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己の魂を武装────《
古い時代には昔話や物語、伝説などで登場する『魔法使い』や『魔女』とも呼ばれていた彼等は、現代における科学では測りえない力を備えており、最高峰の力を保有する者ならば時間の流れを操り、天候を変え、因果という目に見えぬ力さえ意のままだという。ならば最底辺の力しか持たない者ならばどうかと問われれば、やはり持たざる者と比較することさえ烏滸がましい程の超人的な身体を持つのだ。
人の形をしていながら、人ならざる力を振るう超常の存在。
武器や兵器でさえ太刀打ちすることが出来ない神秘の力。
その力の臨界点────運命を超越した者のことも説明しておこう。
まず、通常の伐刀者は、魔力と呼ばれる異能を用いるための精神エネルギーを用いてその超常の力を振るう。しかし、その力は無制限に振るえるわけではない。
個々の伐刀者の総魔力量は努力では伸ばせず、その個人が生まれ持った魔力の限りでしか彼等はその力を振るえないのだ。そして、伐刀者はこのことを生まれ持ち、果たすべき運命の形がその魔力量を決定づけていると語っている。故にこそ、現代では伐刀者の魔力に応じてAからFといったランク付けがなされているのである。
だが、その運命を超越した者たちがいる。
その存在を知る者たちは彼等をこう呼んだ────《
運命によって定められた才能の限界を打ち破った者。自らの才能の限界を知り、研鑽を重ねることによって《
だからといって、誰もが
自身の限界を打ち破る────なるほど、言葉にすればさも簡単に聞こえる。だが、魔力を持たない只人でさえ、自身の限界とはどこなのか、把握しているものが一体どれほどいるだろうか?極一部のアスリートならば可能かもしれない。彼等は今という自分を粉々にして、新たに自分を作り直すことに狂気的なまでに力を注ぐ者たちだ。しかし、壊し続けた先にあるのは身体の劣化だ。ある一定のラインまで至ってしまえば、そこからさらに上へと伸びることはない。寧ろそこからは下がる一方だ。
構造的に同じな伐刀者もこの範疇を外れることはない。どれだけ鍛えようと、
即ち────魔人への覚醒に至るには、死に物狂いでは足りず、死んで尚踏み越える
そんなこと、果たして何人が出来るだろうか。特異な存在とはいえ、伐刀者もまた人間であることには変わりない。伐刀者の誰もが戦いに身を置くことを是としているわけではないのだ。
よって、これ等の事実を知るものはこの魔人という存在そのものを秘匿した。「限界を超えることは可能」という事実そのものが、才能の限界を超えさせるための非人道的な計画につながりうるとして────。
何故、このような存在を語ったのか。それには意味があるのだ。
これから語る存在は、そんな領域外の外側───魔人という存在を知っていることを前提とした更に外の話なのだから。
繰り返し告げるが、魔人とは伐刀者が研鑽を積んだ果て、更に限界を超え自らが引力を持った星になった存在のことだ。即ち───
ならば、もしも
これは、そんなもしもを体現した者───魔人の娘、名を
──────────ふと、目が覚めた。
切りよく終わりまで至った物語を見終わった途端、プツンと画面が真っ暗になったような、そんな夢からの目覚めだった。夢を見た感想は特にない。なにせ、取るに足らない夢なのだから。腹が膨れるでも、欲が満ちるわけでもない。唯々不快な疲れが体を蝕むのみ。尤も、寝ていようが起きていようが何かしらして疲れるのだから、不快と言っても瞬間的なものでしかない。
よく周囲の者─────主に
何もしたくない日は何もしたくないし、何かをしたい日はその通りにしたい。それで障害になるモノはどかしたいし、やっぱり何もしたくないと動かない。その程度の簡単な話である。
