俺、ラブコメサスペンスの世界に転生したってマジですか? 作:ssgss
さて、来る前に以前連絡を貰ってた番号に電話をしようと思ったのだが―――。
「繋がらないな」
俺は5コールほど鳴ったところで電話を切った。
そして同時にある事を思い出す。
「あそっか、今日火曜日。平日の昼間じゃ宇一の奴も学校か」
俺はすっかり自分と馴染みの違いを失念していた。
「しっかし困ったな」
唯一の手掛かりがこうもあっさり意味を成さない物になるとは、昨日思いついた段階で聞くべきだったか?
いや、時差的にこっちは夜の可能性もあったしどの道か。
しかもスマホでの電話だから市外局番で大体の地域を割り当てるとかも出来ないし―――ん?
「あれぇ…もしかして、俺今詰んでる?」
あんなカッコつけて会えずじまいとか冗談じゃねえぞ!
考えろ! 転生前から数えてかれこれ30は優に超える人生経験から導き出せ!
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俺は近場にある公園のベンチで手を組みながら頭を落としていた。
「なんっにも浮かばねぇ…」
日本に到着してから何時間経ったか、もう日も暮れて子供たちが楽しそうに話してる声も聞こえる。
腹も減ったし、ここは一か八かもう一度宇一に電話してみよう。
「……部活とか入ってたらどうしよう? ―――いやいや! 余計なことは考えるな!」
人生なるようにしかならん!
それは前世(転生直前)で学んだろ!
俺は心の中の葛藤を振り切って今一度電話をかけた
『…………は、はい…』
「―――っイエス!」
電話口から聞こえた声に俺は思わずその場でガッツポーズをする。
すると電話の向こうの声も、なんなら周りの人も驚いたであろうことが容易に感じ取れた。
「ああ、いやすいません…。それより、お前宇一…
『…す、すいません…』
「いや怒ってるとかじゃなくて聞いてるだけなんだけど」
『あ、ああ…いえ、はい…俺は、宇一、です。俺を知ってる人、ですか?』
「知ってるも何も、俺だよ俺! あ、詐欺じゃねえぞ」
『…?』
軽い小粋なジョークを挟んだつもりだったんだが、そこまで根詰めて勉強してんのか?
まあこのままだと話してるだけ夜になりそうだし、先に進めよう。
「司だよ! 針城司! 約束通り会いに来た…って言いたいところだけど、あの、お前……今どこにいる感じ?」
『え?』
俺は自分の現状について話した。
すると、宇一のいる場所は幸運なことに俺のいる場所からかなり近い場所である事が判明した。
「マジでか、ならすぐ行くわ。いや~、まさか偶然お前のいる場所の近くに来れるなんて神様の思し召しってや…」
【あ、俺か?】
……………………。
『…司?』
「いや、やっぱ日頃の俺たちの行いが良いからだな! うん、間違いない!」
一瞬脳裏に変な人が浮かんだ気がするけど気のせいだな。
いや、赤ちゃん状態での転生じゃないとか結構重要そうな事教えて転生させなかったの忘れてないからね俺。
転生直後頭血まみれだったの驚いたからね俺。
「じゃあ今から行くからそこに居てくれいいな!」
返事を聞くまでもなく、俺はその場を飛び出した。
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「よ、久しぶりだな、宇一」
「…ひ、久しぶり…」
「ちょっと痩せたか?」
「あ、うん…ちょっと大変でね」
痩せた、なんてもんじゃない。
なるべく平静でいる為にそう言ったが、目の前に居る俺の友達は明らかにやつれていた。
しかも何もしてないのに顔面は蒼白だし、異様に周囲を気にしてる。
そして何より、鞄の中からチラリと見える落書きまみれの教科書―――。
答えを導き出すのは簡単だ。
だが、
「うっし、んじゃあ行くか!」
「え、ど、どこに?」
「飯、お前の場所探してたら腹減っちまって」
その答えはアイツが自分で言いたくなるまで待つとしよう。
暗い話しに帰ってきたわけじゃないしな。
俺は宇一の肩を掴んで近くのファストフード店に入った。
そしてそこで、年相応にハンバーガーとポテトを頬張りながら俺たちは互いの話をした……と言いたいが、ほとんどは俺の近況報告に宇一がたまに相槌を打つ程度だ。
「くっそ~、こんだけ話しても驚かせるに値しなかったか~…」
「え…あ、そ、そんなこと…!」
「良いっていいって、それよりそっちの話も聞かせてくれよ」
俺はポテトを頬張りながら言う。
すると、宇一の顔はみるみる内に青ざめていき、体の震えも大きくなっている。
ガチガチという音が店内全体に聞こえるじゃないかと思えるほどだし、目の焦点も定まっていない。
本当なら何があったかと聞くべきだろうけど、言う方も楽じゃないなこりゃ。
―――仕方ない。
「ちょっと失礼するぞ、宇一」
この声も聞こえないほど動揺する宇一の首元にそっと指を向け、そして気づかれないほど高速で叩く。
動揺している人の気持ちを落ち着かせるノッキング方法で、俺独自で編み出してみた。
「……あ」
「話せそうか?」
「……うん、なんだか落ち着いた。ごめん」
「だーから謝んなって、それよりさ。俺と違って高校二年生なわけだし、なんか将来なりたいものとかねえのか?」
「なりたいもの……司は、笑わないか?」
少し落ち着いたおかげでたどたどしい話し方じゃなくなった宇一が俺に聞いた。
いや、何聞いてんだこいつ?
