今度はこの『複合都市』を知るため、散策に出るようです。
「……というわけでね、坂本店長からありがた〜いアドバイス(無言の圧力)をもらったわけよ。お前ら新参者は、まずこの『複合都市』のイロハを体で覚えてこいってな」
翌朝、坂田銀時は昨日神楽が勝手に食べたコロッケの代金(かぶき町の小銭)を坂本商店のレジに叩き込み、命からがら逃げ出すようにして大通りへ繰り出していた。
「いや、ありがたい助言っていうか……。坂本店長、一言もしゃべらずに『街を見てこい(※二度と店の商品を盗むな、次やったらこの街のゴミ箱に分別して捨てる)』っていう恐ろしい手書きのメモを僕たちに渡してきただけですからね!?」
志村新八は、昨夜のトラウマでまだ足がガクガクと震えている。
「細けーことはいいんだヨ新八! ほら、せっかくの散策なんだから、まずはこの街の美味いスイーツ店でも巡るネ。ガンダムの家のトマトも美味そうだったけど、やっぱり生クリームが乗ったパフェが食べたいアル!」
神楽が定春の頭の上でるんるんと鼻歌を歌う。
万事屋の建物を一歩離れると、そこは昨日窓から見た以上の混沌(カオス)だった。中世の城壁のすぐ横にサイバーパンクな高層ビルがそびえ立ち、道行く人々も、マントを羽織った魔法使いから、ビームライフルを背負った宇宙人まで多種多様。まさに、あらゆるコンテンツの闇鍋状態である。
「ま、何はともあれ、今日は仕事探しの前のリサーチだ。トラブルにさえ巻き込まれなきゃ、ただの楽しいお散歩だろ。出掛けてまだ3分だし、のんびり行こうじゃねーか——」
銀時がそう言って、交差点を曲がった、その瞬間だった。
『——待てェェェェい! ルパン、今日こそ年貢の納め時だァァァ!!!』
大通りの向こうから、鼓膜を電気ショックで焼かれるような、あまりにも聞き覚えのある昭和・平成・令和を駆け抜ける大声が響き渡った。
「ぶほぉっ!?」
新八が変な声を上げる。
ドゴォォォン!! ガシャァァァン!!
ビルの陰から飛び出してきたのは、黄色い大型重機……ではない。全高10メートルはあろうかという、ずんぐりむっくりしたデザインの重戦闘用ロボット——『戦闘メカ ザブングル』のウォーカーギャリア(イエローカラー)だった。
しかも、そのハッチから身を乗り出して、不敵な笑みを浮かべているのは、赤ジャケットを着た天下の大泥棒、ルパン三世である!
「ヒャッハーーー! 悪いねとっつぁん! この街の『超古代文明の秘宝』は、俺様が確かにいただいたぜ〜!」
「ル、ルパン三世ェェェ!!! なんであの大泥棒が、富野由悠季監督の往年のリアルロボットアニメの主役に乗り込んで街中を爆走してんだよォォォ!!! 世界観のミスマッチが酷すぎるだろ!!」
新八のツッコミが冴え渡る中、さらにその後方から、地面を激しく踏み鳴らす音が響く。
ズシーン! ズシーン!
『逃がさんぞルパン! 複合都市の交通法を何だと思っているんだ!!』
ウォーカーギャリアを猛追してきたのは、白と黒のパトカーカラーに身を包んだ、あまりにもスタイリッシュな警察用ロボット——『機動警察パトレイバー』のAV-98 イングラム(リボルバーカノン装備)だった。
そして、そのイングラムの肩の上に、命綱もつけずに仁王立ちしているのは、トレンチコートをなびかせた銭形警部である!
