万事屋一行の『複合都市』生活   作:ex(イクス)

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いよいよ複合都市での生活をスタートさせる銀さんたち。
まずはご近所さんに挨拶回りに向かう様です。




万事屋in複合都市編
第1話:ご近所挨拶は基本だが、両隣のクセが強すぎて引越しを検討しています


「……というわけでね、新八。郷に入っては郷に従え、新天地に入ってはまずご近所への挨拶。これ、社会人の基本のキなわけよ」

 

坂田銀時は、手にした粗品(かぶき町で余ったティッシュ)をひらひらとさせながら、万事屋の玄関前に立っていた。

「いや、基本のキとか言う前に、外の景色が本当に狂ってるんですけど!? 左側はなんか超ハイテクな学園都市っぽくて、右側は崩壊した近未来の廃墟みたいになってますよ!?」

志村新八のツッコミが、早くも複合都市の空気へと吸い込まれていく。

「何ビビってるヨ新八。どんな奴が来ようが、この万事屋の神楽ちゃんが、ご近所トラブルの前に物理的に更地にしてやるアル」

神楽が鼻の穴をほじりながら物騒なことを言う中、銀時はまず、万事屋から見て右隣の建物(なぜかトタン屋根とハイテク機材が融合した奇妙なガレージ)のインターホンを押した。

 

「はーい、どちらさまで……って、げぇっ!?」

 

ドアを開けたのは、ピンクの髪にツインテール、そして爆発的なダイナマイトボディを持つ少女——『ゼンレスゾーンゼロ』のニコ・デマラだった。

「ニコさん!? いや、なんでアンタがここにいるのォォォ!?」

新八が秒速でメタな絶叫を上げる。

「ちょっと何よアンタたち! 人の店の隣に急に変な木造建築を生やしといて、挨拶の一言もないわけ!? ……って、あんたたちまさか、あの有名な『週刊少年ジャンプの貧乏何でも屋』!?」

「おいおい、人のことジャンプの貧乏何でも屋とか言うんじゃねーよ、ピンクウサギちゃん」

銀時が気だるげに前に出る。

「こちとら20年も看板背負ってんだ。っていうか、お前んとこも『邪兎屋』だろ? 知ってんだぞ、ホロウとかいうヤバい穴に潜って日銭稼いでるくせに、いつも依頼料を踏み倒されてる慢性的な赤字経営だってな!」

「なっ……! なんでそれを知ってんのよ! っていうか赤字じゃないわよ、これは『未来への投資』! ほら、ビリー! アンタからも何か言ってやりなさい!」

ニコが奥に向かって叫ぶと、赤いライダースーツを着た機械の男——ビリー・キッドが、特撮ヒーローのポーズを決めながらスライドしてきた。

「ハッハーーー! ニコ、こいつらが噂の『侍』って奴かい? だけど俺のスターライト・ナイトの銃撃に比べたら、木刀なんて——」

「あ、アンタは本物の変態メカじゃなくて、ホビーショップの棚で埃被ってそうなタイプのロボットネ。定春、噛んでいいアル」

「ガルルルルッ!」

「ぎゃあああああ!? 俺の超合金製(?)の頭がぁぁぁ!?」

ビリーが定春に頭を丸呑みにされてのたうち回る中、今度は万事屋の左隣の建物から、「ドカーーーーーン!!」と凄まじい爆発音が響き渡った。

 

「キャハハハ! 所詮はこれくらい、アウトローの私にかかれば朝飯前よ!」

 

煙の中から現れたのは、ロングヘアにコートを羽織った少女——『ブルーアーカイブ』の自称・冷酷な悪の経営者、陸八魔アル(と、その後ろで胃を押さえている副社長のハルカ、冷静なカヨコ、爆弾を弄ぶムツキ)だった。

「な、何なんだよ次はァァァ!?」

新八が左を向いて叫ぶ。

「今度は『ブルアカ』の『便利屋68』じゃねーか!! なんで世界の何でも屋がここに集結してんだよ!!」

「フッ……誰かと思えば、お隣に引っ越してきた哀れな一般市民ね」

アルはハードボイルドな表情を浮かべ、コートをなびかせた。

「私たちはキヴォトス、そしてこの複合都市をも震撼させる無法者、便利屋68よ。挨拶代わりに、うちのオフィス(※ただのプレハブ)の爆破ショーを見せてあげたわ!」

「いや、ただの自爆だろそれ!!」

銀時がすかさずツッコむ。

「おい、社長さんよぉ。お前も大層なこと言ってるけどな、知ってんだぞ? 悪の組織とか言いながら、指名手配されて逃げ回ってるし、家賃払えなくて炊き出しに並んでるレベルのポンコツだってな!」

