異世界に転生したら俺が二人になってた。【新生】 作:鳩夜(HATOYA)
俺達は小さな穴を抜け、分岐路へと戻った。
「……もう一つの道、行こう」
「はい。ここまで来たら、戻る理由はありません」
言葉にした瞬間、胸の奥がざわついた。
理由は分からない。ただ――嫌な予感だけが、はっきりと存在している。
しばらく進むと、不自然なほど整った長方形の入り口が見えてきた。
「……また、か」
「前に閉じ込められた場所と似ていますね」
前回とは比べ物にならない悪寒が背筋を這い上がる。
ここにいる。
そう直感するには十分すぎるほどの圧だった。
俺達は深く息を吸い、同時に踏み出した。
・・・
内部に入った瞬間、空気が変わった。
冷たい。
重い。
まるで呼吸そのものを拒絶されているような感覚。
背後を振り返ると、瘴気が壁のようにせり上がり、退路を完全に塞いでいた。
「……逃げ場、なしですね」
「ああ。腹くくるしかない」
視線を前に戻した、その時だった。
玉座。
漆黒のそれが、部屋の奥に鎮座している。
そして――
その脇に、一本の剣が突き立てられていた。
「……剣?」
次の瞬間、剣を中心に黒い瘴気が渦を巻き始めた。
「ネビア、来るぞ!」
瘴気は爆発するように四散し、視界を覆い尽くす。
一瞬、何も見えなくなる。
――ガシャン
重い金属音。
瘴気が晴れた先に立っていたのは、人型の影だった。
全身を覆う漆黒の鎧。
そして、先ほどの剣を手にしている。
その存在感は、今までのシャドウとは明らかに違う。
「……シャドウナイト」
「……っ、底が……見えません……!」
ネビアの声が震えている。
俺自身も、喉がひくりと引き攣った。
「大丈夫だ。やることは変わらない」
そう言い聞かせるように、ネビアの背を叩く。
「……先手必勝だ」
・・・
ネビアが光の玉を展開し、即座に魔法陣を描く。
(ネビア)――ウインドスピア×4
放たれた風の槍は――
シャドウナイトが剣を一振りしただけで、霧散した。
「な……っ!」
剣の一撃。
それだけで、魔法が“消えた”。
「ネビア、全力だ!」
ネビアは歯を食いしばり、[アイススパイク]を二つ同時に展開する。
だが――
一つは避けられ、
もう一つは、剣で魔法陣そのものを突き砕かれた。
直後、黒い半月状の剣気が放たれる。
「ネビア!」
俺は咄嗟に前へ出て、魔装魂に限界まで闘気を込めた。
――ドンッ、ドンッ、ドンッ!
「ぐ……ッ!」
防いだ。
だが、衝撃が骨まで響く。
これは……剣技か?
違う。
攻めでも、守りでも、受け流しでもない。
型が存在しないのに、完成している。
理解できない。
だから、怖い。
シャドウナイトが剣を掲げる。
剣の周囲に、瘴気が渦を巻く。
「……最悪だ」
瘴気の中から、赤いシャドウウォーカーが次々と現れた。
「雑魚を先に!」
「はい!」
俺は[ブレードブラスト]を連続で放つ。
三発目で、木剣が音を立てて崩れ落ちた。
「くそ……!」
ナイフに持ち替えた、その瞬間。
シャドウナイトが動いた。
狙いは――ネビア。
「――ッ!」
《閃光脚》で割り込み、庇う。
だが。
「……重い……!」
直後、背後で声にならない悲鳴が上がった。
振り返った瞬間、視界が歪む。
ネビアの右脚が――なかった。
「ネビア!!」
その一瞬の隙。
――ザンッ!!
胸を貫く衝撃。
咄嗟に身体を捻り、致命傷は避けたが、膝が崩れ落ちる。
シャドウナイトが、剣を掲げる。
終わりだ。
そう思った瞬間、走馬灯が流れた。
ネビアと二人で苦労しながら魔法を覚えたことや修行の日々……
それは社畜の頃ではなく……
ネビアと過ごした日々ばかりだった。
「……フィアン……手を……」
震える声。
俺は、力の入らない手でネビアの手を握った。
「……ありがとう……」
「……こちらこそだ……」
抱きしめる。
そして、意識が――闇に沈んだ。