子供の頃、少年にとって世界は自分の住む村だけだった。
それでも少年は幸せだった。
少年は神の血を引く半神ではない。英雄譚を紡いでいくような英雄の器もない。何処にでもいる普通の少年だった。
毎日、朝には両親に「おはよう」といって、同じ村の友達や、最近できた森の友達と秘密基地を作ったりして遊んでいた。
少年の住む村は綺麗なところで豊かな森に囲まれ、清らかな水と自然の恩恵にあふれたところだった。村の大人は皆この恵みは神様のおかげなんだよと言っていたけど、少年にはまだよく分からなかった。そうして最後には両親に「おやすみ」を言って一日が終わる。
そうやって少年は、日々を楽しく穏やかに過ごしていた。
けど、そんなある日の夜、外がうるさいから目を覚ますと外は真っ赤に染まっていた。
それを見て少年は何故赤くなっているのか疑問を持っていると、母親が血相を変えて家に飛び込んできた。
少年はどうしたの?と聞くけど母親は何も言わずに彼の手を引いて家から出る。そして家から出た直後少年の家は大きな音をたて、崩れ去る。
家を出るとそこは、辺り一面が火の海になり、怪物が村の人を襲っていた。
一緒に遊んでいた友達の家も、豊かな森も、清らかな泉も全てが赤く燃えていた。
村の人たちは必死に抵抗しているけど、それも虚しくどんどんどんどんやられてしまっている。少年は驚きのあまり動けなくなっていると、父親が走ってやってくる。父と母が一言二言交わした後、父は少年に「強く生きるんだぞ」と声をかける。少年は訳もわからず混乱していると「〇〇〇〇〇、カルキノス。お前達を、愛している。」
そういうと、父は少年とその母から離れて怪物に突撃してしていった。彼は思わずそちらを見そうになるが
「見ちゃダメ!!!カルキノス、後ろは見ちゃダメ。前だけ見て走るのよ。」
そう言われ、少年は母に手を引かれながら走り続けるが、右にも左にも、前にも後ろにもどんどんと怪物は迫ってきている。
「いいカルキノス。貴方は北に向かって走りなさい。後ろは決して振り返っちゃダメ。お母さんとの約束よ。」
少年は涙目になりながらも頷く。
「いい子ね。これを持っていきなさい。きっと貴方を守ってくれるから。」
「さあ行って!!!道はお母さんが作るから!!!前だけ見て走りなさい!!!」
少年は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら必死に逃げる。
後ろから母の叫び声が聞こえても立ち止まらずに走った。
そうやって村を出て、森に入った後もしばらく少年は走り続けていた。
そうして走り、疲れはて、もう倒れてしまいそうになった時、視界の端に、村を襲った化け物が何かを探していた。自分よりも圧倒的に大きな怪物が自分を探しているんだと思い、少年は恐ろしさのあまり動けず、ただ震えることしかできなかった。その怪物は少年の村の大人達でも3人がかりで戦わなければ討ち取れないような化け物だった。しかし、化け物は自分に気づいていない。少年は震えながら、何とか隠れてやり過ごそうとする。しかし、化け物はどんどん自分に近づいてくる。化け物との距離が1m程まで近づき、もう終わりだっ!、と少年が死を覚悟した時。草むらがガサガサッと音をたてた。化け物が其方に気を取られている隙に少年はゆっくりとその場から離れる。
化け物は、草むらをジッと見つめている。すると、森で一緒に遊んでいた友達が草むらから現れた。化け物は目の色を変え友達に襲いかかる。それに気づいた瞬間、もう少年は走っていた。今にも倒れそうな身体で最後の力を振り絞り、怪物に立ち向かった。
♢♢♢♢♢
今のは一体。いやとりあえず起きなきゃな。
あれっ、何か話し声が聞こえる?
