異世界に転生したら俺が二人になってた。【新生】   作:鳩夜(HATOYA)

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第8話 現実の痛み

「ここは……少しだけ瘴気が薄いな」

「そうですね……浄化の光をします」

 

 ネビアがそう言い、光の玉で魔法陣を描く。

 淡い光が広がり、重くまとわりついていた瘴気が消えていった。

 

 一本道の洞窟を進み始めて、もう七時間ほど経つ。

 迷うことはないが、引き返す気にもなれない距離だ。

 

「少し、休憩しましょうか」

「そうだな」

 

 俺たちは荷物を下ろし、パンと干し肉を取り出した。

 

 ネビアは火見習い級魔法《バーンファイヤ》で小さな炎を灯し、

 鍋に水魔法で水を溜める。

 

「いただきます」

 

 干し肉を噛みしめる。

 塩分が強く、味が凝縮されているが――今はそれが妙に美味かった。

 

「身体は全然平気なんだけど……」

「頭の方が、疲れてる感じですね」

 

 ネビアの言葉に、俺は小さく頷いた。

 

 火を囲んでいると、まるでキャンプみたいだ。

 薪のぱちぱちという音が無いのが、少しだけ寂しい。

 

 短い休憩を終え、俺たちは再び立ち上がった。

 

・・・

 

 奥へ進むにつれて、洞窟は緩やかな下り坂になっていく。

 瘴気は、確実に濃くなっていた。

 

「フィアン、前方……二体、来ます!」

 

 今度は、俺にも分かった。

 獣のような気配。

 

「ネビア、前だ!」

 

 次の瞬間、瘴気の中から狼のような影が飛び出してきた。

 

「……シャドウハウンド」

「初めて見ますね」

 

 俺は即座に横へ跳び、ネビアに飛びかかった個体を剣で叩き落とす。

 

 怯んだ瞬間を逃さず、

 

(ネビア)――ウインドスピア×4

 

 風の槍が突き刺さり、シャドウハウンドは消滅した。

 

 俺を狙ったもう一体が反転し、再び跳躍する。

 

 直線的な動き。

 目で、完全に追えていた。

 

(フィアン)――ブーストスラッシュ

 

 手に闘気を込め、一気に叩きつける。

 木の剣が軋みながらも、シャドウハウンドを地面に叩き伏せた。

 

「これが……魔物」

「動物にシャドウが憑依した存在、ですね」

 

 消えずに残った死体を見下ろしながら、俺は呟いた。

 

「俺たちが食べてる干し肉って、シャドウラビットだよな。シャドウハウンドは一体どんな……」

「……気になりますが、今回はやめておきましょう」

 

 ネビアはそう言って、俺の腕を引いた。

 

・・・

 

 さらに奥へ進むと、不自然な入口が現れた。

 

 長方形。

 あまりにも整いすぎた形。

 

 その周囲には、今までとは比べ物にならないほどの黒い瘴気が漂っている。

 

「……ここが最後か?」

「シャドウナイトが居ても、おかしくないですね」

 

 俺たちは顔を見合わせ、小さく頷いた。

 

 そして、恐る恐る中へ踏み込む。

 

 中は、歪な円形の空間だった。

 中央には、バランスボールほどの大きさの、どす黒い瘴気の塊。

 

 それを視認した瞬間――

 

 背後の入口が、濃い瘴気で塞がれた。

 

「……戻れませんね」

「触ると、ピリッとするな」

 

 退路を断たれた。

 胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。

 

「フィアン、中央の瘴気が……動きます!」

 

 瘴気の塊が激しく脈動し、四散した。

 周囲の瘴気を取り込み、形を成していく。

 

 現れたのは――

 

 真っ赤なコアを持つシャドウウォーカーが一体。

 青いウォーカーが二体。

 そして、シャドウハウンドが一匹。

 

 赤いウォーカーの手には、瘴気で形成された剣が握られていた。

 

「……先に、ハウンドだ!」

「了解です!」

 

(ネビア)――アイススパイク×2

 

 氷の刃が地面から突き上がる。

 

 同時に、俺は《閃光脚》で距離を詰めていた。

 

(フィアン)――魔装・一閃

 

 一匹目のシャドウハウンドを斬る。

 勢いのまま、足止めされていた青いウォーカーも両断した。

 

 ――次の瞬間。

 

「フィアン!」

 

 ネビアの叫び。

 

 振り向いた俺の視界に、赤いウォーカーが映った。

 剣を振り上げ、ネビアへ斬りかかろうとしている。

 

 反射的に、俺は飛び込んだ。

 

(フィアン)――魔装・一閃

 

 ――キンッ!

 

「……なっ!?」

 

 弾かれた。

 

 次の瞬間、流れるような動きで突きが放たれる。

 

 ――ザシュッ!!

 

 咄嗟に身体を捻り、心臓は外した。

 だが、右肩に深い衝撃。

 

「――っ!!」

 

 痛い。

 鋭く、焼けるような痛み。

 

 今まで感じたことのない感覚だった。

 

 どこかで、ゲームのように思っていた。

 だが、この痛みは――現実だった。

 

 恐怖が、じわじわと広がる。

 剣を落とし、逃げたい衝動に支配されそうになる。

 

「フィアン! 触媒紙! 回復を!」

 

 ネビアの声が、頭を叩いた。

 同時に、彼は《ウォータースプラッシュ》を放ち、赤いウォーカーを吹き飛ばす。

 

 俺は震える手で、《ヒーリングライトの触媒紙》を右肩に当てた。

 光が走り、激痛が引いていく。

 

 ――ありがとう、ネビア。

 

 ここで折れたら、ネビアを一人にしてしまう。

 それだけは、絶対にダメだ。

 

 落とした剣を拾い、闘気を込める。

 

(フィアン)――ブレードブラスト

 

 制御なんて考えなかった。

 ただ、叩き潰す。

 

 闘気の刃が赤いウォーカーのコアを貫き、消滅させた。

 

 そして、ダメージを負ったシャドウハウンドは怯え、動けない。

 

(ネビア)――アイススパイク

 

 氷の刃が突き刺さり、消滅。

 

 最後の青いウォーカーには、

 

(フィアン)――ブレードブラスト

 

 で、完全に終わらせた。

 

 静寂が戻る。

 

 ネビアはすぐに《浄化の光》を設置した。

 

「今日は、ここで休みましょう……」

「……ああ」

 

・・・

・・

 

 夕食は、昼と同じ干し肉とパン。

 だが、喉を通らない。

 

 俺は無意識に右肩を押さえていた。

 

「ネビア……刺された時、俺、逃げ出したくなった」

「……」

 

「でも、ネビアの声で我に返った。本当にありがとう」

 

 ネビアは、悔しそうに俯いた。

 

「本来、攻撃を受けるのは僕でした。呼ばずに、回避できていれば……」

「違う。前に出るのは俺だ」

 

 前衛と後衛。

 役割は、はっきりしている。

 

 悔しさは、二人分あった。

 

 この世界では、傷は治る。

 だが、痛みと恐怖は――慣れなければならない。

 

「そういえば、血とかは出ないんだな。粒子は霧散したけど……」

「体の構造も以前とは異なるんでしょうね……」

「この世界では手術とかどうやるんだろうな?」

「ふふ。そんな話をしてる場合ではないですよ。寝ましょう」

 

 少しだけ和やかになり、そのまま俺たちは眠りについた。

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