「銭形のとっつぁんがパトレイバーの指揮執ってるゥゥゥ!!! 特車二課の篠原重工製ロボットを、ICPO(国際刑事警察機構)が私物化してんじゃねーよ!!! 警視庁の予算どうなってんだ!!」
「おいおいおいおい、待て待て待て!!」
銀時は目玉をひっくり返して、迫り来る2機の巨大ロボットを見上げた。
「出掛けて3分だぞ!? まだオープニング映像すら終わってねーよ! なんだよあのロボットチェイス! 日曜朝のスーパーロボット大戦でも、あんな無法なクロスオーバーしねーよ!! 完全にロボットの無駄遣いだろ! 横のビルにぶつかってる! 避けて! こっち来ないで!?」
「キャハハハ! 面白そうなデカいおもちゃが走ってきたネ! 定春、あの黄色い奴の足を引っ掛けて転ばせるアル!」
「ガルルルルッ!」
「やめろ神楽ちゃん! ロボット相手に物理攻撃仕掛けたら、こっちがまとめて踏み潰されて『フレッシュ万事屋』になっちゃうから!!」
大通りは一瞬にして、昭和のレジェンド泥棒(乗機:80年代ロボ)と、昭和のレジェンド警察(乗機:90年代ロボ)による、令和の複合都市を巻き込んだ大破壊ロボットチェイスの戦場へと変貌していくのだった。
「……行ったか。昭和と平成を置き去りにした、ロボットアニメの墓場みたいなチェイスが……」
ビルを破壊し、道路を陥没させながら遠ざかっていったウォーカーギャリアとイングラム。坂田銀時は、頭から被ったコンクリートの粉をパッパと払いながら、虚無の表情で大通りを見つめていた。
「開始3分でこれですか……。もうこの街、観光とか散策とかそういうレベルじゃないですよ。歩く災害エリアですよ」
志村新八が眼鏡をキュッキュと拭き直しながら、深くため息をつく。
「何言ってるヨ新八。これくらい、かぶき町で言えばハタ皇子のペットが脱走したくらいの日常茶飯事アル。さあ、気を取り直して次の角を曲がるネ。そこにはきっと、普通の一般市民が——」
神楽が言いかけた言葉は、すれ違った「1組目の通行人」の会話によって即座に遮られた。
「——ねえ、スバルさん、友奈ちゃん! 今日のランチ、あっちのラーメン屋さんでどうかな!? 私、お腹ペコペコだよ!」
「いいですね、響さん! ガッツリ食べて、午後からの複合都市のパトロールも拳で解決です!」
「うん! 勇者部としても、美味しいご飯を食べてみんなに笑顔を届けなきゃね!」
通り過ぎていくのは、胸元で歌を歌いそうな少女(『戦姫絶唱シンフォギア』の立花響)、サイボーグっぽいがっしりした格闘少女(『魔法少女リリカルなのはStrikerS』のスバル・ナカジマ)、そしてピンクの髪のTHE・勇者な少女(『結城友奈は勇者である』の結城友奈)の3人組だった。
「ちょっと待てェェェ!!! 通行人の作画の密度と戦闘力のインフレがおかしいだろ!!」
新八が秒速で振り返って指を差す。
「シンフォギアにリリカルなのはに勇者部ぅぅぅ!? なんだあの『世界を3回くらい救って、かつ肉弾戦で神様とか殴り倒してそうなメンツ』は!! 普通の女子高生みたいな顔して歩いてるけど、すれ違いざまに肩がぶつかっただけで、こっちの上半身が消し飛ぶぞ!?」
「おいおい、ビビるんじゃねーよ新八。あっちが世界を救う少女なら、こっちには『和風で古風な、しっとりとしたお姉さん枠』が——」
銀時が目を向けた先、「2組目の通行人」が、おごそかに歩いてきた。
「……フッ、今日の複合都市の『風』は、少々騒がしいな」
「そうですね、雅様。しかし、治安を乱す悪が現れれば、この私が一刀両断にしてみせます」
「ウム、我らが剣技の前にはどのような魔物も塵芥に等しい。……ところで、この街のコンビニの骨付きチキンというのは美味いのか?」
歩いていたのは、狐の耳を生やした冷徹な刀の達人(『ゼンレスゾーンゼロ』の星見雅)、黒髪ロングの生真面目な美少女忍者(『閃乱カグラ』の斑鳩)……そして、なぜかその横を完全に同格の顔をして歩いている、二足歩行の巨大な猫の獣人(『ドラゴンクエストIX』のギュメイ将軍)だった。
