前回、悪魔学校で地獄の教師生活を終えた銀さんたち。
しかしお登勢さんに家賃滞納分の徴収として殆ど持っていかれてしまったようで……
「……おかしいだろ。なぁ新八、計算が合わねーんだよ。あのEテレのトップ悪魔(サリバン)からもらった金色の小切手、ゼロが1、2、3……って、かぶき町の国家予算レベルの魔界ギルだったはずだろ? なんで俺の手元に、今この『10円玉3枚』しか残ってねーんだよォォォ!!」
悪魔学校での命がけの鏖魔ディアブロス狩猟から帰還した翌日。坂田銀時は、居間の畳の上で髪をかきむしりながら絶叫していた。
「計算は大正解だよ銀さん!! うちがこの『複合都市』にスライドしてきてから滞納し続けてた分の家賃、1階のお登勢さんに『はい、ご苦労さん』って秒速で9割9分持っていかれただけでしょーが!!」
志村新八が、焦げたワイシャツを洗濯板でゴシゴシと洗いながら、冷徹な現実を突きつける。
「フン、諦めるネ銀ちゃん。男ならケチケチせずに、お土産のこの『鏖魔ディアブロスの極上霜降りテール肉』を10キロ全部やけ食いして、血反吐吐くまで満腹になればすべて解決アル!」
神楽がすでにカプコンの誇る暴君の肉を網でジュージューと豪快に焼き、頭にクローバーの残りカスを乗せたアルマジロのジョン(※まだ拉致されている)に「ほら、お前も骨を齧るネ」と無理やり食べさせていた。
万事屋一行が、家賃の絶望を肉の脂身で誤魔化そうとしていた、その時。
ドンドンドン!!と、1階の床板を突き破らんばかりの勢いで、大家のお登勢の煙管(キセル)で床を叩く音が響き渡り、そのまま階段を上がって居間のドアがガラリと開け放たれた。
「おい、お前ら! 鏖魔の肉なんかで腹を膨らませてる暇があったら、今すぐ下に降りてスナックの厨房に入りな!」
お登勢が紫煙を吐き出しながら、万事屋の3人を睨みつける。
「げぇっ!? ババア!? 何だよ、家賃ならさっき国家予算レベルのやつ全額ぶんどっていっただろーが! これ以上むしり取る気か!? うちにはもう、神棚の黒焦げたクローバーしか残ってねーぞ!」
銀時が洞爺湖の木刀を盾にするように構える。
「馬鹿言ってんじゃないよ。あんたたちの薄汚れたお守りなんかいりやしないよ。……さっきね、お向かいの『坂本商店』のデブ店長(坂本太郎)がうちの店に来てね。なんでも、昔の『現役時代の知り合い』がこの複合都市に何人か集まったから、うちの店を貸し切りにして、朝まで同窓会がてら飲み会をしたいんだとさ」
「……え?」
銀時の顔から、スーッと血の気が引いていく。
「お向かいの坂本店長って、あの『SAKAMOTO DAYS』の、素手でハルカのショットガンをグニャリと折り曲げる、元・伝説の最強暗殺者ですよね……?」
新八がガタガタと震えながらお登勢を見つめる。
「その人の、昔の現役時代の知り合いが集まる飲み会……? それって、同窓会じゃなくて、ガチの国家転覆級の暗殺者ギルドの集会じゃないですかァァァ!!!」
「そうだよ。だから店の手伝い(酒の配膳とつまみの調理)をする人手が足りないんだ。もし大人しく朝まで手伝うってんなら……特別に、来月分の家賃を『1ヶ月分チャラ』にしてあげてもいいよ」
お登勢がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「……新八、神楽。着替えるぞ」
銀時は1秒の躊躇もなく立ち上がった。
「来月分の家賃がチャラ……。これすなわち、明日の朝一番で俺が再びパチンコ屋の『世界の歪み』に全ツッパできる免罪符を手に入れたということよ。相手が元・伝説の殺し屋だろうが何だろうが関係ねぇ。ビールを注げと言われれば、膝が皿にめり込むまで三つ指立てて注いでやろうじゃねーか!!」
