レルネーの友   作:餅もち

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第十五話

「もう寝ちゃったかしら?・・・・・・無事に寝れたみたいね。良かったわ。・・・・・・どうせだしあの時の記憶を夢で見せちゃいましょうか。」

 

そう言ってアルカはカルキノスの頭を胸に抱き額に唇を落とす。

 

 

 

 

 

夢を見ている。

 

俺は五歳の時にこっそりと村の外に出て遊びに行こうとしていた。両親からは絶対に村の外に出てはいけないと言われてたけどついつい出来心で早朝に村から出て行ってしまった。

その時はまだ俺も弱くて小さな子どもだったから案の定森の熊に襲われて死にかけていた。そして生きたまま咥えられて何処かに連れて行かれている途中であの人に出会ったんだ。そして助けてもらってとりあえず僕の家で治療するよと言われて着いて行った。そしてその家の中にはよく分からないけどなんか凄そうなのが沢山あって、どんなものなのか聞いたけど一つも教えてくれなかった。でも、怪我を治して休んでる時には色々なことを教えてもらった。たった数時間程度の出会いだったけどその人はたしかに俺の師匠(せんせい)だった。だからこそ、あの時、帰る瞬間、最後に俺の身体に異常がないか調べられた時に目の色が変わって俺を帰さなかったとき、最初はよくわからなかったけど後になって分かった。あの人はもう、『魔』に呑まれかけていたんだと。それから一週間あの部屋の中でされたことは全部気にしていない。むしろ、アイツに会えたことについては、感謝してすらいる。でも、最後のあの日、師匠の願いを師匠自身の手で損ないそうになった時、もうあの人の中から師匠は消えたんだと分かった。だからあの日、死ぬと分かっていながら、無理と分かっていながら、化け物になったあの人に襲いかかった。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

五歳のカルキノスがボロボロの姿で床を這っている。よく見れば四肢はもう右手しかまともに残っておらず、両足は太腿から先が無くなっていて、左手は肩まで無くなっていた。そして、両目はすでに潰されて見えないままカルキノスはどこかに向かって這っていた。しかし、どんどんとスピードは落ちていき、やがて動かなくなる。

 

「・・・・・・ハァ、・・・・・・ハァ、・・・・・・ハァ。やっと殺せた。一応、これでいままでのお礼は返したって事でいいよね、師匠。・・・・・・でも、襲いかかったは良いものの速攻で左手を、肩まで消し飛ばされて。・・・・・・ハァ、両足まで切られるなんて、予想して無かったな。・・・・・・油断して背中を向けたところを首元に噛みついて、殺そうとしたのを抵抗されて両目潰されちゃなんのためにしたんだって感じだけど、・・・・・・ハァハァ、それでも離れずになんとか殺し切れた。・・・・・・・・・・・・でもダメだな。このままだと死ぬ。とりあえず血を止めない・・・・・・と。でも、少し眠いな。ここで、少し、休んで・・・・・・」

 

 

 

『いってらっしゃいカルキノス。暗くなる前に帰ってくるのよ。』

 

『おー!カルキノス!今日はどこに遊びに行くんだ?帰ってきたら色々お父さん教えてくれよ!いってらっしゃい!』

 

『カルキノス君。知っていますか?この世界には綺麗な景色や美しい街。そして素晴らしい人が沢山いるのです。今は分からないかもしれませんがいつかきっと分かります。ぜひ、覚えておいてください。この世界には楽しいことが沢山あるのですよ。楽しまなきゃ損です。』

 

 

 

 

「・・・・・・ハァ・・・ハァ、・・・・・・もう少し、頑張ってみるか」

 

カルキノスは右手を強く握り締めて再び進みだす。ゆっくりとしかし確実に進んでいく。

 

「アイツはどこにいるんだ?・・・・・・ハァ、死ぬ前にせめてアイツは見つけ出さないと。」

 