「世界観の闇鍋がすぎるわァァォオオオ!!! 忍と対ホロウ特務の横になんでドラクエのボスキャラが並んで歩いてんだよ!!」
新八のツッコミに、神楽も参戦する。
「おい、あの猫背のトラ、めちゃくちゃ美味そうな毛並みしてるネ! 定春、あいつを狩って今日の晩御飯のジビエにするアル!」
「グルルルルッ!」(ギュメイ将軍をロックオンする定春)
「やめろ神楽! あれは『魔帝国ガナサダイ』の三将軍の一人だからね!? すれ違いざまに『まじん斬り』喰らって、僕たちの身体が痛恨の一撃で真っ二つになるからね!?」
もうこの時点で新八のライフはゼロに近かったが、さらに追い打ちをかけるように、「3組目の通行人」が目の前を横切った。
カツーン、カツーン……と、重々しい金属音を立てて歩く、人間サイズのロボット。しかしその姿は、どう見ても『スーパーロボット大戦』に登場する、あの赤い孤高の機体——アルトアイゼン・リーゼだった。
しかも、なぜかゼンゼロの『知能機械人(アンドロイド)』のように、ごく自然にジャケットを羽織り、街に馴染んでいる。その腕には、一人のアイドル少女が嬉しそうに抱きついていた。
「ねぇねぇ、アルトさん! 今日のレッスン、すっごく上手くいったぞ! プロデューサーさんも褒めてくれるかなぁ?」
『……ああ。お前の歌声なら、俺のステーク(リボルビングバンカー)のように、ファンのハートを芯までぶち抜いたはずだ。保証する』
アルトアイゼンに甘えているのは、『アイドルマスター シンデレラガールズ』の早坂美鈴だった。
「ロボットとアイドルの年の差(?)カップルが誕生してんじゃねーよォォォ!!! アルトアイゼン・リーゼって、ゼンゼロの世界観に混ざるとただの渋い機械人(ボンプの親戚)みたいになるの!? あと美鈴ちゃん、それプロデューサーじゃなくて、地球連邦軍(ATXチーム)の誇る絶対的なインファイト用ロボットだからね!?」
新八はついに、大通りの真ん中で頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「銀さん……僕、分かりました。この街、すれ違う人全員が『各作品のメインビジュアル』か『ラスボス級』です。一歩歩くごとに、僕たちの『モブキャラとしての存在感』が消滅しかけてます……」
「フッ……甘いな、新八」
銀時は死んだ魚の目を限界まで見開き、虚空を見つめた。
「いいか? これが令和の『クロスオーバー』の現実だ。あの3組、全員合わせて『ファンアート』で描かれたら、一撃で10万いいね(※2026年現在)は固いメンツだぞ。それに比べて見ろよ、うちのこの『薄汚れた白髪』と『お前の本体(眼鏡)』を。いいねどころか、インプレゾンビすら寄ってこねーよ」
「急にSNSのリアルな数字で傷つけてくんのやめてもらえます!?」
すれ違うだけで命の危険と、精神的な格差(メタ的な意味で)を叩きつけられる複合都市の大通り。万事屋一行の「ただの散策」は、一歩進むごとに戦闘力と知名度のインフレに押しつぶされる、生き地獄のウォーキングへと変わっていくのだった——。
「ひ、一歩歩くごとに精神のHPがゴリゴリ削られていく……。銀さん、もう僕、この大通りを直視できません。すれ違う通行人の戦闘力の合計値で、地球が5回くらい滅びてますよ……」
歩く世界災害級の女子高生や、ドラクエの将軍とデートする忍、さらにはアイドルに懐かれている人型スーパーロボットを見届けた志村新八は、すっかり視線を地面に落としてトボトボと歩いていた。
「根性なしネ新八! 周りがいくら高カロリーだろうが、うちはうちのペースを守るアル。ほら、前を見てみるネ。あそこはただの『工事現場』アル。さすがに工事現場なら、黄色いヘルメット被ったおっちゃんたちが大人しくツルハシ振ってるだけネ」
神楽が定春の頭をポンと叩きながら、安全第一の看板が掲げられた防音壁の向こうを指差す。
