青春をやり直したい大賢者、TSする   作:延暦寺

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アオハルと言えば学園じゃろう

「すぅー……はぁー……」

 

 ひとしきり叫んでから、ワシは一度深呼吸をした。

 よく考えてみれば、目的そのものは達成しているのではないだろうか。

 若返りには成功した。

 別に異性にモテたくて若返ったわけでもないし、女になったことなど些細な誤差ではなかろうか。

 若者たちと楽しく過ごせれば、それで十分だ。

 

「――よし、落ち着いたのう。本当は少年に戻りたかったが、文字通り第二の人生として楽しむのも悪くないかもしれんな。一度の人生で男と女の両方を体験するなど、そうそうあることでもないじゃろうし」

 

 普通ならばもっと取り乱すのかもしれないが、伊達に百年以上も生きてはいない。

 最初の衝撃さえ乗り越えてしまえば、あとは受け入れるだけだ。

 

 まぁ……なってしまったものは仕方がない。

 とりあえず、ぶかぶかになったローブを魔法で調整し、身体に合わせる。

 いつまでも全裸でいるわけにもいかないからな。

 

「さて、これからどうするか……」

 

 実を言うと、若返った後のことは何も考えていなかった。

 若返りそのものが奇跡に等しいため、いつの間にかそれが最終目標になっていたのだ。

 とはいえ、せっかく若返ったのだからやりたいことはいくらでもある。

 例えば、学園に通うのも面白そうだ。

 若い頃のワシは魔法の研究ばかりで、授業にもろくに顔を出さなかったからなぁ……。

 

 なんなら戦士系の授業を選び、近距離での戦い方を学ぶのもいいかもしれないな。

 魔法の補助があれば、そこら辺の一般人よりは動ける自信はあるが、それでも寄る年波には勝てず、鍛えている者よりも体力はないし、魔力を封じられてしまえばただの老人だ。

 

「魔法が使えないダンジョンに行った時は本気でつらかったしのう」

 

 他の皆が強かったのでどうにかなったが、あの時のワシはかなり足手まといだった。

 もう一度冒険するかどうかは分からないはが……いざという時に魔法抜きで戦える力があって損はないだろう。

 

 そうと決まれば善は急げだ。

 幸い、王都の学園には学園長を務めている男が居る。

 こういう時こそ長年築いてきた人脈の使いどころだろう。

 ワシは早速手紙を書き、友人のもとへ送りつけたのだった。

 

 ◇

 

 それから三日後。

 事情を聞きたいという友人に呼ばれ、ワシは王都にある学園を訪れていた。

 

「はー、数十年ぶりに来たが相変わらず立派な建物じゃなぁ」

 

 見上げるほど巨大な門がまず出迎え、その先には白亜の五階建て校舎が堂々とそびえ立っている。

 時刻は夕方近くだというのに、校舎の中からは生徒たちの活気ある声が聞こえてきた。

 これからこの中にワシも混ざるのだと思うと、年甲斐もなく胸が高鳴る。

 

(うまく馴染めるといいんじゃが……)

 

 そんなことを考えながら門をくぐろうとしたところで、脇に立っていた守衛に呼び止められた。

 

「ちょっと待ったお嬢ちゃん。関係者か許可をもらった人しか入れないよ」

 

 さすがは王都屈指の名門学園。

 警備もしっかりしているらしい。

 

「おっと、すまぬ。ワシはアウグスト……あー……アウグスト・ラージャン様の使いじゃ。学園長に取り次いでほしい。アポは取ってあるはずじゃ」

 

 一瞬、本名を名乗りかけて慌てて言い直す。

 この姿で本名を名乗ったところで信じてもらえるとは思えない。

 それに……不慮の事故とはいえ、かつての英雄が少女になったなどと知られれば、どんな噂が広まるか分かったものではなかった。

 かつての英雄に少女になりたい願望があったと知られれば恥ずか死ぬ自信がある。

 

