デキる転生者の、さ・し・す・せ・そ♡
さ
「さて、イベント回収するか」
し
「死なせてたまるか~い!」
す
「救うんだよ、おうあくしろよ」
せ
「世界は変わっていくんだなあ、リリを」
そ
「想定済みだ、落ちけ着」
オタクくん見ってる~?
今からみんなのアイドル、リサちゃんとエノクくんと、イケないことしちゃいま~す♡
リサとエノク。
研究員の子供とか家族ではない、外郭出身の子ガキちゃんコンビ。実験には参加しない。
当然だ、まだこの二人は齢一桁台なんだ。
リサは「あと2年で10歳になるのよ!」と息まいていたが、20代になった僕にとって10歳とか赤ちゃんでしかない。
ガキが……たくさん食べてたくさん遊んでたくさん寝ろ……。
身なりは多少綺麗で、最低限の知識もしっかりあった。たぶん父母は外郭で死亡し、子供だけで生きてきたんだと思う。
外郭ってなんとなく、魑魅魍魎跋扈する、人間が四つ足で生きているような、†コノ先、日本国憲法通用セズ†って感じの場所なんじゃないかって思われがちだけど、実際はそうじゃない。
都市の外を分別上そう呼んでるってだけで、別に教育とかそこら辺はしっかりしてるっぽいんだよな。九九とか普通に出来てた。僕は九九覚えるのクッソ苦手だったのに……。
クレヨンとか思い出す限り、文化的なコミュニティもあるっぽいし。教育の行き届いてなさだったら裏路地の方が酷いまである。
で(流れるような話題転換)、今からこの二人を連れて何をするかというと、だ。
「今日はう・み・ダをしまァす!!!!!」
「急に何?」
「水着回ならアレでしょ!? 言わせんじゃねーよ/////」
「えっ、本当に何なの!?」
虹の水飛沫、波に触れる足、向日葵畑の恋────―♡
そう、海に行きます。
つっても、この世界に海は無い。
クッソでっかい湖、大湖と呼ばれるものが代わりにある。
これがなんと外郭判定されており、同じ外郭に居る僕らにはたいへん都合がよろしい。
巣とか裏路地の、都市内部に入るの、めっちゃ苦労するんだもん。
立地だけ見たら海近リゾート避暑地って感じじゃんね、おいでよ外郭!
人間でクリスマスプレゼントとか作ろうとするキチガイ生命体とかザラにいるから生命の保証はせんがな。
ここだけ切り取ると、夏場に子供連れて近くの遊泳場に行くみたいなカンジですが、今の季節はなんと秋。
めっちゃ寒くてヤバいわよ!
なんで、水に浸かる訳じゃなく普通に水辺を散歩しに行きます。
「今日は大湖の浜辺を探検してイクゾッ!!」
「探検? 何言ってるの?」
「ひろがる無限の荒野、手付かずの金脈、謎めいた古代遺跡ッ!」
「そんなのあるはずないでしょ? そんなこと言ってないで早く行くわよ」
「あなや〜! リサの力が強すぎるなり〜!」
ずるずると引きずられながら、広大な湖のほとりを三人で並んで歩いていく。
浜辺、砂浜、潮風。
うーむ、何から何まで穏やかな光景だ。まるで僕たちが今やっていることなんて存在しないみたいに。
まあいいか。どうせ今ここにいる僕は、ただの道楽人だ。
それらしいことをする必要もない。
ただ、歩く。
ただ、見る。
ただ、感じる。
それでいいんじゃないだろうか。
潮の音が聞こえるな。
…い。
…楽しい。
僕たちが来たのは、大湖の近く。
ここは波打ち際に貝殻が流れ着いていたり、水面に映る景色が幻想的だったり、ちょっとした絶景ポイントになっている。
全てが全てドブカスみたいな感じの見た目ではないのだ。
非道いなあ、綺麗な場所とか無いんか?
「見てみてー! この貝殻、すっごくキレイ!」
「ほんとだ。ねえリリス、これ何の貝だろう。」
「ん~……たぶん、この辺りの浅瀬にいる『ノリマキノツムリ』っていう小さな巻き貝の仲間じゃないかな? ほら、海苔を巻いたおにぎりみたいに見えるでしょ?」
「そうなんだ。リリスは貝にも詳しいんだね。」
大湖の水辺にしゃがみ込んだエノクは、僕の方を見ながら楽しそうに言った。
彼の宝石みたいな瞳が、湖面に反射した夕陽を映している。
なんだか、きらきらして見えた。
こういう所はガキなんだから……。フン、もっと楽しめ……。
「今日は随分と機嫌がいいね。」
エノクが微笑みかけながら話しかけてくる。
「ん~? ちょっと何言ってるか分かんない。いっつもそんな不機嫌に見えてたかね。」
「ふふ、珍しく元気だなと思って」
「僕はいつでも元気だよォ!」
僕は両手を広げて天を仰いだ。秋の冷たい風が吹き抜ける。
「だって海だよ!? 海といえば海水浴だろ!? マグロカ────トゥッ!!!!! エ──イッッッ!!!! テレッテレッテレーテッッッ!!!!!!!!!」
「貴女は水に浸かろうとしないじゃない。」
リサのマジカル反論が胸に突き刺さる。
おっと、心は硝子だぞ。
「それにしても不思議だね、リリスはどうしてそんなに楽しそうなの?」
彼は心底不思議そうな顔をして僕を見る。
ふむ。理由なんてないさ、って言っちゃおっカナ!?