しかし、そこから響いてきたのは、ガテン系のおじさんたちの声ではなく、地響きのような駆動音と、あまりにも物騒な爆発音だった。
「——おい!! そこ! 誘導が遅いぞ! ホロウ(歪み)のせいで陥没した道路の土砂、とっとと片付けちまいな!!」
拡声器を持って怒鳴り散らしていたのは、工事用ヘルメットを被った、小柄ながらも凶暴なオーラを放つ赤髪の少女——『ゼンレスゾーンゼロ』の白祇重工社長、クレタ・ベロボーグだった。
「ク、クレタ社長ォォォ!!! また『ゼンゼロ』からガチのインフラ業者が参戦してんじゃねーか!!」
新八が防音壁から身を乗り出して絶叫する。
「おいおい新八、落ち着けよ。あっちが本物の重機乗りなら、こっちには『スパロボ界の伝説の修理屋』が——」
銀時が死んだ魚の目で現場の奥を見つめる。
クレタの指示に従って、巨大な万力と巨大なレンチを両手に構え、ガシャンガシャンとビル並みの巨体で土砂を掘り返しているのは、『スーパーロボット大戦Z』の主役機——ガンレオンだった。
しかも、なぜかこの複合都市の法則により、ゼンゼロの『知能機械人(アンドロイド)』のような仕様にダウングレード(?)され、当たり前のように白祇重工の作業着(超特大サイズ)を着て、現場の職人として馴染んでいる。
『オーライ、オーライ! 社長、このへんの地盤沈下、俺のペイン・シャウター(咆哮)で一気に固めちまってもいいっすか!?』
「バカ言え! 余計に街が壊れるだろ! ツール(工具)を正しく使えっていつも言ってるだろ、この脳みそまで熱血思考の暴走特急が!」
クレタがガンレオンの足元で巨大なハンマーを振り回して怒鳴っている。
「ロボットが作業着着て重労働してんじゃねーよォォォ!!! ガンレオンって、宇宙の覇王とかと戦うための特機ロボットだろ!? なんで工事現場でショベルカー代わりに汗水垂らして働いてんだよ!!」
新八のツッコミが止まらない中、さらに現場の最前線、最も危険な崩落エリアの足場に、一人の男が立っていた。
全身を重機を模したかのような黒と黄色の装甲に身を包んだ戦士——『仮面ライダーギーツ』に登場した、仮面ライダーシーカー(パワードビルダーフォーム)である。
シーカーは、手にした巨大な拡張武装『ギガントウエポン』を巧みに操り、コンクリートの壁を一瞬で建築し、崩れた道路を「秒」で再構築していく。
「フッ……この複合都市の再開発(デザイア)は、我が手によって成される。理想の世界をビルドするのだ……」
「仮面ライダーがガチの土木作業のスペシャリストになってるぅぅぅ!!! パワードビルダーってそういう意味のビルダーじゃねーから!! デザイアグランプリの力を使って、一等施工管理技士並みの完璧な突撃工事すんじゃねーよ!!」
新八が喉を枯らしてツッコんでいると、神楽が現場に落ちていた「立ち入り禁止」の三角コーンを頭に被り、現場に乱入しようとした。
「面白そうネ! 私の怪力なら、あの赤い社長のハンマーよりもっとゴツい土砂崩れを起こせるアル! 雇ってほしいネ!」
「やめろ神楽ちゃん!! お前が現場に入ったら、工事が進むんじゃなくて『現場検証』が必要な大惨事(労災)になるから!! あと仮面ライダーシーカーに睨まれたら、僕たちの万事屋の建物ごと『違法建築』として一瞬で解体・更地にされるからね!?」
右隣、左隣、お向かい、斜め向かいの近隣住民だけでなく、ただの通行人、そして街のインフラを支える工事現場にいたるまで、全ての作画と設定が限界突破している複合都市。
「銀さん……僕、もうお家に帰りたいです……。この街、インフラの時点で僕たちの『万事屋の時給(1回300円)』じゃ一生追いつけない次元で回ってます……」
「新八、泣くな……。世の中にはな、ガンダムでトマトを育てる奴もいれば、総大将クラスのロボットで土砂を運ぶ奴もいるんだ……。俺たちは……俺たちはただ、明日のパチンコ代のために、あいつらのこぼした土砂の中から10円玉を探す泥臭い生き方をするだけだ……」
「セリフの哀愁と底辺っぷりが凄まじいよォォォオオオ!!!」