「ぶ、ぶぶぶ、ポンコツって何よ!? 私は冷徹な社長よ!? ハルカ、こいつらにお仕置きを——」

「えっ……!? 社長をポンコツ呼ばわり……? 許さない……社長をバカにする奴は、私がバラバラにして、その木造建築ごと粉微塵にして、更地にして、爆破して——!!」

ハルカが狂気に満ちた目でショットガンをガシャリと構える。

「ストーーーップ!! 待って! 全員落ち着いて!!」

新八が両手を広げて間に割って入った。

「右を見れば、裏稼業のくせに借金まみれの『邪兎屋』! 左を見れば、悪党気取りなのに家賃滞納の『便利屋68』! そして真ん中には、パチンコで生活費を溶かすうちの『万事屋』!!」

新八は、絶望に満ちた顔で天を仰いだ。

「神様……なんでこの複合都市の『何でも屋エリア』は、どいつもこいつも極貧の経営破綻グループしかいないんですかァァァ!!!」

「おい新八、失礼だぞ。うちとあいつらを一緒にするな」

銀時が鼻をほじりながら言った。

「うちは『ジャンプのレジェンド』。あっちは『新進気鋭のソシャゲ』。格が違うんだよ、格が」

「どの口が言ってんのよ、この糖分過剰侍ぃぃ!!」

ニコが財布(空っぽ)を握りしめて怒鳴る。

「そうよ! 泥臭い少年漫画に、私たちの『ハードボイルド』は負けないわ!」

アルが(内心バクバクしながら)見栄を張る。

こうして、複合都市の片隅で、世界のルールを越えた「最底辺の何でも屋トリオ」による、最悪のご近所付き合いが幕を開けるのだった。

 

 

「もう嫌だ……。右を見ても左を見ても、うちと同じかそれ以上に財布が氷河期を迎えてる同業者しかいないなんて、この街の経済状況どうなってんの……?」

邪兎屋と便利屋68による騒音と怒号の嵐をなんとか聞き流し、志村新八は早くも胃を押さえていた。

「おいおい新八、諦めるのはまだ早いネ。世の中、類は友を呼ぶアル。きっとお向かいさんには、もっとまともで、酢昆布をケースごと恵んでくれるような富豪が住んでるに決まってるヨ」

神楽が定春の背中をポンポンと叩きながら、お気楽に道路の反対側を指差す。

そこにあったのは、複合都市の混沌とした街並みの中で、奇妙なほど「普通」に佇む一軒の個人商店だった。

看板には『坂本商店』の文字。

「お、おい見ろよ新八。普通の個人商店じゃねーか。なんかこう、昭和の温かみを感じるというか、おばあちゃんが店番してておまけにチロルチョコくれそうな安心感があるな」

坂田銀時はホッと胸をなでおろし、粗品のティッシュを握り直して道路を渡った。

ガラガラと小気密な音を立てて引き戸を開けると、店内のレジ奥には、信じられないほど丸々と太った、エプロン姿の眼鏡の男がのんびりと座っていた。

 

「いらっしゃい……」

 

ふくよかな顔に、穏やかな目。絵に描いたような「優しい商店の店主」——『SAKAMOTO DAYS』の坂本太郎である。

「あ、どうも〜。向かいの木造建築に、大人の事情で建物ごとスライドしてきた万事屋の坂田って言います。これ、つまんねーもんですけど、かぶき町のティッシュです」

銀時がティッシュを差し出すと、坂本はそれをコクンと受け取り、静かにレジの下へ片付けた。

(……あれ? 普通だ。めちゃくちゃ普通に良い人そうだぞ……!?)

