たり前だ。一つ目を選べば魂は無になり、文字通りお前の存在は消えるし、お前がそれを思い出すことも絶対に無い。……お前が今、自分の名前を思い出せないようにな」
「っ!?」
「どうした? オレは神なんだぞ、そのくらいのことは知っていて当然。というより、お前の名前の記憶を消したのはオレだ」
まさかこんなに早く俺の名前が消えた原因を知れるとは…。
…………でも、まあ、今となっては別にいいか。
「じゃあ、二つ目の転生の方で。それなら俺の記憶は引き継がれるんだろ?」
「まあそうだな。なら、特典を決めるか。希望があれば聞くぞ、多すぎるのは駄目だがな」
特典の希望か、そういえば生前友達が見せてくれた漫画であったな、神様のくれた特典で異世界無双、みたいなの。
……ま、せっかくくれるなら生前好きだったであろう漫画から貰っていくとしますかな。
「じゃあ、漫画の【トリコ】に出てくるノッキングマスター次郎のノッキング技術が欲しいかな。護身とかにも使えそうだし」
「ふむふむ……ノッキングマスター次郎の技術ね。じゃあちょっとしたオマケとして筋力なんかもくれてやろう。無論、お前が自分を鍛えないとそこまでにはならないけどな」
「え、そうなの?」
友達の漫画だと最初から色々出来て無双って感じだったから、てっきりこのトンチキ状況でもそうなる物と思ってたけど、現実はそうは上手いこと行かないんだな。
「当たり前だろ。お前想像してみろ、別の世界と言ってもドラゴンや魔物なんか居ない平和そのものみたいな世界で、突然大岩叩き割る赤ん坊が生まれたらどうなるよ?」
神様に言われるがまま想像してみた。
そしてどこか見知らぬ研究所の職員達が来て体を検査される所まで予想してそれ以上考えるのは止めておく事にした。
まあ、ちょっとした才能を選べて、それを使えればお得って思っとけばいいか。
人生楽観的に考えよう……今の俺死んでっけど。
「それじゃあ、お前を転生させるが…。元のお前の名前のまま転生するのと、新しい姓をその世界のお前の両親から貰う。どっちがいい? 自分の本当の名前忘れたままってのも嫌だろう」
あれ?
この人のせいで俺って自分の名前の記憶だけ無いんだよな?
それなのに何で気の毒みたいに思われてんの?
「気にするな」
ナチュラルに心の中を読んで返事しないで欲しい。
「じゃあ、お言葉に甘えて元の名前で転生しようかな」
「元の名前での転生希望だな。よし、じゃあ行ってこい」
「あ、その前にひとつ、こういう転生って普通神様の手違いで殺しちゃった奴限定とかじゃないのか?」
「はぁ? 漫画の見すぎだ、神が人を転生させる時は気まぐれだよ。宝くじに当たったみたいなものって思っとけ。けど、同じ世界に2人以上の転生者が行くことは無い。それだけ別世界は広いし、今こうして話してる間にも生まれてるくらいだからな」
あ、そんな感じなんだ。
俺は薄れゆく意識の中でそう思い。
次に俺―――
「いやなんでだよ」
しかも赤ん坊じゃねえし。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そこから10年以上の歳月が過ぎた頃ーーー。
俺はアフリカの大地に立っている。
そして眼前では、巨大なアフリカ象が雄叫びを上げてこちらに向かって来ていた。
「おー、やっぱり本場の象は何度見てもデカいなぁ」
現地の保護職員なんかが呑気に構える俺に何か言ってる気がするけど、ちゃちゃっと仕事を終わらせるとしよう。
「ノッキング…」
俺は手元に構えた小型の銃、といってその形状はスポイトのような形をした自作の物で、弾丸を撃ち出して殺傷するのが目的の物ではない。
このノッキングガンの目的は神経の麻痺のみに特化している。
そしてそのノッキングガンから象の足首に射出された厚さにして0.002㎜ほどのか細い針により、象は一瞬にして体の自由を失いその場に倒れそうになる。
「おっとっと…、悪いな。検査だけしたらまたすぐ自由にしてやるから」
俺は倒れそうな象を支えながらゆっくりを地面に寝かせる。
「ほれ、もう安全だから! 調べるなら早くしな」
俺の言葉に安心した職員たちがまじまじと象を眺め、その体を検査する。
悪性の植物を食べていそうな様子は無いか、密猟者に襲われた気配は無いか、等々。
本来なら職員だけで麻酔薬とか使って調べるケースが多いが、今回みたいに特別暴れたり、そもそも薬を使うとその後の生活に影響を及ぼしかねない個体なんかの調査ではよく俺が駆り出される。
「ったく、だからお前らも使えるようになれって言ってんだろうが」
俺がいうと職員たちはバツが悪そうな笑顔で返す。
すると1人の職員が俺に聞いてきた。
「シンさん、今後のご予定は? よろしければこれから一緒にお食事でも」
予定か…。
そういえば特別急がないといけない
「そうだな―――」
と言いかけたところで、俺は1年も前にある連絡を受けていたことを思い出した。
『久しぶり…元気か?』
『おお、元気も元気これからちょっと仕事で日本の裏側まで飛ぶところだ。そっちは…、なんだか元気なさそうだな』
『う、うん…そっか、司はもう仕事してるんだな…頑張れ』
『ん? おう! 頑張るぜ! いつ帰ってこれるか分からんけど、日本に帰ってきたら小学生ぶりに遊ぶか、お互いの近況も知りたいし。まあ宇一にとっては驚きの連続みたいな報告になるかもだけどな』
『…………』
『宇一? もしもーし、大丈夫? 電波悪い?』
『…え、あ、ああごめん…うん。また、いつかな。じゃあもう切るよ…勉強しないとだから』
『あんま根詰め過ぎんなよ。花の男子高校生なんだから、今を楽しめ、だぜ。けど、久しぶりに声聞けて嬉しかったよ』
『……え?』
『俺もあっちこっち振り回されちょい疲れ気味だったからな。先の楽しみをお前がくれて助かった。ありがとな』
『―――こっちこそありがとう。司のおかげで、まだ頑張れそうだ』
『お、ちょっと元気になったな』
『うん。じゃあ、また』
『おう』
ただの日常の会話に過ぎないし、あっち側ももう忘れてるかもしれない―――が。
「醤油の味も恋しくなってきたしな」
「?」
「ああいや、すまんすまんこっちの話。それでお誘いだが、悪いけど今回は遠慮させてもうよ。早めに帰らないといけないんでな」
「帰る? どこにですか?」
「―――日本」
俺、
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方その頃神は―――
「あ、アイツに転生してすぐ記憶戻るとは限らないって伝えるの忘れてた。……まいっか、多分どうにかなるだろ」
呑気だった