「銀さん、プライドが完全にパチンコ液晶の光に溶かされてるよ!! 相手はジャンプの現役バリバリの最強暗殺者たちですよ!? 注文間違えてウーロン茶の代わりに麦茶出しただけで、僕たちの眉間に一瞬で暗殺ナイフが突き刺さりますよ!?」
「何ビビってるヨ新八! 殺し屋が何人来ようが、全員お土産の鏖魔の肉の硬い骨で脳天をかち割って、売上金を全額『邪兎屋(ニコ)』の財布にブチ込んでやるアル!」
「近隣のトラブルメーカーを巻き込んで強盗しようとすんな!!」
新八の必死の制止も虚しく、家賃免除の魔力に抗えなかった万事屋一行は、1階の『スナックお登勢』へと渋々降りていくのだった。
しかし、彼らはまだ知らなかった。お向かいの坂本店長が呼び寄せた「昔の知り合い」という名の出席者たちが、サカモトデイズの世界を飛び越え、あらゆる他作品の『伝説の元・殺し屋』や『組織の首領』といった、殺意のインフレの極致のようなメンツであるという事実を——。
「お、お待ちどうさまです……。こちら、突撃工事現場の仮面ライダー(シーカー)が再構築していった特製ビール樽と、バビルスの裏庭で獲れた鏖魔ディアブロスの極上霜降りテールステーキになります……」
1階の『スナックお登勢』の厨房から、志村新八は生まれたての小鹿のように膝をガタガタと震わせながら、大皿をカウンター席へと運んでいた。
すでに店内の空気の「気圧」がおかしい。お登勢がのんきにタバコを吹かしている横で、お向かいの店長——坂本太郎が、いつも通りの穏やかなエプロン姿でどっかりとソファに腰掛けている。
しかし、その周囲を固める「知り合い」たちの顔ぶれを見た瞬間、坂田銀時は持っていた栓抜きを床に落としそうになっていた。
「へぇ〜、ここが坂本さんの行きつけのパブ? なかなかレトロでいい雰囲気じゃん」
おめかししたスーツ姿で、お菓子をポリポリと齧りながら、周囲を観察するイケメン——『SAKAMOTO DAYS』の殺し屋の最高峰『ORDER』の一人、南雲(なぐも)。
「……なぁ、この肉、骨がめちゃくちゃ硬いんやけど。これ本当に牛? 悪魔のテールって書いてあるけど、玉ねぎと一緒に炒めたらちゃんと柔らかくなるん?」
玉ねぎへの異常な執着を見せながら、ドスの利いた声で呟く関西弁の男、神々廻(ししば)。
「大丈夫です、神々廻さん。私が肉ごとこの木造建築のカウンターを粉微塵にチョップすれば、一瞬でミンチになります」
ゴスロリ風の衣装を身に纏い、完全に居酒屋のレーティングを無視した超巨大な丸鋸を静かに磨いている少女、大佛(おさらぎ)。
「おい大佛、店を壊そうとするんじゃねえ。……坂本さん、久しぶりっすね。つーか、なんでこんな混沌としたスナックに俺たちを呼び出したんすか?」
大柄な体躯を縮こまらせ、ツンツンした黒髪をかきむしる熱血漢、豹(ひょう)。
そして、カウンターの最も端の席。
完全に気配を消し、居眠りをしているかのように微動だにしない白髪の一人の老人。その膝の上にはいつでも抜刀できる角度で、年季の入った「日本刀」が置かれていた。ORDERの生ける伝説、篁(たかむら)である。
「お、おいおいおいおい、待て待て待て坂本店長!!」
銀時が冷や汗を滝のように流しながら、坂本の耳元で(殺されないギリギリの距離を保ちながら)ヒソヒソ声で猛抗議を始めた。
「呼んだ『知り合い』って、あいつら全員、ジャンプの現役バリバリの超人気暗殺組織『ORDER』のガチ勢じゃねーかァァァ!!! 同窓会っていうから、てっきり商店街のガラポン抽選会のOBとか、地元のゲートボールの仲間が来ると思ってたわ!! なんだよあのジジイ!! あのジジイがちょっとクシャミして刀を抜いただけで、うちの万事屋の建物どころか、かぶき町の概念ごと十文字に切り裂かれて更地になるぞ!?」