いやはや、子供というのは面白い。どうして? なんで? が口癖みたいに出てくる。
どうしてどうしてって言われる度に僕が考えるのは、どうしてって疑問を持つこととどうしてって問いに答えることが一体になったらすごく素敵なことだろうな、ということだ。
答えを持っている大人が居ない時に、疑問の対象が自分であった時に、子供が自分で問いと答えを結び付けられたら、それはきっと素敵な成長のカタチになる。
そうやって子どもは育っていくのだと、僕はそう思っている。
まあ、僕は子供なんて持ったことはないが……。
「どうして、ねぇ……」
僕は少し考えながら、足元の小石を蹴った。
「うーん、自由だからかなあ。」
「自由?」
「そう。自由。ここには誰もいないでしょ? だから、何を考えても、どう感じても、それが僕の自由なの。心の中まで、波は来ないから。心の中って誰も入れないんだよ?」
「……そっか。よくわからないけど、なんかかっこいいね。」
エノクの純粋な返答に、思わず笑ってしまった。
……ああ、ほんと。子供っていいな。
子供っていうのは、なんというか救われてなくちゃダメなんだ。もっと元気で……沢山食べて沢山遊んで沢山寝て……不安なことなんて何一つない、健康的でいなくっちゃあ……。
そうして大きく育った子供が……そう、大人になる。リリスはそう思います。
大人ってのはね、どうしても傷ついちゃうんだよ。それは物理的である時もあれば心理的である時もあって。
物理的な方は治す手段はあるんだけど、心の方はほんとにどうしようもなくてさ。
だから、僕はこの子達に出来るだけ健やかに育ってほしいんだ。
ふと、エノクが湖面を見つめながら言った。
「リリスのことも、もっと知りたいな。」
「えっ? どうしたの急に。」
「だって、リリスはいつも色々教えてくれるけど、自分のことはあんまり話してくれないから。」
「まあ、確かにそうだねえ。」
「だからさ、僕たちが大きくなった時にはリリスのこと、いっぱい教えて欲しいな。」
……思わず涙腺が緩みそうになった。
ああもう、なんというか、本当に……
……子供って、いいな。
だからこそ、ちょっと心苦しいんだけど。
「約束だよ、リリス。」
エノクが笑顔で言う。
「うん、約束。」
僕も笑顔で答えた。
その瞬間だけは本当に、子供たちと過ごす穏やかな時間が続くんじゃないかと思った。
「実はね。」
僕が口を開く。僕を置いてふたりで先導していたリサとエノクが振り返って、首を傾げた。
「この光景。そして、この景色。これこそが、きみ達に見せたかったものなんだ。」
──この幸せな時間が、永遠に続いたらいいのに。
そう思いながら、僕は空を見上げた。
海原は穏やかに広がり、夕暮れの光を受けて、赤銅色に輝いている。
その中に、一隻の船がゆっくりと浮かんでいた。
遠くから見れば、それは帆船のようにも見える。
「……そうなの? ふふ。なによ、リリスも案外いいところあるじゃない!」
だろ? 尊敬してくれて構わないぜ。
なんせ今適当に考えただけだからネ!
リサが嬉しそうに微笑んだ。エノクも頷いている。
この子供たちと、これから先もずっと一緒に過ごせたらいいなと思う。
「だからこそ、この時間を大切にしたいってワケ。」
僕は小さな声で呟いた。その声は潮騒に溶けて消えていった。
「……どうしたの?」
「何でもない。それより─────何ボサッと見てんだッ!! 次の行き先は大宇宙だーッ!! ワーッハッハッハッハッハ!!!!!」
「リリス!? 急に何を言い出すの!?」
唐突に僕は指を指し、そして浜辺を駆け出す。
それを2人は「あっ、待ちなさい!」などと言って追いかけてくる。
なんとも平和的な昼下がりだ。僕はそんな昼下がりを満喫する。
そうしているうちに、この子供たちにも、良い夢が見れたらいいな。
僕の夢はいつだって叶わないけれど、この子供たちの夢が、いつか叶いますように。
そして僕たちは、浜辺を駆け回った。
大湖の水平線には、夕陽がゆっくりと沈んでいく。
その光を浴びながら、僕たちは笑い合い、叫び合い、追いかけ合った。
「ねえリリス、僕たち、また来れるかな?」
「うん、絶対に。約束だよ」
そう言って、僕は二人の手を握りしめた。
この瞬間だけは、確かなものだと信じたかった。
この日々が、未来へと繋がるものだと信じて。
この日が、僕たちの記憶に刻まれるものだと思いながら。
この幸せな時間は、永遠には続かない。
でも、それでも、この瞬間だけは、永遠に続くものだと信じていたい。
そして、僕らは歩き出した。海沿いを、どこまでも、どこまでも。
この幸せな時間が、永遠に続けばいいなと思いながら、僕らは歩き出した。
外郭
都市の外部の総称。都市民にとっては魔境。
大湖
外郭の辺境にあるとんでもなく広い湖。普通の魚は居ない。巨大でヤバい魚が多い。生態系がヤバい。