しかし、それに共感を覚えるものは数少なく、そしてその少ない者達は総じて奇人変人ばかり。特に奇人変人の中でも飛び切りにイカレた親代わりが心底同意を示したのはなんか、嫌だった。
そんなどうでもいいことを思い返していると、寝室の襖を勢いよく開け、その反動でまた勢いよく戻った襖にぶつかった奴がぎゃふんと言葉にしながら立っていた。
「いってぇ……っ起きろ霊夢!!始業式だ──ぞい!!!」
その主はとてもやかましく、うきうきとした声音で霊夢が寝てる布団へ飛び込んだ。そのまま抱き着かんとするも、霊夢と呼ばれた少女は寝返りと共に右腕を上げており、飛び込んできた主へ丁度当たる位置に肘を振りぬいた。
ガゴッ!!!!!!───と鳴ってはいけない音を響かせながら吹き飛ぶ何奴か。そのままゴロゴロと転がり止まると、霊夢の肘が当たった個所を蹲りながら抑えていた。
「お゛っふ゛………霊夢゛……肘はダメだって゛……ッ゛」
「んぅ………うっさいわよ寧音、飛び込んできた方が悪いでしょうが」
寝ぼけながらも上体を起こし、背伸びをしながらも視線だけを蹲ってる物体──基、寧音と呼ばれた黒髪の少女へ向けた。のそのそと起き上がる少女──寧音はぶすっといじけた様な顔をしながらも寝間着姿の霊夢へとにじり寄る。霊夢はそんな寧音に対して全くと言っていい程警戒をしていない。なんせ、このまま己に抱き着こうとしようが
「むう………相変わらず隙だらけなのに近づけないねぇ~」
「そりゃ寝間着姿の私に近づいてきたらぶっ飛ばすわよ。あ、着替え中もね」
「ちぇ……もうちょっとスキンシップさせてくれたっていいじゃんかよ~」
「ただのスキンシップじゃすまないから言ってんでしょうが、最近手つきがいやらしいし」
いつもの中身のない言い合いをしながらも寧音と霊夢は彼女が着替え終えると同時にヤル気が漂っていた空気を四散させた。
寝室を出ると広い座敷に縦長のテーブルとその両脇に藍色の座布団が敷かれている。更に奥の方では広々とした台所と冷蔵庫が設置されている。日差しが差し込む縁側の外側は広々とした庭があり、立派な木々は手入れが行き届いている。どこからどう見ても大変立派な屋敷に住んでいると思われる霊夢と寧音。近所の住宅と比べてもやはり二回りくらいは大きい。尤もその分掃除が大変だと霊夢は面倒くさがっているのだが、それはそれ。
霊夢と寧音は昨夜に作っておいた(霊夢が用意した)おかずとインスタントの味噌汁、冷蔵庫に入れていた保存容器の中にあるご飯を温めて軽い朝食をとった。
「んで、まだ6時だけどそんなに早いわけ?入学式」
「うんにゃ、始まりは8時30分ジャストだぜい。ただ此処からだと6時54分の始発のやつに乗らんと間に合わんだろ?」
「ああ……そういうこと。面倒くさいわよねえ、卒業するまで
「にゃはは、うちも一度は通った道だよん霊夢。そのわずらわしさは今しか味わえないってな」
心底面倒くさそうに吐き捨てる霊夢に寧音は懐かしげにしながらも嬉しそうに言葉を返す。
「それに、お前だけだぜ?基本寮生活の《破軍》で自宅から通学したいって理事長になったくーちゃんにわがまま言って通ったの」
「そりゃそうでしょ。通らなかったら推薦枠でも破軍には行かなかったわ。いちいち周りに気を使いながら生活するなんて私には無理よ」
「ま、同感だがな。うちもそうだけど霊夢に寮生活は合わないもんねぇ。……そ、れ、に──
言葉を区切ると寧音は霊夢の後ろから抱き着き、すりすりとほっぺをこすりつけていた。今度は霊夢も抵抗しない。
「霊夢はうちとの
「否定はしないわ。気を使わなくて済むし」
そう寧音にされるがまま、満更でもない霊夢は始発の時間になるまで縁側で日向ぼっこをするのだった。
これは─────幻想の都なき世にて、されどその身の〝天生〟は変わらずに在り続けた少女の運命に纏わる物語。