「銀さん、もう遅いです……! 篁さんの周りだけ、物理的に空間の光が屈折して歪んでますよ!! ビール注ぐ手が震えて中身が全部泡になっちゃいますよ!!」
新八が涙目でジョッキを掲げる。
「フン、何をビビってるヨ新八。あっちのゴスロリの女(大佛)、私のチャイナ服とちょっとキャラの方向性が被ってて気に入らないネ。定春、あの女の丸鋸を噛み砕いて、今日のディナーのデザートにするアル」
「ガルルルルッ!」
「やめろ神楽ちゃん!! 大佛さんに喧嘩売ったら、僕たち一瞬でレジ袋に詰められて『本日の特売肉(万事屋味)』として坂本商店の店頭に並べられるから!!」
新八が必死に神楽を羽交い締めにしていると、南雲が「あはは、面白いね君たち」と、仕込み武器のサイコロを指先で弄びながら、底の知れない笑顔を万事屋に向けた。
「坂本さん、このパブの店員さんたち、メタ知識の密度が凄くて退屈しないね。……あ、注文いい? とりあえず生ビール5つと、あと坂本さん、例の『あいつら』はまだ来ないの?」
南雲のその言葉に、坂本は無言のまま、手元のメモ帳にサラサラと文字を書いて銀時に見せた。
そこには、手書きの丸っこい文字でこう書かれていた。
『……今連れてきたのは、うちの職場の現役の同僚(ORDER)だ。昔の古い知り合い(他作品のレジェンド)は、これから到着する……』
「まだ来るんかいィィィ!!!??」
新八の魂のツッコミが店内に響き渡る。
現役の最強暗殺者集団『ORDER』が勢揃いし、すでに店の内装の半分が殺気でピキピキと凍りつきかけているスナックお登勢。しかし、坂本店長の言う「昔の知り合い」という名の真のゲストたちは、ここからさらに作品の壁を越えて、全次元の『伝説の暗殺者・人斬り』の枠を超えて雪崩れ込んでくるのだった——!
「ひ、ひえぇぇぇ……。南雲さんがサイコロで手品を始めた横で、大佛さんが巨大な丸鋸を『シャリ……シャリ……』って、ガチの殺意の音を立てて磨いてるんですけどォォォ!!」
志村新八のひび割れた眼鏡の奥から、すでに涙が枯れ果てようとしていた。ORDERの面々が放つ「世界を裏から牛耳る暗殺者」のプレッシャーだけで、スナックお登勢の空気は完全に気圧の壁を作っている。
だが、坂本店長が言っていた「この街での知り合い」の入店は、ここからが本番だった。
カランカラン……と、いつになく爽やかな音を立てて店の引き戸が開く。
「いや〜! 坂本さん、お久しぶりです! 複合都市の任務の合間に、こんな素敵なパブで集まれるなんて最高ですね!」
入ってきたのは、一見すると仲の良さそうな大家族——『夜桜さんちの大作戦』の夜桜六美と、その夫でありスパイの夜桜太陽、そして凶一郎を筆頭とする夜桜一家の兄妹たちだった。しかも、その夜桜家の一番前を歩いていたのは、なぜか黒髪に巨大な手甲を装備した生真面目な美少女——『閃乱カグラ』の死塾月閃女学園の夜桜(よざくら)だった。
「お前ら同じ『夜桜』繋がりだからって、『夜桜さんちの大作戦の長女(本当は次女)』みたいな同格の顔して混ざるんじゃねーよォォォ!!! 週刊少年ジャンプのガチのスパイ一族の中に、爆乳ハイパーバトルの忍がサラッと戸籍を偽造して侵入してんじゃねーか!!」
新八が秒速でメタツッコミを炸裂させる。
「あら、楽しそうなパーティーね! たきな、私たちはとりあえずパフェとオムライスね!」
「千束、ここはスナックです。注文はまずお酒かおつまみ……って、何ですかあの端っこのおじいさん(篁さん)、刀を持ったまま空間を切り裂くような殺気を出してますが……」
