「鰐塚先輩は宗像先輩以外に殺されたいとか思ったりしないんですか?」
今日のお仕事は開発途中の新薬の実験台。
「え? 勿論、名瀬ちゃんのナイフで私を刺し殺してほしいって思ってるよ? 脳味噌までぐちゃぐちゃに掻き回して殺してもらえたら最高」
「そうですか……」
可愛い後輩からの質問に正直に答えたら少々引かれてしまったようだ。でも訊かれたからには答えなきゃ。殺されることにかかわるのであれば尚更だ。
「名瀬ちゃん、もしかして殺してくれるの?」
なんて戯れ言を抜かしてみれば、名瀬ちゃんはわかりやすく首を横に振った。
「実験の過程でならそれもあり得るかもしれませんが……それ以外で俺が先輩を殺すなんてことはあり得ないんじゃないですかね」
「はは、冗談だよ。私はチャンスがあれば喜んで殺されるけど、嫌がる人に強要したりとか今はしないから」
「今は、ね……。じゃあ、準備できたんで手術台に寝てください。今回のは死にはしないと思いますが、めちゃくちゃ痛いはずなんで」
めちゃくちゃ痛い。
その言葉に思わず口元が緩んだ。
痛みは死を連想させるから好きだなんて言ったら被虐趣味を疑われそうだけど、そうじゃない。私が本当に欲しいのは死へ直結する痛みだ。強要しないと言った手前、下手なことは言えないけれど、名瀬ちゃん、私のこと殺してくれないかなあ。
名瀬
自ら不幸を追い求めてきた名瀬にとって、それは酷く魅力的に見えた――が、いくら魅力的に見えてもあれはだめだ。
一体あの先輩はフラスコ計画に参加してから何回死んだんだ?
そう思わずにはいられないほど非人道的な実験が刀理に対して行われていた。
衣擦れの音が名瀬の注意を引きつけた。振り向けば刀理が目を覚まして身じろぎしている。
「どうして殺してくれなかったの?」
目覚めて一番最初に言うことがそれか。思わず溜息が出た。
「そういうのは宗像先輩とやってくれませんかね」
ちら、と刀理を迎えに来た宗像を見遣る。口には出さないが内心早く帰ってほしかった。名瀬は宗像の前で刀理を殺すなんて愚を犯すほど向こう見ずではないが、今回は肝が冷えた。
そろそろ実験も終わるだろうと見当をつけた宗像が地下四階を訪れたちょうどそのとき、刀理はアナフィラキシーによる急激な血圧の低下で危うくショック死しかけていた。すぐに持ち直したのが不幸中の幸いだが、こうもタイミングの悪い来訪者はそうそういない。
「動けるなら戻っていいですよ。休みたいならお好きにどうぞ」
そう言って名瀬は一足先に工房を後にした。
殺されると生き返るスキル『
誰もが殺されたら生き返るわけではないからこそ、これらの実験を万人に適用できるようになれば、それはフラスコ計画にとって最高の収穫になるだろう。数多の命の上に成り立つ『
これから何度、あの先輩は命を散らすのだろうか。毎日が倫理観との戦いだ。
「――なるほどどうして、天才の養殖ってのは一筋縄じゃいかねえわけだ」
まあ、研究者としては最高に燃えるがね。