新八は感動のあまり涙ぐみそうになっていた。両隣が「爆弾魔」と「定春に頭を丸呑みにされる機械」だったせいで、普通の人間(?)に会えただけで聖人に思える。

「あの、おじさん。ここって、どんなお店なんですか? 普通のスーパー的な……?」

新八が尋ねた、その瞬間だった。

坂本の穏やかな瞳が、一瞬だけ、文字通り「冷徹な暗殺者」のそれに変わったのを、銀時の野生の勘が見逃さなかった。

(……待て。こいつ、ただのデブじゃねぇ。体から放たれる殺気の密度が、完全に修羅の国のそれだぞ……!?)

坂本は口を開かない。ただ、頭の中で(……万事屋? 聞かない名だな。だが、あの白髪の男、腰の木刀の構えに隙がない。ただ者ではないな。もし店に危害を加えるなら、3秒でレジスターの角で脳天をかち割り、5秒で店の冷凍庫に生肉として陳列する……)と、恐ろしいシミュレーションを繰り広げていた。

「ひっ……!?」

なぜか新八が、その場にへたり込んだ。

「な、何これ!? おじさん一言もしゃべってないのに、僕の脳内に直接『お前をミンチにして特売品にする』ってイメージが流れ込んできたんですけどォォォ!?」

「あ、そっか。新八には聞こえないんだっけ」

店の奥から、金髪のスタイリッシュな少年——シンが、品出しの手を止めて気まずそうに歩み寄ってきた。

「すんません、うちの店長、基本しゃべらないんで。あと俺、エスパーなんすよ。だから店長の『殺しの思考』が周囲に漏れちゃったみたいで」

「エスパー!? いや、それより『殺しの思考』って何ぃぃぃ!?」

新八の叫び声に、さらに店の奥から、チャイナ服を着た小柄な少女——ルーが顔を出す。

「シン、うるさいヨ! お客さん困ってるネ! あ、そこのチャイナ服の女の子、アル、ネ、アル!」

「……あ? テメェ、誰に向かってニセ中国語使ってんだコラ。チャイナのバーゲンセールじゃねーんだよ。キャラ被りなんだよ」

神楽が即座にメンチを切る。

「なんだとコラ! 私の方が可愛いネ!」

「うるせーよ! こちとらアニメ4期に劇場版3本、さらに実写映画までやってんだよ! メディアミックスの歴史の重みが違うんだよォォォ!!」

「やめなさい神楽ちゃん! 向こうは今、ジャンプでめちゃくちゃノリにノってる現役バリバリの超人気アクション漫画だから! 掲載順で負けるから!!」

新八が必死に神楽を羽交い締めにし、シンはシンで「店長、あの白髪の人、たぶん本当に強いです。戦ったら店が半壊します」と坂本をなだめている。

その間も、坂本は無言のまま、店のモップの柄をいつでも武器に変換できる角度で握り直していた。

「おいおいおい……」

銀時は冷や汗を流しながら、店の奥にある『お惣菜コーナー』に目をやった。

「なぁ、お兄さん。あの『コロッケ 100円』の横にある『手製の手裏剣 500円』とか『特殊閃光弾 1200円』って何? 駄菓子感覚で殺傷兵器売ってんだけど、この店。コンプライアンスどうなってんの?」

「あー……うちは一応、町の商店ですけど、元・伝説の殺し屋がやってる店なんで……」

シンが苦笑いする。

「お向かいさんは、ガチ暗殺者たちのセーフハウスじゃねーかァァァ!!!」

新八の絶叫が、坂本商店の店内に虚しく響き渡った。

 

「銀さん……僕、もうかぶき町に帰りたいです……」

「新八、諦めろ。俺たちの明日は、たぶん両隣から爆破され、お向かいから狙撃される未来しか残されてねぇ……」

こうして、万事屋一行のご近所確認は、さらなる混沌を極めていくのだった。

 

 

「もう嫌だ……。右を見ても左を見ても、前を見ても、まともな一般市民が一人もいない。この街、治安の悪さとキャラの濃さが完全にバグってますよ……」

坂本商店から放たれた「伝説の暗殺者」の無言のプレッシャー(ヘビーブロー)に魂を削られ、志村新八は早くも道路の真ん中で膝をついていた。

「しっかりするヨ新八! まだ終わってないアル! ほら、あの最強デブ商店の右隣……うちから見たら右斜め向かいの建物を見るネ! あそこならきっと、普通のお洒落なカフェとかが入ってるに決まってるヨ!」