さらに続けて入ってきたのは、赤い和服姿の錦木千束と、生真面目な顔で周囲を警戒する井ノ上たきなの『リコリス・リコイル』コンビ。
そして、そのリコリスたちのすぐ後ろから、
「フッ、この複合都市の闇に集いし修羅どもよ、我が『焔紅蓮隊(ほむらぐれんたい)』の宴に恐れおののくが良い!」と、焔紅蓮隊(焔、詠、日影、秋葉、春花)の5人組が雪崩れ込んできた。
「リコリスに善忍に悪忍にスパイ一族ぅぅぅ!!! 銃と刀と爆乳の、『全次元・裏稼業ガールズサミット』が始まってんじゃねーかァァァアアア!!!」
新八の喉が本日3回目の限界を迎える。
「おいおいおいおい、待て待て待て」
坂田銀時は、カウンターの奥でビール樽を抱えたままガタガタと震えていた。
「なぁ新八。あのリコリスの金髪の子(千束)、見た目は可愛いJKだけどな、知ってんだぞ? 至近距離の銃弾を全て『見切って回避する』っていう、うちのレーティングでもおかしいだろってレベルのチート回避性能持ってるんだぞ。あっちの夜桜の長男(凶一郎)なんて、妹への愛が強すぎて、歩くだけで周囲の空間に不可視の鋼線(ワイヤー)張り巡らせて泥棒をサイコロステーキにする男だぞ。コンプラどうなってんだよ、この店!!」
「フフン、あの手甲の女(カグラの夜桜)、なかなかいいパンチを打ちそうな腕をしてるネ」
神楽が、お土産の鏖魔ディアブロスのステーキを網で焼きながらメンチを切る。
「私の夜兎の怪力と、どっちがこのスナックの壁を綺麗に更地にできるか、今すぐタイマンで勝負アル!」
「グルルルルッ!」
「やめなさい神楽ちゃん! そこであの手甲と夜兎の殴り合いが始まったら、神々廻さんが『玉ねぎが飛び散るやろがァ!』ってキレて、大佛さんの丸鋸で僕たち全員を一瞬で輪切りにして『本日の冷やしトマト(万事屋味)』にされるからね!?」
そんな万事屋のドタバタを他所に、南雲は「おっ、みんな揃ったね〜」とビールジョッキを掲げ、千束は「わぁ、このお肉(鏖魔の肉)すごーい! いただきまーす!」と、殺し屋たちの目の前でノー天気に箸を伸ばし始めていた。
現役最強の暗殺者『ORDER』、最強のスパイ『夜桜一家』、最強の少女兵『リコリス』、そして『閃乱カグラ』の忍軍。
スナックお登勢の狭い店内は、もはや国家を5回くらい裏から滅ぼせるレベルの「危険度SSクラスの戦闘集団」による、最高に物騒で華やかな大宴会の場へと変貌していくのだった——。
「——カンパーーーイ!!」
坂田銀時たちの心配をよそに、スナックお登勢の店内では、裏社会の頂点たちによる最高に物騒で華やかな宴が、大盛り上がりで幕を開けていた。
「いや〜! 坂本さん、この鏖魔のテールステーキ、弾力があって噛めば噛むほど味が染み出して最高に美味しいです!」
錦木千束がジョッキを片手にノー天気に肉を頬張り、隣で井ノ上たきなが「千束、飲みすぎです。一応ここは、他作品の暗殺者やスパイが密集している危険地帯なんですから……」と、ORDERの篁老人を警戒しながらウーロン茶を啜っている。
「ふん、お肉なら我が夜桜家の特製スパイスをかけると、さらに脳の細胞が活性化して暗殺の精度が上がるぞ!」
夜桜二刃がちっちゃな体を揺らして自慢すれば、『閃乱カグラ』の夜桜(長女仕様)が「ほう、我が月閃の特製味噌とも合いそうじゃな。どれ、一口分けてくりゃれ」と意気投合していた。
だが、ここは複合都市の『何でも屋・裏稼業エリア』。当然、彼らを狙う強盗や、日頃の恨みを持つ他作品の暗殺組織の残党(モブ悪党)たちが、ドカドカと店内に乱入してくる。
「おいコラァ!! ORDERに夜桜一族、まとめてここで命を置いていきな——」
バババババババッ!!!
シュパァァァン!!!