 ちなみにワシの本名はアウグスト・ラージャン。

 万呪のアウグストなどと呼ばれ、それなりに名は知られている。

 

 守衛はワシの説明を聞くと、小屋の中へ引っ込んで確認を取り始めた。

 そしてしばらくして戻ってくる。

 

「学園長の確認が取れたよ。これが許可証だ。学園長室は二階にあるから、案内板を見れば分かると思う」

 

「かたじけない」

 

 ワシは学園の紋章が刻まれたプレートを受け取り、軽く頭を下げる。

 そのまま校舎へ向かう道中、訓練場では剣戟の音が響き、遠くでは魔法の炸裂する光景も見えた。

 それらを目にするたび、胸の高鳴りはますます大きくなっていく。

 

 ちなみに、道中「可愛い~」「お人形さんみたい」などの声もあったりして、その度に「ワシ、可愛いのか……」と思ったのは余談である。

 

 そんなこんなでやってきた学園長室。

 ノックをすると中から野太い声で返事が聞こえてくる。

 

「入るぞ、ゼーマン」

 

 そう言って部屋へ足を踏み入れる。

 中にいたのは、四十代と言われても信じてしまいそうなほど若々しい男だった。

 

 はち切れんばかりの筋肉、短く整えられた白髪、日に焼けた健康的な肌。

 

 こいつの名前はゼーマン。

 この学園の学園長であり、ワシの古くからの友人だ。

 なお、実年齢は七十歳である。

 

「お前……本当にアウグストか……?」

 

 ゼーマンは信じられないものを見るような目でワシを見つめていた。

 

「ああ、間違いなくワシじゃよ。手紙にも書いた通り、若返ろうとしたらうっかり手違いでの。まぁ、性別なんぞ些細な問題じゃ」

「……」

 

 あっけらかんと答えるワシに対し、ゼーマンは絶句したまま固まっている。

 やはり長年の友人が突然少女になったとなれば、驚かない方がおかしいのだろう。

 

 ワシとしては重く受け取られないよう軽く言ったつもりだったのだが、よく考えれば逆の立場ならワシも卒倒していたかもしれない。

 

「……ずるい」

「ゼーマン?」

 

 ぽつりと呟かれた言葉が聞き取れず聞き返した、その瞬間だった。

 ゼーマンは勢いよく立ち上がり、机を叩いた。

 

「ずるい! 俺も美少女になりたい!」

「ゼーマン!?」

 

 突然の告白にワシは思わず叫んだ。

 

「俺だって美少女になって青春してぇよ! アウグストばっかずりぃよ! そんな可愛くなりやがって!」

「い、いや……じゃからな? ワシは別になろうと思ってなったわけではなくてじゃな? というか、おぬしそんな願望を抱えておったんか?」

 

 予想外すぎる発言に、どんな顔をすればいいのか分からない。

 笑えばいいのか?

 

「男は誰だって美少女になりてーんだよ!」

「初耳なんじゃが!?」

 

 マジか⁉ ワシだけ知らなかったんかそれ⁉

 さっきから衝撃の情報ばかり出てくるんだけど⁉

 ワシが少女になったことなど霞むんだけど⁉

 

「俺にも美少女になる薬をくれ!」

「手紙にも書いたじゃろう。あの薬はもう作れん。一回こっきりの奇跡じゃよ」

 

 鬼気迫る表情で迫ってくるゼーマンだったが、ワシの返答を聞いた瞬間、露骨に肩を落として自席へ戻っていった。

 そんなに美少女になりたかったのか。

 まさか、ここにきて親友の新たな一面を見ることになると思わなんだ。

 

「んだよ……美少女になれねーのかよ……」

「なんか、すまんな……?」

 

 ワシに非はまったくないはずなのだが、なぜだか申し訳ない気分になってしまう。

 

「いや、気にすんな。アウグストは悪くねぇよ。ただ、奇跡を前にして年甲斐もなくはしゃいじまった俺が悪いんだ」

 

