朝、レルネーの沼に柔らかな光が差し込む。枝や木の葉っぱで作られた天井を見上げながら、カルキノスはゆっくりと目を開いた。
「んー・・・・・・、あれここって・・・・・・あぁそーいや昨日はあのまま寝ちゃったんだっけ。とりあえず起きるか。」
久しぶりによく眠れたな。昨日はほんと色々ありすぎて疲れて寝ちゃったからな。自分の記憶とか、住んでたとことか、他にも色々ありすぎて何から考えるべきかわかんねぇ。とりあえず周りを調べてみるか。
「とりあえずここは、俺たちが作った秘密基地・・・・・・だよな。」
俺の記憶が間違ってなければここは俺が作った秘密基地・・・・・・のはず。思い出した記憶がまだ朧げだけど、子供の頃にここを一人で作ってよく遊び場にしてた。けど、ここには村で使わなくなった布とかガラクタとか、森で見つけたものとかを集めてたけどこんなに広くなかったし。しかもなんかものが色々増えてるし、もしかして違うとこか?
そんなことを考えていると
「そーだよ」
「うおっ!?」
驚いて振り向くと、そこには一糸纏わぬ姿の少女がいた。
「誰だお前!?やっぱここ俺の知らない場所か!?どこだここ!?」
「そーだよって言ってるじゃん。あぁ、なるほど。そういえばカルキノスにこの姿見せるのって初めてだったっけ。よし、『
そういうと少女にヒュドラの首が集い、瞬く間にあの小さなヒュドラの姿に変わる。
「ふふーん。どう?カルキノスの好きそうなやり方で変身してみたよ。かっこいいでしょー」
「おぉ!めっちゃかっけぇ!・・・・・・ていうかあの美少女はお前だったのかよ!
「えへへぇ。・・・・・・そうっ!あの美少女の姿は私だったのです!そして私こそがカルキノスの一番の親友であり、『レルネーの怪物』と呼ばれているヒュドラだったんだよ!」
「お前ってそんな感じだったっけ?俺の覚えてる限りだともっと落ち着いてたと思うんだけど。」
「久しぶりに再会できて、テンション上がってる!それに!これから色々話すこと考えるともう勢いでやるしかないの!気にしないで!」
「そうか。俺もこれから色々話すこと多いしな。じゃあとりあえず外に出て水浴びてこい。そのテンションだと疲れる。」
「分かった!行ってくる!」
「おーおー行ってこーい。」
するとヒュドラは物凄い速さで外に出ていき、
ばしゃーん!!!!!
と勢いよく水に突っ込んでいくのだった。
その後、ヒュドラは自分の身体を乾かした後に秘密基地に戻ってきた。
「おうおかえり。冷静になれたか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。」
「よし、じゃあ話をしようぜ。ここじゃなんだし奥の方で・・・・・・」
「うん。ありがとう。・・・・・・ってそれより先に言うことあるでしょ!」
「あぁ、おはようヒュドラ」
「うん。おはようカルキノス。あっそうだ。カルキノスが来た時のためにずっと準備してたの。こっちに・・・・・・」
グ〜〜〜
「・・・・・・・・・・・・ブハッ!あははははは!!!よりによって今腹なるのか!あははははは!!!」
「ぅぅぅぅぅぅうううううううーーーーー!!!」
「あははそう怒んなって。まずは飯にしようか。俺この辺で食べれるやつわかんないから教えてくれよ。」
「うぅ。外の木の実はカルキノスなら食べれるよ。いってらっしゃい。」
「ったく。ほら一緒に行こうぜ。お腹すいたんだろ。せっかく再会できたんだからさ。」
ヒュドラは少し迷って、小さく返事をするのだった。
二人は秘密基地の外に出る。ヒュドラはまだ拗ねており、カルキノスの甲羅の上でうずくまっていた。朝のレルネーはとびきり静かだった。
「そういえばさ」
カルキノスは歩きながらヒュドラに話しかける。
「俺、まだ全部思い出したわけじゃないんだ。」
ヒュドラは黙って聞いている。
「お前のことも、村のことも、家族のことも、秘密基地のことも少しだけ思い出せた。ここにきてから少しずつ記憶が戻ってきてるんだ。でも、まだ分からないことが多いんだ。だから思い出そうと思う。」
「・・・・・・知らない方がいいこともあるかもよ?」
「それでも、知らないままでいるのは嫌なんだ。だから話をしよう。今までなにがあったのか、お互いに話そうぜ。そしたらきっと俺も思い出せるから。」
「・・・・・・分かったよ。私が覚えてることは全部話す」
「ありがと。・・・・・・それじゃあ湿っぽい話はこれくらいにして飯にしよう。おっ!あの木の実なんてどうだ?」
