異世界に転生したら俺が二人になってた。【新生】   作:鳩夜(HATOYA)

11 / 15
第10話 精霊たち

 小屋の中は、木の匂いがした。

 

 石の暖炉。古いけれど丁寧に使われているテーブル。

 そして、大樹の幹をくり抜いたような二段の寝床。

 

 生活が、ここにある。

 

「礼儀の正しい子たちだねぇ」

 

 老婆はそう言って、椅子に腰を下ろした。

 

「わしの名はアルネ。――ほれ、二人とも挨拶をなさい」

 

 袖の陰に隠れていた女の子が二人、ひょこっと顔を出す。

 

「こんにちは、ルーネです!」

「……テーネ」

 

 ルーネは明るい色の髪に、白い花冠。

 テーネは対照的に、暗い色の髪と、紫と黒の花冠。じとっとした目でこちらを見ている。

 

「……見すぎ」

「あ、ごめん」

 

 思わず謝ると、ルーネがくすっと笑った。

 

 ネビアが姿勢を正し、丁寧に名乗る。

 

「僕はネビアです。こちらはフィアンです」

「よろしく」

 

 アルネは目を細めた。

 

「こんな場所へ、どうやって来たんじゃ?」

 

 当然の問いだ。

 俺とネビアは一瞬だけ迷い、――正直に話すことにした。

 

「洞窟のダンジョンを進んでいるうちに、ここへ」

「子供だけで、ダンジョンを? ……危険じゃ」

 

 アルネの声が、少しだけ強くなる。

 

「やめておきなさい。命がいくつあっても足りん」

 

 心配は正しい。

 だが、俺たちには期限がある。

 

「それでも行かないとダメなんだ。六歳までに、シャドウナイトを倒さないといけない」

 

 その言葉を口にした瞬間、アルネの顔色が変わった。

 

「……試練、か」

 

 俺たちの心臓が跳ねた。

 “試練”という言葉を、世界の誰かの口から聞いたのは初めてだった。

 

「坊やたち……最初の試練を、覚えておるのか」

「……ええ。覚えています」

 

 アルネは大きく息を吐き、ゆっくり頷いた。

 

「1歳の記憶があるのか……わしは試練の事はまったく覚えとらんかったが、結果的に足を踏み入れていたんじゃ」

 

 ルーネとテーネが、黙ってアルネの背中に手を添える。

 アルネは椅子に深く座り直した。

 

「わしがここに来たのは……ずいぶん昔の話じゃ」

 

・・・

・・

 

 アルネは昔話をしてくれた。

 要点はこうだった。

 

 彼女はかつて、この辺りにあるという呪われた剣を探しながら、村の近くでシャドウ討伐や護衛をしていた。

 

 ある日、瘴気の異変に巻き込まれ、この場所へ“飛ばされた”。

 

 周囲は岩壁で、壊せない。出られない。

 唯一の抜け道は、子供がやっと通れる小さな穴――俺たちが来た穴だけ。

 

 そして、生活を続けるうちに、五年前――いや、もっと前から。

 大樹が光り、白と黒の球体が現れた。

 それが割れ、ルーネとテーネが生まれた。

 

 ここで、アルネは一度、暖炉の横の棚を指差した。

 

 そこには――薄い殻のような破片が置かれていた。

 綺麗な白と黒の模様。石でも木でもない。

 

(……作り話じゃない)

 

 ネビアも同じことを感じ取ったのだろう。視線が真剣になる。

 

「二人は……精霊じゃ」

「精霊……」

 

 ルーネは胸を張った。

 テーネは無表情のまま、じっと俺を見ている。

 

 アルネは続けた。

 

「試練というのは、討伐だけではない。生き残ること。辿り着くこと。出会うこと。……いろいろある」

 

 そして――アルネは、ぽつりと言った。

 

「わしは、四歳の頃。森で迷子になり、シャドウに襲われた。死に物狂いで倒したがその後……女神のような者が現れての。達成を告げ、祝福を授けた。シャドウ討伐がわしの最初の試練だったんじゃ」

 

 ネビアが、静かに息を飲む。

 

「……祝福」

「闘気の“器”を広げられた。そこから、わしは強くなった」

 

 アルネは昔を思い出すように微笑んだ。

 だが、次の言葉は重かった。

 

「シャドウナイト……最初の試練としてはわしより遥かに重すぎる……」

 

 断言はしない。だが、真剣さが伝わる。

 

「正面からぶつかると危ない。……勝ち方を考えねばならん」

 

 俺は拳を握った。

 昨日の痛みが、背中を押してくる。

 

「勝ち方……」

「そうじゃ。強さだけでなく、知恵も要る」

 

 そこで、ルーネが割って入った。

 

「おばあちゃん、その話、長くなるでしょ! 二人、急いでるんだよ?」

「……そうじゃったな」

 

 アルネは咳払いし、話を切り替えた。

 

「ルーネ、テーネ。果実を取ってきておくれ」

 

 二人は返事をして外へ出ていく。

 

 小屋に残ったのは、俺たちとアルネだけになった。

 

「……坊やたち。もし本当にシャドウナイトの元へ行くなら、覚えておきなさい。怖さを捨てるな。怖いままで良い。怖いまま、動け」

 

 俺は一度だけ頷いた。

 

「アルネさん」

 

「なんじゃ」

 

「……俺たち、必ず戻ってくる。そしたら、ここから出る方法も一緒に探そう」

 

 アルネは目を細めた。

 

「優しい子じゃのう。……だが、無理はするな。まずは、生きて帰りなさい」

 

 その言葉は、祝福よりも重く感じた。

 

・・・

 

 しばらくして、ルーネとテーネが戻ってきた。

 籠には、真っ赤な球体の果実が山ほど入っている。

 

「これ、皮ごと食べられるよ!」

「……持っていけ」

 

 アルネも頷く。

 

「携帯食にちょうど良い。いくつか持っていきなさい」

 

 俺たちは礼を言い、果実をカバンに詰めた。

 

「もう行っちゃうの?」

 

「……もっと休めばいいのに」

 

 ルーネは寂しそうにし、テーネは目を逸らしたまま呟いた。

 

 俺は二人の頭の高さにしゃがみ、笑う。

 

「次に戻る時は、皆で外に出る。待っててくれ」

 

「ほんと!?」

 

「……約束」

 

 その言葉を背に、俺たちは小屋を出た。

 

 洞窟へ戻る穴へ向かいながら、ネビアが小さく言う。

 

「フィアン……試練って、僕たちだけのものじゃなかったんですね」

 

「ああ……女神の説明でそんな気はしてたが……これは世界の仕組みだ」

 

 "私はこの世界に生を受けた者に“試練”を与える存在です。"

 そう言ってたからな。アルネさんはシャドウ、で俺たちはシャドウナイト。

 難易度に大きな違いがあるのは少し気になるが……

 

 だが俺たちは“特別な主人公”じゃない。

 しっかりと期限までにやろう。

 

 洞窟の暗さが近づくにつれ、心が静かに冷えていく。

 

 怖い。

 でも、動ける。

 

「ネビア。行くぞ」

「はい」

 

 シャドウナイトへ繋がる道は、もう近い。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。