神楽が定春の鼻を引っ張りながら指差した先には、洋風のちょっとモダンなビルが建っていた。看板には『ロナルド吸血鬼退治事務所』の文字。

「……ん? 吸血鬼退治事務所ォォォ!? いや、待て待て待て! 完全に聞き覚えあるわ! アニメの2期までやって、作者がツイッター(現X)で狂ったようにアカウント動かしてたあの新横浜のやつじゃねーか!!」

新八が秒速でメタ知識全開のツッコミを炸裂させる。

「おいおい新八、落ち着けよ。あそこは確か、凄腕のハンターと、なんかこう……びっくりするぐらいすぐ死ぬ高等吸血鬼が同居してる、実質ただのギャグ漫画の仕事場だ」

坂田銀時は、耳の穴をほじりながらトコトコと道路を渡った。

「お向かいのガチ暗殺者に比べたら、あいつらなんて毎週全裸で大騒ぎしてるだけの安全な連中だよ。よし、粗品のティッシュ持って挨拶行くぞ」

銀時がビルの階段を上がり、事務所のドアをノックしようとした、その瞬間。

 

「おいドラルク! お前また俺の限定版のゲームデータ消しやがったなァァァ!!」

「ヒィィィ! 違うのだロナルド君! あれはジョンがコントローラーを踏んづけてしまって——」

「言い訳すんじゃねェェェ!!」

 

中から凄まじい怒号と、何かが激しく衝突する音が響いた。

「あ、やっぱりいつも通りだわ」

新八が半目になる。

銀時が「ちーっす、お隣に引っ越してきた万事屋でーす」とドアを開けると、室内では赤いコートを着た金髪の若きハンター、ロナルドが、吸血鬼ドラルクの胸ぐらをつかみ上げていた。

「あ? 誰だお前ら……って、ええええ!? 坂田銀時!? 志村新八に神楽ァァ!?」

ロナルドが目玉を飛び出させて叫ぶ。

「ちょっと待て! なんでサンライズとかバンダイナムコとか集英社のレジェンドが、うちの斜め向かいに事務所構えてんだよ!! 枠が違いすぎるだろ!!」

「フハハハ! 怯えることはないよロナルド君! 彼らはメタ発言の神々だが、所詮は下ネタと家賃滞納を繰り返すだけのダメ人間さ!」

ドラルクがマントを広げて高笑いする。

「お前が言うなァァァ!!」

銀時がすかさず木刀でドラルクの脳天をぶち抜いた。

 

バシャアアアアアン!!!

 

「あ、死んだ」

 

新八が真顔で呟く。

銀時に殴られたドラルクは、一瞬で一握りの砂(灰)へと変化し、床に崩れ落ちた。

「ひぎゃあああああ!? 出てきて3秒で死んだァァァ!!! 隣の暗殺者とは別のベクトルで命の価値が軽すぎるよこの人!!」

新八の絶叫が響き渡る。

「おいおい、本当にすぐ死ぬんだな。これ、うちのレーティング(夕方枠)でもアウトなレベルの部位損壊だぞ?」

銀時が引いていると、砂の山から「すぐに再生するから気にするな……」と声がして、数秒で元のドラルクの姿に戻った。

「ふぅ、危うく今期のアニメ出演枠を失うところだったよ。おや、そこの可愛いお嬢さんは?」

ドラルクが神楽に目を向ける。その足元には、丸くて愛くるしいアルマジロのジョンが「ヌー!」と鳴きながらトコトコと歩み寄ってきた。

「……ッ!? なんだこの、めちゃくちゃ美味そうなモチモチした生き物は……!!」

神楽の目が完全に「捕食者」のそれに変わった。

「ヌッ!?」

ジョンが本能的な恐怖で身を硬くする。

「神楽ちゃんダメだよ!! それは食べ物じゃなくてこの作品の唯一の良心(ヒロイン)だから!! 酢昆布感覚で齧ったら新横浜のファンから大バッシング受けるからね!?」

新八が必死に神楽を羽交い締めにし、ロナルドはロナルドで「おい吸血鬼! 新しい隣人も大概ヤバい奴らじゃねーか! 挨拶の品より先に狂犬を連れてくるな!」と頭を抱えていた。

 