開始からわずか数分で、複合都市の「洗礼」という名のハイキックを頭部に喰らいまくった万事屋一行。彼らのただの街散策は、ついに引き返すことすら許されない混沌の深淵へと、さらに突き進んでいくのだった——。
「はぁ……はぁ……もう駄目だ。ロボットチェイスに、インフレ通行人に、スーパーロボット土木作業……。銀さん、あそこ、あそこに普通の『公園』があります! お願いです、あそこのベンチで5分、いや3分だけ僕にライフを回復させてください……!」
志村新八は、度重なる世界観の暴力にすっかり精根を使い果たし、緑豊かな公園の入り口を指差した。
「そうだな新八、お前はツッコミの過呼吸で死にかけてるからな。よし、あの公園のブランコにでも揺られて、ひとまず令和のインフレから昭和のノスタルジーに逃避行——」
坂田銀時が公園に足を踏み入れた瞬間、そこにあったのは「憩いの広場」などではなく、精神的な意味での『世紀末コロシアム』だった。
「……王手、だ。うぬの命脈、これにて尽きたり」
「ふははは! 甘いわ、拳を極めし者よ! 流派・東方不敗が最終奥義、見せてくれようぞ!」
公園の木陰に設置された将棋盤。そこには、赤髪を逆立てて殺気を放つ『ストリートファイター』の豪鬼と、辮髪をなびかせた『機動武闘伝Gガンダム』の東方不敗マスター・アジアが、完全に生身で天を衝くほどのオーラを放ちながら将棋を指していた。将棋盤の周囲の地面が、二人の殺気だけでバリバリとひび割れている。
「生身でガンダム破壊するジジイと拳を極めし者が公園で将棋指してんじゃねーよォォォ!!! 将棋盤がパチパチ鳴るたびに衝撃波で木々の葉っぱが全部消し飛んでるからね!?」
新八が入り口でフリーズする。
「おいおい新八、格闘界のレジェンドから目を逸らすな。あっちのベンチを見てみろよ。あそこだけは、女子高生たちの華やかな聖域……」
銀時が視線を逸らした先、「2組目の住人」が、仲良く並んでベンチに座っていた。
「わあ、このタピオカ、すっごく美味しいね☆ ミカエルちゃんも飲む?」
「ありがとう、ミカちゃん! 複合都市のスイーツは天使の私でもびっくりするくらい甘くて最高だね!」
一見、微笑ましいガールズトーク。しかし、そこにいたのは『ブルーアーカイブ』の自称・清楚な王女、だが素手で壁を破壊する怪力を持つ聖園ミカと、『モンスターストライク』の熾天使ミカエルだった。ミカの足元には、なぜか公園のコンクリートが彼女の自重(?)かオーラで不自然に陥没している。
「名前が『ミカ』繋がりなだけの、最終決戦兵器級女子たちのタピオカお茶会じゃねーかァァァ!!!」
新八のツッコミに、神楽も乗っかる。
「あのピンクの女(ミカ)、私と同じ『ゴリラ(怪力)の匂い』がするネ。定春、あいつのタピオカに酢昆布をドロップインしてやるアル!」
「やめろ神楽ちゃん! あそこのお茶会を邪魔したら、聖園ミカに『ちょっと、邪魔しないでくれる?』って笑顔で万事屋を粉砕された後、ミカエルの神の炎で灰すら残さず焼き尽くされるからね!?」
新八が必死に神楽を止めていると、今度は公園のグラウンド(砂場)から、ゴォォォォ!!!という凄まじい熱波が押し寄せてきた。
「我が熱き魂の滾りを聞けェェェ!!! これぞ真田の戦いよォォォ!!! 熱血ゥゥゥ!!! 大噴火ァァァ!!!」
「ギャォォォォォン!!!」
砂場で猛烈に反復横跳びやスクワットを繰り返していたのは、『戦国BASARA』の熱血武将、真田幸村。そして、その横で「まったく同じテンポ」で腕立て伏せをしているのは、『デュエル・マスターズ』の伝説の火文明ドラゴン、ボルシャック・ドラゴンだった。
「なんで武将とドラゴンが一緒に筋トレしてんだよォォォ!!! グラウンドが熱波で完全にサウナ状態だよ!! 砂場の砂がガラスに変わる勢いで溶けてるからね!?」
もう突っ込みすぎて新八の喉が限界を迎えたその時、ふと銀時が頭上からの「視線」に気づいた。