「どうしよう。まさかいきなり倒れるなんて。お母さん何かしたの?」
「いいえ、してないわ。何かしたのでなくて、これからしようとしているのよ。」
「何しようとしてるの!カルキノスに変なことしたらお母さんでも許さないからね!」
「そう?ところでその子そろそろ起きそうだけどそのままでいいの?」
「えっ!?ヤバっ早く戻らないと!お母さんはちょっと離れててね!」
「はいはい。全く忙しない子ね。あなたもそう思わない、
「あぁ、バレてましたか。初めまして・・・じゃないんだった、おはようございますヘラ様。」
「ええ、おはよう。さっきの会話きいてた?」
「いえ、『カルキノス』ところだけです。」
「そう。まあ書かれてたらあの子に怒られてしまうからよかったわ。ところで、ちゃんと喋れるようになってるわね。私からのご褒美、気に入って貰えると嬉しいのだけど。どうかしら?。」
「あっ確かに喋れるようになってる!こんなことまでしてくれるなんて改めてありがとうございました。」
「いいのよ。可愛い娘のためだもの。でも記憶を取り戻したことはあの子には秘密よ。あの子には喋れるようにしたとしか伝えてないから。」
「分かりました。ところでさっきから言ってる娘ってもしかして。」
「そう、あの子よ。・・・あら、丁度来たようだし私はそろそろお暇するわねー。」
「えっ!まだ話したいこと「バイバイ、またねー」がいろ・・・い・・・・ろ・・・・・・。」
行っちゃった。まあたしかにそれよりもするべきことがあるよな。
あれ、お母さんもう行っちゃった?・・・あっいけないいけない。オホンッ・・・・・・
「突然倒れたようですが身体に何処か異常はありませんか?」
「うん。突然倒れちゃってごめんね。体調に問題はないよ。」
あっ話せる。えへへぇ・・・・・・はっ!やばい急いで発動させてと
「【理解】それなら良かったです。【推測】あなたはあの獣に追われてここに来たのでしょう。よければ私が街まで案内しましょう。【結論】ついてきてください。ある程度までは私が案内します。」
「いやぁ、俺カニだからさ街中に入れないのよ。あと5年前からかな、記憶喪失でさ。自分の故郷探して旅してんだよね。」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから君さえよければだけどさ。ここの沼地に住ませてくれないか。俺、何かここでしなきゃいけないことがあるような気がするんだ。・・・・・・どうかな。」
とりあえずまだ思い出せないこともあるし、ここを拠点にして記憶の手がかりを探していけば・・・
「【思考】【分析】・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【結論】拒否する」
「・・・・・・・・・・・・え?」
「【説明】当機のいるレルネーは毒に侵された死の沼である。よってただのカニである貴方をこの奥に連れて行くことは出来ない。【推奨】少しでも早くこの場から離れることを薦める。」
「いや待って!それだと困るんだ!この奥に俺にとって大事な何かがある気がするんだよ!お願い、頼むよ。」
「・・・・・・【解答】どのような理由があろうともここに立ち入ることは許可しない。仮に無理矢理侵入してきた場合、武力行使で排除する。」
「・・・・・・ちなみに武力行使って具体的にどんな感じ?」
「【解答】貴方、・・・・・・いや、対象Kに対し、当機の毒では不十分と判断。よって侵入してきた場合、全身全霊で噛み砕く、それでも効果が薄い場合、沼の外に弾き飛ばす。」
「・・・・・・それ俺だと両方とも死ぬよね。」
「【分析】・・・・・・・・・・・・当機が対象Kを噛み砕ける確率0%。弾き飛ばせる確率100%。それにより、対象Kが無理矢理侵入後の生還率 100% 0%。【提案】今日あったことは忘れ、二度とここに来ないことを推奨。」
「なるほど。お前は何があっても俺のことを入れないつもりなんだな。じゃあ仕方ない。」
「【了承】いい判断です。対象Kの右手側。そちらを真っ直ぐ進めば貴方は無事に帰ることができます。」
「あぁ仕方ないからぶっ飛ばされるの覚悟して侵入することにするよっ!」
そうやって、俺はアイツのいないところの沼に走り・・・
「・・・・・・【驚愕】対象K。動きが早い訳でも何か作戦があった訳でもない。それなのに侵入してきた。【結論】対象Kは自殺志願者である。」