「銀さん……僕、もうお腹いっぱいです……。この何でも屋・トラブルシューター密集地帯、一刻も早く引っ越しましょう……」

「新八、諦めろ。俺たちの引っ越し費用は、昨日俺がパチンコ屋の『世界の歪み』に吸い込ませてきたから、もう一銭も残ってねぇ……」

 

 

「もう……本当に一歩も動きたくないです……。なんでうちの周りには、世界の歪みを解決する前に『作画のカロリー』と『キャラの殺傷能力』が高すぎる連中しか集まってないんですか……」

右斜め向かいのビルで、3秒に1回のペースで砂になる吸血鬼を見届けた志村新八は、ついに道路の白線の上に大の字で倒れ込んでいた。

「根性見せるネ新八! ほら、諦めたらそこでアニメの放送枠終了アル! 最強デブ商店の反対側の隣……うちから見たら左斜め向かいの建物を見るヨ! あそこはなんか、今までの混沌が嘘みたいに普通に立派なお屋敷ネ!」

神楽が新八の襟首を掴んで強引に引きずり起こす。

確かにそこには、複合都市の無秩序な街並みの中で一際目立つ、少し豪華でモダンなデザインのお屋敷が佇んでいた。高すぎるサイバー感や世紀末感はなく、綺麗な庭木まで植えられている。

「お、おい見ろよ新八。普通の金持ちの家じゃねーか。なんかこう、お上品なマダムが出てきて『まぁ、お隣に引っ越していらしたの? お茶でもいかが?』とか言われそうな、日曜夕方18時半の国民的アニメのような安心感があるな」

坂田銀時は涙ぐみながら、手元に残った最後の粗品(かぶき町のスナックのティッシュ)を握り締め、お屋敷の立派な門をくぐった。

(……いや、でも待てよ。このお屋敷、裏庭のほうからさっきから『ガシャン……ウィィィィン……』って、明らかに家庭菜園のスコップの音じゃない重低音が響いてるんだけど……)

新八が不穏な空気を感じて裏庭に回り込んだ、その瞬間。

 

「あ、あのっ……! 抜いちゃダメです! それはミオリネさんが大事に育ててた、品種改良のトマトなんですぅぅぅ!!」

「うるさいわね! トマトの様子を見に来たら、なんで裏庭の敷地が3メートルも削られて、近所に見知らぬ木造の何でも屋が生えてるのよ! 意味がわからないわ!!」

 

お屋敷の裏庭(なぜか万事屋の左隣のプレハブと空間が繋がっている)で言い争っていたのは、赤い髪に太い眉毛が特徴的な少女——『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のスレッタ・マーキュリーと、白い髪の気の強そうな少女、ミオリネ・レンブランだった。

「す、水星の魔女ォォォ!!! 日曜夕方17時のガンダム枠じゃねーかァァァ!!! 18時半の国民的アニメじゃなくて、ガチの令和の最新ガンダムだよ!!」

新八が裏庭のトマトの苗を掴みながらメタ絶叫を上げる。

「おいおいおいおい、待て待て待て」

銀時がガタガタと震えながら、スレッタたちの『背後』を見上げた。

お屋敷の美しい裏庭。トマトの温室のすぐ真後ろに、しゃがみ込むようにして鎮座している、白と青の巨大な人型兵器。

 

「お前……なんで一般家庭のバックヤードに、ガンダム・エアリアルが1分の1スケールで実寸大駐機してんだよォォォ!!! 車庫に入れる感覚で国家最高機密のモビルスーツ置くんじゃねーよ!!」

 

「ひゃうっ!? だ、誰ですか、白髪の天然パーマの人……! 違います、エアリアルは兵器じゃなくて、家族です……! あと、人を殺すための機械じゃなくて、ええと……」

スレッタが指を合わせながらオドオドと後退りする。

「家族って言えば聞こえはいいけどな、お前! アニメの1期最終回で、その家族の手のひらで人間を『フレッシュトマト』みたいにベシャァァァって潰しただろ!! 知ってんだぞ、こっちは20年間のメタ知識の塊なんだよォォォ!!」

