青春をやり直したい大賢者、TSする   作:延暦寺

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誰だこの美少女……あ、ワシか

「ついに……ついに追い求めてきた薬が完成した……っ!」

 

 研究室の静寂の中、ワシは確かな手応えを感じ、感動と達成感に打ち震えていた。

 この秘薬を完成させるのに費やした年月は、実に二十年。

 人の身にとっては決して短くない時間だが、すべては報われたのだ。

 

 ワシが人生の晩年を捧げてまで作り上げた薬。それは『若返り』の秘薬である。

 

 エルフなどの長命種に比べ、人間の寿命はあまりにも短い。

 魔法で多少の延命は可能だが、それでも百五十年が限界だろう。

 長く生きる種族から見れば、なんと儚く短命な存在か。

 

 ゆえに、人間は古来より追い求め続けてきた。

 不老不死を。そして、若返りを。

 

 だが、数多の天才魔法使いや学者たちがどれほど研究を重ねようとも、それが実現することはなかった。

 それをこのワシが、ついに成し遂げたのだ。

 

 世間一般では『大賢者』などとおだてられるワシでさえ、二十年もかかった大奇跡。

 一人で涙ぐむくらいは許されてしかるべきだろう。

 百歳の時に研究を始め、今や百二十歳。

 何かを始めるにはなにもかもが遅すぎる年齢だったが、なんとか寿命の前に間に合って本当によかった。

 

 そもそも、なぜワシがこんなヨボヨボの年齢になってから、今更若返りの研究などを始めたのか?

 理由は――魔王だ。

 今から三十年ほど前、突如として現れた災厄。

 放置すれば世界が滅びるのは火を見るより明らかだった。

 事態を重く見た国王は、魔王を討伐すべく勇者の一行を派遣。

 その勇者を魔法で支えるサポート役として、ワシにも白羽の矢が立ったのだ。

 

 そこまではいい。

 魔王はワシとしても見過ごせない存在だったし、ワシの魔法が世界を救う役に立つなら、命を懸けて戦うのもやぶさかではなかった。

 しかし……しかしだ!

 蓋を開けてみればなんということか。ワシ以外のパーティメンバーは、全員が十代から二十代前半の若者ばかりだったのだ!

 

 パーティ結成の時点で、ワシはすでに九十歳のジジイ。

 ……そう、話が合うはずもなかった。

 むろん、世界を救う勇者の一行だけあって皆いい子ばかりだったし、年の離れたワシのことも敬い、分け隔てなく接してくれた。

 

 だが、それでも度々襲いかかる圧倒的な疎外感!

 若者特有のあの甘酸っぱい雰囲気というか、いわゆる『青春(アオハル)』というやつが、羨ましくて羨ましくて仕方がなかったのだ。

 ワシは若いころから魔法の研究、鍛錬に費やし、灰色の青春を送ってきた。

 だからこそ、彼らが眩しく見えたのだ。

 

 そんなキラキラした輝きに満ちたパーティに身を置くこと、十年。

 ついに魔王は打ち滅ぼされ、世界に平和が訪れたのは間違いない。

 だが、平和と引き換えに、ワシの心には決して消えない強烈な欲望が芽生えてしまった。

 

「ワシも、アオハルがしたい……!」と。

 

 それからの二十年間、ワシは研究所に引きこもり、ひたすら若返りの研究を重ねた。

 中には今ではもう手に入らない超希少な素材も使っているため、もし失敗して「もう一度作れ」と言われても、さすがのワシでも不可能だ。

 

「で、では……早速、飲むとしよう……」

 

 本来、新しい薬を開発した際は入念な臨床実験が必要になる。しかし、これは世界にたった一瓶しかない唯一無二の薬だ。

 実験などできるはずもない。

 強いて言うなら、ワシ自身が最初の実験体だった。

 まぁ、万が一失敗しても老いぼれジジイが死ぬだけである。

 

 ワシは震える手を気合で抑え込み、ゴクリと喉を鳴らしながら、目の前にある怪しげな紫色の液体を一気に飲み干した。

 

「ぐっ、が、がああああっ!?」

  

 直後、燃え盛るような熱さが全身の血管を駆け巡る。

 骨が軋み、筋肉がドロドロに溶けていくような感覚。

 わずかに呼吸をするだけで激痛が走り、ワシはただただ床の上を転げ回るしかなかった。

 

「く、はぁ……はぁ……っ」

 

 それから、どれほどの時間が経っただろうか。

 永遠に続くかと思われた激痛がピタッと収まり、ワシは全身汗だくになりながらも、なんとか上体を起こした。

 

「成、功したのか……? って、おお!? 声が高い! それに目線がやたらと低いぞ!」

 

 ぽつりと言葉を漏らして驚愕した。

 耳に届いたのは、いつものしわがれた声ではなく、鈴を転がすような若い声。

 さっきまで着ていた大賢者のローブもぶかぶかで、身体が劇的に縮んでいるのが分かる。

 何より、長年ワシを苦しめていた慢性的な関節痛や腰痛が綺麗さっぱり消え去っていた。痛まないことに違和感を覚えるレベルだ。

 魔法で怪我や病気は治せても、加齢による衰えだけはどうにもならんからなぁ。

 ぐっばい、腰痛! 二度と来るなよ!

 

「それにしても……成功したのはいいが、随分と声が高いな……」

 

 声変わり前の少年を想定していたのだが、予想以上に高い。まるで少女のようだ。

 ワシの計算では十五歳前後に若返る予定だったのだが、もしや加減を間違えてもっと幼くなってしまったのだろうか?

 

「えーと、鏡、鏡……」

 

 現在の姿を確認するべく、目の前に即席の鏡を魔法で召喚する。

 そして、そこに映し出された己の姿を見て、ワシは硬直した。

 

 鏡の中にいたのは、足元まで伸びる美しい白髪に、ワシの魔力の源であり『魔眼』とも呼ばれる琥珀色の瞳をした――完全なる全裸の少女だった。

 もちろん、股間にあるべき()()()は影も形も存在していない。

 

 ……若い頃であれば、いくら少女とはいえ全裸の異性が目の前にいれば多少はドギマギしただろう。

 しかし、中身が百二十歳のワシにとっては、純粋な驚きで心臓がバクバクしていた。

 

 己の目を疑い、思わず背後を振り返る。だが当然、背後には誰もいない。

 もう一度鏡に向き直り、手を上げたり、顔を傾けたりしてみる。鏡の向こうの美少女も、寸分違わず同じ動きをした。

 

 どうやら、この目の前にいる見目麗しい十五歳ほどの少女は、間違いなくワシ自身であるらしかった。よく見れば、どことなく若い頃のワシの面影もあるような……ないような……。

 

「すぅー……はぁー……」

 

 ワシはそっと目を閉じ、深く深呼吸をして、目の前にある残酷な現実を整理しようと試みる。

 

 青春がしたくて、若返り薬を開発した。

 薬を飲んで、見事に若返った。

 なぜか性別が変わって美少女になった。

 

「なんでじゃあああああああ!?」

 

 あまりの理不尽さと意味の分からなさに、ワシはカッと目を見開き、誰もいない研究室で盛大に絶叫するのだった。

 

 




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