薬師アレンとエルフのリズレ 作:ルゥー創作するのは間違っているだろうかー
月の綺麗な静かな夜だった
ぴしっ
ぴしぴしっ
嫌な音がした
ガシャーーーーーンッ
突然天窓が割れた
アレンはあり得ない事態に呆然とする
人が空から落ちてきた
天窓を突き破って
「まじか」
「生きてるか?!」
落ちているガラス破片など気にも止めず駆け寄る
俺は息を呑んだ
そこにいたエルフは意識を失っていた
かなり大怪我をしている
「マズいな」
アレンは眉を顰めた
かなりの出血量だった
もう手遅れかもしれない
でも、手を止める理由にはならない
手首を掴み脈を確認する
弱い...
できる限りのことはする
俺は薬師だ
彼女を抱き上げた
驚くほど体温が低い
そして、軽い
銀髪の綺麗なエルフ
思わずその容姿に見惚れた
「...」
ここに偶然落ちてきたとしても
大怪我をしていなかったら
まずお目にかかることはない
違う、何を考えているんだ俺は
早速治療に入る
「失礼します」
服を脱がし、直肌に触れる
かなり裂傷が痛々しい
特に胸部の傷が致命傷だ
命を落としていてもおかしくはない
消毒をして、軟膏を塗りスライムに漬け込んだ湿布を貼る
彼女はまだ起きない
深夜から始まった治療だが、外はもう明るくなり太陽が完全に昇っていた
指先が震え、視界がぼやけた
頬を叩き重い身体を持ち上げる
「何か。食べるもの...」
彼女が目を覚ましたらお腹が空いているかもしれない
アレンは台所へ向かった
野菜を切って栄養たっぷりのスープ粥を準備する
その次の瞬間だった
背後から殺気がした
「...っ?!」
振り返ると彼女は力無く崩れ落ちる
「おい?!物騒だろ、やめろ」
ナイフを握りしめた彼女は鋭く金色の瞳をこちらへ向けた
綺麗な瞳だった
俺はなんとか警戒を解こうと頭を捻る
「俺は敵じゃない。身体がまだ動かないだろ?無理するな」
「....人間はみんな、敵」
「凄い偏見だな」
「人間だって、エルフに対して偏見を持っているでしょう?」
彼女は辛そうに身体を丸めた
「大丈夫か?」
「触れるな」
「もう触ったけどな、色々」
「...っ、許さない」
「仕方ないだろ?治療だ」
エルフは身体を確認する
包帯に湿布と全身が覆われていた
「これ、あなたが?」
「そうだ」
俺は冷めないうちに皿にスープ粥をよそる
「ほら、これで仲直りしよう」
そう言ってエルフの元へ座り込んだ
「毒?」
「粥だよ!」
「あなたが先に食べてみて」
「味見か?」
「毒味」
「おい」
大きく一口を頬張る
ゴクッ
「ほら、飲んだぞ」
「信用できない」
「信用しろ」
「食べない」
「食べろ」
「なんで」
「嫌」
「...分かったよ、じゃあ口開けて」
「?」
そう言ってスプーンを無理やり口に突っ込んだ
「っ?!」
「美味いだろ?」
かなり遅れて返事がきた
「...美味しい」
「食べてくれるか?」
これもまた遅れて
「...うん」
エルフは小さく頷く
しかし、金色の瞳はまだ俺のことを信用していなかった
「それで、なんでいないんだ?」
割れた天窓を見上げるアレン
「...」
夢ではない
エルフはいたのだ
ここに
俺は食器を片付けた後、寝落ちしたらしい
気づけば夕方
銀髪金の瞳の綺麗なエルフ
包帯と湿布に包まれていたその姿が無かった
「...あいつ、外に出たのか?」
あの怪我で?
そこまで遠くに行けるようにも思えない
アレンは薬舗のドアを開ける
「いないか...」
「死んでないよな...」
そうぽつりと呟いた瞬間、声がした
「人聞きの悪い、勝手に殺さないで」
アレンは驚いた
何処にいる?
「ここ、上」
エルフは屋根の上にいた
「お前っ!まだ動けないだろ?どうやってそこに上がったんだ?!」
「飛んだ」
「傷が開くだろ!!重症なんだぞ?そういう高いところにいるから天窓突き破って落ちてくるんだよ!」
「人間と同じ部屋にいれない」
「なんでだよ?!」
「落ち着かない」
「お前、病気か?!早く戻ってベッドに横になれ!」
「やだ」
「夕飯は中で食えよ?」
アレンは薬舗へ戻る
エルフは少しだけ目を見開いた。
まさか追い出されると思っていたのかもしれない。
「...準備してくれるんだ?」
「一応、まだ患者だからな」
アレンの後ろで音もなくエルフは屋根から降りた
「お前...傷が開くって何度言えば!!」
その気配に気付いたアレンが振り返る
「...ありがとう」
耳を真っ赤にしたエルフは、ぷいっと視線を逸らした
「可愛いところあるじゃん」
「うるさい」
もぐもぐ
口を動かしながら頬を膨らませるエルフ
「なあ、もう少し仲良くしようぜ?」
「どうして?」
「俺の最初のエルフの患者はお前だ」
「...助かった」
「分かってる」
アレンは身を乗り出し掌を向けた
握手だ
「俺はアレン」
沈黙
え、もしかして、
これ拒絶...?
エルフは掌を見つめた後、アレンの顔を見る
「...リズレ」
握手の手は取らずだが大きな一歩だ
「リズレ、これからよろしく」
俺はそう微笑んだ
返しはない
「後もう一つ教えてくれる?」
「...」
もぐもぐ
「どうして上から落ちてきたんだ?」
「...」
もぐもぐ
「空を飛んできた、とかじゃないよな?」
背中の傷を見せてもらった時、羽根は生えてないのは確認済みだ
「教えない」
「じゃあ、どうして大怪我をしたんだ?誰かにやられたのか?」
「...関係ない」
「いや、治してるんだから気になるだろ?!」
リズレは瞳を落とす
「知らない方がいい」
「は?」
「結局、名前以外わからないままだな」
アレンは溜息を吐き、苦笑いをする
「それでいい」
リズレはそう初めて微笑んだ