 それはそう、としか言いようがなかった。

 

「で、何だったっけ。入学したいんだったか?」

「う、うむ。それは頼みたい。もちろん入学させてもらえるなら普通の生徒として扱ってくれて構わん。学費も払うぞ」

 

「俺としては友人たっての頼みだし無償でもいいんだがな。まぁ、お前がそう言うなら受け取っておく。……ちなみに名前はどうするんだ? まさかアウグストのままってわけにもいかんだろ」

「ああ、そこはもう考えておるよ」

 

 ワシは胸を張って頷いた。

 本名が使えないことは最初から分かっていた。

 だからこの三日間でちゃんと考えていたのである。

 

「アウラ・オーガスト。それがワシの新しい名前じゃ」

 

 自信満々に宣言する。

 とはいえ、元の名前を少しいじっただけなのだが。

 まったく別の名前にしても咄嗟に反応できないだろうし、このくらいがちょうどいい。

 

「アウラ・オーガストね。了解だ。いつから学校に来るんだ? なんなら、もうすぐ入学試験があるからついでに受けるか?」

「そうじゃの。せっかくじゃし、他の生徒と同じように受けてみるか」

 

 いい機会だし経験しておくのも悪くない。

 なーに、入学試験レベルの試験なんぞ大賢者であるワシからすれば赤子の手をひねるようなもんだ(フラグ)。

 

「お、そうか。だったら受付は俺の方で済ませておくぞ。試験内容は筆記と実技だな。入学後は自分で受けたい授業を選択する形式だ。まぁ、アウグスト――じゃない、アウラは当然魔法系を選ぶんだろ?」

「試験の内容は了解じゃ。授業は……そうじゃのう。戦士系を受けようと思っておる」

 

 そう答えると、ゼーマンは露骨に眉をひそめた。

 

「戦士科? お前が?」

「そんなに驚くことか?」

「驚くだろ。お前、魔法に人生捧げてきたような男だぞ」

 

 まぁ、それは否定できない。

 事実、人生の大半を魔法に費やしてきた。

 だからこそだ。

 

「ワシが今さら魔法の授業を受けたところで仕方あるまい。せっかくの二度目の人生なんじゃ。今まで選ばなかった道を歩いてみたいのう」

 

 魔法で身体能力を補強することはできる。

 だが、技術まではどうにもならない。

 剣術も格闘術も、結局は積み重ねた経験が物を言う世界だ。

 

 もしワシに白兵戦の知識や技術があれば、魔法が使えなくなったとしても多少は戦えるようになるだろう。

 そんな考えを説明すると、ゼーマンは腕を組んで唸った。

 

「うーん、勿体ねぇなぁ。お前が魔法科に来てくれたら、生徒どものレベルもかなり上がると思うんだが」

「さすがに入学したての生徒がそんなことをしたら教師の面目丸つぶれじゃろうて。でもまぁ、たまにでいいなら授業くらいは出ようかの。クラスメイトに助言くらいは出来よう」

「お、助かるぜ。魔王は居なくなったとはいえ、魔物どもはまだ闊歩している。強くなるに越したことはないからな」

 

 平和になったとはいえ、世界から危険がなくなったわけではない。

 魔王という最大の脅威が消えただけで、魔物は今も各地に存在している。

 若者たちが強くなるに越したことはないだろう。

 その後もしばらく試験の日程や学園生活について話し合い、打ち合わせは終了した。

 

 学園長室を出たワシが次に向かうのは冒険者ギルドである。

 

 目的は二つ。

 一つは今の身体の性能確認。

 もう一つは、若返った身体を少しでも慣らしておくことだ。

 幸い、ギルドマスターも古い知り合いだった。伊達に百年以上生きておらず、顔だけは広いのである。

 

 既に話は通してある。

 学園生活も楽しみだが、久々の冒険者ギルドもなかなか捨てがたい。

 そんなことを考えながら、ワシは自然と弾む足取りで王都の街を歩くのだった。

 

 

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