「……あ」
志村新八が厨房の隅で目玉を丸くする。
乱入してきた強盗たちが言葉を言い切る前に、千束の「至近距離の弾道を全て見切る予測銃撃」とたきなの精密射撃、そして未来のマシンガン掃射が敵の武器を弾き飛ばし、次の瞬間には焔の紅蓮の一閃と、居眠りしていたはずの篁老人の刀による「目にも留まらぬ音速の抜刀」が、強盗たちの服だけをバラバラに切り裂いて全裸にしていた。
さらに、逃げようとした残党の首を掴んだ夜桜二刃が「うちの食事の邪魔をするな!」と柔術で床に叩きつけ、豹が「宴会の邪魔すんじゃねえ!」と拳の風圧だけで店の外まで吹き飛ばす。
「す、凄い……! 銃撃と斬撃と体術のフルコースなのに、店の壁にもグラスにも、1ミリの傷すら付いてない……っ! これが、これが現役のプロの戦闘技術かよォォォ!!」
新八が涙目で感動のツッコミを入れる。
「フッ、やるネお姉さんたち。だけど、本当の『大物』は、あんな雑魚のモブ悪党じゃないアル。……銀ちゃん、外の空気の圧力が、急に『ゼンゼロ』のヤバいホロウの匂いに変わったネ」
神楽が網の上の肉を引っくり返しながら、鼻の穴をほじって外を指差した。
その瞬間、スナックお登勢の正面の壁を物理的に「空間ごと『×』の字に切り裂いて」、不気味な紫色の煙と共に、人型のエーテリアス——上級エーテリアス『タナトス』が、2本の光り輝く双剣を構えて突如として出現したのだ!
「タ、タナトスゥゥゥ!!!? 『ゼンレスゾーンゼロ』の、あの急に背後に瞬間移動してきてプレイヤーのHPを一撃でゴリッと削ってくる、一番戦いたくないタイプの上級エーテリアスじゃねーかァァァ!!! なんでスナックのど真ん中にポップしてんだよ!!」
新八が絶叫し、カウンターの奥に隠れる。
タナトスは不気味な咆哮を上げると、そのチート級の空間転移能力を使用し、一瞬で『ORDER』や『夜桜一家』の死角、すなわち店内の中心へ移動してきた。
「アハハ、さすが複合都市、ちょっと骨のあるやつが来たね」
南雲が仕込み武器を構え、大佛が丸鋸を起動させようとした、その刹那。
ドクン……! と、店内の全ての時間が静止したかのような感覚が、銀時の全身を駆け抜けた。
「……え?」
銀時が目を見開く。
タナトスの背後に、いつの間にか、信じられないほどのスピードで回り込んでいた影があった。それは、さっきまで丸々と太ってエプロン姿でコーラを飲んでいたはずの、お向かいの店長——坂本太郎だった。
しかし、その姿は、いつものふくよかなおじさんでは断じてない。
激しい戦闘(あるいはカロリー消費)によって、一瞬にして脂肪が全て燃焼し、鋭い眼光と狂気的なまでの筋肉を纏った、かつての『伝説の最強暗殺者』の姿——【スリムモード】へと変貌を遂げていたのだ!
(……速い。速すぎる。タナトスの空間転移の『出現の瞬間』を完全に先読みして、背後を取ってやがる……。現役のジャンプのアクション漫画の主人公の本気、作画のカロリーが違いすぎるだろ……!!)
銀時がガタガタと震えながらその背中を見つめる。
坂本は一言もしゃべらない。
ただ、店のテーブルに置かれていた『ただの灰皿』を手に取ると、タナトスの後頭部に向けて、音速を超えるスピードで「ガンッ!!!」と叩きつけた。
「ギ、グオォォォッ!?」
瞬間移動すら封じられたタナトスはよろめき、続けて坂本が放ったただの居酒屋のおしぼりを使った「気道確保からの超高速一本背負い」によって、スナックの床板を一切傷つけることなく、衝撃波だけを地下に逃がす形でベシャァァァン!!と叩きつけられた。
さらに、坂本は手元にあった『ビール瓶の蓋』をデコピンの要領で弾き飛ばした。
シュパァァァン!!!と放たれた蓋は、タナトスの双剣の結合部をミリ単位で正確に撃ち抜き、武器を粉砕。そのままタナトスを、一方的な格闘コンボ(品出しの動きを応用した高速ラッシュ)によって店の外のゴミ箱へとシュートし、完全に討伐してしまったのだった。
ガゴオォンッ……!