「んな訳あるかよこの野郎。弾き飛ばすって言いながら叩き潰しやがって。そのせいで沼にハマって動けないじゃねえか。」
「【検査】対象Kに特に怪我や異常は見られない。【再検査】【分析】・・・・・・改めて検査した限りでもやはり対象Kに大きな異常は見られない。・・・・・・ふぅ。【質問】当機に自殺以外で挑む理由とは?」
「そりゃぁ、俺はお前のことが気に入らないんだよ。分かったらさっさと出せ。俺一人じゃ抜けそうにないんだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・【帰宅】」
「はっ!?ちょっと待てせめて俺のこと引き抜いてから帰ってくれない!?無視すんな!おーい、帰ってこい!ふざけんなよこの野郎!待てってば!おーい!おーーーい!待てえええええええええええええ・・・・・・」
♢♢♢♢♢
あいつめ、あれから戻ってこなかったせいで俺は危うく一生出られないところだったぞ。
ヘラ様から貰った身体のサイズを変えることができる腕輪が大きくもなれたのが本当に助かった。
もしかしたらヘラ様はこれを見越してあの時腕輪をくれたのかもしれないな。
「やっぱりヘラ様って優しくて、いい神様だな。」
「あいつ。いなくなってるし、今ならこっそり入れるんじゃね。よーし、そーっとそーっとそーっt(【警告】それ以上近づけば排除します。)バレてるんかい!」
「はぁ仕方ない。今日のところは帰るよ。またな。」
「【疑問】ここまでされて何故また来ようと思うのか。【結論】対象Kの知能指数は時折すごく下がる。」
「あーーー!もう絶対許さねぇ!何がなんでも俺は絶対に沼に住んでその奥まで探検しつくしてやる!そしてお前に『ごめんなさい』って謝らせるもんねー!とりあえず今日のところはこの辺にしといてやらぁ!明日から首を洗って待っていやがれ!じゃあまたな!」
♢♢♢♢♢
ヒュドラと呼ばれる怪物は沼の奥へと進んでいく。そんなおどろおどろしい沼地の奥には小さな子どもしか入れないような遊び場で、立ち止まる。
「【探査】・・・・・・当機を中心として100mに生命体の反応ゼロ。【拡大】・・・・・・当機から154m離れた沼の近くの木の洞に小さくなり隠れて寝ている対象Kを発見。【確認】・・・・・・、【肯定】この場の声は対象Kに届くことはない。」
「身体を人型に縮小。『
すると突然、怪物が少女の姿に変わる。そして、木の枝や、葉っぱを集めて作られたところに入っていく。そしてその一番奥に着くと、少女は布の上に倒れ込む。
すぅぅぅーーーぅぅぅーーーー
「うわーん!!!」
といきなり叫ぶのだった。
「なんでこんなことになってるの!?何でカルキノスがここに来るの!?記憶無いはずなのに!?」
どうゆうことなの、どうなってるの、訳わかんないーー!と少女のカタチをした怪物は叫ぶ。
「うぅ。来るにしても何でよりにもよってこんな時に来ちゃうの。そろそろお母さんから頼まれたお仕事があるのに。」
「確かにいつか話そうとは思ってたけど、これはいくら何でも速すぎ。あと5年か、10年は待ってて欲しかった。とりあえず明日からはどうにかしてカルキノスを追い出す方法を考えよう。それでもダメなら、・・・・・・はな・・・話し、を・・・・・・。いやっ!その時になってから考えればいいよね!。」
「でも、もし、またあの頃みたいに戻れたら、・・・・・・その時は・・・・・・・・・なんて、考えても仕方ないよね。そんなことはもうありえないんだから。」
「よしっ。今のうちに準備を進めておかないとね。カルキノスは、・・・・・・明日考えよう。」
♢♢♢♢♢
「今日一日で5年間何の手がかりもなかった自分や故郷、知り合いについて知れるなんて本当によかった。まあ、それ以上にすごいことが色々あったんだけど。けどこの調子で頑張れば記憶を全部取り戻すことも出来るかもしれない。今日は喧嘩別れみたいになっちゃったけど、明日からはもっとちゃん・・・・・・と、はな・・・・・・し、を・・・・・・・・・・・・」ぐー
読んで頂きありがとうございます
読んだ人の中にはヘラはこんな性格じゃない!と思う方もいると思います。でも、ヘラはゼウスの愛人の子供にはヤベェことするけど自分の子供相手だと溺愛したり(アレスやヘーベーなど)しているので義娘とはいえ、小さな頃から育てていたらヘラは溺愛してるんじゃないかなと思うわけです(ヘパイストスは見ないふり)。原典からして愛情は深い神ですしね。
もしここがおかしいとか間違っているところがあれば優しく教えてください