銀時が本気で命の危機を感じて洞爺湖の木刀を構える。

「ちょっと! スレッタに変なイチャモンつけないでくれる!?」

ミオリネがズカズカと前に出て、銀時を睨みつけた。

「あんたたちが噂の、かぶき町から漂流してきた『万事屋』ね? ちょうどいいわ。うちのトマトの苗を勝手に収穫した違約金として、あんたたちにはこれから、エアリアルの装甲のワックス掛けと、学園の決闘のスケジュール管理を無給で手伝ってもらうから!」

「出たよ、ガンダムの三大性格のキツいヒロイン特有の理不尽な命令ぇぇぇ!!」

新八が叫ぶ中、神楽はお屋敷のベランダに干してある高級なクッションの上に陣取り、ジョン(吸血鬼の事務所からいつの間にか拉致してきたアルマジロ)を撫で回していた。

「気に入ったアル。この家、お向かいのデブ店長の店からコロッケ盗んできたら、電子レンジで温め直すのに丁度いいハイテク家電が揃ってそうネ」

「ヌー!」(怯えるジョン)

「神楽ちゃん、人の家を電子レンジ代わりに使おうとしないで!! あとそれ、ロナルドさんの事務所のジョンだから!! 誘拐罪で新横浜の警察(吸血鬼対策課)が来るからね!?」

その時、神楽の不法侵入に反応したのか、エアリアルのツインアイが「ピキーン!」と青く発光し、巨大なマニピュレーター(手)がゆっくりと万事屋一行の頭上に差し向けられた。

「ひ、ひえぇぇぇ! エアリアルが怒っちゃいました……! ダメだよエアリアル、進めば二つ、退けば一つだけど、今は進んじゃダメ——」

スレッタが止めようとしたが、時すでに遅し。

「ぎゃあああああ!! 巨大なロボットの手が迫ってくるぅぅぅ!!」

 

 

右隣:慢性的な赤字経営のトラブルシューター(ゼンゼロ)

左隣:自称・悪の組織のポンコツ女子高生(ブルアカ)

お向かい:見た目は優しく中身は最強の元・伝説の殺し屋(サカモトデイズ)

右斜め向かい:3秒で砂になる吸血鬼とキレ散らかすハンター(吸血鬼すぐ死ぬ)

左斜め向かい:裏庭に1分の1のガンダムを違法駐車してる水星の魔女(水星の魔女)

 

「銀さん……僕、もうギブアップです……。東西南北、全方位から完全に包囲されてます……」

「新八、これが……これがサンライズと集英社と各ゲーム会社の、大人たちの利権が複雑に絡み合った【複合都市】の現実だ……。俺たちは、この地獄のド真ん中で生きていくしかねぇんだ……」

エアリアルの巨大な影に覆われながら、万事屋一行のご近所確認は、ついに完全なる絶望とカオスの中で幕を閉じるのだった——。

 

「……戻ったぞ。俺たちの、なけなしの平穏の地に……」

ガンダム・エアリアルの巨大な手のひらから命からがら(ミオリネの説教からも)逃げ延びた坂田銀時は、我が家の薄暗い玄関を開け、這うようにして万事屋の居間へと滑り込んだ。

手元にあった粗品のティッシュは、全方位からの恐怖の冷や汗を拭い去るために使い果たされ、すでにただのゴミ屑と化している。

「あー……疲れたネ。かぶき町も大概ゴリラやマヨラーやストーカーが闊歩する修羅の国だったけど、ここのカロリーの高さはジャンプの増刊号を3冊一気に一気読みさせられた気分アル……」

神楽は居間の畳の上に文字通り『の』の字になってぶっ倒れた。その傍らでは、いつの間にかすっかり懐いてしまったアルマジロのジョンが「ヌー……」と力なく鳴き、定春がそれを「これ食える奴か?」と前足でツンツンと突っついている。

「神楽ちゃん、だからジョンを拉致してくるなって言ったでしょ!? ほら、早くロナルドさんの事務所に返してきて! あと定春もよだれを垂らすんじゃない!」

志村新八は、眼鏡の位置を直す気力すらなく、万事屋のボロソファに沈み込んだ。

「でも、本当にどうなってるんですか、この街は。

右を見れば、慢性的な赤字経営で借金まみれの『邪兎屋(ゼンゼロ)』。

左を見れば、悪党気取りなのに家賃滞納で爆破魔の『便利屋68(ブルアカ)』。

お向かいは、見た目は優しく中身は最強の元・伝説の殺し屋『坂本商店(サカモトデイズ)』。

右斜め向かいは、3秒で砂になる吸血鬼とキレ散らかすハンターの『ロナルド事務所(吸血鬼すぐ死ぬ)』。

そして左斜め向かいには、裏庭に実寸大のガンダムを違法駐車してる『水星の魔女』……」

新八は指折り数えながら、再び絶望のどん底へと突き落とされていた。

「これ、ただのご近所確認ですよね? 挨拶回りですよね? なんで世界の境界を越えたトップランナーたちが、うちを中心に半径50メートル以内に密集してんの!? どんな確率のバグだよ!!」