タナトスがゴミ箱に収まって消滅すると同時に、坂本は「ふぅ……」と息を吐き出し、一瞬でいつもの『丸々と太った優しいおじさん』の姿へとボヨヨンと戻った。
そして、手元のメモ帳にサラサラと文字を書いて、銀時に見せた。
『……お騒がせしました。ビール、おかわり。あと、鏖魔の肉、もう1皿焼いてください』
「お前が一番の化け物(最強)じゃねーかァァァァァァ!!! タナトスを灰皿とおしぼりとビールの蓋だけで完封すんじゃねーよ!!」
新八の魂のツッコミが、ついに店内の全員を爆笑の渦へと巻き込んだ。
南雲が「さすが坂本さん!」と手を叩き、千束が「すごーい! 私も今の灰皿のアーツ、真似していい!?」と目を輝かせ、お登勢が「ハハハ! いい飲みっぷりだ、じゃんじゃん持ってきな!」と酒を追加する。
しかし、どんなにヤバい襲撃者が来ようとも、最後は店長の手によって一瞬でゴミ箱に分別され、笑顔で再び乾杯が始まる。
「銀さん……僕、分かりました。お向かいの坂本商店がある限り、この何でも屋エリアの治安は、ある意味で宇宙警察が来るより100倍安全です……」
「そうだな、新八……。よし、俺は今から坂本店長に弟子入りして、あの『パチンコ屋の景品交換所へ一瞬で往復して10円玉を増やすスリムモード』を伝授してもらうわ」
「ギャンブルのために伝説の暗殺術の無駄遣いしようとすんなァァァオオオ!!!」
「ハァ……ハァ……終わった……。夜が明けた……。全次元の国家機密クラスの裏稼業たちが集まった、伝説の『殺し屋大サバト』が、ようやく無事に終了したぞォォォ!!」
スナックお登勢のカウンターの隅で、志村新八は朝日の眩しさに目を細めながら、真っ白な灰のようになって魂を口から吐き出していた。
「お疲れさん、新八、銀ちゃん。はい、これ今回の約束の『来月分の家賃一ヶ月免除の領収書』だよ。あんたたちにしては、上出来な働きだったじゃないの」
お登勢がフッと紫煙をくゆらせながら、銀時の前に家賃免除の判子が押された紙を差し出す。
「う、うおおおおお!!! 勝ち取ったァァァ!!! 命がけの配膳と、タナトスのポップアップを乗り越えて、ついに俺たちの明日のパチンコ液晶の権利を勝ち取ったぞォォォ!!」
坂田銀時は、涙目で領収書をギューッと抱きしめ、いつの間にか『スリムモード』から完全にボヨヨンと元のふくよかなおじさんに戻り、のんきに余った鏖魔の肉をパックに詰めてお土産にしている坂本店長と、固い握手を交わした。
「ありがとう、坂本店長……! あなたの灰皿の一撃とおしぼりの一本背負い、俺ァ一生忘れねぇよ……!」
こうして、複合都市の歴史に残るレベルの「危険度SSクラスの飲み会」は、大団円のまま幕を閉じた。
——はずだった。
「……なぁ、新八。気のせいか? なんで飲み会が終わって一週間も経つのに、うちの1階の『スナックお登勢』の常連客のメンツが、かぶき町時代より3億倍くらい物騒になってるんだよォォォ!!」
万事屋の居間で、銀時がパチンコ雑誌を盾にしながら、ガタガタと震えて床板を見つめていた。1階の床下から、明らかに「普通の下町のパブ」からは響いてこない、空間が切れる音や銃器のギミック音が聞こえてくるのだ。
あの狂乱の宴の夜以来、スナックお登勢の落ち着いた昭和レトロな雰囲気と、お登勢さんのドスの利いたママさんっぷりを異常に気に入ってしまった裏社会の面々が、『常連の行きつけの店』として、毎晩のようにふらりと暖簾をくぐるようになってしまったのである。
「——ママ、いつもの。あと、この近くの『便利屋68』ってプレハブの女の子たちがまたうちの敷地で爆弾弄んでたから、丸鋸でちょっと足元を更地にしておいたよ」
「大佛、お前は本当に極端やなぁ。お登勢さん、こっちにも生ビール。あと、南雲がまたサイコロでレジの売上金を手品で増やそうとしとるから、注意しといた方がええよ」