そう言ってカルキノスは家の中を隅々まで探し続ける。しかし、いつまで経っても見つからない。

 

「目が見えないせいで絶対ではないけど、今まで見てきた部屋の中には誰もいなかった・・・・・・はず。逃げたのか?それならいいけど何処かで出られなくなってたらヤバイしな。・・・・・・仕方ない、もう一回探すか。」

 

そう言ってカルキノスは家を探し直そうとしたとき、奥から妙な風が吹いている事に気づく。気になってカルキノスは風のある方に進んでいく。そこには本棚があり、後ろにほんの少しだけ隙間が空いていた。

 

「もしかしてこれは、・・・・・・隠し扉、みたいなやつか?見えないから分かんないけど。もしかしてこの奥にいたりするか?」

「ここなら通れそうだな。・・・・・・よし、行くか。」

 

カルキノスは隙間に身体を捩じ込んで何とか通り抜ける。そして奥に進んでいくと何かにぶつかる。バランスを崩して思わずその何かに倒れ込むと人だと分かった。それは横になっているカルキノスと同じ5歳ほどの大きさの少女だった。

 

「ハァ・・・・・・ハァ、ここに居たのか。息は・・・・・・良かった。ちゃんとしてる。見えないから怪我とかは確認出来ないけど、生きてるなら、大丈夫だろ。・・・・・・起きろ、おい。起きてくれ。」

 

カルキノスは退けながら少女に声をかける。しかし、少女は眠っているのか、反応がない。

 

「マジかよ。もう俺動けないんだけど。・・・・・・仕方ない。あぁ、仕方ないから最期にお前助けてから死んでやるよ。その方が後悔なく終われるだろうし。・・・・・・それに、アイツがお前を連れてきたから、俺はアイツを殺したんだしな。助けれなきゃ無駄死にだし。運び方は許せよ。もう掴める手も足も一つしかないんだ。」

 

カルキノスはそう言って残った右手で少女を抱いて虫のように胴体だけで這って出ていく。そして出口にもう少しで着くというタイミングで出口に気配を感じた。そこにはあの時の熊の姿があった。熊は血の匂いを嗅いで少しずつこちらに近づいてくる。カルキノスは気配だけでそれを察して少女を隠す。そして、ゆっくりと熊に近づいていく。

 

熊は怒っていた。あの時の獲物が奪われたことに。そのため、この一週間何も食べずにあの時の獲物を探していた。そうして、探しているとふとある方向から血の匂いを嗅ぎ取る。その匂いはあの時咥え、持ち帰ろうとした獲物だと分かると一目散にその匂いのする方へと走っていく。そうして着いた場所は森の中にぽつんと建つ家だった。熊はドアを破り家の中に入っていく。するとそこはあの時の獲物の血の匂い、それ以外にも様々な死骸の匂いが混在していた。熊は鼻の曲がるような思いをしながら何とか獲物の匂いを嗅ぎ取り、獲物を探して進む。すると今にも死にそうな、いやすでにほとんど死んでいるあの時の獲物がゆっくりとこちらに近づいてきていた。熊は笑ってそちらに近づくと爪を獲物に叩きつける。しかし、ほんの少しだけ外してしまう。熊は再び爪を叩きつけるがまた外してしまう。熊は諦めて獲物に喰らい付こうと噛みつく直前、獲物が熊の目に手を突き刺してきた。熊は悲鳴を上げて離れようとするが獲物の手が深くまで刺さり、離れない。獲物は熊の目から更に奥に手を入れてくる。熊は更に悲鳴を上げて獲物を壁にぶつけたり地面に叩きつけるが全く離れない。そうしてしばらく熊は暴れていたが獲物の手が熊の脳に届き、中身をぐちゃぐちゃにされた事で熊はやがて息の根を止めた。熊は獲物は自分になっていたんだと最期に分かった。

 

 

 

「・・・・・・よし、これで終わり。弱ってたのか動きが遅くて助かったな。・・・・・・もう時間がない。早く出ない、と。」

 