見上げれば、公園の立派な桜の木の上。光学迷彩が解除され、緑色の不気味な体液を垂らしながら、最凶の宇宙狩人——プレデターが、枝の上で気持ちよさそうにハンモックを吊るして昼寝をしていた。
「……おい新八。あそこの木の上に、完全に映画のレーティングがR-15指定になるタイプの宇宙人が寝てるわ。あの肩に付いてるプラズマキャノン、今こっちにロックオンの赤いレーザー照射されてねー?」
「ひ、ひえぇぇぇ!!! プレデターが日本の公園の木で野良寝してんじゃねーよォォォ!!! ここ、憩いの場じゃなくて『最強生物の生態系展示場』だよ!!」
右隣、左隣、お向かい、斜め向かいの近隣。
そして散策に出れば、泥棒、警察、格闘少女、刀の達人、魔王の将軍、スーパーロボット、仮面ライダー、拳の極めし者、ガンダムのジジイ、怪力王女、熾天使、熱血武将、火文明ドラゴン、そして宇宙の狩人。
「銀さん……僕、もう分かりました……。この街の『普通』の基準は、僕たちの知ってる世界の『最終回』か『劇場版のボス』の次元なんです……」
「新八……俺は今、確信した。この街で生き残るためには、もう何でも屋なんて地道な仕事は通用しねぇ。……よし、俺は今から豪鬼の弟子になって『瞬獄殺』を覚えて、明日のパチンコ台を物理的に大当たりに書き換えてくるわ」
「パチンコのために闇落ちしようとすんなァァァオオオ!!!」
こうして、万事屋一行の「複合都市散策」は、一歩も休まることなく、全次元の戦闘力上限を叩きつけられる形で、ボロボロになりながらも続いていくのだった——。
「はぁ……はぁ……死ぬ、本当に死んでしまうアル。もう世界観の脂肪分が多すぎて、神楽ちゃんの胃袋でも消化不良を起こすネ……」
格闘界のレジェンド、怪力王女、熾天使、熱血武将、火のドラゴン、そして木の上で寝ている宇宙の狩人から命からがら(精神的な意味で)逃げ延びた万事屋一行。坂田銀時を筆頭に、三人とも泥水に浸かった雑巾のような姿で、ようやく我が家(万事屋の建物)の前へと辿り着いた。
「開始数分のお散歩で、人生の全てのカルチャーショックを味わった気分だよ……。銀さん、もう今日は大人しくコタツに入って、明日この街から引っ越す算段を——」
志村新八が疲れ果てた声で玄関のドアノブに手をかけた、その瞬間だった。
「おいコラァァァ!! 誰か捕まえな!! うちの店(スナックお登勢)のレジから今月の売上強奪して逃げた泥棒がいるよォォォ!!」
1階から響き渡ったのは、大家のお登勢の、地鳴りのような怒号だった。
「げぇっ!? ババアの声!? 引っ越し早々、うちのビルでガチの強盗事件が発生してんじゃねーか!!」
銀時が飛び起きる。
「ちょうどいいネ! さっきの散策のストレス、その強盗の骨をバラバラに粉砕して発散してやるアル!」
神楽が拳をボキボキと鳴らしながら、裏路地へ逃げ込もうとする泥棒(モブの悪党)を追いかけようとした、その時。
『——動くな! 複合都市治安維持局・特務捜査班だ! 窃盗罪および不法占拠の現行犯で逮捕する!』
バリバリバリィィィン!!!と建物のガラスを突き破るような勢いで、裏路地に複数の影が飛び込んできた。
「警察!? あ、良かった、さっきの銭形のとっつぁんみたいに、誰かが通報して——」
新八がホッとしたのも束の間、そこに現れた面々を見た瞬間、万事屋一行の顔から再び血の気が引いていった。
「青衣(チンイー)! 左翼から回り込んで退路を断って! 市民の財産は、私たちが絶対に守るわ!」
「はいはい、分かっておるよ、朱鳶(シュエン)班長。若いのは血気が盛んでいかんなぁ。ほれ、お命頂戴、じゃなくて御用であるな」
そこにいたのは、二丁拳銃を華麗に構える生真面目なエリート警察官(『ゼンレスゾーンゼロ』の朱鳶)と、その横で仕込み棍をスマートに振り回す、少女の見た目をした公安のアンドロイド(青衣)だった。
「ゼンゼロの治安維持局の本物が来たァァァ!!! 邪兎屋の天敵じゃねーか!!」
新八が叫ぶ中、路地の奥からさらに重々しい足音が響く。
「地獄の番犬! デカマスター!! 百鬼夜行の悪を撃つ!!」