カウンター席では、ORDERの大佛が巨大な丸鋸をカウンターの上にドンと置き、神々廻が頭を抱えながら玉ねぎの冷や奴を突っついている。
「おい、凶一郎。お前、お姉ちゃん(神楽の夜桜)の横の席に不可視の鋼糸を張り巡らせるんじゃねえ。ビール運ぶ新八の足が引っかかって転ぶだろ」
「フン、我が妹・六美の安全のためなら、このスナックの全域を夜桜の防衛陣地に変えることも厭わん! ……あ、お登勢さん、この『鏖魔のテールスープ』、六美の美容に良さそうだからお持ち帰りで!」
「まぁまぁ、凶一郎殿もそう硬くならずに、我が月閃の特製酒でも一杯やりゃれ」
ボックス席では、夜桜一家(太陽、六尾、恭一郎など)と、すっかり夜桜家の『頼れる長女』として戸籍を置いて馴染んでいる『閃乱カグラ』の夜桜が、お鍋を囲んでワイワイとスパイ大作戦の作戦会議(?)を開いていた。
「おーう、お登勢のババア! 今日も焔紅蓮隊の5人で押し掛けたぞ! 今日こそ、あっちのORDERのゴスロリ(大佛)と、私の『刀VS丸鋸』のどっちが最強か白黒つける宴会だ!」
「焔ちゃん、店の中で抜刀しちゃダメだよ。たきな、私たちは大人しくあのパフェの新作を食べよー♪」
「千束、ですからここはスナックです……」
奥の座敷では焔紅蓮隊の5人が宴会芸を始め、さらにその横で『リコリコ』の錦木千束&井ノ上たきながもはや常連の顔をしてフライドポテトを貪っている。
そして、カウンターの最も端の特等席。
「……シャリ…………シャリ…………」と、異様な静寂の中で包丁研ぎ石を動かしているORDERの生ける伝説、篁老人。彼が常連としてそこに座っているだけで、右隣の邪兎屋も、左隣の便利屋68も、恐怖のあまり「最近、お隣のスナックの殺気がヤバすぎて家賃滞納の言い訳に行けないわ……」と、完全におとなしくなっていた。
「銀さん……。僕、もう分かりました……。うちの1階は今、複合都市の全裏社会を統べる『絶対防衛最高最高コミッティ・サバトの本部』に指定されてます……。朱鳶班長や宇宙刑事すら、この店の前を通る時は回れ右して逃げていきますよ……」
新八が、すっかり裏社会の常連たちに気に入られ、「おい、メガネ、ビールおかわり!」と南雲や千束に呼ばれて「はーい、ただいま!!」と笑顔でトレイを持つ訓練を完了させていた。
「フフン、いいじゃないネ新八。1階にこれだけ世界のバケモノたちが揃ってりゃ、もう家賃を滞納してもババア(お登勢)がガンダム(左斜め向かい)を呼んでうちを潰しにくることもできないアル! これぞ究極のパワーバランスネ!」
神楽が定春の頭の上で、鏖魔の肉を齧りながら不敵に笑う。
「……へっ、しゃーねーな」
坂田銀時は、1階から響く賑やかな笑い声と、篁老人の「シャリ……」という物騒な音を聞きながら、フッと口元を緩めた。
「世界がどれだけ混ざり合おうが、ヤバい奴らがどれだけ集まろうが、この『万事屋銀ちゃん』の看板と、1階のババアのスナックがある限り、俺たちの混沌とした日常はどこまでも続いていくんだよ。——よし、新八、神楽! 今日も1階の修羅どもから、注文のどさくさに紛れて10円玉を多く毟り取るお仕事(配膳)に出発だァァァ!!」
「おー!」と神楽が拳を突き上げ、定春が吠え、拉致されたまま常連の夜桜家におやつを貰ってすっかり太ったジョンが「ヌー!」と鳴いた。
あらゆる世界のルールを無視し、大人の事情の利権をぶち壊して進む、万事屋一行の複合都市サバイバル。記念すべき最初の1ヶ月は、現役最強の暗殺者たちの乾杯の音頭と、最高に賑やかな笑い声と共に、これ以上ないカオスな大団円を迎えるのだった——!
第1章・第6話「坂本商店飲み会編」 完
やっぱり坂本さんは最強っすね!!(シン並み感)
というわけで第6話でした!
因みにこの複合都市の夜桜(閃乱カグラ)さんは月閃の生徒だけどスパイ一家の夜桜さんたちと正式な血縁関係があります。
それではまた次回、お会いしましょう!