異世界に転生したら俺が二人になってた。【新生】   作:鳩夜(HATOYA)

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第4話 シャドウ討伐

 ――もう、あまり時間がない。

 

 その言葉が、俺とネビアの口から同時にこぼれた。

 互いに顔を見合わせ、苦笑する。

 

 考えていることは同じだ。

 試練の期限は六歳。もう一年を切っている。

 

「準備は……一応、整いつつあると思う」

 

 俺がそう言うと、ネビアも小さくうなずいた。

 

 ゼブの書斎にあった触媒紙を使い、光初級魔法《ヒーリングライト》も習得した。

 怪我を完全に治すことはできないが、応急処置としては十分だ。

 

 さらに丸めて射出する術式を組み込めば、

 “回復の球”として飛ばすこともできる。

 

 実戦でどこまで使えるかは未知数だが、

 回復手段があるという事実は大きかった。

 

 一方で、差もはっきりしてきている。

 

 中級以上の魔法になると、俺は失敗が増える。

 魔法陣のどこかが歪んだり、魔力の流し方を誤ったりする。

 

 ネビアは、そんな俺の陣を一目見て言う。

 

「ここ、命令が重なってます」

 

「……あ、本当だ」

 

 上級魔法に至っては、ほとんど成功しない。

 

 結論は明確だった。

 

 ――俺は、剣。

 ――ネビアは、魔法。

 

 初級魔法と剣技を組み合わせて戦う方が、

 今の俺には向いている。

 

「……そろそろ行くか。光の線の外」

 

「僕も、そう思っていました」

 

 ゼブから、シャドウについても色々と教わった。

 

 きっかけは本当に些細な疑問だった。

 

「父さん、いつも食べてる干し肉って、なんの肉?」

 

 その答えが、ここまで重い意味を持つとは思っていなかった。

 

 この世界では、生物は死ぬと“魂片”となって消える。

 だが、シャドウに憑依された動物――魔物だけは違う。

 

 倒すと、肉体は残り、

 シャドウだけが魂片となって消滅する。

 

 つまり、俺たちが食べていた干し肉は

 動物のウサギにシャドウが憑依した“シャドウラビット”だった。

 

 そして、シャドウは瘴気の濃い場所に現れる。

 

 村は、光の線で囲われている。

 光中級魔法《浄化の光》による結界だそうだ。

 

 線の内側は安全。

 外側は――シャドウが出る。

 

 森は、昼夜を問わず薄暗く、瘴気が漂う場所。

 シャドウナイトがいるダンジョンも、間違いなくその外だ。

 

「……こっそり出るしかないな」

 

 次の休日。

 俺たちは、必要最低限の準備を整えた。

 

 食料、ヒーリングライトの触媒紙。

 剣技の練習で使っていた木剣と、革の籠手。

 

「あ、ネビア。《魔装魂》はもう大丈夫か?」

 

「はい。安定して使えます」

 

 守型見習い級剣技《魔装魂》。

 魔力と闘気で全身を薄く覆い、防御力と瘴気耐性を高める技だ。

 

 ただし、武器に闘気を纏わせられるのは、今のところ俺だけ。

 

「役割分担は決めたとおりだ」

 

 俺が前衛で剣技。

 ネビアは後衛で魔法を使う。

 

 そう決めて、休日を迎えた。

 

「両親は行きましたね」

 

「よし。ネビア、背中に乗れ。光の線まで一気に行く」

 

 少しでも時間を稼ぐため、

 俺は《閃光脚》で全速力を出した。

 

 光の線の手前で立ち止まり、最後の確認をする。

 

「……この先から、シャドウが出る」

 

「気を引き締めましょう」

 

 一歩、踏み出した瞬間。

 

 空気が、冷たい。

 

 森は霧に包まれ、昼なのに薄暗い。

 光の線の内側とは、まるで別世界だった。

 

「照らしたいですが……先に気づかれるかもしれません」

 

「ああ。目を慣らして進もう」

 

 真っ直ぐ、慎重に進む。

 

 しばらくして――

 

「フィアン。居ました」

 

 前方、十メートルほど先。

 黒い霧の塊が、ゆらゆらと動いている。

 

 中心には、赤いコア。

 

 ――シャドウだ。

 

「決めた通りだ。まずはネビア」

 

 未知の相手だ。

 遠距離から削る。

 

「行きます」

 

 ネビアが姿を見せると、

 シャドウが反応し、ゆっくりと近づいてきた。

 

 全長二メートルほど。

 子供の俺たちには、十分すぎる威圧感だ。

 

 ネビアは左腕の籠手で構え、

 右手に光の玉を展開する。

 

 一瞬で二つの魔法陣が描かれていく。

 

 風初級魔法《ウインドスピア》。

 

 二本の風の槍が、一直線に飛んだ。

 

 ――バリンッ。

 

 コアが砕け、シャドウは霧散した。

 

「……一撃だな」

 

「厳密にいえば二撃ですね」

 

 倒れた場所には、

 無色のガラス片のような欠片が落ちていた。

 

「気になるけど……持って帰ると、バレるよな……」

 

「ですね。とりあえずここに隠しましょう」

 

 革袋に入れ、次を探す。

 

 ほどなく、二体目を見つけた。

 

 影も、コアも、倍ほどの大きさ。

 

「俺が行く」

 

 今度は俺の番だ。

 

 剣と脚に闘気を込め、

 一気に距離を詰める。

 

《閃光脚》

 

 視界が歪むほどの速度。

 

 コアに向け、剣を振り下ろす。

 

《魔装・一閃》

 

 闘気が刃先を越え、

 一直線に走った。

 

 ――砕ける音。

 

 シャドウは消滅した。

 

「……倒せたな」

 

 少し汗がにじむ。

 疲労ではなく、緊張の反動だ。

 

「フィアン、すごいです。全然見えませんでした」

 

「そのうち見えるようになるさ」

 

 その後も、数体討伐した。

 

 だが――

 

「この剣、限界だな」

 

 木剣は内部から焼け、空洞になっている。

 闘気の負荷に耐えられない。

 

「今日は、ここまでにしましょう」

 

「そうだな」

 

 簡易的に作っていた隠し場所へ戻り、

 欠片と荷物を置く。

 

 ――途中、森の奥で松明の光と人影を見た気がした。

 

 見られたかもしれない。

 次は、気をつけよう。

 

 俺たちは何事もなかったように家へ戻った。

 

 今日得たものは、大きい。

 

 シャドウは――倒せる。

 だが、これは本命じゃない。

 

 森の奥、ダンジョン最奥にいる存在。

 

 シャドウナイト。

 

 ――本当の戦いは、これからだ。

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