見惚れるほど美しい動きだった。
背中を地面に預けて、私は自らに覆いかぶさる彼を見上げていた。彼は私の頬をゆるりと撫でたかと思うと、その手を下へ滑らせ顎から鎖骨にかけてゆっくりとなぞった。それから掌を鎖骨に、親指を喉に、残りの指を首の裏にこれまたゆっくりと押しつけた。力は徐々に増していき、苦しくなった私は呻き声を漏らした。彼に首を絞められるのは、これが初めてではない。殺されるのも然り。あるときは荒々しく、あるときは丁寧に、あるときは時計塔地下九階の彼の担当フロアで、あるときは彼と私が水遣りを担当する時計塔地下二階の
今日は彼の担当フロア――墓場で、だ。
「ころ、して」
殺してと彼に言うのも、もう何度目だろう。初対面の頃からずっと言い続けているから、それなりの回数になっていることは確かだ。彼は意識が飛ばないぎりぎりの力加減で私の首を絞め続けている。ねえ、焦らされるのは好きじゃないんだ。早く、早く、私を殺して。
「そういえば桜が咲いていた。まだ満開じゃなかったけど綺麗だったな」
だから殺す、と続けられる言葉を聞く前に私の心臓は動くことをやめた。
死んだ後は意識がぬるま湯に浸かっているようだ。それが遠ざかるにつれて、ゆっくりと覚醒する。人は死んだら生き返ったりしない。でも私は生き返る。殺されると、生き返る。鬱血して腫れた顔も垂れ流しの体液も綺麗さっぱり何もなかったことになって生き返る。
『
私は殺されることに興奮と快感を覚える殺されたがり。だから
目を覚ますと布団に寝かされていた。どうやら宗像くんが運んでくれたらしい。身体を起こして深呼吸すると、つい先日替えた畳の真新しい
辺りを見回しても宗像くんの姿が見当たらないから、縁側にでもいるのだろうか。
宗像くんが寝起きするためにフロア内に設けられた居住スペースは、和室や縁側を有した
「宗像くん?」
障子越しに呼びかけても反応はない。立ち上がり、
「それ今日のおやつ?」
指差したお盆の上には、桜の花を模した練り切りと緑茶が二人分載っていた。
「うん、そうだよ。気に入ってくれるかなと思って」
片手で縁側のガラス戸を開けながら宗像くんが言う。促されて縁に腰掛けると、お茶会が幕を開ける。宗像くんが用意する和菓子は毎回どれも絶品だ。緑茶は玉露だろうか。湯呑みに口をつけ、とろりとした緑色をひとくち含めば甘味と共に
ほっとひと息
「昨日は毒殺、今日は扼殺、明日は一体どうやって私を殺してくれるのかな?」
隣を見詰めながら訊けば、ややあって答えが返ってくる。
「そうだね、銃殺にしようかな」
お弁当の献立を考えるのと同じように私は次なる死を夢想し、晩ご飯の献立を決めるのと同じように宗像くんは私の殺害方法を決める。明日は銃殺。悪くない殺され方だ。宗像くんなら焦らすどころか一発で確実に殺してくれるだろう。
「でも焦らされるのは好きじゃないんだろう?」
直後、一発の銃声が響いた。
ああ、宗像くん、きみのそういうところが好きだよ。