異世界に転生したら俺が二人になってた。【新生】 作:鳩夜(HATOYA)
──ドンッ! ドンッ!
「おい、起きろ! 返済日の朝だぞ!」
借金取りの怒鳴り声で、目が覚めた。
朝四時。薄暗いオフィスの天井が見える。俺は会社のソファで寝落ちしていた。
眠気をごまかして身体を起こすと、すぐにノックが続く。
「早く出ろ! 社長の代わりはお前なんだよ!」
そうだ。飛んだ社長の代わりに、すべての借金は“俺”が抱えている。
……いや、抱えさせられた、が正しい。
数ヶ月前、社長に呼び出されて言われた言葉を思い出す。
『副社長にしてやるよ。これからは俺と一緒に会社を支えてくれ』
無知だった俺は舞い上がった。
差し出された書類──借金契約書とも知らずに、名前を書いた。
その翌週、社長は金を持って姿を消した。
残されたのは、莫大な負債と、怒り狂った取引先と、
「金返せ」と迫る借金取り……そして俺だけ。
今日も朝から、電話は鳴り止まない。
「社長が逃げた? だからって責任はあなたでしょう!」
「支払いはどうするんですか!?」
「今すぐ来い!」
顧客対応とクレーム処理の嵐。
一歩間違えば倒れてしまいそうなほど胃が痛む。
借金取りには土下座させられ、取引先には怒鳴られ、
何百通ものメールを処理しているうちに、あっという間に深夜二時になっていた。
気づけば、今日も食事をとっていない。
食欲もないから、ゼリー飲料を一つ流し込んで、机に突っ伏す。
(……俺が、二人いればな)
心の底からそう思った。
片方が借金取りの対応をしている間に、もう片方が事務処理をする。
クレームで潰れそうになったら、もう一人が支えてくれる。
(二人いれば、助け合えたのに)
悔しさがこみ上げる。
(もっと努力して、もっと知識をつけていれば……こんな詐欺に騙されることもなかったのに)
けれど今の俺には、自分を高める時間すら残っていない。
倒れるまで働いて、倒れても働かされる。
(終わりが……見えない……)
視界がにじむ。
カタカタとキーボードの音が遠ざかっていく。
意識が薄れていく中──ふと気づいた。
目の前に“俺”が立っていた。
ぼんやりとした輪郭。
俺と同じ顔、同じ表情。けれど、不思議なほど優しい瞳をしている。
「……散々な人生だな、俺」
言葉に出たかどうかすら曖昧だ。
それでも“もう一人の俺”は、静かに微笑んだ。
その微笑みが、救いのように感じた。
そこで、完全に意識が途切れた。
──暗闇。
──遠くで、誰かの声。
「ティタ! フィアンが目覚めたよ!」
「ゼブ、本当!? ほら見て! ネビアも目を開けたわ!」
……誰だ? フィアン? ネビア?
ゆっくり瞼を開ける。
そこには、見知らぬ若い男女がいた。
温かい笑顔で、揺りかごを覗き込んでいる。
そして気づく。
視界が……二つある。
一方では男の顔を、もう一方では女の顔を見ていた。
(なに……これ……?)
泣き声が上がる。
同時に聞こえる二つの声──俺の声。
俺は、フィアンとネビアという名の、二人の赤ん坊として生まれていた。