「しゃーねーだろ、新八……」

銀時はソファの下に転がっていた『宇治銀時丼(小豆山盛りご飯)』の残骸をスプーンで突きながら、死んだ魚の目を天井に向けた。

「これが『大人の事情の複合都市』のリアルだ。ソシャゲだの、最新アニメだの、ジャンプの期待の新星だの……。向こうはみんな、令和の最前線を走るナウでヤングな売れっ子様たちなんだよ。それに比べて見ろよ、うちを」

銀時は自分の胸をトントンと叩いた。

「連載終了から何年経ってんだよ。アニメも『終わる終わる詐欺』を散々繰り返した挙句、本当に終わっちゃって今や過去の遺物扱いだよ。こんなロートル何でも屋が、あんな現役バリバリのバケモノたちに囲まれて、まともに飯が食えると思うか?」

「銀さん、急にリアルな自虐に走るのやめてください悲しくなるから!!」

新八が叫ぶ。

「フン、何を弱気になってるヨ銀ちゃん」

神楽が畳の上で寝返りを打ちながら、不敵に鼻を鳴らした。

「現役だのロートルだの関係ないアル。どんな世界のルールだろうが、うちがやることは一つネ。依頼があれば、どんなヤバい奴のケツでも洞爺湖でひっぱたいて、現金を毟り取る……それが万事屋銀ちゃんアル!」

「……へっ、言うじゃねーか神楽ちゃん」

銀時はフッと口元を緩め、ようやく起き上がると、壁に立てかけてあった木刀『洞爺湖』を愛おしそうに撫でた。

「そうだな。家賃が払えねーのは元の世界でもこっちの世界でも同じだ。郷に入っては郷に従え、混ざり合っちまった世界なら、その混沌ごと楽しんでやろうじゃねーの」

銀時は窓を開け、再び複合都市の夜景を見つめた。

ネオンとホログラムが輝き、銃声と爆発音(おそらく便利屋68の仕業)が遠くで響き、上空をガンダムが静かに横切っていく、最高に狂った街。

「よし、今日はお開きだ! 新八、明日は朝一番でこの街の『掲示板』に仕事探しに行くぞ。あいつらに負けねーくらい、あくどい手を使ってでも、まずは今月の家賃(現地の通貨)を稼ぐんだよ!」

「おー!」と神楽が拳を突き上げ、定春が吠え、ジョンが「ヌー」とそれに合わせた。

「……はぁ。やっぱり、こうなるんですね」

新八は諦めたように苦笑いし、眼鏡をきゅっと拭き直した。

「分かりましたよ、どこまでもお付き合いします。……でも銀さん、仕事を探す前に、まずはお向かいの坂本商店に『ティッシュの代わりに神楽ちゃんが勝手に食べたコロッケの代金』を支払いに行かないと、明日には僕たち本当にミンチにされて特売品に並んじゃいますからね!?」

「え!? 神楽お前、挨拶の裏で何ちゃっかり盗み食いしてんだよォォォ!?」

「泥棒じゃないアル! 現場の試食ネ!」

「ガチの暗殺者相手に試食すんじゃねェェェ!!」

引っ越し初日の夜。

万事屋の明かりが消えるのと同時に、お向かいの坂本商店から「ギロリ」と鋭い殺気の視線が窓ガラス越しに突き刺さるのを、銀時たちはまだ知る由もなかった——。

 




第1章・第1話「ご近所確認編」 完


と、いうわけで初っ端からカオス全開な挨拶回りが終わりました!
果たして銀さんたちはこのご近所さんたちとうまく付き合っていけるのか……!?

最後に万事屋銀ちゃん周辺の簡単な地図を載せておきます

【挿絵表示】


それではまた次回!
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