そう言ってカルキノスは少女のところに戻ると再び進もうとする。しかし、少女を抱き抱えて5m程進んだところで急に電池が切れたように動けなくなる。少女を抱いたまま身体が動かない。進もうとしても指先すら動かない。声も出なくなっていた。

 

あぁ、これで終わりか。でも、ここまで来たらこいつも外出られるだろ。もう、考えることすら億劫だ。そうやって、カルキノスの意識が沈む直前、どこからか声が聞こえてきた。

 

 

 

「・・・・・・あら、私受肉してる。アイツ死んじゃったのね。」

 

 

 

カルキノスはもう声すら聞こえなくなっていた。でも、手元の少女が起きたことだけは何となく分かった。もう眠ろうと思ったが最期の力を振り絞って隣の少女を抱いて、外に這っていった。

 

「とりあえず隠さないといけないわ。・・・・・・あら?誰かに掴まれてるわね。貴方はだぁれ?」

 

「・・・・・・」

 

「あれ?・・・・・・名前を答えて。・・・・・・離して。・・・・・・おかしいわね。なんで効果ないのかしら。・・・・・・まあ、いいわ。暖かいから許します。」

 

少女は抵抗することなく、カルキノスに抱き抱えられて移動していた。そうして出口につき、すでに壊れたドアを抜けるとそこはもう夜になっていた。月の光が二人を照らす中、カルキノスは一方的に少女に話す。

 

「やっと。外に出れた、んだよな。・・・・・・お前は生きてるよな。生憎もう耳も聞こえなくなってきてんだ。だから、これだけ話しとく。ここで会ったことは忘れて自由に生きろ。じゃあな。」

 

そう言ってカルキノスは不意に意識を失う。少女はカルキノスの腕の中で動かず抱きしめられていた。しかし、カルキノスの呼吸は浅く、心臓の鼓動は小さい。きっと次の瞬間には死んでいてもおかしくないほどカルキノスは弱っていた。

 

「・・・・・・あら?動かなくなっちゃった。どうしたのかしら。・・・・・・あぁ、そう。貴方、死んじゃうのね。・・・・・・せっかく、話せる人と会えたんだからもっと話したかったけれど、仕方ないわね。じゃあさよなら。」

 

少女はそう言っているが、身体はカルキノスに包まれて動かない。いや、腕から出て行こうとしない。

 

「あれ?身体が動けない。いいえ、動かない、かしら。なんで。・・・・・・なるほど暖かさを知ってしまって、離れられなくなってしまったのね。」

「ふふふ、嗚呼、なんて心地よい暖かさ。これを手に入れられるなら、感じていられるなら、もう他には何も要らないわ。」

「・・・・・・そうね。もう、これでいい。今までも、これからも、全部台無しにしてしまいましょう。だって私、『悪』い『魔』だもの。」

 

そう言って少女は人とは思えないような笑顔で笑い、カルキノスを抱きしめる。

 

「そうと決まれば治しましょう。なくなった手足を再生は面倒だから私の手足をベースに彼の四肢を再生させて、目も私のをそのまま混ぜてしまいましょうか。・・・・・・あっ血も足りないわね。まあ、これも私のを入れれば良いわね。最後に残った私の胴体と頭は、まあ、この人の中に入れておきましょう。」

 

そう言いながらカルキノスの手足はみるみるうちに再生していく。反対に少女の身体はどんどんとなくなっていく。そして、カルキノスの身体すべてが再生した時には少女の身体はほとんどなくなっていた。そして唐突に少女の身体が消える。

 

「これでよし。・・・・・・カルキノス。私にこれだけさせたんだから貴方もちゃんと私に返しなさいね?命の恩人、なんだから、ね?」

 

そうしてカルキノスは助かって無事に村に帰る事が出来るようになった。しかし、それ以降、寝ると夢の中に、この少女が出てくるようになったのである。

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