「・・・・・・うん。そうだね。ありがとう、カルキノス。あとその木の実は美味しくないからやめた方がいいと思う。」
「マジか」「マジだよ」
「じゃあお前が美味しいやつ教えてくれ。それを俺が取ってくるよ」
「任せて。この沼で私が分からないことなんて一つもないんだからね!」
「それは頼もしいな。じゃあよろしく。」
「うん!まずはねー、・・・・・・・・・・・・」
「よし、ご飯食べたし、早速私から話をしよっかな。ついてきて」
「待てヒュドラ。お前より先に俺から話をするよ。お前の話は長くなるだろうし、俺の方が短いしな。」
ヒュドラはキョトンとしてカルキノスを見る。
「そう?まあ確かに話すことは私の方が多いだろうしね。うん了解。私が話す時は場所変えたいからここでも大丈夫?」
あぁ、と答えてカルキノスは近くの岩場に身を寄せ、ヒュドラはその向かい側に座る。朝日が木々の隙間から差し込み、二人の間を照らしていた。
「俺さ、今だから言うけど結構大変だったんだぞ。」
「そうなの?」
「そうなのじゃねぇよ。」
「目が覚めたらカニだったんだからな。」
「そういえばそうだったね。」
「人間だった記憶はなかったけど、自分がカニなのもよく分かってなかった。それなのに身体が大きいからなんでだろって思ってたんだ。まあ後々記憶喪失ってやつになってるのかなってわかったんだけど」
ヒュドラは静かに聞いている。
「それで他のカニを見つけた時は安心したんだよ。」
「仲間だ!って。」
「でもどうやっても会話ができなかった。」
「海に行ったからついて行ったけど、波で押し返されて結局はぐれたし」
「そんなことがあったんだね。」
「その後も色々大変だった。」
「例えば?」
「木の実を取ろうと思った。でも、登れなくて、何回も落ちた。」
「魚を取ろうと思った。波に押し戻されるし、近づいても魚はすぐ逃げる」
「しかも最初の頃は弱かったからな。獣に食われそうになったのは一度や二度じゃない」
カルキノスは遠い目をする。
「あの頃は本当に食べ物がなくてさ。」
ヒュドラの表情が少し真面目になる。
「……うん。」
「たまたま木の実が落ちてたり。」
「たまたま生きた魚が落ちてたり。」
「なんか都合よく食べ物が見つかることがあったんだよ。」
ヒュドラは黙っている。
カルキノスは笑った。
「その時は運が良いなーって思ってた。」
「……」
「でもさ。記憶を取り戻した今だから分かったんだ。」
「毎回その前に妙な影を見ててさ、あの頃は気にする余裕も無かったけど」
ヒュドラの身体がぴくりと動いた。
「木の陰とか、岩の後ろとか、草むらとかにさ。小さな蛇みたいな影がいたんだ。」
ヒュドラが視線を逸らした。
カルキノスは苦笑する。
「今思えばさ。」
「……」
「あれ、お前だったんだろ。」
しばらく沈黙。
やがてヒュドラは小さく頷いた。
「うん。」
「やっぱりな。」
「だって心配だったから。」
「心配?」
「カルキノス、カニの身体。ちゃんと操縦できるかなって」
「まあ出来るわけないわな。俺人間だし。」
「木から落ちるし。」
「うるせぇ。」
「魚にも逃げられるし。」
「うるせぇ。」
「たまに変なもの食べようとするし。」
「それは仕方なかったんだよ!」
ヒュドラは少し笑った。
そして静かに言う。
「だから一つ。近くに置いておいたの」
「困ってそうだったら助けられるように」
カルキノスは頭を掻く。
なんだか照れ臭い。
「そうか。」
「うん。」
「ありがとう。」
ヒュドラは少しだけ目を丸くした。
カルキノスは続ける。
「お前がいなかったら俺、多分途中で死んでたと思う。いや、間違いなく死んでた」
「そんなことない。」
「いやある。」
「ない。」
「ある。」
「……少しはあるかも。」
「だろ。」
二人は笑った。
そしてヒュドラはどこか懐かしそうに言う。
「どういたしまして。」
「おう。」
「でもね。」
「ん?」
ヒュドラは木漏れ日を見上げた。
「私もカルキノスにたくさん助けてもらったから。」
カルキノスが首を傾げる。
「俺が?」
「うん。」
「いつだよ。」
ヒュドラは少しだけ微笑んだ。
「いっぱい。」
「またそれか。」
「本当にいっぱい。」
「だから具体的に言えって。」
「じゃあ今から話してあげる。」
ヒュドラは立ち上がる。そして秘密基地の奥へ向かって歩き出した。
「カルキノスが忘れてる話。私がずっと覚えてた話。全部話すよ。着いてきて。」
カルキノスはヒュドラの後を追う
今度はヒュドラの記憶を聞くために