「笑うわけねえじゃん。え、もしかして宇一の中の俺って結構なクズ?」
俺しか知らない事実とは言え、俺元々この世界の人じゃないからね。
神様に貰った特典のおかげで悠々自適に暮らせてるだけだからね。
いやまあ過去には色々あったけども、そんな俺と特典なしで頑張ってる宇一が同じ土俵なわけねえじゃん。
ましてや笑おうものならもう袋叩きにされても文句言えないって。
「ちっ違っ…! 司は大事な友達だよ」
「良かった~、いや自分でも聖人君子とは思ってないけど、そこまでのゴミクズ野郎認定されてたらやけ食いでこの店の商品食いつくすところだった」
宇一がやりようのない目で俺を見てくる。
やめろ、そんな目で俺を見るな、ホントにやけ食いするぞ。
「だーもうその件は良いんだよ。で、宇一は何になりたいんだよ?」
「……」
俺が聞くと宇一は鞄から一枚のパンフレットを取り出して俺に渡してきた。
そこには【国立 北信大学 獣医学部】と書いてある。
「獣医って……お前もしかして」
俺が聞くと宇一は怯えた目で空を見つめる。
そんな宇一の肩を抱いて俺は言った。
「いいじゃねえの獣医!」
そういう俺を宇一は面食らったように見ている。
多分獣医を目指してる理由は……えっと、あれ、アイツの名前なんだったかな。
とにかく昔よく宇一と一緒に居たやつとの約束だったはず。
「獣医ってアレだろ、確かなるのすっげえ難しいんだろ?」
「う、うん。だからもっと頑張らないと」
「お前すげえな」
「え?」
「だって今でも十二分に頑張ってそうなのに、そこからさらに頑張ろうってんだろ? いや、素直に尊敬しかねえって」
俺は自分でも意識しない内にそう言葉を綴っていた。
「でも…司はもう働いてるわけだし」
「俺? ああ俺はたまたまそれが出来る技術を身に付けれたってのと、その技術が世界の一部で注目されたってだけの話だよ。仕事自体は、中学の頃から細々とやれてたしな」
俺はハンバーガーを頬張りながら言う。
そう、何故かは知らないが、現状この世界でノッキングを使える者は俺しかいない。
教えてないわけじゃないし、教えを請われれば熱心に教えてた時もあったが、皆自分が使えないと悟るとすぐに諦めてしまった。
「じゃあもしかしたら将来仕事の都合で宇一と会うこともあるかもな、俺も動物相手に仕事する事が多いし」
そういう俺に宇一はようやっと柔らかく笑った。
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「送ろうか?」
ひとしきり話に花を咲かせた後、俺たちは解散する事になった。
「大丈夫。司のおかげで、久しぶりに楽しかった」
まだ少しぎこちないけど宇一の顔にも少しずつ生気と笑顔が戻っている。
「そっか、んじゃまた何かあったら電話よこせよ」
俺は夕日が照らす中、雑踏の中に消える宇一に手を振った。
そしてそこから三か月後―――
――――――――――――宇一が死んだ。