暗闇から現れたのは、黒とメタリックブルーのデカスーツに身を包んだ宇宙警察地球署の署長——『特捜戦隊デカレンジャー』のデカマスター(ドギー・クルーガー)だった。その手には、妖しく光る愛刀『ディーソードベガ』が握られており、すれ違いざまに泥棒の武器を一瞬で十文字に切り裂いた。
「宇宙警察のボスまで参戦してんじゃねーよォォォ!!! あの犬の署長、生身でロボットの怪人100人斬り倒すタイプのバケモノだからね!?」
しかし、警察インフレの終着駅はそこではなかった。
上空から眩いばかりの銀色の光が降り注ぐ。
「蒸着(じょうちゃく)!! ……宇宙刑事、ギャバン!!」
光の中から現れたのは、全身がコンバットスーツの銀色の煌めきに包まれた伝説の刑事——『宇宙刑事ギャバン』のギャバンだった。ギャバンは空中で1回転すると、泥棒の前に立ちはだかり、レーザーブレードを抜いた。
「宇宙刑事まで来たァァァオオオ!!! ギャバンって、宇宙の犯罪組織マクーと戦うための最終兵器だろ!? たかが下町のパブのレジ泥棒を捕まえるために、レーザーブレード発光させて『ギャバン・ダイナミック』打とうとしてんじゃねーよ!! 周りのビル(うちの万事屋)ごと消し飛ぶわ!!」
朱鳶の銃撃が路地をハチの巣にし、青衣の電撃が炸裂し、デカマスターの一閃が閃き、ギャバンのレーザーブレードが空間を切り裂く。
わずか3秒後。お登勢の店の売上金を盗んだ泥棒は、捕まるというよりは「大気圏突入時の摩擦で燃え尽きた衛星」のように、真っ白な灰になって地面に転がっていた。
「……ふぅ。容疑者の身柄を確保しました。市民の皆さん、もう安全です」
朱鳶がキリッと警察手帳を掲げ、ギャバンが親指を立ててレーザーブレードをサヤに収める。
「安全なわけあるかァァァ!!! 現場の被害総額の方が泥棒の被害額の100倍超えてるわ!! うちの1階の壁が完全に宇宙規模の熱量で溶けてんじゃねーか! お登勢さんのスナックのドアが行方不明だよ!!」
新八の魂の叫びが響き渡る中、銀時はガタガタと震えながら、洞爺湖の木刀を後ろ手に隠した。
「……おい新八、神楽。俺、分かっちまったよ。この街、泥棒をやるのも命がけだけど、警察のガチ度が一番イカれてるわ。 宇宙刑事だの特捜戦隊だのがその辺のパトロールやってんだぞ? 俺がもし、ちょっと今月の家賃のために、お向かいの坂本商店のレジから10円玉をですね——」
「今すぐその汚い手癖を全否定しろ!! 蒸着されてデカベースに連行されて、そのまま宇宙の裁判所で死刑判決受けるからね!?」
右隣、左隣、お向かい、斜め向かい。
そして散策に出れば、泥棒、警察、ロボット、女子高生、ドラゴン、宇宙人。
極め付けには、路地裏の防犯体制が「宇宙規模の特殊部隊」。
「銀さん……僕、この街で『何でも屋』として生きていく自信が、これっぽっちも湧いてきません……」
「フッ……弱音を吐くな、新八。どんなに警察がヤバかろうが、うちは『万事屋』だ。明日は……明日こそは、あいつらに見つからねーくらい地味で、安全で、100%合法な依頼を掲示板から見つけて、日銭を稼いでやろうじゃねーの……」
「銀ちゃん、まずは1階のババアの店のドアを、ガンダムの家のトマトのビニールハウスの壁をパクってきて修理する仕事から始めるネ!」
「それ窃盗罪で朱鳶班長とギャバンが飛んでくるから絶対にやめろォォォオオオ!!!」
東西南北、全方位からのカルチャーショックと宇宙規模の警察沙汰に叩きのめされながら、万事屋一行の「複合都市散策」は、これ以上ない最悪の形で幕を閉じるのだった。しかし、彼らの家賃返済のための本当の「お仕事探し」は、明日から容赦なく幕を開ける——。
(第1章・第2話「複合都市散策編」 完)
はい、というわけで散策編も終了です。
ご近所さんに負けず劣らずなカオス具合でしたねw
ですが皆さん、今のうちに覚えておいてください……
『これが複合都市なのだと』
次回からいよいよ銀さんたちが依頼を受け始めるようです。