異世界に転生したら俺が二人になってた。【新生】 作:鳩夜(HATOYA)
「フィアン、疲れないですか? こんなに飛ばして……」
背中から、ネビアの少し心配そうな声が聞こえた。
俺は《閃光脚》で全力疾走しているにも関わらず、呼吸一つ乱れていない。
「全然だな。自分でも不思議なくらいだ」
そう答えた直後、目的地が見えた。
森の奥、瘴気が濃く淀む場所にぽっかりと口を開けた洞窟。
近くで見ると、薄気味悪さが一層際立つ。
「……ここだな」
洞窟の前で立ち止まり、俺はネビアに声を掛けた。
「魔装魂、しっかり纏っておけよ」
「はい。フィアンも」
互いを確認し、改めて全身を覆うように魔装魂を展開する。
そして、俺達は並んで一歩を踏み出した。
緊張はあった。
だが、それ以上に――胸の奥が、静かに高鳴っていた。
・・・
洞窟に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
気温が一気に下がり、壁や足元には濁った紫色の瘴気が漂っている。
視界は悪く、奥行きが掴みにくい。
「なぁ、この煙……結婚式の入場で使うアイススモークみたいだな」
「あはは。色はだいぶ物騒ですけどね」
ネビアはそう言いながら、光初級魔法《ライトウィスプ》を描いた。
淡い光が周囲を照らし、何とか前方を確認できるようになる。
一本道の洞窟。
迷う心配はないが――。
「……シャドウ、出てこないな」
「ですね。入口より、瘴気が薄い気もします」
拍子抜けするほど、何も起こらない。
そのまま進んでいくと、前方に淡い光が見えた。
「ネビア、あれ……」
「ええ、見えます」
近づくと、円柱状の光のエリアが広がっており、中心には触媒紙が置かれていた。
「瘴気が、ほとんどありません」
「これ……父さんが言ってた[浄化の光]だな」
まだ教えてもらっていない、中級の光魔法。
親達が、ここまで来た証拠でもある。
ネビアは触媒紙をじっと見つめた後、静かに頷いた。
「覚えました。休憩するなら、これを使いましょう」
「頼もしいな」
そうして、さらに奥へ進む。
その後も、いくつか《浄化の光》が設置されていた。
間隔が妙に短い場所もあり、胸の奥がざわつく。
「ここで……引き返したのかもな」
「……そうですね」
この先の瘴気は、明らかに違った。
腰の高さだった瘴気は、いつの間にか顔の近くまで迫っている。
光が吸い込まれていくようで、視界は一段と悪い。
「進もう。気を付けるぞ」
「はい」
・・・
「フィアン、前方から魔力を感じます。来ます!」
ネビアの声と同時に、瘴気の中から影が現れた。
二足歩行。
黄色く光るコアを中心に、人型に近い輪郭。
「……何だ、あいつ」
「強い魔力反応です。でも……」
ネビアは即座に魔法陣を描いた。
(ネビア)――《ウインドスピア》×4
四本の風の槍が、同時に突き刺さる。
――ザシュッ
人型シャドウは、あっさりと消滅した。
「……想定内ですね」
「だな。シャドウウォーカーってやつか」
ゼブから聞いた話と一致する。
姿がはっきりした、上位のシャドウ。
「次も、同じなら――」
「僕が対応します」
頼もしい言葉だった。
そのまま、さらに奥へ。
・・・
「……瘴気、さらに濃くなってます」
ネビアの声が、わずかに強張る。
次の瞬間だった。
「フィアン! 二体来ます、下がって!」
言われるがまま後退すると、目の前に二体のシャドウが姿を現した。
青色のコア。
手には、棒状の武器。
「武器持ちか……」
「黄色より魔力が高いです。近づかないでください!」
ネビアは再び《ウインドスピア》を放つ。
だが――
ガンッ、と嫌な音がして、魔法は弾かれた。
「……っ!」
俺は即座に木の剣を構える。
「フィアン、動きを止めます! その後、トドメを!」
ネビアは光の玉を一気に十五個展開した。
それらが敵の足元へ滑り込み、瞬時に魔法陣を描く。
(ネビア)――《アイススパイク》×2
氷の刃が地面から突き上がる。
一体は砕け、もう一体は――かろうじて残った。
「今だ!」
(フィアン)――《魔装・一閃》
剣を振り抜く。
闘気の刃が、残ったシャドウを両断し、完全に消し飛ばした。
「……よし」
「対応できましたね」
俺達は、自然と息をついた。
「少し手間取ったけど……問題ないな」
「はい。ここまでは」
そう、この時点では――。
俺達はまだ、
すべてが想定内だと思っていた。
どこかで、確実に。
油断してしまっていた。