異世界に転生したら俺が二人になってた。【新生】 作:鳩夜(HATOYA)
俺たちは、四歳になっていた。
この日も、両親は揃って外出していた。
聞き耳を立てていると、どうやら村の近くでダンジョンが見つかったらしい。
(ダンジョン……シャドウナイトがいる可能性もある、か?)
一瞬そう思ったが、すぐに頭を振る。
今の俺たちが行く場所じゃない。
この頃には、水と火の基本魔法は一通り扱えるようになっていた。
焚き火ほどの火を生み出す火見習い級。
球体にして保持する魔法。
それを射出する初級魔法。
名前を覚えるより先に、手が勝手に動く。
そんな感覚だった。
最初は、指先で魔法陣を描く速度をひたすら鍛えていた。
攻撃系の魔法陣は複雑で、完成まで何分もかかっていたが──今では二十秒ほど。
……だが、それ以上は縮まらない。
「もっと早くできないかな」
「同時に描けたらいいのでは?」
ネビアのその一言で、世界が開けた。
複数の光の玉を浮かべ、それぞれに線を描かせる。
三つで一気に描くと、五秒ほどで完成するようになった。
ネビアはというと、七つの光の玉を操り、一秒もかからない。
……相変わらず魔法の才能は桁違いだ。
光の玉で描く方法には、もう一つ大きな利点があった。
本来、魔法陣を描いた後には、手をかざして魔力を込める必要がある。
だが、光の玉そのものに魔力を込めて浮かべているため、その工程がいらない。
描いた瞬間に、発動条件が揃う。
理解が進むほど、魔法陣は“絵”ではなく“命令文”に見えてきた。
火や水の性質部分は違っても、
「丸める」「射出する」といった動作に関わる模様は共通している。
(これ……プログラミングだな)
そう気づいた瞬間、魔法が一気に面白くなった。
夢中になっていると、ふと違和感を覚えた。
……静かすぎる。
「あれ?」
火の魔法を消すと、辺りは完全な闇に包まれていた。
「やばい、何時だこれ!!」
とっさにライトペイントを発動し、周囲を照らす。
過去一で遅い時間だ。
「ネビア、帰るぞ!!」
「はい!」
荷物をまとめ、ネビアを背中に乗せる。
「最速で行く! しっかり掴まれ!」
返事と同時に、全力疾走。
今までで一番速い。
途中、松明の光と人影が見えた気がしたが、構っていられない。
家に着くと、まだ誰も帰っていなかった。
(よし……)
窓から入ろうとした、その瞬間──
バンッ!
「フィアン、ネビア!?」
扉が開き、ティタの声が響いた。
俺はすでに中。
ネビアは窓に足をかけ、尻をこちらに向けたまま固まっている。
どう見ても、外から入ってきた直後だった。
遅れて、汗だくのゼブが帰ってきた。
「……二人とも。森の奥から走ってきたのは、君たちだね?」
俺とネビアは顔を見合わせた。
……もう誤魔化す意味はない。
「ごめんなさい。こっそり森で遊んでました」
「その本も、持ち出したんだね?」
ネビアが持っていた《魔法教本 水・火編》を、ゼブが指差す。
「はい……魔法に興味が出て……」
ゼブはため息をついたが、ティタは目を輝かせた。
「で!? 魔法は出来たの!?」
「ちょ、ティタ……!」
「まぁいいじゃない! ちゃんと帰ってきてるし!」
止まらない。
「……描いてる魔法は、全部使えるよ」
そう答えると、ゼブは目を見開いた。
「その歳で……? 魔力、足りたのかい?」
説明より、見せた方が早い。
俺たちはライトペイントを空中に走らせ、即座に魔法を発動させた。
ゼブは、完全に言葉を失っていた。
「……その描き方、初めて見る……!」
質問攻めに合い、ネビアが実演しながら答える。
だがしばらくして、ゼブは首を振った。
「……無理だ。光の玉一つ出すだけで精一杯だ」
「え、そんなに凄いんですか?」
ネビアは七つの光の玉を浮かべたまま言う。
「凄いとも。まるで“瞬撃の魔術師”だ」
大昔、光の玉を操り、魔法を一瞬で放った伝説の魔法使いだそうだ。一度会ってみたいものだな。
学校では、ライトペイントを覚えたら、すぐ属性魔法に進む。
“ペンの持ち方”を極める者はいないのだ。
知らなかったからこそ、辿り着いた技術。
ゼブは、これは教え甲斐があると笑った。
その日から、両親は正式に修行に付き合ってくれるようになった。
勉強、魔法、剣技、休日は実戦訓練。
森に出る許可も出たが、
光の線を越えてはいけない──そこから先は魔物とシャドウが出る。
“シャドウ”。
その言葉を聞いた時、胸が高鳴った。
そして……
才能の差ははっきりしてきた。
魔法はネビア。
剣と体力は俺。
剣技では、ネビアが先に倒れる。
だが魔法では、俺が先に息切れする。
「フィアンは闘気、ネビアは魔力が多いみたいだね」
剣技の型も教わるようになった。
守型、攻型、柔型。
ティタは柔型。
闘気で身体を強化し、爆発的な速度で動く。
俺がネビアを背負って走れたのは、
柔型初級剣技《閃光脚》を無意識に使っていたからだという。
・・・
──そして一年が過ぎた。
俺とネビアは、五歳になっていた。
身長は百二十センチ近く。
剣も魔法も、確実に強くなった。
だが同時に、焦りもあった。
六歳までに、シャドウナイトを倒す。
つまり──残された時間は、もう一年もない。
俺は剣を握り、ネビアは魔力を巡らせる。
まだ、足りない。
もっと強くならなければならない。